【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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世界征服編

亜空間旅行(最下層)

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 歩くのは自分の鳴らすコツンという足音だけ。

 まるで洞窟の中を歩いているみたいだな。
 そうやってしばらく暗い階段を降りると。

 「あれ?」

 ⋯⋯とにかく見覚えのある扉。
 上と下に2つ付いている鍵穴に、黒い縦長の取手。

 "今の家族が住んでる家だ"

 「⋯⋯どういうことだ?」

 一瞬頭の中で考えを巡らせるが意味がないことに気付き、俺は魔力を鍵穴に向けて流す。

 今までのやり方的にこうだろうと勝手に予測して。

 予測通りスムーズに1つめ、2つめと重たい音を鳴らして鍵は解錠される。
 
 「何があるんだ?」

 最下層。
 なんでも聞ける自分の図書館以外に──重要な事って。

 玄関の立て札には伊崎と書かれてある。

 取手を引く。
 ⋯⋯ガチャンと。

 「⋯⋯⋯⋯」

 玄関。
 まず入ってくるのは、聖歌のような⋯⋯心がふわふわしてジンとくるような曲。

 そしてそこには、見覚えのない写真が大量に並んでいた。

 だが知らないわけではない。
 写真を撮った記憶がない。

 「カイアス?」

 1番手前にあるのは、カイアスが隣で俺に向かって一礼している写真。

 カイアスはご丁寧に一礼しているのに、俺はブスっとした顔で鼻くそをほじくっている。

 「⋯⋯⋯⋯」

 その奥にはカイアス⋯⋯というより、玄関にあるのはカイアスと俺、そして奥さんが写った大量の写真だった。

 俺とカイアスが王都のデザートを食べている写真。

 魔導具を見つけてギャルみたいに俺が自撮りで肩を組んで撮っている写真。

 カイアスは両手を太ももに置いて貴族らしく姿勢を正している。

 右には騎士の格好しているカイアスと赤い豪華な装飾されているドレスを着る奥さんと放浪者みたいな身なりで立つ俺。

 そんな三人でばっちばちに決めてる写真だ。

 一緒に食べに行ってる写真もあるし、書斎で笑っている写真もある。

 「おいおい⋯⋯そんなお涙頂戴なんて求めてないぞ」

 最下層だろうが。
 なんかあるだろうが。

 靴を脱いで俺はそのまま廊下を歩く。

 『ねぇケルビン!』

 「⋯⋯っ」

 廊下の壁に貼られている写真が動き出す。

 『なんだ?』

 『ケルビンってなんでいつも無表情なの?』

 『そうだよ!笑った方がいいよ』

 『俺は笑えるほど良い人生を歩んでいない』

 驚くほど自分とは思えない低い声だった。
 
 『ほら!笑おうよ!
 僕達がなんか面白いことやる!』

 子供たちがおやつの食べかすを口に付けながら四つん這いになっている。

 「⋯⋯⋯⋯」

 『人間を襲うダイヤウルフの真似!』

 『⋯⋯ふっ』

 『あ、ケルビン笑ったー!!』

 「⋯⋯⋯⋯」

 『みんな、ケルビンが笑ったよ!』


 「うるせぇよ」

 俺はそのまま歩を進めるが、進まない。

 『ケルビンー!』

 『どうした?』

 『今日ね!
 王都の書記官に合格したのー!!』

 『そうか。
 ⋯⋯よく頑張ったな』

 頭を撫でる俺。

 『ケルビンと話せなくなるのは寂しいな』

 『⋯⋯いつかは巣立って行くものだ。
 立派な書記官になったら今度は俺のもやってもらおう』

 『本当!?』

 『あぁ、本当だ』

 『私、頑張る!
 立派な書記官になれるように!』

 また近くにある別の写真を見ると写真が動き出す。

 『将来の夢は、ケルビンの助手になること!』

 頼む。やめてくれ。

 『この天才の俺の助手?』

 『うん!
 そしたらずっとここにいれるから!!
 ケルビンとみんなと!』

 別の写真は少女がドアップに見上げるもの。

 『ケルビン⋯⋯なに!』

 『食べかす』

 親指で子供の口元を拭いてやっている。
 だが。

 『子供じゃないもん!』

 俺の手を振り払って可愛く俺を見上げている。

 『そうか?』

 『ケルビンのお嫁さんになるの!
 いっつも悪いことばかりしているケルビンのご飯を作るのが私の夢!』

 『⋯⋯そうか』

 
 立ち尽くすしかできなかった。
 少し鼓動が速いな。

 「⋯⋯あとでまた来れる」

 顔を上げて。
 廊下を通り抜け、俺はリビングの扉を押し開ける。

 「⋯⋯っ」

 そこにはリビング中に貼られている写真とプレゼントらしきものが置かれた場所。

 『お慕いしておりました』

 『死ぬ前に言うなんて⋯⋯なんてお前らしいんだ。

 知らなかった』
 
 『申し上げたら、私を遠ざけようとするではありませんか。
 
 幼少からここでずっとあなただけを見ていましたから。

 ずっと一人な貴方を私の心で埋めたいと思うのは女としていけませんか?』

 『最後にあげられるのは』

 『⋯⋯っ!』

 俺が何かを言うと、一人の女は穏やかに笑った。

 『はい』
 
 女は手を自身の顔に持っていき、息を引き取る。


 そしてそれを最後に写真は止まった。
 その下にはこう書かれてある。

 "帝歴168年冬、基剣イクシード、カーラ・「アウグスベルファウス」ここに眠る"

 "冷徹で規律にうるさい"
 "しかし誰よりも人間味があって観察眼に優れていた女だった"

 
 「⋯⋯⋯⋯」

 もっと凄いのはないのかよ。
 なんでこんなのが最下層なんだよ。

 肖像画とプロフィール、棺桶。
 経歴が書かれた墓地。

 リビングにあったのはまるで自分に思い出せと言ってるとさえ思えるほど人の事ばかり。

 見渡せば全てが思い出の写真ばかり。
 だが、その奥の部屋。

 ガラッと引き戸を越えた先。
 そこに奥には箱が一つ。
 
 入ると、沢山の思い出の品。
 その横には、自分らしき筆跡の長文メッセージがあった。


























 "ケルビン・アルファル・ディア・アウグスベルファウス。

 未来のお前がここに来る頃には、色々思うところがあるだろう。

 どうせ私の事だ。
 チートな道具でもないのかとブツブツ言ってる頃だろう。

 道中にはゴミがあったり、オートマタの山があったり、兵器があったり、結界を作れる物もあるだろうし、人間が欲しいものと言えるものがこれでもというほどあったであろう。

 図書館では全てを学べる。

 無限に出る飲み物に食べ物。
 洋服にも困らないだろう。

 お金にも困らないだろう。
 力にも困らないだろう。

 しかし、人間というのは、孤独では生きては行けない。

 本物の孤独では、人間は生きていけないのだ。

 ⋯⋯生きる理由がないのだ。

 力を持った人間も、
 無限に食べられても、
 創り出せても、
 美しくても、
 才を持っていても、
 
 それは個性でしかない。
 生きる目的を失えばそんなものはなんの役にも立たない。

 だから私達は様々な要因を作らされ、完成しないのだ。

 私達は未熟であり、熟すのに時間が掛かる。
 その経験という感情を魂に刻むことで、次代の自分へと魂と目的を送るのだ。

 新たな生きる理由を見つけてな。

 全ては寄り道なのだ。
 私達は完成を求める。

 しかし、不完全で良いのだ。
 完成してしまったら、生きる理由がなくなる。

 だからこそ人の生は美しい。
 異性に魂を燃やす生も、仕事に燃やす生も、新たな道を開拓する生も、戦う生も。

 不完全であるからこそ、私達は前へ進もうと負傷しながらもその先に見える陽の光明に向かって重い体を起こす事ができるのだ。
 
 間違いを犯すのも然り。
 転ぶ事だってある。

 横を向いてしまうことだってある。
 下を向く事だってある。

 耐えられない事もあるだろう。

 それで良いのだ。
 ただ前を向いて当たり前のように進める人間は、人間ではない。

 人の生は寄り道をするから深くもなれるし浅くもなれる。

 強くもなれるし弱くもなれる。
 
 何をもって最後に一つの不完全な完成を見せるのか。

 我々に求められているのはその寄り道の結果故なのだ。

 最短を求めるな。
 完成を求めるな。

 己が考え、己が選んだ答えを見せてみろ。

 人は経験しなければ真の意味で前進しないのだ。

 その過程に意味があるのだ。
 でなければ人の生の意味はない。

 に答えを求めるな。
 に答えを求めよ。

 人の生はそういうものだ。

 逃げることも良い。
 しかし最後には立ち上がれ。

 人の生は立ち上がることを前提に成り立っているのだから。

 貴様の存在には明確な理由がある。
 だが、それはいずれ分かる。

 ここに来れたということは、その時が近付いている。

 前進することを。

 恐れるな。
 拒むな。
 向き合え。

 その時になったらきっと私の言っている意味が分かるはずだ。

 そしたら、思わず笑ってしまうだろうから。

 もっと残したい事はある。
 しかし、それでは意味がない。

 最後まで不完全な完成を求め、魂を燃やす事を願い──私はここに、永遠に眠る。

 
 最後の方は少し筆跡が荒れていた。

 俺はその場で立ち尽くす事しかできず、見上げた朧気な視界に映る。

 "誕生日おめでとうケルビン"
 "いつもありがとう!"

 メッセージもあれば、魔法で出来た結晶もある。

 子どもたちの成長を飾った写真。
 今までの全てがこの部屋には様々な角度で貼った写真。

 一枚一枚手貼りだろう。
 
 「⋯⋯くそが」

 ボランティアの写真。
 孤児院の写真。
 色んな人間や種族と撮った写真。

 美しい景色や食べ物、人もある。

 らしくない自分。
 笑って誰かと写真を撮っている。

 それがあまりに眩しく、こんな自分も居たのかと思わず天井を仰いだ。

 ここまで隙間もないほど埋められた全ての思い出。

 俺はそのまま二時間程この場所から動けなかった。
 
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