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世界征服編
至律
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「先輩⋯⋯?」
石田がそう言うと、眉を垂らし穏やかに笑うローマン。
「⋯⋯⋯⋯」
やべぇな、コイツ。
草薙と懐遠の抱いた感想はほぼ一緒。
身体に巡る魔力の密度、強度、硬度。
それら全てのレベルが桁違いに高い。
それはもはや見るまでもなく、二人の視線はどうやったらその域に到達出来るか?という問いのみだった。
「⋯⋯⋯⋯」
そんな中ローマンは巨大な亀裂から落ちてくる魔物たちを眺め、その上にいる二人の騎士を見上げる。
「我が師は何歳になっても変わらぬものだ」
"魔導具ですか?"
ーーあぁ。
俺の魔導具で死んだ魂の全盛期の状態で一時的に降臨させる魔導具だ。
"相変わらず凄まじい魔導具をお作りになる"
ーーお前の嫌いな奴らも召喚されるだろうから、会いたくなければ転々と俺の国を移動するといい
"げっ⋯⋯わかりました"
穏やかな表情のローマンはただ、告げる。
「そこにいる騎士殿」
「あ、貴方は」
明らかに泳いでいるメリダの瞳。
あ、アレって⋯⋯。
騎士がかつて畏怖と敬意を抱いたという。
白い手袋に私達と同じ白いローブ。
律拳公家の象徴⋯⋯金色で縁取られた当時最強と言われたエンビシュドラゴンの毛皮。
当時の騎士団ですら憧れたという男。
教の人間ですら、規律を違反してまで多くの人間を熱狂させてしまった一つの時代を作った怪物。
メリダの視線は隣のガイルキムに。
そう。
ガイルキムの"尊敬している相手"が今、目の前にいるからだ。
「お初にお目にかかります。
初代律拳公家、ローマン様」
抜剣し、両手で持っては胸の前で掲げるガイルキム。
「こちらこそ。
歓迎してくれて感謝する。
若き騎士よ」
ローマンもその敬意を流しはせずに、その場で拳を合わせて一礼する。
なんてことだ。
幼い頃、ガイルキムが読んでいたのは世の中の理不尽を変えるため、人生を賭けてその拳で奮闘したローマン・オルデ・アルセイムの生涯を綴った絵本。
時代もあって少々乱暴な内容ではあるが、当時の人々からしたら、絵本の中の英雄のような存在。
歳が経てば自伝や様々な当時の思いを語ったモノもあった。
勿論、元貴族であるガイルキムは熱心な狂信者のようなものだ。
今、目の前には──物語の主人公がいる。
瞳は明らかに興奮している。
心臓に手を当て、ガイルキムは深呼吸して落ち着きながら語っていく。
「幼き頃、貴方の絵本を読み、私もこうなりたいと。
自らの人生を賭けて、人々を導き、自分も律拳と言って英雄になろうとしていた日々を思い出します」
ローマンは黙ってその話を聴く。
「その気持ちは今も変わっていません。
偉大な英雄ローマン様。
何故です?
何故黒い民の味方などされるのですか」
少しの沈黙が流れる。
「若き騎士よ。
忘れるでない」
「⋯⋯っ」
目の前の英雄。
圧倒的なまでの一人のカリスマ。
その者の魔力が今──建物を倒壊させるほどの破壊力を持っているのだから。
「「「「⋯⋯!?」」」」
すげぇな。
伊崎のガキ⋯⋯あんな化物と仲が良いのかよ。
草薙は内心呆れてすらいる。
伊崎さんの友達⋯⋯イカれてる!!
てかかっこよ!いや強!!
「私を知っているのなら、なぜここに立つのか⋯⋯よく理解しているはずだ」
この距離で前髪が浮くほどの嵐を。
ガイルキムの興奮は止まない。
「理解しています!!
だからこそです!
貴方はかつて、理不尽を──」
「そう。
理不尽⋯⋯黒い民が何をしたというのだ?」
「⋯⋯⋯⋯」
魔力の奔流。
伊崎とはまた違う、純粋で、全く濁りのない──澄んだ魔力。
半径10mはある魔力の爆発力はガイルキムとメリダを黙らせるには十分。
「ハハ⋯⋯」
これが⋯⋯
ガイルキムはこれ以上なく嗤っている。
「全盛期の貴方とこうして相見えようとは!!」
「隊長!相手は本物の英雄ですよ!!」
「うるさい!!」
「⋯⋯っ」
黄金に燃えるガイルキムにブレーキなどない。
「何千年生きてきて初めてなんだ⋯⋯」
魔力の轟音を鳴らし、その中心にいるローマンを見ながら、ガイルキムはもはや告白のような叫びをあげる。
「憧れた!!!
拳一つで国を変えた!!
平民が、貴族を、民衆を一つにした!!
人を導いた!!
全てを変えた始まりの英雄だ!!!
60歳になっても龍と戦えたという伝説。
それが今、なんの因果か全盛期の姿で私を殺そうと殺気を飛ばしている!!
メリダ・ローズガー!
お前に分かるか?
今、一手ご指南頂けるまたとないチャンス!!
あぁ⋯⋯心臓がこんなにも高鳴っているのは久しぶりだ!!!!!」
隊長が唾を飛ばしながら喋ってるなんて初めてみたかも。
まぁ当たり前?とメリダは内心そう思った⋯⋯その時。
空間の揺らぎを感知する二人。
二人の前には、ありえない速度で衝撃波が飛んでくる。
──鼻から入る空気が、世界を揺らす。
雷轟の音が二人の前に顕現し、圧倒的な魔力とその威圧、覇気、言葉などいくつあっても足りない張り詰め、殺の世界。
⋯⋯正真正銘、伝説の拳と言われた男の"全盛期"。
そう。
かつて、数を制した。
軍勢を相手に拳一つで民の道を切り開いた──歴史の偉人の一撃。
二人の目には、激しい魔力の奔流の中心で、拳を構える伝説の姿。
そして、迸る雷道とその眼光。
得体のしれない化物の幻覚とローマンが、二人の目には点滅のように刻まれる。
"来る"──。
至律・ローマン・オルデ・アルセイム。
最も有名技。
"飛拳滅却"
咄嗟の転移でなんとか間に合った二人が見たのは、先程まであった雲だらけの空。
ガイルキムの耳は、未だに耳鳴りが止まらない。
ただの拳だ。
それが今では放った拳の一撃の形状へと形を変えている。
一言で言えば、拳による魔導大砲。
放った今、この場は燃え盛る焦げた音のみ。
だが一瞬、静寂が支配したのだけは全員が理解できた。
「ッハハハハハハハ!!!!
全盛期の一撃⋯⋯ぃ!!
やっぱり貴方は本物の英雄だ!!
駄目だ!
貴方はそんな所に居てはいけない!!!」
そんなガイルキムの興奮とは対象的に、ローマンは至って冷静。
「⋯⋯喜んでもらえたようで何よりだな。
そうだ」
振り返って、「うーん」と視線が横へ移りながら品定め。
「多分君かな?」
ローマンが肩を軽く叩いたのは石田。
「は、はぁ?」
な、何だこの化物ォォォ!!
アニキの一撃なんて比べることすら烏滸がましいレベルでやばすぎだろ!?
ええぇぇぇ!?
「ちょっとあの小童に一手教えてあげようかと思うんだけど、その前に聞きたいことがあるんだ」
こんな化物が?
俺に?
"ねぇ、師匠は幸せなの!?"
ーーガキが馬鹿なこと聞いてねぇでてめぇの幸せでも考えとけ。
先程の一撃を放ったとは思えないほど穏やかな顔で。
少し俯きながら⋯⋯ローマンは訊ねる。
「我が師は、ちゃんと幸せになっているのかな?」
⋯⋯⋯⋯。
思わず石田は言葉を詰まらせる。
「⋯⋯どうかな?」
「どう⋯⋯でしょうね」
あの人。
全く自分のことを喋らないし、でも、カスだし、ゴミだし、自己中極まりないし。
「でも、」
「でも?」
「俺がいるっす!」
石田は元気よく親指で自身を指差し、ドヤ顔でローマンに言い放つ。
「⋯⋯っ」
そうか。
我が師は自分の本音を言える相手が見つかったのか。
「君の名前は?」
「石田龍司ッス!!」
「石田龍司殿」
「殿!?」
ーー飯、もっと上手くなれよ。
「不器用な我が師を、独りにしないでくれてありがとうございます」
深い一礼だった。
それを見た石田は即答。
「⋯⋯勿論っす!!
これからも、あの人は俺達で護るっす!!」
「そうだ!大将は一人じゃない!」
石田の言葉に銀譲も石田の肩に手を置いて、二人元気よく叫ぶ。
「俺達は全員で居てこそだ!」
眩しいな。
こんな絶望が張り詰めた戦場の中とは思えない希望に満ち溢れた笑顔。
私も、もっと歩み寄っていれば、師と仲が深められたのだろうか。
4人に対して背を向けるローマン。
もっと向き合い、私も本音で語り合えていれば。
「⋯⋯なんて、老人には重たい話だな」
"ねぇ師匠!"
ーーん?
"俺の結婚式──絶対見に来てよ!?"
ーー気が向いたらな
なんで浮かぶ景色がこんなしょうもない記憶なんだか。
「我が師を頼みます」
軽く後ろを見つめるローマン。
「いつも独りで、何かに追われたように研究ばかりしてた悲しい人でしたから。
今はもう、普通の男だといいんですが」
「安心してください!!
あの人クラブで毎日女とイチャイチャしてます!!」
「石田、それを言うなら毎日腰を振ってるにしないと」
「いやアニキ?
だってあの人⋯⋯」
「ごめんね。
そのクラブっていうのが分からないけど、女癖は直ってなさそうなのはよく分かったよ」
苦笑い混じり、ローマンは草薙と懐遠に視線を移す。
「そちらはわからないけど、頼んだよ」
「あぁ。金さえ払えば⋯⋯な」
「勿論だ」
安心して成仏出来そうだ。
なら、もう未練はない。
「もう会うことはないかもしれないけど、会えてよかった」
みんなそれぞれ個性豊かだ。
これなら、きっとあの人も心穏やかに生きていける。
「あそこの騎士たちは私がなんとかする。
⋯⋯と言っても、我が師から聞いた通りあの裂け目は私達の世界で言う魔物を召喚する魔法陣に酷似していると思うから⋯⋯って、厳しいか」
話によれば魔法を知らない世界にいらしてるようだし。
「まぁ、君たちはこの倒壊したビルで死なないようにね」
「あ、さっき崩壊したのに大丈夫なのって貴方のおかげだったんですね!」
「そうさ。
私の魔導具のおかげさ」
「英雄── 至律・ローマン・オルデ・アルセイム!!!!!」
「おおっと、向こうはやる気みたいだ。
では⋯⋯後は他の英雄に任せるとしようかな。
この世のじゃない者同士、場所を変えよう」
そう笑って、ローマンは風を起こし、地面を蹴り上げる。
「後輩を育てるのは大変だ」
「勿論ですとも!!
騎士たる者、正々堂々戦わなくては!
ハッハハハ!!」
我が師よ、きっとこれも運命なのでしょう。
しかしながら、私の生はとても"幸せ"でした。
今度は、あなたが幸せになる順番が回ってきたようですよ。
石田がそう言うと、眉を垂らし穏やかに笑うローマン。
「⋯⋯⋯⋯」
やべぇな、コイツ。
草薙と懐遠の抱いた感想はほぼ一緒。
身体に巡る魔力の密度、強度、硬度。
それら全てのレベルが桁違いに高い。
それはもはや見るまでもなく、二人の視線はどうやったらその域に到達出来るか?という問いのみだった。
「⋯⋯⋯⋯」
そんな中ローマンは巨大な亀裂から落ちてくる魔物たちを眺め、その上にいる二人の騎士を見上げる。
「我が師は何歳になっても変わらぬものだ」
"魔導具ですか?"
ーーあぁ。
俺の魔導具で死んだ魂の全盛期の状態で一時的に降臨させる魔導具だ。
"相変わらず凄まじい魔導具をお作りになる"
ーーお前の嫌いな奴らも召喚されるだろうから、会いたくなければ転々と俺の国を移動するといい
"げっ⋯⋯わかりました"
穏やかな表情のローマンはただ、告げる。
「そこにいる騎士殿」
「あ、貴方は」
明らかに泳いでいるメリダの瞳。
あ、アレって⋯⋯。
騎士がかつて畏怖と敬意を抱いたという。
白い手袋に私達と同じ白いローブ。
律拳公家の象徴⋯⋯金色で縁取られた当時最強と言われたエンビシュドラゴンの毛皮。
当時の騎士団ですら憧れたという男。
教の人間ですら、規律を違反してまで多くの人間を熱狂させてしまった一つの時代を作った怪物。
メリダの視線は隣のガイルキムに。
そう。
ガイルキムの"尊敬している相手"が今、目の前にいるからだ。
「お初にお目にかかります。
初代律拳公家、ローマン様」
抜剣し、両手で持っては胸の前で掲げるガイルキム。
「こちらこそ。
歓迎してくれて感謝する。
若き騎士よ」
ローマンもその敬意を流しはせずに、その場で拳を合わせて一礼する。
なんてことだ。
幼い頃、ガイルキムが読んでいたのは世の中の理不尽を変えるため、人生を賭けてその拳で奮闘したローマン・オルデ・アルセイムの生涯を綴った絵本。
時代もあって少々乱暴な内容ではあるが、当時の人々からしたら、絵本の中の英雄のような存在。
歳が経てば自伝や様々な当時の思いを語ったモノもあった。
勿論、元貴族であるガイルキムは熱心な狂信者のようなものだ。
今、目の前には──物語の主人公がいる。
瞳は明らかに興奮している。
心臓に手を当て、ガイルキムは深呼吸して落ち着きながら語っていく。
「幼き頃、貴方の絵本を読み、私もこうなりたいと。
自らの人生を賭けて、人々を導き、自分も律拳と言って英雄になろうとしていた日々を思い出します」
ローマンは黙ってその話を聴く。
「その気持ちは今も変わっていません。
偉大な英雄ローマン様。
何故です?
何故黒い民の味方などされるのですか」
少しの沈黙が流れる。
「若き騎士よ。
忘れるでない」
「⋯⋯っ」
目の前の英雄。
圧倒的なまでの一人のカリスマ。
その者の魔力が今──建物を倒壊させるほどの破壊力を持っているのだから。
「「「「⋯⋯!?」」」」
すげぇな。
伊崎のガキ⋯⋯あんな化物と仲が良いのかよ。
草薙は内心呆れてすらいる。
伊崎さんの友達⋯⋯イカれてる!!
てかかっこよ!いや強!!
「私を知っているのなら、なぜここに立つのか⋯⋯よく理解しているはずだ」
この距離で前髪が浮くほどの嵐を。
ガイルキムの興奮は止まない。
「理解しています!!
だからこそです!
貴方はかつて、理不尽を──」
「そう。
理不尽⋯⋯黒い民が何をしたというのだ?」
「⋯⋯⋯⋯」
魔力の奔流。
伊崎とはまた違う、純粋で、全く濁りのない──澄んだ魔力。
半径10mはある魔力の爆発力はガイルキムとメリダを黙らせるには十分。
「ハハ⋯⋯」
これが⋯⋯
ガイルキムはこれ以上なく嗤っている。
「全盛期の貴方とこうして相見えようとは!!」
「隊長!相手は本物の英雄ですよ!!」
「うるさい!!」
「⋯⋯っ」
黄金に燃えるガイルキムにブレーキなどない。
「何千年生きてきて初めてなんだ⋯⋯」
魔力の轟音を鳴らし、その中心にいるローマンを見ながら、ガイルキムはもはや告白のような叫びをあげる。
「憧れた!!!
拳一つで国を変えた!!
平民が、貴族を、民衆を一つにした!!
人を導いた!!
全てを変えた始まりの英雄だ!!!
60歳になっても龍と戦えたという伝説。
それが今、なんの因果か全盛期の姿で私を殺そうと殺気を飛ばしている!!
メリダ・ローズガー!
お前に分かるか?
今、一手ご指南頂けるまたとないチャンス!!
あぁ⋯⋯心臓がこんなにも高鳴っているのは久しぶりだ!!!!!」
隊長が唾を飛ばしながら喋ってるなんて初めてみたかも。
まぁ当たり前?とメリダは内心そう思った⋯⋯その時。
空間の揺らぎを感知する二人。
二人の前には、ありえない速度で衝撃波が飛んでくる。
──鼻から入る空気が、世界を揺らす。
雷轟の音が二人の前に顕現し、圧倒的な魔力とその威圧、覇気、言葉などいくつあっても足りない張り詰め、殺の世界。
⋯⋯正真正銘、伝説の拳と言われた男の"全盛期"。
そう。
かつて、数を制した。
軍勢を相手に拳一つで民の道を切り開いた──歴史の偉人の一撃。
二人の目には、激しい魔力の奔流の中心で、拳を構える伝説の姿。
そして、迸る雷道とその眼光。
得体のしれない化物の幻覚とローマンが、二人の目には点滅のように刻まれる。
"来る"──。
至律・ローマン・オルデ・アルセイム。
最も有名技。
"飛拳滅却"
咄嗟の転移でなんとか間に合った二人が見たのは、先程まであった雲だらけの空。
ガイルキムの耳は、未だに耳鳴りが止まらない。
ただの拳だ。
それが今では放った拳の一撃の形状へと形を変えている。
一言で言えば、拳による魔導大砲。
放った今、この場は燃え盛る焦げた音のみ。
だが一瞬、静寂が支配したのだけは全員が理解できた。
「ッハハハハハハハ!!!!
全盛期の一撃⋯⋯ぃ!!
やっぱり貴方は本物の英雄だ!!
駄目だ!
貴方はそんな所に居てはいけない!!!」
そんなガイルキムの興奮とは対象的に、ローマンは至って冷静。
「⋯⋯喜んでもらえたようで何よりだな。
そうだ」
振り返って、「うーん」と視線が横へ移りながら品定め。
「多分君かな?」
ローマンが肩を軽く叩いたのは石田。
「は、はぁ?」
な、何だこの化物ォォォ!!
アニキの一撃なんて比べることすら烏滸がましいレベルでやばすぎだろ!?
ええぇぇぇ!?
「ちょっとあの小童に一手教えてあげようかと思うんだけど、その前に聞きたいことがあるんだ」
こんな化物が?
俺に?
"ねぇ、師匠は幸せなの!?"
ーーガキが馬鹿なこと聞いてねぇでてめぇの幸せでも考えとけ。
先程の一撃を放ったとは思えないほど穏やかな顔で。
少し俯きながら⋯⋯ローマンは訊ねる。
「我が師は、ちゃんと幸せになっているのかな?」
⋯⋯⋯⋯。
思わず石田は言葉を詰まらせる。
「⋯⋯どうかな?」
「どう⋯⋯でしょうね」
あの人。
全く自分のことを喋らないし、でも、カスだし、ゴミだし、自己中極まりないし。
「でも、」
「でも?」
「俺がいるっす!」
石田は元気よく親指で自身を指差し、ドヤ顔でローマンに言い放つ。
「⋯⋯っ」
そうか。
我が師は自分の本音を言える相手が見つかったのか。
「君の名前は?」
「石田龍司ッス!!」
「石田龍司殿」
「殿!?」
ーー飯、もっと上手くなれよ。
「不器用な我が師を、独りにしないでくれてありがとうございます」
深い一礼だった。
それを見た石田は即答。
「⋯⋯勿論っす!!
これからも、あの人は俺達で護るっす!!」
「そうだ!大将は一人じゃない!」
石田の言葉に銀譲も石田の肩に手を置いて、二人元気よく叫ぶ。
「俺達は全員で居てこそだ!」
眩しいな。
こんな絶望が張り詰めた戦場の中とは思えない希望に満ち溢れた笑顔。
私も、もっと歩み寄っていれば、師と仲が深められたのだろうか。
4人に対して背を向けるローマン。
もっと向き合い、私も本音で語り合えていれば。
「⋯⋯なんて、老人には重たい話だな」
"ねぇ師匠!"
ーーん?
"俺の結婚式──絶対見に来てよ!?"
ーー気が向いたらな
なんで浮かぶ景色がこんなしょうもない記憶なんだか。
「我が師を頼みます」
軽く後ろを見つめるローマン。
「いつも独りで、何かに追われたように研究ばかりしてた悲しい人でしたから。
今はもう、普通の男だといいんですが」
「安心してください!!
あの人クラブで毎日女とイチャイチャしてます!!」
「石田、それを言うなら毎日腰を振ってるにしないと」
「いやアニキ?
だってあの人⋯⋯」
「ごめんね。
そのクラブっていうのが分からないけど、女癖は直ってなさそうなのはよく分かったよ」
苦笑い混じり、ローマンは草薙と懐遠に視線を移す。
「そちらはわからないけど、頼んだよ」
「あぁ。金さえ払えば⋯⋯な」
「勿論だ」
安心して成仏出来そうだ。
なら、もう未練はない。
「もう会うことはないかもしれないけど、会えてよかった」
みんなそれぞれ個性豊かだ。
これなら、きっとあの人も心穏やかに生きていける。
「あそこの騎士たちは私がなんとかする。
⋯⋯と言っても、我が師から聞いた通りあの裂け目は私達の世界で言う魔物を召喚する魔法陣に酷似していると思うから⋯⋯って、厳しいか」
話によれば魔法を知らない世界にいらしてるようだし。
「まぁ、君たちはこの倒壊したビルで死なないようにね」
「あ、さっき崩壊したのに大丈夫なのって貴方のおかげだったんですね!」
「そうさ。
私の魔導具のおかげさ」
「英雄── 至律・ローマン・オルデ・アルセイム!!!!!」
「おおっと、向こうはやる気みたいだ。
では⋯⋯後は他の英雄に任せるとしようかな。
この世のじゃない者同士、場所を変えよう」
そう笑って、ローマンは風を起こし、地面を蹴り上げる。
「後輩を育てるのは大変だ」
「勿論ですとも!!
騎士たる者、正々堂々戦わなくては!
ハッハハハ!!」
我が師よ、きっとこれも運命なのでしょう。
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