【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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世界征服編

閑話後編:基剣

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 ゴォォォという音が未だに止まない。
 この女⋯⋯。

 いや。
 今はそれよりも。

 衣里と理沙は無意識に目が合う。

 そう。
 思うことは一緒だ。

 "何故か負けた気がする"。

 「っぁぁ⋯⋯」

 「あら、随分とわかりやすい殿方ではありませんか」

 数歩近づくと完全に口をあんぐり開けている大志が後ずさる。

 「たっ、助けてくださってくれたことは感謝致しますが⋯⋯あっ⋯⋯あっ!ちょ!ちょタンマ!!」

 大志の視線があっちこっちカーラの至るところに移り、最終的に背を向けて必死に叫んでいる。

 皿洗いょタァンマ
 この世界独特の言葉なのかしら?

 「どういう意味かしら?
 私そこまで匂うかしら?」

 クンクンと嗅ぐカーラに大志は半ギレで叫ぶ。

 「綺麗過ぎて近付けない!!」

 数秒の静寂。
 カーラは思わず噴き出しながら豪快に笑う。

 「あっはははは!
 この世界の殿方は面白い人ばかりなのね」

 元々いた貴方の存在した世界。
 さぞ素晴らしい世界なのでしょうね。
 
 「そ、それよりもよ!」

 衣里のトゲのある口調にカーラは視線を移す。

 「何かしら?
 まずはお礼くらい言えないのかしらねぇ?
 この世界の女は随分と礼儀がなっていないじゃない?」

 ピキッ!と何処からともなく聞こえてくる。

 「あ、ありがとうございます。
 九死に一生を得ました」

 「えぇ。そうですわよねぇ。
 それでいいわ」

 頷きながら返すカーラの言葉に衣里は内心ブチ切れそうだったのだが。

 分かってる。
 助けてもらったのはわかってる。

 けど。

 衣里の目に入るのは、旅人の外蓑を着ていても隠せない外見。

 身長は180ほど。
 見える部分でも分かる手入れが行き届いている雪肌。

 私とは正反対。
 切れ長のツリ目。
 確実に悪役令嬢の顔。
 自信と獲物を狙う蛇の雰囲気もある。

 だけど気品も感じるし、髪もまとっててる割に乱れる感じもなんか味になってるし。
 
 圧倒的なスタイルの良さに加えて、その顔。
 ⋯⋯つまりムカつく。

 「なぜ私の名前を?」

 「えぇ。

 敬愛するお方から女性を助けてほしいと言われてたんですけれど、私は女を助けたいなんて微塵も思わないものですから、名前と特徴を忘れてしまっていたんです」

 ⋯⋯こんのッッ!

 「そ、そうですか」

 衣里の勝ち誇ったような表情。
 その顔を見たカーラ。

 その表情は、何処か寂しそうだった。

 「良いですわね」
 
 「何がよ」

 「これくらい弱くても生活ができるなんて」

 ⋯⋯何を、言ってるの?

 「当たり前でしょ?
 義務教育と生活保護があるんだから」

 「義務教育?生活保護?
 なんですか?それは」

 カーラの言葉にハッとする衣里。
 
 この人多分、別の世界から来た人間だったわよね?

 確か。
 さっきの問いも地球人なんて言ってるわけだし。

 「誰でも教育を受ける事ができて、困ったら国からお金も貰えるの」

 「⋯⋯素晴らしいお国なのですね」

 カーラの憂い気な表情に衣里はだんまり。

 「さて、そんな事よりも」

 カーラの背後には、魔物の群れ。
 狼やゴブリン、オークと言ったファンタジー生物。

 「少し訊ねたいのだけど」

 「何よ?」

 「安全な場所はあるのかしら?」

 「あったら私達はとっくに向かってるわ」

 だとしたら、離れるのは得策じゃなそう。
 
 「⋯⋯あっ、そうだわ」

 カーラは懐から一本の瓶と防犯ブザーのようなものを取り出す。

 「それは?」

 「結界を作ってくれる魔導具と」

 「魔導具!?」

 聞いていた大志がキラッキラの目でカーラの持つ魔導具を見つめる。

 「受け取りなさい」

 宙を飛び、慌てる大志の両手に魔導具が収まる。

 「ここでの事は忘れてちょうだい?
 本来私達は存在しない人間だから」

 「か、カーラさん!」

 大志が呼び掛ける。

 「あら。どうかしたの?」

 「また⋯⋯会えますよね?」

 ゆらゆら泳ぐ大志の瞳。

 本当に可愛い男の子。

 「女に好意を見せる時は、さり気なくするものよ。

 殿方の掟。
 豪快な殿方も嫌いではないけれど、私には──もう相手がいるもの」

 「「⋯⋯!」」

 「恋は身体を若返らせる。
 男の子も大変だけれど、何度も恋をして、何度も起き上がる事ね。

 でも──」

 音もなく、大志の目の前には見下ろし、妖艶に笑うカーラの顔。

 遅れて大志の顔は真っ赤になって、震えてすらいる。

 「見る目のある女は必ずいるわ。
 諦めないで積み上げるのよ?」

 そう言ってカーラは大志の額にそっとキス。

 「私は今から魔物を集めて片付けるわ?
 その間に魔物避けの液体を塗りたくって隠れなさい」

 「でもあなたは!?」

 背を向けるカーラに、大志は叫ぶ。

 「私、こう見えても強いのよ?」

 振り返り、カーラは笑って地面を蹴り上げ迫る矢を全て弾く。

 「あなた達のいた大きな市場の方なら私が片付けてるから⋯⋯恐らくその2つがあれば問題ないわ?
 
 早く行きなさい」

 塗りたくり、衣里と理沙は食べ物のある先程のショッピングモールの方へと向かう。
 
 離れかけたその一瞬。
 
 ふわっと、声が聞こえた。


 "ケルビンを頼みます"


 「「⋯⋯?」」

 振り返るが、そこには剣撃の音しか聞こえない。

 走りながら二人は目を合わせるが、首を傾げる。

 しかし、言われた意味はなんとなく⋯⋯いや、本能的に理解していた。

 いつか会えたら、今度こそ。
 そう二人の想いは走るその力強い蹴り足に現れていた。









 昔。私が子供の頃の事だ。

 「ケルビン!剣を教えて!」

 本を読むケルビンに、私はとてつもない要求した。

 今思えば、無茶なことワガママだ。

 パタンと本を閉じ、ケルビンは私を見る。

 「剣?」

 「うん!
 ルーカスやマーダンは将来強くなる為に剣の鍛錬を積んでいるんでしょ! 

 私だって強くなれるもん!!」

 そう。子供ながらに分かっていたのだ。

 女であるということ。
 それは周りの男の子たちに体力で負け、力で負け、精神的にも勝てない。

 だけどこの人なら⋯⋯と。
 幼き日の私は願った。

 「カーラ」

 「ん?」

 あの人の温かい掌。
 今でも生きたようにある陽だまりの感覚。

 私の髪を撫で、酷な事を言う。

 「カーラは強くなりたいのか?
 それとも自分を守る為に強くなりたいのか?」

 「強くなりたい!」

 そう。
 だって、私が求めたの。

 貴方の隣にいる為には、最強である必要がある。

 この時の私は数年前のことを思い出していた。




 『いやぁ、偉大な錬金術師様』

 あれは7歳くらいの時。

 『遥々御苦労』
 
 私はこの時、膝の上で目の前の光景をただ眺めていた。

 必死にケルビンに何かを頼んでいる⋯⋯そんな光景を。

 『僭越ながら、私の身の上話をさせてくださいませ』

 『あぁ』

 私はケルビンを見上げた。
 その時の顔を、私は今でも脳裏に焼き付いている程覚えている。

 『⋯⋯⋯⋯』

 聞いているケルビンの顔。
 いつもは私を見て笑ってくれるあの人の顔はシワ一つ動かず、まるで人形のように何も発さず、何も動かさず。

 無表情でただ必死に身の上話をする何処かの貴族の話を無限に聞いているだけ。

 私はあまりに冷酷なケルビンの姿を初めて見た。

 だけど、それと同時に⋯⋯子供だからというのもあったのでしょう。

 話が終わり、無表情で手を振るケルビンに言った。

 『あの人たち、お人形さんと喋っているみたい』

 そんな私の一言に、ケルビンは初めて笑ってくれた。

 『そういうものさ』

 『なんで?
 だってケルビンは凄い人なんだよ?
 もっと面白い話でもしてくれればいいのに』

 そう言うとケルビンは笑った。

 『ハッハハハハ!』

 『なんで笑うの?』

 『いや⋯⋯子供は素晴らしいな』

 今となってはその意味は理解できる。

 『あの人たちは俺と仲良くなりたいわけでも、俺と喋りたいわけでもない』

 『じゃあなんで?』

 『⋯⋯俺持つ能力を欲してるだけの人間だよ』



 そんな昔のことがあってから私は、強くなってこの人の隣にいたいと思うようになった。

 毎日、毎日。
 何処かの国の偉い人が色々な貢物を持ってやってくる。

 そんな人。
 子供の測りから逸脱した存在。

 でも私は、気付いていた。
 あなたは一人が良いと思っている事も。

 女が好きと言いながら実は誰も好きではないということも。

 遠くなっていくような気がした。
 だから私は強くなる。

 強くなって、その先にある孤独をこの人とって。

 「いいか?カーラ」

 カーラ。
 私の世界では、カーラは豊穣という意味だ。

 「まず、俺は現実を突きつけないといけない。
 それでも聞くか?」

 10歳少しの私は頷く。

 「そうか」

 ケルビンは私を見下ろし、暖かい笑みを張り付けて冷酷な言葉を吐く。

 「まずは、男に勝つのは不可能だ」

 重く突き刺さる一言。

 「なぜか?
 そもそも男は女より強くあるために存在している種であるからだ。

 そこに圧倒的な差がある。
 だから、カーラができる事は男も容易にできる。

 肉体強度は絶対だ。
 女で出来ることは男でも出来る」

 だが私は諦めない。

 「その顔⋯⋯そうか。
 技術を磨こうと、筋力を付けようと、勝てぬものは勝てぬ。

 だが、方法がないわけではない。
 付いてこい」

 そう言われ、私は花園が並ぶ庭へと出る。

 「それがケルビンの剣?」

 白い剣。
 どこまで高貴な物語の騎士様が使いそうな。

 「あぁ」

 と、剣を振り上げる。

 「これが、男の力だ」

 振り下ろす。
 そこには小規模だが、クレーターが出来上がっている。

 「そして、魔力を込めるとこうだ」

 次に放たれた圧倒的な破壊力を持った一撃。
 それは地面を抉り、その力の衝撃波の痕跡までもが残っている。

 遥か先まで異常な抉れ方をして。

 「女に魔力があっても、構造上魔法使い以外の強さは身につかない」

 「じゃあ⋯⋯どうすればいいんだろう?」

 ケルビンは嗤う。

 「ふっ、練度は嘘をつかない」

 「練度?」

 剣を鞘に収める。

 「これから覚えるのはたった三つ」

 抜剣、振り下ろし、横薙ぎ。
 ケルビンが言ったのは、基本中の基本。

 「それで強くなるかって?
 勿論。ただ、カラクリがある」

 そう言ってケルビンは再度振り上げる。

 「魔力を刃先のうっすい一線のみに集約させる。

 纏うのではなく、沿わせる」

 剣の刀身。
 その本当に微かに映るくらいの先から中心に至る一線を、洗練された魔力がギリギリ視認できるくらいの輝きを放っている。

 「これを──魔発ゴステアーロと言う。

 効率的に運用し、最も凝縮された一振り」

 シャイインと一閃。
 まるで吟遊詩人のような音が響き渡る。

 ただ斬っただけ。
 だが、さっきとは違って爆発もしないし、抉れもしない。

 ただ、そこには斬った一閃のみの斬撃が地面深く、底が見えなくなるまで抉られていたのだ。

 「毎日やる。
 抜剣で初見殺し。
 振り下ろしの初見殺し。
 横薙ぎの一撃必殺。

 女であるお前に用意された剣の人生だ」

 基本中の基本。
 だけど、生涯振り続けることで、斬れないものはない。

 ケルビンはそう言った。


 「ゥ!?」

 敵を葬りながら、私は過去を思い出す。
 蹴り上がり私は目の前の魔物を斬る。

 振り下ろしの一撃。
 ──断剣ゴスラフェニア

 風圧が凝縮し、遅れて一気に周囲の魔物が吹き飛ぶ。

 鞘に収め、私は再度抜剣する。
 それは、海を割った事もある一剣。

 ──起剣ルシフェニア

 次、山を斬った横薙ぎの一撃必殺。

 ──終剣エスフォリア

 血飛沫が舞う。
 その中で、私の頭に浮かぶのは⋯⋯最期の時。

 "お慕いしておりました"

 ーー俺がお前にやれるものは拒否しただろ

 "私は富が欲しくて隣に居た訳ではありません"

 ーー⋯⋯はぁ。頑固だな

 "死を選ぶお前に、最後に渡せるものか"

 悩み。あの人は──






























 ーー俺の名字はどうだ?
 今後俺の名字を名乗れ。

 カーラ・アルファル・ディア・アウグスベルファウス。

 "私の人生は幸せでした。
 これで逝けます"

 ーー生きてもいいんだぞ。

 "いいえ。
 私はここであなたと過ごした80年。
 それでも十分幸せを貰いました。

 それに最期この花園で、愛する殿方に抱かれ、名字を貰った。

 もう、欲しいものはありません"

 ーー⋯⋯気をつけてな

 最初で最期の──穏やかに笑う貴方の顔。


 「貴方らしいわ。
 元気にしているかしら?」

 鞘に収め、殲滅した魔物を背に私は一人呟く。

 ──ケルビン愛する人よ。







ーーー
あとがき!

おはようございます世界よ。
今年も終わってしまいますわね。
(あたいは仕事です)

作者としてはこの作品のおかげでかなり変化のあった一年でした。

ここまで毎日お送りしているこの作品もその内終わってしまうのが寂しい限りです。

最近ケルビンくんが居ないことで本来浮かんでくる映像をそのまま書けていて作者は優雅でございます。

長くなったらいけませんね。
では!良いお年を!来年!!
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