【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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世界征服編

閑話前編:旅の女

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 『最初は日本の東京で始まったこの審判の日と言われている現象ですが、この現象は"世界各地"でも発生している事が事実であることを政府が認めました』

 テレビやラジオで流れる人々の叫び声や悲鳴。

 そして、謎の獣や全身が濃い緑の化物。
 斧を持った3m規模の黄色い肌の化物。

 そう、まさにゲームに出てくるような雑魚敵が今現実に姿を表したのだ。

 人々は日本で言うところのアニメや物語に魅せられたというのもあるが、ゴブリンやオークと言った本来ならば雑魚と呼ばれる敵であるが故、楽勝だと揶揄うようにわざと向かう人間が跡を絶たなかった。

 結果。
 当たり前だが、ゴブリンやオークは殺害を好んで行う種族。

 平和というのは、彼らの中では自分たちに歯向かう者がいない状態のことを表す。

 一度人間が攻撃したことによって、彼らの敵対意識は完全に殲滅へと向かい、矛先となってしまった被害は雪だるま式に増えていったのだ。



 




 九州のとあるショッピングモール。
 現在日本だけはではないが、日本でも同時多発的に裂け目による地獄が始まっていた。

 「理沙ちゃん!!」

 そう。
 
 「はぁ!はぁ!」

 「ケケッ!!」

 ショッピングモール内は、ゴブリンたちによる制圧が始まっていた。

 衣里や理沙が九州にいる理由は一つ。

 共通の友人である派遣組の仲間である斎藤文香という新人の実家が九州であり、伊崎からは東京が一番やばいから金持って逃亡してくれということだった為、端である九州の方までたまたまの条件が重なり世話になっていたのである。

 そんなその日。
 食材を買いに行っていた二人は絶賛全力逃走中。

 「ヒッ!!」

 何よ!なによ!!

 止まってしまっているエスカレーターをとうの昔にヒールを脱ぎ捨てた足でダッシュ。

 しかし。

 「な、なんでよ!!」

 ゴブリンは弱い。
 そう、"ゲーム"の世界では。

 少なくともこの現代人の9割以上には今のゴブリンたちにとってはただの動けない餌。

 剣をある程度使いこなし、投石で倒せるくらいには筋力があり、自然の中で狩りができるほどに身体能力が高い。

 こちらの人間には中々すぐにできることではない。

 その圧倒的な機動力で逃げる理沙を追い詰めていく。

 「理沙ちゃん!!」

 ショッピングモールの出口で先に到着した衣里が開けて待っている。
 
 「先輩!!助けて!!」

 「気持ちだけは助けたい!」

 ⋯⋯あぁ。
 どっかの子供みたいな言い回し。

 「清々しいこと言えば綺麗とかありませんからね!!」

 走る。走る。
 どこまで必死に走り続け。
 
 普段のトレーニングの成果が初めて活きた瞬間。

 しかし背後には短剣を持って一人の年若い男の生首を持ったゴブリン。

 もし仮に捕まったら?
 自分の末路は理解してるからこそ、息が切れようとなんだろうと、理沙は全力疾走で入り口へとたどり着く。

 「えいっ!!!」

 通り抜けた同時、衣里ともう一人、大学生程の若い青少年と共に扉を閉め、そのまま走り出す。

 「大志さんでしたか?
 ありがとうございます」

 「いえっ!
 女性の方が困っていたら助けるのが当たり前ですよ!」

 もう年増なんだけどね。
 優しいわね。

 「理沙ちゃん!早く止まって!!」

 3回ほど声をかけたその時、やっとのこと理沙は止まる。

 そのまま四つん這いになって地面に崩れ、遅れて呼吸がやってくる。

 「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁぴぃ⋯⋯」

 「理沙さん?大丈夫ですか?」

 「⋯⋯ぁ⋯⋯はぁ⋯⋯っ、⋯⋯はぁ」

 頭に酸素が回っていないせいで全く状況が飛んでいる。

 理沙の頭の中で初めて、恐怖と男への恐怖が再燃している。

 ゴブリンの自分に対する目が、下心の塊で、なんて下品な事か。

 露出した下半身が理沙の口から嘔吐に至るまでの時間はそこまで掛からなかった

 「大志くん、ごめん。
 お水とかって」

 「うええええ!」

 抜け殻のように嘔吐する理沙の背中をさすりながら見上げて訊ねる衣里。

 「ちょっと見てきます!
 何かあったら叫んでくださいね!」

 そう言って大志という青年はこの場を去っていく。

 「⋯⋯大丈夫?」

 自分にも思い当たりがあり過ぎて何も言えない。

 「⋯⋯気持ち悪い」

 理沙から返ってきたのは淡々としていて、極めていつも明るいギャル風の若い子ではなく、心底冷え切っていて自分でも驚くぐらいの状態であるということ。

 「死にたい」

 「言葉にしない方がいいわ。
 今あの大学生の子が探しに行ってくれてるから」
  
 「なによ⋯⋯なんで⋯⋯」

 理沙の目には涙が溜まっている。

 「なんでこんな目に遭わなきゃいけないの」

 「よしよーし⋯⋯」

 本当。
 厄日か何かかしらね。

 悲鳴のように泣きじゃくりながら肩で息をする理沙を自分の胸に軽く抱き寄せる衣里。

 「私はただ⋯⋯」

 ーーねぇ理沙ー!!
 今度飯行こー!

 「ただ、そーくんとご飯食べて普通にあそこに居たかっただけなのに」

 ピクッと思わず掌に力が入る衣里。
 その熱さが伝わったのか、理沙が続ける。

 「⋯⋯ごめん。
 言わない約束だった」

 「えぇ。
 何か理由があるんでしょうから」

 別れは寂しいものだ。
 私達は巨額のお金を手に入れた。

 複数の口座と株式という合計で1000億程度の資産。

 でも、それに代わるモノを──もう知ってしまったから。

 性欲でもなんでも、下心を向けられて気持ち悪くない男を見つけてしまったから。

 一緒に居て楽しい人を見つけてしまったから。

 おっちょこちょいだけどちゃんと中身を見てくれる人を見つけたからだ。

 そう。
 昔なら喜んでもらえたお金。

 けど今は、ただの紙くずにしか見えない。

 ブランド物を買ったし、スイートルームにだって行った。

 毎日マッサージやエステ、アクセサリーだって買った。

 でも。


 ーー衣里、新しいグッズ出るって!
 ーー衣里見て!今日衣里に合いそうな下着⋯⋯
 ーー俺お菓子作ってみたよ衣里!
 ーー焼きそば⋯⋯いる?いや食べて!!
 ーーねぇ衣里!ここのブランドよさげじゃね?


 "伊崎湊翔あなたの代わりが何処にもいない"。

 やっと。
 やっとだ。
 やっと先人達が言ってることが分かったのに。

 お金より大切なものを見つけられるけど、失ってからじゃないと気付かない。

 「大丈夫よ、理沙ちゃん」

 「⋯⋯何がですか」
 
 「おっぱいに埋まらない」

 「だっておっきいから安心する」

 「はぁ、こんな時だっていうのに」

 しかし。現実とは残酷だ。

 焼け焦げた音が聞こえる中、遠くで知らない女が犯されている。

 首を刎ねられている。
 なんと凄惨でなんと見たくもない現実をこれでもかというほど見せられている地獄。

 まるで本来はこうだろう?と言われているような気さえしてくる。

 平和だった日本。
 今ではたった数時間でコレだ。

 「なんて地獄なの」

 一息鼻から出す。
 少しの沈黙。
 
 「動けるわね?」

 「はい、ありがとうございます」

 二人は立ち上がると、丁度大学生も合流し水を飲みながら近くの避難所まで走る。

 ラジオやスマホで政府が臨時作ったという声明があったからだ。

 学校の体育館などで立てこもろうということでそこならば自衛隊がどうにかゴニョゴニョと色々言われていたのだが。

 「キャァァァぁ!!!」

 三人が到着して真っ先に悲鳴が聞こえるという地獄である。

 棍棒を振り上げる巨体を見て察した衣里は二人の頭を無理やり下げさせた。

 「「⋯⋯え?」」

 直後、聞こえたのは人間の瑞々しい破裂音。

 「グハハハハハ」

 三人の顔はまさに絶望だった。
 
 破裂、破裂、飛散。
 一発音が鳴るたびに三人の震えと絶望がこべりつく。

 「お、おれが」

 そう立ち上がろうとする大志の腕をつかむ衣里。

 「男だからとか関係ないわ」

 「で、でも」

 「漏らしてる」

 衣里の目には青年があまりの恐怖でジーパンが濡れているという事実のみ。

 「あっ⋯⋯」

 「正常よ。
 何も悪くないし、恥ずかしがる事でもない」

 衣里は隣にいる理沙が完全に恐怖で震え、丸まって息すら止めているのが分かっているから。

 「怖いわね」

 「自衛隊は何やってるんですかね」

 「多分、死んだんでしょう」

 草木に隠れている背後からは、集団の逃げ惑う声。

 今、この国に逃げる場所なんてない。

 「はぁ⋯⋯どうしましょうね」

 その時だった。
 真上に違和感。

 「⋯⋯っ」

 ソレと目が合う。
 緑色の下品極まりない目線。

 獲物を見つけ、嗤っている。

 「逃げるわよ!!」

 「キィ⋯⋯ヒッヒッヒッ!!」

 走り出す。
 
 「理沙!!早く走りなさい!!」
 
 「どこに逃げるんですか?」

 走ってはいるが、その目は虚ろで、地獄の形相だ。

 「逃げるのよ!!
 私は生きたいから!」

 いつか会えるかもしれない。
 その時まで。

 「あっ!!」

 理沙が何かの破片に躓いて転ぶ。

 「⋯⋯⋯⋯」

 そんな目で見ないでよ。

 振り返る衣里の目には。
 それはそれは地獄に向かおうとする者の絶望の瞳だった。
 
 「衣里さん!?」

 私は。
 私には⋯⋯もう、今生きる理由がないから。

 「大志くん!行って!!」

 「駄目です!」

 「行きなさい!!!!」

 「⋯⋯っ!」

 そう。
 これは、私なりの友情よ。

 揺らめく自分の視界の片隅。
 そこにはスコップ。
 多分、誰かが抗おうとした⋯⋯いえ、だったもの。

 戦う。そう。戦うしかない。

 「⋯⋯っ!」

 理沙ちゃんを助けようと飛び跳ねようとした⋯⋯その時だった。





























 
 「起剣ルシフェニア

 初めてだった。
 世界が遅くなったように感じて、目の前を何かが通り過ぎる。

 空間が歪んで見えたのも、波紋みたいに風圧が広がるのも。

 「⋯⋯⋯⋯?」

 本当に一瞬の事だった。
 目の前には、真横に深い斬った痕のみ。

 そして。
 目の前には、旅の人間のような深緑色の外蓑を着ている人間の後ろ姿だった。

 人間はこういう時って⋯⋯言葉が出ないものだ。

 「大丈夫かしら?地球人」

 「ち、地球人?」

 呼び方が変だ。
 問い返す。

 「あなたは地球人ではないのですか?」

 確かに冷静になってみれば、地面に入った深さは並ではない。

 恐らく10m以上の深さがある。
 だけど、本当に斬った痕しか残ってはいない。

 「私はラウンド大陸の人間です」

 声は明らかに女。
 振り返ると、彼女の素顔が少し隠れた状態けれど見えた。

 「綺麗」

 素直に出た言葉だった。
 後ろの大志くんも完全に固まっている。

 悪役令嬢のようなキツさはあるが、明らかに美しい女だ。

 そんな女がこんな⋯⋯ん?
 腰には真っ白い剣のようなものが差さっている。

 「お名前を頂戴しても?」

 「⋯⋯佐藤衣里よ」

 「あぁ。やっぱり」

 



























 「私はカーラ・アルファル・ディア・アウグスベルファウス。

 敬愛する師より頼まれた人間です」

 フードを捲り、長い髪が顕になる。
 黒い髪。

 衣里はその絵画の中にしか存在しないような美しい女に見惚れ、何がなんだかわからなくなっていた。
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