【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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白波ホールディングス編

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 ビルの前に、黒塗りの車列が、低く唸るようなアイドリング音を響かせて滑り込む。

 静かにエンジンが止まると同時に、重厚なドアが一斉に開き、革靴がアスファルトを叩く。

 出てきたのは無言のスーツ姿の男たち。

 車列の外側に止まった車からは、インカムを耳に掛けた若い衆が次々と降りてくる。

 彼らはすぐさま整列し、車列の中央に止まっている人物を待った。

 中央の車列へ近づくと、威圧感を纏った中年の男たちが、貫禄ある足取りで現れる。

 そして最後──

 車列の中央、後部座席のドアがゆっくりと開いた。

 太い足が地面を踏む。

 張り詰めたスーツのボタンが今にも弾けそうだが、男は軽い笑みを浮かべながら姿を現した。

 周囲を見渡すその目は、どこか涼しげだった。

 男が出てくると、整列した若い衆たちは一糸乱れぬ動作で頭を下げる。

 その中を、男たちは静かに列を成して、ビルの奥へと消えていった。






 「お待ちしておりました」

 「奥に?」

 やり取りを行うと一人の男が案内する。

 物音一つしないビルの中を抜け、一番奥の部屋の扉が開く。
 
 「中でお待ちです」

 「ご苦労だったね。これで好きなものでも買いなさい」
 
 懐から出した札を受け取った黒服の男は黙って深いお辞儀を返した。

 それを見終わると、開いた扉の中へ入っていく。

 「⋯⋯はははは。そうですか。ではまた」

 ピッ、と電話中のスーツを着た男が脚を組んで喋っていた。

 携帯をモノクロのテーブルの上に置くと、清潔感溢れる男が笑みを浮かべる。

 「いやぁ、大和田組長。お待ちしてました」

 「これでも急いだつもりだったんですが、申し訳ない」
 
 「いいんですいいんです。それより、例の依頼──進捗報告などはありましたか?」

 「いえ。うちの中で最も有能な者たちを送ったのですが、特別な事は」

 「そうですか」

 そう短く切ると清潔感溢れる男が何かを察し、グラスにワインを注いで大和田にスッと差し出す。

 「問題ありませんよ。申し訳ありませんね。大金を払えばすぐ見つかると思っていましたから」

 「面目ありません。

























 力坊ちゃん」

 「平気です。その内見つかると思いますから」

 外の方を向いてクッと一口で飲み干す。

 「依頼した人間の事ですが、何か特別なことなど分かったことは?」

 静かにグラスをテーブルに置くと、視線だけ大和田を見て尋ねる。

 「それはこちらでも最初に着手したのですが、これと言って特別な事はなく──我々もお手上げです」

 「徹底されているか、それとも会長の隠し子?」

 「いえ。それはないかと」

 「確実ですか?」

 「役所に繋がりがありましてね。なんとか探って貰いましたが」

 苦笑いで肩を竦ませ、首を横に数回振る大和田。

 「では本当に?」
 
 「力お坊ちゃんの言及している⋯⋯その伊崎言う人間が会長とゆかりのある人物である事はほぼナシと考えていいかと」

 物思いに耽る神代。
 顎をしばらく触り、何やら必死に考えている。
 
 「アイツがどうやって俺達の計画に気付いたのかが全く理解できない。あの計画は完璧な物だった」

 「乗っ取りですか?」

 「あぁ。日本は世界的にも水という所ではトップレベルだ。水道水が飲めるなんて日本くらいだろう。金になる規模が違う。

 あの会長を嵌めて心機一転──俺達の城を築き上げる予定だった」

 「それで私共にもという話だったのですね」 

 「あぁ。表向きは警備、事業協力者という事にして、裏では──とな」

 「漏れが無かったのですよね?」

 「あぁ。センター長を含めた上の人間は買収済みだった。

 アイツら、将来のポストとキャッシュ、女をあてがってやったら──一瞬で寝返った。あれは見物だったぞ」

 「はは。そりゃあ──男なんて若い女一人で人生狂わされますからね」

 「ええ。しかし、妙なんですよ」

 「妙?とは」

 「ログなどの記録もどうにか処理したはずなんですが⋯⋯残っていたんですよ。

 しかも──あのガキ、施設の人間よりよっぽど勘が鋭い。
 
 一発でまずい所を言い当ててポカンとしてましたからね」

 「優秀も時には仇となる。こうして、自分の身が危険に晒されているというのにですな」

 無言で大和田の言葉を聞くと僅かに口角を釣り上げ、冷たく鼻で笑って返す。

 「さて、我々もそろそろ用意しますよ。坊ちゃんの立場もないのは存じ上げていますが、違うプランもあるんですよね?」

 「勿論です。そっちのプランは──そちらの得意分野ですが」

 「ほう?」

 気になるといった様子の大和田に、懐からカメラを取り出す神代。

 カメラに映る映像を見た大和田が一転、ニヤリとする。

 「⋯⋯脅しですか?」

 カメラに映っていたのは、白波会長の最も弱点であり、神代にとってはもっとも喜ばしいモノ。

 婚約予定だった白波紗季のあられもない姿だった。
 
 「中々な性格をしてらっしゃいますな、坊っちゃんは」

 「そうでもないとあの態度で受け答えしないですよ」

 口調は穏やかで、柔らかい。
 だが目の奥は──一切笑ってはいない。

 白波の使用人をある程度買収していた神代は、家のあらゆる監視カメラを設置していた。

 それは廊下や玄関などではなく、紗季の部屋、風呂場、着替え。

 あらゆる映像を収めたモノだった。

 「ははー。最近の若者は激しめですなぁ」

 見ていた神代の隣から顔を覗き込み、激しく一人行う行為を眺める大和田。

 「中学生の女は早いですからね。昔のように純粋な男女なんて幻想ですよ」

 「覚えが早いですな。これなら、早々に躾けられるのでは? ⋯⋯あぁ。その為の婚約で?」

 口を三日月に歪めた神代は数秒言葉を溜めて無言の笑みを浮かべる。

 「人が悪いですなぁ」

 「まぁ、バレていたのでしょうね。ですが、その内手に入ると思ってたので残念です。こういう手段しか取れ──」

 
 ーーパリン!
 
  
 この部屋以外の窓ガラスの割れた音が二人の鑑賞を止めた。

 「おい!」

 大和田が一声呼び掛ける。

 「外を見てこい」

 「はい!」

 一人の大男がキビキビとドアノブに手を掛けた──その時。

 
 ーーミシ、ドンッッッ!!!


 ヒビが走る──。

 そのまま勢い良く蹴破られたかと思えば、二人の人間が空中をくの字に曲がって、神代の真横にドサリと荒々しく落ちた。

 「お、大和田さん?」

 真横で倒れたスーツの男を見ると、息をしていない。

 気付いた神代は、思わず驚きのあまり慌てて大和田の隣へと隠れる。

 「だ、誰や!!」

 大和田も状況が掴めない。
 
 「⋯⋯お、ここか」

 煙が晴れる。 
 そこに現れた人影の正体が判明すると、神代の顔が豹変する。

 「お、お前!」

 「ん? おっ! いたいた」

 現れたのは、またも黒スーツの若いやつらの髪を引っ張りながら満面の笑みで歩く──伊崎の姿だった。

 「お、お前ら!さっさと殺れ! 坊っちゃん!もう生死は問いませんよ」

 「あ、あぁ!」

 「あーあ。もう言い訳もしないんかい」

 大声で話す二人の声を聞いた伊崎が苦笑い気味に呟くと。

 「悪いな、ガキ。ここで死んで──」

 刃物を持った男が伊崎へ向かう。
 しかし。

 
 ーードゴォォン!!


 振りかぶった一振りを半身寄りで避ける。

 そのまま左足を高く上げては、静かに落ちた。

 砕けた衝撃だけがこの場に広がっていく。

 1分もしない内に、若い衆の威勢の良い声が消えていく。

 「さて──」

 歩を進めて止まる。
 見下ろすその先に──神代と大和田の姿。

 「話をしよう」

 見下ろしながら喋るその姿は、まるで悪魔そのものだった。
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