ダイタイジツワ

伊阪証

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第四話A

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朝のエントランス、まだ人の少ない時間帯。テーマパークの象徴的なゲート前に、ルカとおーくんが並んで立っていた。
リンクコーデの白いシャツに、デニム調のボトムス。ペアルックと言うには控えめだが、並んでみると確かに“おそろい”だった。
「……なぁ、ルカ。やっぱりこういうの、ちょっと恥ずかしいな。」
おーくんは耳をかきながら小さく呟く。ルカは楽しそうにスカートの裾を軽く揺らし、おーくんを見上げた。
「えー? 似合ってるよ。だってさ……おーくんと一緒にいるって、こうやって分かるの、いいじゃん?」
少し遅れて到着したもう一組が駆け寄ってきた。華やかな女装をしている2人組で、軽く手を振りながら声をかけてくる。
「おー、ルカたちペアコーデだ!そっちは“ナチュラル系”だね。」
「でしょ?僕らはちょっと派手めで勝負♡」
わいわいと賑やかな空気に包まれる4人。開園の音楽が鳴り響き、ゲートが開く瞬間──ルカはおーくんの袖をきゅっと引っ張った。
「行こ! 一緒に、いっぱい遊ぼ!」
おーくんは小さく息を吐き、笑って頷いた。
「……うん。今日は、思いっきりな。」
テーマパークの朝の光が、4人の影を長く落としていった。
ゲートをくぐった瞬間、テーマパーク特有の甘いポップコーンの香りと楽しげな音楽に包まれる。まだ朝だというのに、もうワクワクが押し寄せてくるのを抑えきれなかった。
「まずは絶叫系いこっか!」
ルカが指を差したのは、遠くにそびえる巨大なコースター。金属のレールが朝日にきらりと光っている。
「お前……いきなりこれかよ……」
おーくんが苦笑しながらもついていくと、もう1組も「賛成ー!」と勢いよく並んだ。
列に並ぶ間、ルカは小さく肩を揺らして待ちきれない様子を見せる。
「ねぇねぇ、おーくん。こういうの、子供のときから乗ってた?」
「いや、実は初めてなんだよな、こういう本格的なの。」
「えっ……初めて……!」
ルカの目が、期待と好奇心で輝く。
「じゃあ、初めては僕とだね♡」
「……いや、そういう言い方やめろ……」
やがて乗り込む時間が来て、シートベルトが体に食い込む感覚が緊張感を煽る。
「うわ……思ったより高……」
上昇の音が、ガチャン、ガチャンと響く。隣のルカはというと、目をキラキラさせたまま。
「おーくん、ちゃんと掴まってね!」
「掴んでるけど……っ、うわっ──!」
風が一気に全身を叩きつけ、重力がふっと抜ける。耳元で誰かの悲鳴と笑い声が混じる中、ルカは両腕を広げて心から楽しんでいた。
「っは……ははっ……すっご……!」
降りたあとも、ルカの頬は紅潮していて、息が弾んでいた。おーくんも足をふらつかせながら笑う。
「……これ……クセになりそう……」
「でしょ!」
その勢いのまま、近くのフードエリアに吸い込まれる。メニューを見上げていたルカが、一瞬で目を輝かせた。
「ね、ね、見て!女子会割引+女性料金で……めちゃくちゃ安いよ!え、これ全部頼める……!?」
「頼めるけど……そんな食えるのかよ?」
しかし値段の安さに後押しされ、結局テーブルは色とりどりの料理で埋まった。
「わぁ……っ、これだけで写真撮りたい……!」
フォークを持ったルカは、幸せそうに一口目を頬張り、目を細める。
「……あー、やば。おいしい……!」
「そんなに?」
「うん……! おーくんも、これ、食べてみて!」
小さなフォークが、おーくんの前に差し出される。
「……こういうの、恥ずかしいんだけど……」
「いいから! ねっ、はい、あーん!」
周りの賑やかさの中で、2人の世界だけが少しだけ近くなる。ルカの笑顔と、食べる瞬間のわずかな照れ。それだけで、コースターよりも心臓が速く跳ねていた。
「次は、あれだね!」
ルカが指をさしたのは、パーク中央にそびえるシアター型アトラクション。ファンタジーの世界を体験できる3Dライドで、絶叫系とは違う「没入感」が売りだ。
「おーくん、これ絶対好きだと思う!」
「へぇ……そう見える?」
「うん。こういうの、表情見てるとさ……」
からかうような笑みを浮かべて先を歩くルカ。その背中を追いながら、おーくんは苦笑した。
劇場の中はほんのり暗く、柔らかな照明が座席を照らしていた。ルカは自然とおーくんの隣に腰を下ろす。
「ね、さっきのコースターとどっちが緊張する?」
「……今はこっち。理由は言わないけど。」
「ふふっ……そっか。」
映像が始まると、空気が一変する。目の前いっぱいに広がる幻想的な景色、迫力のある音響──ルカは無意識におーくんの袖をぎゅっと握っていた。
「……っ」
おーくんは視線をスクリーンから外さないまま、その手に軽く触れ返す。小さな仕草なのに、鼓動がどくんと跳ねるのが分かった。
上映が終わると、場内はふっと明るさを取り戻す。ルカはしばらく無言で、それからぽつりと呟いた。
「……なんかさ、夢の中みたいだったね。」
「現実に戻りたくないって思った?」
「ちょっとだけ……でも、おーくんが隣だから大丈夫。」
外に出ると、もう次のフードスタンドが目に入った。
「ねっ、今度はこっちのスイーツいこ!」
「お前……食べすぎじゃないか?」
「だって女子会割引、まだいけるよ!」
買ったのは小さなシェア用のスイーツ。ルカはスプーンを二つに分け、迷いなく一口目をおーくんに渡した。
「今度はそっちの番。はい、あーん!」
「……もう慣れてきたかも」
「それはそれで嬉しいけど……恥ずかしがるおーくんも可愛いんだよね。」
小さな会話と甘いスイーツ。遊び疲れの予兆と、楽しさの余韻がじわじわと混じり合っていく。ルカの足取りは、ほんの少しだけおーくんに寄りかかっていた。
午後に入ると、日差しも少し柔らかくなり、パーク全体が活気づいてきた。ルカは次のアトラクションに向かう途中で、ふわっとおーくんの腕に身体を寄せる。
「……あれ?」
「ごめん、ちょっと疲れたかも……」
コースターの興奮、シアターの余韻、食べ歩きの楽しさ。テンションは高いままだけど、体力は確実に削られていた。
「無理すんなよ。休憩する?」
「やだ……おーくんと、もうちょっと一緒に回りたい……」
その言葉に、おーくんは小さく息を吐き、自然と肩を差し出した。
「じゃあ……寄りかかっていいよ。」
ルカは素直に頷き、おーくんの腕に自分の体重を預けた。温かさと安心感に、ほんのり頬が緩む。
次に向かったのは、ゆったり系のボートライド。緩やかに流れる水の上で、ファンタジーの景色を楽しむタイプのアトラクションだ。
「これなら……寝ちゃいそう……」
「寝るなよ……」
「だって……おーくんの肩、気持ちいい……」
小さな声が耳元に落ちてくる。ボートがゆらりと揺れるたび、ルカの頭が少しだけおーくんの肩に滑り落ちて、さらに距離が近づいた。
ライドを降りる頃には、ルカの目はとろんとしたまま。
「……ね、次は……ごはん行こ?」
「またか……」
「女子会割引……今のうちに使わないと……」
そんな調子で辿り着いたレストランは、ちょうど夕方の優しい光が差し込んでいた。ルカは席に座るなり、おーくんの袖を掴んだまま離さない。
「……おーくん、隣、いい?」
「当たり前だろ。」
注文を終えた後も、ルカはぴったりと寄り添ったまま。おーくんは苦笑しながらも、その距離が嫌じゃない自分に気付いていた。
「……ねぇ、おーくん。今日さ……」
「ん?」
「こうやって、ずっと隣にいていい?」
その問いに、答えは決まっていた。
「……もちろん。」
ルカは少しだけ安心したように目を閉じ、夕暮れ色の光の中で微笑んだ。
夜のパレードが終わると、パーク全体が柔らかな余韻に包まれていた。光の波が静かに引いていく中、4人はお土産ショップに吸い込まれる。
「……ねぇ、割引まだ効くよね?」
「うん、レシート持ってればラストオーダーまで全部女子会割!」
「……買うしかないよねぇ!」
完全にテンションは“祭りの後”状態。あれもこれもとカゴに放り込み、気付けばレジで積み上がるお土産は山のようになっていた。
「これ……ほんとに全部持って帰れるのか?」
「……だって、安かったし……」
「言い訳になってねぇ……」
袋詰めされた大量のパッケージを、それぞれ両腕いっぱいに抱える。重みでバランスを取るのがやっとだ。
「ほら、男の子だし。これくらい平気でしょ?」
「いや、お前らも相当だろ!」
意地を張って笑い合いながらショップを出た瞬間、背後から声がした。
「あの……大丈夫ですか?」
振り返ると、スタッフの女性が少し心配そうに見ていた。柔らかな笑顔と優しい声色に、全員が一瞬で動きを止める。
「えっ……あ、はい、だいじょ──」
「……いや、すみません!これ……!」
最初に折れたのはおーくんだった。両手の袋を差し出した瞬間、他の3人もほぼ同時に「あ、お願いします……!」と続いた。
「ちょっと……全員揃って渡すとか……」
「だって……あの人、可愛かったし……」
「……だよね……」
小さな笑い声が夜風に混じる。スタッフが荷物をカートに載せてくれたおかげで、腕の自由を取り戻した4人は一斉に深呼吸した。
「よし、荷物も渡したし──帰ろっか。」
おーくんがそう言った瞬間、もう一人の男の娘がぽつりと呟いた。
「……ねぇ、最後にさ……ドレス、着てみたくない?」
一拍の静寂。次の瞬間、ルカの肩がびくっと跳ねた。
「えっ、それ……本気?」
「だって……今しかないじゃん。夜のこの光景で撮るなら……」
「……俺、やだ。」
おーくんが即答した。低い声に、全員が一瞬目を丸くする。
「プリンセスとか……俺には似合わないだろ。」
「いや……絶対似合うよ?」
ルカが思わず口を挟んだ。その目は真剣で、ほんのり熱を帯びていた。
「……っだから嫌なんだよ。」
おーくんが言い終えるより早く、背後で小さな気配が動いた。
「逃げた!」
「捕まえろ!」
弾けるような声と同時に、3人の男の娘が一斉に駆け出した。おーくんも反射的に全力で飛び出す。
──その瞬間。
地面を蹴る音が、サッカー部時代を思い出させる。全力疾走、心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響く。後ろから迫る気配、速い。まるで陸上短距離のスタートダッシュ。
「待てって言ってんの!」
「いやだ!」
視界の端をかすめる影。体操の動きが染み付いた軽やかな身のこなし。跳ねるように迫る一人、横をすり抜けるもう一人──そして、その全てを嗅ぎ分けるかのように、ぴたりと距離を詰めてくるルカ。
(……なんで、こんなときだけ動物みたいなんだよ!)
汗と夜風、そして混じる微かな香り。おーくんの匂いを覚えているルカには、暗闇も障害にならなかった。
「──捕まえたっ!」
背中に小さな腕の感触。バランスを崩したおーくんは、次の瞬間、ふわりと引き寄せられる。
「……っ、ルカ……!」
「逃げるなんて、ひどいよ……これから可愛くなるおーくん、絶対逃がさないんだから。」
他の二人もすぐに追いつき、ぐるりと取り囲む。
「さぁ……ドレス、着る準備しよっか?」
夜の光の中、観念したおーくんの頬が静かに赤く染まった。
「……ドレスなんて、ほんとに着るのかよ……」
観念したおーくんの呟きに、ルカはにやりと笑った。
「うん、だって……似合うの見たいから。」
その瞬間、背後から軽い息を切らした声がした。
「間に合った……!」
振り返ると、さっき荷物を預かってくれたスタッフが、息を整えながら立っていた。
「……なんで戻ってきたんですか!?」
おーくんが思わず声を上げる。
スタッフはにっこりと笑って、手にした袋を掲げた。
「さっき忘れ物……っていうか、これ渡しに。ついでに……聞こえちゃったんで。」
袋の中には、サイズ違いのプリンセスドレスがきっちり4着。それを見た瞬間、男の娘3人の目が一斉に輝く。
「……準備、完璧じゃん。」
「いや、これ完全に逃げ道ないやつだろ!」
抵抗するおーくんをよそに、3人はすでに手際よく着替えの準備を整え始めていた。
「おーくん、どっちがいい?淡いブルー?それともピンク?」
「選ばせる気あるのか!?」
スタッフはというと、控えめに微笑みながら差し出す。
「よかったら……付き添います。こういうの、全力で楽しんだ方がいいですから。」
「……っ、なんでそんな優しい顔で言うんだよ……!」
ルカはそっとおーくんの手を取った。
「大丈夫、俺も一緒だから。」
その一言に、観念の息が混じる。
「……分かったよ。やるなら……やるよ。」
こうして、ドレスアップの準備が本格的に始まる。男の娘3人+なぜか戻ってきたスタッフのフルサポート──逃げ場は、もうなかった。
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