ダイタイジツワ

伊阪証

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第二話B

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湯気がふわりと立ちのぼる、静かな夜の露天風呂。
まるで世界から切り離されたような、柔らかい光に包まれたその場所に、ルカとおーくんの二人きりの時間が訪れた。

湯面にはほんのりと香る入浴剤の色が広がっていて、ほとんど何も見えない。お湯の中で手を伸ばしても、自分の指先すらぼやけてしまうくらい。けれど、ルカの声だけははっきりと耳に届いていた。

「ねえ、おーくん……なんか、久しぶりだね。水着とかじゃなくて、素肌でさ──」

湯船の縁に肩を預けながら、ルカが笑う。その頬にはわずかに熱がこもっていて、湯気だけのせいではないことはおーくんにも分かっていた。

「……うん、そうだね。なんか変な感じ。今までは隠してた部分が、全部…ほら、見えなくても一緒にある、っていうか。」

おーくんは正面を見ながら、意識的に視線をそらしているようだった。それを見てルカは、くすっと笑う。

「大丈夫。見えないって、逆にドキドキするよね。」

湯の中で、二人の足がふと触れ合う。すぐに引っ込めるおーくんに、ルカがわざとらしくからかうような視線を投げた。

「ふふっ、びっくりしすぎ。……でも、嬉しいな。こうして、一緒に入ってくれて。」

「そ、そんなの……当たり前だよ。」

おーくんの声が、少しだけ震えていた。

それでも、二人の間には温かな空気が流れている。
語らなくても伝わる何かが、湯けむりの向こうで静かに揺れていた。

──まるで、素肌だけじゃなくて、心も裸になっていくような。
そんな夜の始まりだった。
「んー、この香り……すごく落ち着くねぇ」
ルカが湯面を手ですくいながら、にこにこ顔でおーくんの隣にぴたりと身を寄せた。

夜の露天風呂、入浴剤はミルクっぽい色合いで湯面をすっかり白濁させ、視界をふんわりと曇らせていた。そんな中──ルカの手が、音も立てずにお湯の中を泳いでくる。

「うわっ!? ちょ、今……!」
おーくんが跳ねるように身を引く。

「ふふっ、なにが~?」
ルカはすっと体を沈めて、まるで水泳競技のターンのように華麗に方向転換。さすがの泳力、湯の抵抗なんてものともせず、するりと向こう側へ逃げてしまう。

「まただ……こらっ!ちゃんと話聞いてってば!」
「うーん?でもさぁ~…入浴剤で隠れてるし、触っても見えないならセーフだよね♡」

おーくんは顔を真っ赤にしながらも、湯気の奥にルカの笑みを感じ取る。──悔しいけど、楽しそうなその顔が、ちょっとだけ眩しい。

再び近付いてきたルカは、指先を使って入浴剤の層を優しくかき分ける。その動きがあまりに巧みで、どこを狙ってるか丸わかりなのに、かわすのが遅れてしまう。

「なっ……!やっぱり狙ってるじゃん!」
「えへへ、バレちゃった?」

いたずらっ子の笑顔で、お湯を跳ねさせて逃げるルカ。その背中におーくんが「もーっ!」と情けなく声を上げた瞬間──ルカは湯船の縁に腕をついて、くるっとこちらを向いた。

「あ、そうだ。さっきのホットドッグ、ありがとうね?」

「……え、う、うん。そんなの──」
「でもね──」

ルカは少しだけ真顔になって、おーくんの顔を見つめる。
その目が、さっきまでとは違う熱を帯びていて──

「本当に欲しかった“ホット”なのは、そっちの方だったかも……♡」

指先でお湯を軽く弾かせて、音を立てる。まるでそれが合図みたいに。
おーくんは一瞬、返す言葉を失った。胸の鼓動だけが静かに、でも確実に早まっていく。

──ルカの悪戯は、まだまだ終わらない。

熱い湯面を、ルカの白くてしなやかな指先がすうっと切り裂いていく。
まるでお湯さえ味方するように、その動きには一切の抵抗がなかった。

「ル、カ……っ」
おーくんは微かに声を震わせた。

けれどその声も、蒸気の中に紛れてしまう。
まるで、もう何もかも──隠してしまうための舞台が整っていたかのように。

手はゆっくり、迷いなく進む。
逃げようにも、動けない。
あまりに優しく、あまりに柔らかく、
それが──怖いくらいに、心地よくて。

そして。

「……っ!」

身体が一瞬、跳ねた。
喉の奥で押し殺すような吐息が漏れる。
でも──何も見えない。
湯面を覆う入浴剤の白が、全てを覆い隠していた。

それでも隣にいるルカだけは、全てを知っていた。
そっと、黙って寄り添う。

「……もう、バレバレだよね?」

ルカは何も見ないふりをしたまま、肩をそっとおーくんに預ける。
湯気越しのぬくもり。頬が触れるか触れないか、そんな距離感で。

──触れられている。どこかを。確かに。
けれどおーくんは、もう拒めなかった。

「……ダメ、だよ」
「そっか……じゃあ、まだしない」

ルカは微笑んだまま、そっと手を引いた。
でも──肌は離れない。心も、熱も、湯よりもずっと近くで混じり合っていた。

ルカは、そっと目を伏せていた。
頬を寄せ合っていながら、どこか他人事のようにおーくんの震える息を感じていた。

(──んふふ)

心の中で、思わず笑みが漏れる。
だって、おーくんの顔があまりにも真っ赤で。
声を殺して耐えてるけど、限界が滲んでる。
湯気に隠されてるけど、頬も耳も、熱のせいだけじゃないはず。

(…ねえ、もしかして──)

ルカはちらりと視線を流す。
おーくんの太ももに置いた自分の手──そこに、深い意味はなかった。
ただ触れただけ。撫でたわけでも、握ったわけでもない。

だけどその瞬間から、おーくんの様子が明らかに変わっていた。

(……ねえ、まさか)

湯の底から微かに立ち上る、ぶくぶくというジェットバスの水流。
それが──たまたまおーくんの身体に当たってた?
偶然?それとも、丁度いい位置だった?

ルカは内心で唇を噛んだ。
笑いを堪えるため。
イタズラ心が暴れそうになるのを、必死で堪えるため。

(違うよ? ルカ、触ってないよ?)

そう言いかけて──言わない。絶対に。
おーくんの目を見れば、すぐ分かる。
彼はもう、何かをされたつもりになってる。
されてないのに──勝手に、感じてる。

(ああ……可愛いなぁ)

ルカはゆっくりと息を吐いた。
でも、わざとらしく顔を赤く染めて、演技を続ける。

(──気付かないでね、おーくん)
(だって、今の君……すっごくイイ顔してるんだから)

ルカはそっと、おーくんの肩に頭を預けた。
心の中でニヤつきながら。
イタズラの余韻を、甘く味わいながら──。

ルカの指が、ついに「本命」を、しっかりと掴んだ。熱い湯の中で、その形がはっきりと指先に伝わる。

「……一人で興奮しちゃって……今から本番なのに、それでいいの?」

ルカは囁くように問いかけた。その声は湯気のように柔らかく、しかしおーくんの耳には、鋭い刃のように突き刺さる。その言葉に、おーくんの身体はビクリと大きく跳ね上がった。まるで水面から飛び上がろうとするかのように、身を起こそうとする。だが、ルカの腕がそれを許さない。そっと捕まえ、再び湯の中に引き戻す。

ルカはそのまま、彼の大きくしたそれを、ゆっくりと唇に近づけていく。その熱を帯びた先端が、ルカの顔のすぐそこにある。けれど、口を開こうとしたその瞬間、それは期待に反して、しなしなと萎れていく。

「んもう、どうしたの?……えっ、ちょ、これ…?」

ルカは思わず顔を顰める。湯の中で、微かに、しかし確かに、鼻腔をくすぐる匂いがあった。鼻を近づける。これは、お湯の匂いだろうか?いや、それにしても、なんだか違う気がする。
「……っ!」

元の匂いが良いせいで、はっきりと特定できないことに、ルカは思わず唇を尖らせた。

「んー、なんか、臭うけどお湯かどうか分からないな!元が良い匂いのせいで分からないじゃん!」

と、わざとらしく怒ってみる。だが、言葉が口から出る前に、ルカの唇が、湯の中で僅かに滑った。その「何か」が、するりと口の中に入り込んでくる。

次の瞬間、ルカの瞳が見開かれた。
そして、堪えきれずに、ふふ、と小さな笑みが漏れた。

──湯の底に、ひっそりと隠されていたものが、ルカの指先に触れる。それは、まるでおーくんへの「罰」を予感させるかのように、ずっしりとした重みを湛えていた。

「んもう、我慢できなかった罰ね!」

ルカの声には、呆れと、そして確かなイタズラ心が混じり合っていた。その手にした「それ」を、白濁した湯の中からそっと持ち上げる。水面を割るように現れたのは、小さな、しかし存在感を放つ水鉄砲だった。

狙いを定める。標的は、湯に浸かり、顔を真っ赤にして情けない表情を浮かべるおーくん。

ぴゅっ!

湯の中で響く、軽快な水の音。水面を滑る水滴が、おーくんの敏感な肌に、冷たく、そして刺激的に降りかかる。

「ひゃっ!?る、るかぁあああ!」

おーくんの声が、湯けむりの中に情けなく響き渡る。ルカは、そんなおーくんの反応を心ゆくまで楽しみながら、にこにこと無邪気に水鉄砲を撃ち続けた。

湯の香りが満ちる露天風呂で、ルカのイタズラと、おーくんの悲鳴が、夜空に吸い込まれていくようだった。

──そして、夜は、この甘く、そしてちょっぴり意地悪な「罰」の後で…。

夜な夜な、ルカは一人、自室のベッドの上で、小さな「研究」に没頭していた。手元には、様々なサイズと形状の「それ」が並べられている。どれも、おーくんの「本命」を思わせる、リアルな質感のものばかり。

「んー……これはちょっと細いかな?でも、こっちだと、いきなりはキツいかも……」

真剣な眼差しで、ルカは「それら」を手に取り、感触を確かめる。指でなぞり、軽く押し当て、そして──自らの肌で、その「受け入れ方」を探る。その表情は、まるで初めての難解なパズルを解いているかのように真剣で、しかしどこか、新しい玩具を見つけた子どものように、好奇心に満ちていた。試すたびに、微かな吐息が漏れる。それは、ひんやりとしたジェルが肌を滑る音と混じり合い、夜の静寂に溶けていった。

(おーくん、まだ童貞なんだもんね……)

ふと、おーくんの少し困ったような、それでいて純粋な表情が脳裏をよぎる。初めての夜を、最高の瞬間にしたい。そのためには、ルカ自身も「準備」が必要だ。締め方、絞り方……雑誌やネットで調べた知識を思い出しながら、ルカは自身の身体を使って、様々な「練習」を繰り返す。時には、思わず息を漏らすほどの刺激に、頬を赤らめることもあった。だが、それは苦痛ではなく、むしろ新しい快感への探求だった。ルカの口元には、いつしか、微かな、しかし確かな笑みが浮かんでいた。
その実験は、次第に、純粋な好奇心から、ある確信へと変わっていく。

(……きっと、おーくんを最大にできるのは、私だけだ)

ルカの胸に、甘い独占欲がじんわりと広がっていく。そして、その確信が、さらに深い想像を呼び起こした。

(しかも、おーくんのって……現時点でも、かなりの部類に入るはず……)

湯気の中での、あの微かな感触。指先に伝わった、確かな存在感。その記憶が、頭の中で鮮やかに再現される。大きな、熱い「それ」を、自分が完全に受け入れている姿。想像の中のルカは、恍惚とした表情で、おーくんのすべてを受け止めていた。

その瞬間──。

身体の奥底から、抗いがたい熱が込み上げてきた。内側から湧き上がるような、どうしようもない衝動。それは、これまで感じたことのない、あまりにも強烈なものだった。息が詰まり、全身の毛穴が開き、皮膚の下を何かが駆け巡るような感覚。

「ぁ……っ!!」

声にならない悲鳴が、喉の奥で押し殺される。ルカの身体は、意志とは裏腹に、大きく、激しく跳ね上がった。そして、ベッドの上に広げられたカバーの上に、熱い、甘い液体が、止めどなく、溢れ出した。

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