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第一章:取引

有栖_1-5

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 ユースティティア側は刀義の言葉を手放しで受け取ることはできなかった。戸惑いと疑いが混ざり合った表情を三人全員が浮かべていた。
 その表情を見て、刀義は察して笑う。

「そりゃ信じられないよな。じゃあ、こちらが何故『デスペラード』を渡すのか説明しよう。いいよね?」
「……頼む」

 佐倉が刀義に発言を促す。

「まず考えていることは一緒ってことだ。高良組としても警察が自由にデータ改ざんを行える世界なんて御免だ」

 これに関しては納得のいく理由だった。高良組は警察と友好な関係ではない。寧ろ、警察からすれば邪魔な存在に近いだろう。そうとなれば、今後待ち受けるのは警察によってあらゆるでっち上げられたデータを提示され潰される。又は、協力関係、という名の支配下に置かれるだろう。今は『デスペラード』を持っているからこそ相手も様子見をしている、と考えるのが妥当だ。

「では、高良組が警察……いや、天使に対して動かないのは何故? いや、動くにしても『デスペラード』は持っていた方が得策では?」

 有栖が率直な疑問をぶつける。

「正直な、天使という男は手強い。高良組が全力で挑んでも勝算は五分になるかどうかってところだ。また、天使側も同じ考えなんだろうな。アイツは少しでも勝算を上げる為に、俺達と敵対している組をぶつけて戦力を削ろうとしている。今も絶賛抗争中だ………俺達を潰せるとなると躍起になる奴らが多くてね」
「問題なく片づけているが削られているのも事実だ。今も怪しい動きをしている奴らがいる」

 久慈が説明に補足する。

「そこで俺達も天使に対して勝算を上げておきたい。その一手がユースティティアってわけだ」
「自分達を『利用』するってこと?」
「ご明察。ユースティティアのみなさんには『デスペラード』を持って、天使と争ってもらいたい」

 刀義は口元の笑みを崩さない。

「ユースティティアが勝って『レシエントメンテ』が無くなるならそれで良し。もし負けても天使側に一太刀でも浴びせてくれたら万々歳だ。高良組はそこに続いて、天使を潰す。もしくはそっちが戦っている背後を狙っても良い」
「なるほどね。自分達を動かす為にも『デスペラード』を渡すってこと」
「そういうこと。俺達が『デスペラード』を持ち続けても均衡状態が続くだけで、いずれは争う。いざ争うとなったら、そんなものを持っていることなんて関係ない。単なる命の取り合いだ。だったら、『デスペラード』を求めていて、手に入れれば天使と戦うような奴らに渡す方が有効活用ってわけだ」

 刀義の説明は腑に落ちた。確かに、今、ユースティティアとしては『レシエントメンテ』に対して対抗する術がない。だからこそ『デスペラード』が欲しい。それを手に入れて天使と戦い、『レシエントメンテ』を消す――それが明確な目標だ。
 有栖は佐倉の顔を見た。彼は彼女の視線を受けて、頷いた。

「そっちの考えは理解した。では『デスペラード』を――」

 佐倉がそう切り出したときだ。

「と、ここまでが俺達が『以前まで』考えていたことだ」

 発言を遮るように刀義がやや語気を強めて言った。

「以前まで?」

 有栖はあえて強調されて部分を復唱した。

「そう。『以前まで』だ」
「どういうこと?」
「ユースティティアが動くとなれば『特務課』が動くだろうと思っていた。それは間違いないよな?」
「えぇ」
「俺としても『特務課』に動いて欲しかったからそこは互いに考えが一致している。だが、俺がそれを望んだのは一色誠がいたからだ」

 その名前が出され、有栖は無意識に刀義を睨んだ。

「別に挑発したいわけじゃない。ただ、あの男は優秀だった。だからこそ、その戦力が抜けた今の『特務課』の実力に疑問を抱いている。天使にぶつけるに値する力があるのかってことだ」

 その発言に対し、有栖は反論できなかった。それは一色が抜けたことを『問題無い』と言うことができなったからだ。

「だから、テストをしたい」
「テスト?」
「あぁ、高良組から一つユースティティアに依頼を出す。それがクリアできれば報酬として『デスペラード』を渡す。ついでに、こっちが持っている天使の情報も一緒に」
「こちらを利用したいなら、それは無意味では?」
「今から言うテストをクリアできないようなら、どうせ天使には足下にも及ばない。それこそ時間の無駄だ。それなら別の策を考える方がずっと良い。さて――どうする?」

 刀義の問いは今ここで決めろ、と相手に迫っていた。緊迫された空気が場を支配していく。無言は拒否と捉えられる、と判断した瞬間、

「テストに挑戦する。良いですよね、佐倉さん」

 空気を打ち壊したのは有栖だった。佐倉は一度ため息をつき、無言で頷いた。

「そうこなくっちゃ。じゃあ、テストの説明といこうか」

 刀義は楽しそうに笑ってみせた。
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