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第五章:毒の在処

有栖_5-1

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「反保、京さんに連絡を」
「はい」

 反保が控室から出て行くのを確認すると、

「藤内さん、貴方が持っていたんですね」

 真っ直ぐに相手を見つめ、話を続けた。

「さっきの質問からすると、そちらは棚神さんにアレが盛られることを警戒してたみたいだね」
「はい。棚神選手については不用意に近づく選手、スタッフがいた場合は連絡するようにしています」
「まぁ、付き人もいるし彼を取り巻く細かい変化については海野と中島がすぐに気づくか。警察だけでなくユースティティアも警備に急遽参加、となった時点でちょっと変だとは思っていたんだ」

 藤内選手の話振りは落ち着いており、どこか安堵している様子が見られた。

「いずれにしても未然に防げて良かったな」
「いつからこの計画を? 毒をもらった際にですか?」
「考えるとしたらその時ぐらいだろうけど……どうしてそんなことを聞くんだ?」
「そりゃ、聴取ですから。動機はやはり棚神選手に対する怨恨ですか?」
「……待ってくれ。何を勘違いしてるんだ?」

 藤内選手が初めて戸惑いの表情をみせた。

「勘違い?」
「そうだ。棚神さんへの怨恨って……何だよ、それ」
「いや、だからそれが動機で毒を――」

 会話がどうも噛み合わない。チグハグさに有栖も違和感に気づき、そして、一つ確かなことを尋ねた。

「林さんは、どうやって藤内さんが毒を持っていると解ったんですか?」
「いや、解ったもなにも……これは藤内さんが入場前に私を呼んで渡してくれたんです」
「へ? 持ち込んだわけではない、ということですか?」
「こんなもの持ち込めるわけないだろ。だから、林さんに渡して、警察かユースティティアに話を聞いてもらおうって話していたところだ」

 藤内選手は眉間に皺を作り、不服そうに話す。そして、次に彼が口にした言葉は本日、有栖と反保が選手とスタッフから何度も聞いた言葉だった。

「というか、棚神さんを恨んでるって何? あの人を恨んでる奴なんて、この団体にはいないだろ」
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