壊れるぐらい愛して

ふしきの

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 携帯の目覚ましが鳴ると、日常が始まる。

 高木に会う前に、東谷は必ず女を抱いた。
 女なら誰でも良かった。
 柔らかで、なめまかしいつやつやした女。
 食事に、買い物に、挙げ句の果てにしょうもない愚痴まで突き合わせれて、最後はいつも女を抱いた。
 その後、高木に会った。
 高木とは、静かな店で少しのカクテルを飲んだり、オールナイトの映画を見たりしてすごした。
 ちょっとした冗談をさも吃驚した様に笑う女とは違う。
 高木は、男だ。営業の星とまで言われた東谷はこの高木という男と話しても濡れ手に粟ならず暖簾に袖通しな存在だった。なのに、高木とは会社以外で頻繁に約束を交わし会う様になった。
 香水臭い女、派手な化粧でいざ事をしておわった後で、電気を付けてメイクが落ちたら眉毛まで無い女だって沢山見た。けだるい表情で女を置いていく。
 物静かな高木は、ただ黙って隣で東谷の話を聞いてる存在だった。東谷にとって高木は、隠れ家のような住人だった。
 女とは違う…そう思うたびに東谷は女を抱いて、高木に会っていた。
  
 東谷は会社の仕事は定時で上がったことはあまりない。いつも仕事をため込んでは、一気に仕上げるタイプだった。
 雪崩の寸前のデスク。
 パソコンも、ろくに触らないせいか、自分の所だけが埃を被っているみたいだ。
 高木は、たまに雑務で営業部に出入りしていた。
「わりぃ。残業に手間どっちまって、今日キャンセル」
 女に電話する。女は、いつも通りの返答をして、押し問答の末電話を切る。仕事と女なんて、天秤の使い方が間違っていると思う。毎度のことながら東谷はあきれる。女ってそういう所もひっくるめての存在なんだろうけれど。東谷は背伸びをして慣れないパソコンの前に前のめりになった。
「手伝おうか?」
 そう言ったのは、高木の方だった。
 違う部署なのに…。
 テンキーを使わない高木の手は、繊細で、まるでピアノの鍵盤を叩いているようだった。
「早いな。何でそんなに上手いの?」
 感心してそう言うと、
「普通だと思うけど?」と言う。
 はにかんだその顔を初めて見た。
 その時、東谷は高木という存在を初めて見た様な気がした。
 終業時刻はとうに過ぎて、誰もいなくなった営業課のフロア…それでも東谷の目算よりも早めに終わった。
「お疲れさま」
 そう言うと、高木は自分の荷物掴んで席を立った。
「高木!」
 忘れ物でもしたかのような顔をした高木に東谷は唇を押しつけた。 
 高木の唇は、東谷の思った以上に、柔らかかった。
 高木は吃驚して東谷を突き放した。泣きそうな潤んだ目と、以外に長い睫が、暗い事務所でよく見えなかったのが残念だと思ったくらいだ。
 高木は、真っ赤な顔をして出て行った。
 飯でも食いに行こうかと誘おうと高木を探したが、姿はすでに会社にはなかった。
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