壊れるぐらい愛して

ふしきの

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第三章

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「…母さん、また出ていちゃったよ」
 昇は散らかった部屋の中にいる父に言った。
 啓吾は「そうだな…」と呟いた。「ごめんな、昇。俺が不甲斐ないばかりに、母さんが愛想尽をつかしたんだな」 
 昇はそんな父を見ても動揺はしなかった。
 今までずっと母は暗い顔ばかりしていた。
 追い詰めたのは、誰なのだろうか。
 父か、母自身か、それとも出生の秘密を知っても何とも思わずいまだ問うこともない昇自身なのか。
 
 初めて酒を飲んだ。
 アルコールはきつく、むせる様に喉に絡まった。
 長椅子の横に座っている父が情けない顔で笑った。
「……」
「ごめんな…昇」
「爺かよ!謝るなよ!!!いつまでもくよくよしてばっかりでしょーがねー爺さんだなぁ」
 昇はそう言った。
 父とはかなり年が離れていて子供のころからそれが嫌だった。だけれども誰よりも一番大好きな父親だった。


 子供のころ、昇は父親の会社に行くのが好きだった。
 母はそこで研究員をしていたのもあったが、どこへ行っても声をかけてくれる父の仲間が昇にとって自慢だった。
「母さんに何度も何度もプロポーズをしたんだ」
 と言って、福利厚生施設の食堂の中に入ると手際よくオムライスを作ってくれた。
 アツアツで口を火傷して食べたけれど、おいしかった。
「母さんは真面目な人で、仕事になると夢中になりすぎて食事も取らない人だったんだ。こうしてよく夜食を作って食べさせたものだよ」
 けれど昇にとって母は、あまりにも希薄な存在だった。
 たまに家にいても、眼鏡も取らずに寝てばかりだし、化粧もしたことない。参観日はもっぱら父親の啓吾が来てくれた。母の美紗緒は来たとしても友達に紹介したいほど嬉しいとは思わなかった。

 父の背中にいつも憧れて、いつか父を支えるような仕事をしたいと勉強を頑張った。

 ちょっとしたDNA検査薬が開発されて興味本位で遊んでみた。父と型が違っていた。パスポートはきちんとされ、戸籍上も啓吾の子供として認可されているのに、現実は違っていた。誰の子なのだろ。それを口に出すには昇には勇気がなかった。ただその日は夕食のときにご飯が喉を通らなくて夜中に腹が減ったのを覚えている。飯は何度も喉に引っかかり、むせた。
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