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1 恋の始まりなど、いつだって気づかぬもので。
所詮、回避など無意味。
しおりを挟む何度も営業所には行ってるから、所要時間は大体わかる。十分かからない……はず。そのくらいなら喋らなくても耐えられる……はず。
何とも言えない沈黙に支配された車の中で、自分のカバンと封筒を抱きしめてじーっと黙り込んで前だけ見てる私に、暫く無言で付き合ってくれていた佐藤君がちらりとこちらを見て笑いだす。
「なんですか?」
「いや。ごめん。でもそんなに固くならなくても、と思って。迷惑だった?」
「いえ! 迷惑だなんて。寒かったし、ありがたかったです。ありがとうございます」
お礼もまだだったことを思い出して、ぺこりと頭を下げる。
佐藤君は運転する為に前を向いたままだけど、会釈よりもしっかりと頭を下げて応えてくれた。
「どういたしまして。さっきも言ったけど、帰り道の途中だから。俺としてはラッキーくらいで」
「は?」
「いや、こっちの話。でも、使い走りみたいな仕事、街宮さんがやるんだなと思って。そういうのって、内藤さんとかが担当じゃないの?」
「内藤さんは……あんまり行かれません……大抵、私が課長に頼まれるから、行ってます」
「そうなんだ。じゃあそれって大事な書類?」
「さぁ? 私もよく分からないんですけど」
渡される書類はいつも、丸いボタンみたいなのが本体と封についていて、ヒモでぐるぐる巻いて止めるタイプの封筒に入っている。
開ければ中身は分かるけど、別に開けたいと思ったことがないので、中身は知らない。
もしかしたらものすごく大事な書類かもしれないし、逆にびっくりするほど下らないものかもしれない。
「なら、内藤さんに指示出して行ってもらったらいいのに。街宮さん、あの子の倍、資料まとめてるでしょう。どっちが残って仕事をするべきかなんて一目瞭然な気がするけどね」
なんでそんなこと知ってるんだろうと思ったけど、SEはセーブデータも見られるから、誰が作ったファイルか作成者名でわかるんだ。
「街宮さんが指示しても、動かなさそうだもんね、彼女」
「え? 私、指示とかできませんよ? だって、内藤さんは同期って言うか、一緒に去年の春に入社したばっかりで」
「え!?」
あ。これは、うん。やっぱりか。やっぱり佐藤君は私の方が年上だって誤解してたのか。
びっくりさせたのは申し訳ないけど、前見て運転して下さい、前。
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