ならば今、勇敢な恋のうたを歌おう

神室さち

文字の大きさ
5 / 34
1 恋の始まりなど、いつだって気づかぬもので。

所詮、回避など無意味。

しおりを挟む
 
 
 
 
 何度も営業所には行ってるから、所要時間は大体わかる。十分かからない……はず。そのくらいなら喋らなくても耐えられる……はず。




 何とも言えない沈黙に支配された車の中で、自分のカバンと封筒を抱きしめてじーっと黙り込んで前だけ見てる私に、暫く無言で付き合ってくれていた佐藤君がちらりとこちらを見て笑いだす。


「なんですか?」

「いや。ごめん。でもそんなに固くならなくても、と思って。迷惑だった?」

「いえ! 迷惑だなんて。寒かったし、ありがたかったです。ありがとうございます」


 お礼もまだだったことを思い出して、ぺこりと頭を下げる。

 佐藤君は運転する為に前を向いたままだけど、会釈よりもしっかりと頭を下げて応えてくれた。


「どういたしまして。さっきも言ったけど、帰り道の途中だから。俺としてはラッキーくらいで」

「は?」

「いや、こっちの話。でも、使い走りみたいな仕事、街宮さんがやるんだなと思って。そういうのって、内藤さんとかが担当じゃないの?」

「内藤さんは……あんまり行かれません……大抵、私が課長に頼まれるから、行ってます」

「そうなんだ。じゃあそれって大事な書類?」

「さぁ? 私もよく分からないんですけど」


 渡される書類はいつも、丸いボタンみたいなのが本体と封についていて、ヒモでぐるぐる巻いて止めるタイプの封筒に入っている。

 開ければ中身は分かるけど、別に開けたいと思ったことがないので、中身は知らない。

 もしかしたらものすごく大事な書類かもしれないし、逆にびっくりするほど下らないものかもしれない。



「なら、内藤さんに指示出して行ってもらったらいいのに。街宮さん、あの子の倍、資料まとめてるでしょう。どっちが残って仕事をするべきかなんて一目瞭然な気がするけどね」


 なんでそんなこと知ってるんだろうと思ったけど、SEはセーブデータも見られるから、誰が作ったファイルか作成者名でわかるんだ。

「街宮さんが指示しても、動かなさそうだもんね、彼女」




「え? 私、指示とかできませんよ? だって、内藤さんは同期って言うか、一緒に去年の春に入社したばっかりで」

「え!?」





 あ。これは、うん。やっぱりか。やっぱり佐藤君は私の方が年上だって誤解してたのか。

 びっくりさせたのは申し訳ないけど、前見て運転して下さい、前。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

雨降る夜道……

Masa&G
恋愛
雨の夜、同じバス停で白いレインコートの女性が毎晩、誰かを待っている。 帰ってこないと分かっていても、 それでも待つ理由がある―― 想いが叶うとき―― 奇跡が起きる――

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった 4年に一度やってくる2月29日の誕生日。 日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。 でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。 私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。 翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

処理中です...