6 / 34
1 恋の始まりなど、いつだって気づかぬもので。
思わぬギャップはスパイスと言うより劇薬。
しおりを挟む前、とフロントガラスを指差すと、はっとしたように佐藤君が正面を向く。良かった、事故にならなくて。そんなことになったらどんな大怪我しようとも内藤さんから恨まれるに決まってる。
「もっと年上に見てました?」
私の問いかけに、乾いた笑いの後、佐藤君がゴメンと申し訳なさそうに。
「別に、慣れてるのでいいです。高校生の頃から、私服でいたら絶対OLだと思われて、エステとかの勧誘受けたり、妙なアンケートの声かけられたり、見る目のない変なスカウトに絡まれたり、してましたから」
そう、それはもうしょっちゅうだった。その頃の友達によく『紫音は外見もだけど醸し出す雰囲気が老成してる』って笑われたなぁ。
「ついでに言うと、内藤さんは四大卒で、私は短大卒なので、実は内藤さんより年下だったりします」
この告白がまた、衝撃だったのか、佐藤君がぎょっと私の方を見て、今度は運転中だったことを忘れていなかったようで、一瞬で前に向き直る。
「いや、なんて言うか。じゃあ、まだ二十歳(はたち)? あ、二十一歳かな」
「誕生日、三月なのでまだ二十歳です。すみません、見えなくて」
いつも、相手が遠慮してくれて五歳くらい上、遠慮なしだったら三十路と間違われるもん。勘違いは佐藤君が悪いわけじゃないから謝ってみる。
「街宮さんが謝らなくても。街宮さんって泰然としてるって言うか、落ち着いて見えるから……そっか、すごい若いね」
「佐藤君だって、若いですよね?」
ついつい、みんなが呼んでいる通り、そして心の中で呼んでいる通り、あっさり口が滑って君付けで呼んでしまった私に、佐藤君が驚いたような顔をして、ちらっとこっちを見て、すぐに前に向き直る。
「あ。えっと。すみません。佐藤く……さんがはじめてきた時、一緒の人がそう呼んでたのを聞いて、みんな呼んでるんで……その、伝染っちゃって」
「なんでかあそこの人たちはみんな俺の事を君付けで呼ぶなぁとは思ってたけど。大峰さんの仕業か。いや、構わないよ。っていうか、呼び方が伝染るってのはわかるかな。姉貴の子供たち……甥っ子や姪っ子なんだけど、姉貴が──子供たちの母親が俺の事『カナちゃん』って呼ぶもんだから、俺、五歳児に『カナちゃん』呼ばわりだし」
瞬間脳裏に小さい子供たちに『カナちゃん』と呼ばれて懐かれて困った顔をしている佐藤君が浮かんで、思わず笑ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
雨降る夜道……
Masa&G
恋愛
雨の夜、同じバス停で白いレインコートの女性が毎晩、誰かを待っている。
帰ってこないと分かっていても、
それでも待つ理由がある――
想いが叶うとき――
奇跡が起きる――
妖狐の嫁入り
山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」
稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。
ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。
彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。
帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。
自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!
&
苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る!
明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。
可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ!
※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。
花も実も
白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。
跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる