ならば今、勇敢な恋のうたを歌おう

神室さち

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1 恋の始まりなど、いつだって気づかぬもので。

思わぬギャップはスパイスと言うより劇薬。

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 前、とフロントガラスを指差すと、はっとしたように佐藤君が正面を向く。良かった、事故にならなくて。そんなことになったらどんな大怪我しようとも内藤さんから恨まれるに決まってる。

「もっと年上に見てました?」

 私の問いかけに、乾いた笑いの後、佐藤君がゴメンと申し訳なさそうに。


「別に、慣れてるのでいいです。高校生の頃から、私服でいたら絶対OLだと思われて、エステとかの勧誘受けたり、妙なアンケートの声かけられたり、見る目のない変なスカウトに絡まれたり、してましたから」


 そう、それはもうしょっちゅうだった。その頃の友達によく『紫音は外見もだけど醸し出す雰囲気が老成してる』って笑われたなぁ。


「ついでに言うと、内藤さんは四大卒で、私は短大卒なので、実は内藤さんより年下だったりします」


 この告白がまた、衝撃だったのか、佐藤君がぎょっと私の方を見て、今度は運転中だったことを忘れていなかったようで、一瞬で前に向き直る。

「いや、なんて言うか。じゃあ、まだ二十歳(はたち)? あ、二十一歳かな」

「誕生日、三月なのでまだ二十歳です。すみません、見えなくて」


 いつも、相手が遠慮してくれて五歳くらい上、遠慮なしだったら三十路と間違われるもん。勘違いは佐藤君が悪いわけじゃないから謝ってみる。



「街宮さんが謝らなくても。街宮さんって泰然としてるって言うか、落ち着いて見えるから……そっか、すごい若いね」

「佐藤君だって、若いですよね?」

 ついつい、みんなが呼んでいる通り、そして心の中で呼んでいる通り、あっさり口が滑って君付けで呼んでしまった私に、佐藤君が驚いたような顔をして、ちらっとこっちを見て、すぐに前に向き直る。


「あ。えっと。すみません。佐藤く……さんがはじめてきた時、一緒の人がそう呼んでたのを聞いて、みんな呼んでるんで……その、伝染っちゃって」


「なんでかあそこの人たちはみんな俺の事を君付けで呼ぶなぁとは思ってたけど。大峰さんの仕業か。いや、構わないよ。っていうか、呼び方が伝染るってのはわかるかな。姉貴の子供たち……甥っ子や姪っ子なんだけど、姉貴が──子供たちの母親が俺の事『カナちゃん』って呼ぶもんだから、俺、五歳児に『カナちゃん』呼ばわりだし」


 瞬間脳裏に小さい子供たちに『カナちゃん』と呼ばれて懐かれて困った顔をしている佐藤君が浮かんで、思わず笑ってしまった。



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