【完結】復讐姫にはなりたくないので全て悪役に押し付けます

桃月とと

文字の大きさ
6 / 14

6 新たな聖女

「そろそろ物語は始まったかしら」

 あの大騒ぎになった誕生日パーティから1か月経った。
 原作はのどかな昼下がりのシーンから始まる。アリソンが屋敷の庭で侍女たちと楽しく散歩しているのだ。小鳥が肩に止まり、美しい髪が風になびく。いかに彼女が美しく、家族から愛され、優しく穏やかな人物か語られていた。
 まさかこの美しい乙女が『復讐姫』と呼ばれることになるとは……という導入だ。

 だが彼女はあのパーティからずっと部屋に篭っている。

 (傷ついてますアピールはきいてるみたいね)

 連日、アーロンからの謝罪の手紙やあの場にいた人々からの同情や気遣いの手紙が届いていた。そしてそれにアリソンは逐一返事を出したのだ。

わたくしはもう聖女としてやっていくことは出来ないでしょう。治癒の力は心の力が源になります。それはあの時、あの部屋に入った瞬間、全て失われたのです』

 半分は嘘ではない。治癒の力は使う人間のメンタルも重要だ。精神が不安定だと効果も不安定になる。

 (まぁ実際あの部屋に入った瞬間、思わずキター! って大興奮のガッツポーズしそうになったんだけどね!)

 さらに手紙は続く、

『この様な意志薄弱な聖女など、未来の王妃には到底相応しくありません。自ら身を引くのが、これまで私に期待を寄せていた国民へのせめてもの償いというものです。
 そもそもアーロン殿下のお心すら離れていくような女など、誰も王妃とは認めないでしょう』

 (はい。これは~そんな事ないよ! って言われるの待ちの文章ね)

 羽根ペンをクルクル回しながら、もう15度目になる似たような内容の手紙を書き続ける。

『ですがご安心ください。きっと間も無く、私に変わる聖女が現れる事でしょう。
 預言者のように神託があったわけではありません。ただ未来の聖女と言われた私だから感じるのでしょうか、最近、確信に違い感覚を覚えることが度々あるのです。
 そのような方が現れた時、私は喜んで彼女に私の未来だったものをお渡しする所存です』

 その後は、感謝の言葉を書き連ねてお終いだ。
 結局こんな手紙を王に王妃に王太子、さらに公爵家から子爵家、この国の大商家に神殿の高位神官にまで出すことになった。

「先に預言を出したんですね」

 ギルバートはアリソンが書いた手紙に目を通しながら時々肩を揺らしていた。笑うのを我慢しているようだ。
 悲壮感漂う字を書いている本人は目の前でピンピン元気に過ごしている。それらしく水滴を垂らして涙の跡までつけるという小細工までしていた。

「可哀想なアリソンの演出は大事なんだから~! 同情もそれなりに力になるし」

 (こっちは命かかってんだからプライドなんて言ってられないのよ!)

 彼の表情を読み取って、アリソンはわざと怒った口調で言い返す。

「……まあどっちに転ぶかわかんないけど、これだけ言いふらしてたらデボラが出てきた時、私がショックを受けて彼女に嫌がらせしたなんて難癖つける人は減るでしょ」

 これは予防線だ。原作では不意打ちされ動揺したままあれよあれよという間に悪い方に転がっていった。

(原作の私、あまりにも悪意に耐性がなさすぎなのよね~)

 それが悪意だと気づくのに時間はかかるし、気付いた時の衝撃で動けなくなっていた。
 そしてその不意打ちにやられたのは、王や王太子、貴族達も同じだった。デボラとその一族は、スピード感を持って瞬く間にライバルを蹴落としたのだ。
 
 このアリソンの預言に乗っかって、正式に預言を出してくるか、それとも先にアリソンが新しい聖女の話をした事で何か変えてくるか……まさか偽の預言をやめてしまう……?

「先制攻撃は効いたようです」

 最後の手紙を書いてから1週間後、少し悪い笑顔をしたギルバートの報告を受けたアリソンは小躍りしたくなるのをグッと我慢した。とはいえ、マレリオの役割を考えたら喜んでばかりはいられないのだが。それでもムカつく相手に一発かませたのは気持ちがいいものだ。

「預言者マレリオとクローズ家が揉めています」
に先を越された預言なんて立場がないって?」

 くすっと笑ってギルバートは頷いた。マレリオは自分に人気がない事はわかっている。さらに自分の能力を疑われるようなことはしたくないのだろう。

 だが、新たな聖女の話は、まことしやかに世間に広まり始めていた。

「ざまぁみろ! 私の誕生日パーティを仮病で欠席したことを後悔してることでしょうよ!」

 フンっとアリソンは鼻を鳴らす。

 高齢の現聖女からは、事前に手紙やパーティに出席できないお詫びに、綺麗な花束が届けられていた。彼女は間もなく引退だ。自分の後継者を苦労なく選べそうだと安堵している。
 マレリオはただ参加しない、と素っ気ない返信がきただけだ。すでにデボラ側と手を組んでいると非常にわかりやすくアリソンに教えてくれたようなものだった。

 (以前の私だったら、お忙しいのね! なーんて能天気に過ごしてただろうな)

 それはそれで幸せなことだと今ならわかる。他人からの悪意というのは自分だけでコントロール出来るものではない。わかってしまえば、ただのストレス源にはなってしまう。

「預言者としての力がありながら人を見る目がなさすぎますね。アリソン様を選ばないなんて」

 冷たい瞳に冷たい声。ギルバートはアリソンに害なす者に一切の容赦をするつもりはない。
 彼女から恐ろしい未来の話を聞いてさらにその気持ちは強まっていた。

「まぁまぁそんなに怒らないで! この人、その内デボラが雇った暗殺者に殺されちゃうから」

(原作の私が唆したのが原因だけど!)

 作中ではデボラが聖女となった後、世間へ偽の預言をバラすと脅し、デボラの聖女としての権力と大金を巻き上げようとしたのだ。

「……そうなるべき男です。必要があれば俺が」

 冗談ではない、本気の表情だ。

(しまったっ! 軽口が過ぎたわね……)

 アリソンはギルバートの愛情表現の方向性を再認識した。彼女の為なら文字通りなんでもやってのける。

「あらやだ! 私は平和主義者よ。多少苦労しても流血は避けるつもりだからね! そのつもりでよろしく」

 なによりギルバートの手を汚したくはなかった。
 アリソンの気遣いに気がつき、ギルバートは困ったように笑う。

「ま! 彼がどうするか様子を見てからでもいいでしょう。今のところ実害はないし」

 マレリオに動いてもらわなければ、アリソンが聖女になってしまう未来が近づいてしまう。今の彼女の望みを実現する為には、彼の偽預言は都合がいい。
 
 結局新たな聖女の預言は、アリソン達が大神殿へ行くほんの少し前に発表された。原作通り、真実の聖女はデボラ・クローズであり、アリソン・アルベールは前預言者の妄言を利用してその地位を手に入れようとした、と。デボラ側がごり押して、予定通りの預言を発表したのだ。

「バカね~もうちょっと上手いこと考えればいいのに」
「アリソン様でしたらどのように?」

 ギルバートの問いかけに得意気な顔をして答えた。

「私は今、悲劇のヒロインよ! 私を貶めないで利用しなきゃ。例えば、傷つき力を失った聖女アリソンの後任としてデボラは聖女に選ばれた! とかね」

 (そうしてくれたら聖女交代もやりやすかったのに!)

 アリソンは聖女になりたくはない。デボラが望むなら、いや、望まなくとも喜んで代わるつもりでいる。
 ただし、こちら側に害をなすつもりならそれなりの対応をする心積りだ。アリソンにも、その家族にも今後の生活がある。世間体だって、アリソンほど有名になれば大事なことだ。
 
 マレリオの預言はすこぶる不評だった。可哀想なアリソンに追い討ちをかけたのだから。だいたい、アリソン本人によって次の聖女の預言はされている。アリソンの予想通り、マレリオの新たな預言はただ便乗しただけと思われていた。

「本当に預言はあったのか? それこそ金で出来た預言なのでは?」

 原作と違い、人々はこの預言を全く信じなかった。なぜならもう1つの噂が王都に出回っていたからだ。

 クローズ領の金山開発が順調に進みゴールドラッシュが始まった。

 作中では預言者買収の疑いがかからないよう世間には伏せられていた事実だ。実際にはゴールドラッシュなんていうほどの盛り上がりはないが、噂のが話を盛っていた。

「クローズ家は犯人探しに躍起になっているようです」

 素知らぬ顔をしたギルバートを見てアリソンはプハッと吹き出した。そんな彼女を彼は愛おしそうな目で見る。

 ありきたりだが、ギルバートは幼い頃アリソンに命を救われた人間だ。王都の路上でただ1人死んでいく寸前、彼女に助けられた。それから自分の命はアリソンの為に使うと決めている。
 そしてそんな身分の彼を、あっさり受け入れてくれたアルベール家のお人好しな人達のことも、彼は守ろうと誓っていたのだ。

「ギルも、ギルの友達もいい仕事するわねぇ」
「なんのことはありません。皆アルベール家には恩がありますので」

 ギルバートは顔が広い。一時は浮浪児達のリーダーのような存在だった。
 ギルバートの一件で王都の浮浪児の現状を知ったアルベール家は、そんな彼らが飢えや寒さを凌げるよう住処を用意し、教育し、未来を与えていた。

 悪役の運命か、クローズ領の金山開発はすぐに下火になってしまう。思っていたより採掘量がなかったのだ。それは物語の中盤で発覚する。そしてそれをきっかけに、クローズ家の卑劣な攻撃は加速するのだ。

 (デボラが聖女、そして王妃になれば一発逆転だもんね~)

 やれやれとため息をつくアリソンの手をギルバートはそっと握り、

「アリソン様のことは俺が必ずお守りします」

 ついに物語が始まる。アリソンにとっては辛い物語だ。
 今回は以前のように茶化すような物言いではない。真剣に見つめるギルバートの瞳を、アリソンはしっかりと見つめ返した。

「ならギルのことは私が必ず守るわ」

 そうしてビックリと目を見開く彼を見ながら、ぎゅっと彼の手を強く握り返した。
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

ベッドの上で婚約破棄されました

フーツラ
恋愛
 伯令嬢ニーナはベッドの上で婚約破棄を宣告された。相手は侯爵家嫡男、ハロルド。しかし、彼の瞳には涙が溜まっている。何か事情がありそうだ。

過去の青き聖女、未来の白き令嬢

手嶋ゆき
恋愛
私は聖女で、その結婚相手は王子様だと前から決まっていた。聖女を国につなぎ止めるだけの結婚。そして、聖女の力はいずれ王国にとって不要になる。 一方、外見も内面も私が勝てないような公爵家の「白き令嬢」が王子に近づいていた。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗
恋愛
聖女であるアルメアは、無能な上司である第三王子に困っていた。 彼は、自分の評判を上げるために、部下に苛烈な業務を強いていたのである。 それを抗議しても、王子は「嫌ならやめてもらっていい。お前の代わりなどいくらでもいる」と言って、取り合ってくれない。 それなら、やめてしまおう。そう思ったアルメアは、王城を後にして、故郷に帰ることにした。 故郷に帰って来たアルメアに届いたのは、聖女の業務が崩壊したという知らせだった。 どうやら、後任の聖女は王子の要求に耐え切れず、そこから様々な業務に支障をきたしているらしい。 王子は、理解していなかったのだ。その無理な業務は、アルメアがいたからこなせていたということに。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?