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7 大神殿へ
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物語は無事始まった。大神殿での修行生活が、ストーリー通りアリソンに訪れたのだ。
ここで治癒魔法が使える者達は多くのことを学ぶ。彼らは大神殿を卒業後は治癒師と呼ばれるようになり、国内各地へ派遣される。
アリソンの同期は32名。大神殿の広場に集められていた。全員、真っ白な祭服に包まれている。少数の貴族はそれに貴金属を身に着け、アレンジをしていた。
毎年大神殿に集まるのは似たような数だが、年々治癒能力の低下が危惧されている。だからこそ、アリソンの『歴代最高峰』という預言に期待する者は多い。実際、彼女は既に並の治癒師よりよっぽど効果のある治療魔法を使うことが出来ている。
「平民と同じ生活をするだなんて」
とある子爵の娘が不機嫌そうに呟いた。
「文字の読み書きからだぞ……やってられないな」
伯爵家の三男坊も同じ感想を抱いているようだ。周囲に聞こえても全くかまわないというボリュームで会話を続けている。平民出身者は小さくなって俯きながら聞こえないふりをするしかなかった。
(原作通りね。さ、来るわよ~)
アリソンは少々興奮気味だった。ついに彼女の出番だ。
「まあ! そんなことおっしゃらないで! これから一緒に頑張る仲間じゃない!」
悪役の登場だ。
デボラ・クローズ男爵令嬢。カールしたピンクブラウンの髪を肩にかけながら、自信満々な表情で注意する。誰よりも華やかに祭服を飾りたてていた。
だがオレンジの瞳に少しも優しさは感じられない。平民たちは味方がいると知り嬉しそうではあるが……。
(本来ならこの場をうまく納めたデボラの株が上がるのよね。神官達からも、同期からも)
この時、原作のアリソンはただオロオロとするだけだった。貴族たちの言動が決して褒められるものでないのはわかっていたが、どう注意すればいいかわからなかったのだ。が、もちろん今のアリソンは違う。そして同時に、現在のデボラの状況も。
「フン! 成金貴族が偉そうに!」
「どうせ貴女の預言は金で買ったんでしょう? 誰も認めてなんていないわよ」
「なんですって!!?」
原作とは違い、注意された貴族達は全く引く気はないようだ。どうやら揃いも揃ってデボラが聖女という預言を信用していない。
「貴方達! マレリオ様の預言を信じないというの!!? 不敬だわ!!!」
「マレリオ様ね……」
何人かが嘲笑していた。
「新し聖女の預言の前に、ベルセル川の大氾濫を予言してほしかったよ。それが本来の預言者の仕事だろ」
少し離れた所にいた、侯爵家の次男が冷たく言い放った。彼の家の領地はそのせいで多くの領民が被害にあっていたのだ。
デボラは言い返せずに悔しさのあまり歯ぎしりをしている。元々気の荒い性分だ。聖女のように穏やかに振舞うのは本来得意なことではない。
(まだまだ若いわね~……しおらしく悲しそうにすればいいのに)
そろそろね。と、誰にも聞こえないように呟き、ニヤつきそうになるのをぐっと堪えてヒロインの登場だ。
「まあまあまあ。皆様、緊張で気が張ってらっしゃるんだわ……どうか落ち着きましょう。ほら、深呼吸がいいらしいですわよ?」
そう言って、アリソン自身が深呼吸をして見せる。にこり、と優しく全員に微笑みかけ、どちらが良いとも悪いとも言わない。ヒロインの笑顔に毒気が抜かれたように、騒いでいた貴族達は大人しくなった。
そしてそれを確認して今度は騒ぎの様子をうかがうしかない平民の方へ笑顔を向ける。するとポッと彼女達の顔が赤らんだ。
アリソンは、唯一こめかみに青筋を立てたままのデボラの方へと近づいていく。
「デボラ様……私のせいでこのようなことになり申し訳ございません……お役に立てることがあればなんでもおっしゃってくださいね」
「!!?」
予想もしなきゃセリフに呆気にとられるデボラの手を取った。
「未来の聖女としてのプレッシャーもおありでしょうが、どうかお心を落ち着かせくださいませ」
あくまで余裕を見せる。聖女と預言された者の余裕だ。新たな聖女に全く動揺することなく、むしろ協力的な姿は人々を驚かせた。
「アリソン様!」
「まあカルラ様! お久しぶりでございます」
カルラは現聖女の世話人であり治癒師だ。彼女は未来の聖女であるアリソンの家庭教師としても、しばしばアルベール家の屋敷を訪れていた。カルラの他にも治癒師育成に関わる神官や治癒師がいつのまにか集まっている。
(よしよし。皆ちゃんと見たわね!)
これで原作のようにアリソンの評価が極端に落ちることはないだろう。困惑した表情の彼らを見るに、まさかマレリオ側に偽聖女と言われたアリソンが、あっけらかんとデボラの手を握っているとは思いもしなかったに違いない。
デボラの方はやはり悔しかったのか、何も言わず手を振り払って離れていった。
(あーあーダメじゃない。そこはありがとうございますぅ~! ってサッパリ反応しないと)
その場にいた全員が、デボラの反応を見た。そして落胆している。次の聖女と預言された女性があのように気性が荒いとは……。
そもそもアリソンの存在が気に入らないと原作での発言もある。何をどうしても仲良くする気はないのだろう。
(困るのよね~こっちは仲良くしたいのに)
これはアリソンの本心だ。
今のアリソンにとって、大神殿の生活は楽しかった。ここでは、全員が……貴族も平民も……同じように生活をする。1人部屋ではあるが、食事を全員で作り、食べ、勉強をし、掃除洗濯もおこない、治癒魔法の訓練もした。
前世の記憶が戻る前のアリソンであれば大変だっただろう。箱入り娘の貴族だ。治癒魔法以外は何もできなかった。さらに作中では彼女だけ治療魔法の訓練を事前に受けていたので他より出来がよく、同期には遠巻きにされてしまっていた。
大神殿での生活は何一つうまくいかなかったのだ。そんな未来にならずに済んでよかったと、アリソンはあの時躓いた小石に感謝せずにはいられない。
そしてアリソンが変わったことによって人間関係も大きく変わっていた。
「違う違う! ここの文法はこう……」
「なるほど。わかりやすいです!」
最初は平民にあたりの強かった貴族達は、アリソンがクッション役を果たしたおかげで少しずつ平民との仲も深まってきた。平民な苦手な勉学は彼らが教え、貴族が苦手な家事や料理はより良い方法を平民がレクチャーしている。
(うーん……バタフライエフェクトってやつね。いい変化だからいっか)
これも原作とは大きく違う。大神殿内はもっとギスギスした関係だった。デボラの策略によってアリソンは同期の中で共通の敵として認識されていたが、別にアリソンがいなくともデボラによってあっちこっちに悪意が振りまかれていたので、誰も信頼しあってはいなかった。
「アリソン様はどこでお料理などされていたのですか!?」
「お掃除やお洗濯の手際もいいなんて!」
「それだけではありませんのよ! お勉強やもちろん治癒魔法も一番ですわ!」
(独身の1人暮らしを舐めないでちょうだい!!! だいたいことは1人で出来るのよ!)
アリソンが特別待遇で生きてきたことを大神殿内にいる者達はもちろんわかっている。なのに彼女が文句も弱音も吐かず器用に全てをこなしていることに驚きを隠せない。
原作と違って、アリソンは孤独ではなかった。もちろん原作通り、デボラからは悪い噂を流されてはいたが、誰1人それを信じる者はいない。
「アリソン様って私達のこと、いつも馬鹿にしていらっしゃるわ……! 自分だけ治癒魔法が上手く使えるからって、ズルして早くから指導を受けていただけなのに!」
「あの方は他人を馬鹿になんてしないわ。それに聖女と預言されていたのだから仕方がないじゃない。アリソン様だってご本人が望まれてそうなったわけではないのだから」
はいはいまたその話ね。と、いつものデボラの僻みだと全員が取り合わない。そのせいか、デボラの虚言はどんどんと酷くなっていった。
「私の祭服がビリビリに破られてる……!!!」
ある日差しの強い朝、ドタバタと食堂にやってきたデボラは叫ぶように声を上げた。
(えぇ~!!?)
アリソンはすぐ、次に自分に嫌疑がかけられることを察知した。そして案の定、
「アリソン様ね……! 私が妬ましいんだわ……真なる聖女だと預言されたからっ!」
そう言って、ボロボロになった祭服を投げつけた。
(うわ~そりゃ流れが変われば原作にないこともしてくるわよね……)
予想外のイベントにアリソンは珍しく焦るが、もちろん表面には出さない。とりあえず、
「きゃっ!」
と、怯えるように体をすくめた。そして現状を理解できていないデボラにがっかりする。
(これは悪手でしょ~……あーあ……)
「それはいつわかったのですか? あ、ちなみにアリソン様は朝早くからパンを焼くためにこちらにいらしてますよ」
カルラが冷たい視線をデボラに送る。他の同期達も同じだ。またか、と呆れてため息をつく者まで。
「よ、夜よ! 夜の間よ!!!」
デボラはすぐに自分が不利な状況であることを察したようだ。アリソンのせいにしようとしているのもすでに全員にバレていた。
「まあ! そんな恐ろしい……! 誰かがこの大神殿に潜り込んだということですか!?」
カルラが大袈裟に騒ぐ。夜間は誰も部屋から出ることを許されていない。それに大神殿の警備は厳重だ。焦ってボロを出したデボラに追い打ちをかけようとしていた。いい加減、全員がうんざりなのだ。
「今すぐ警備隊長を呼びなさい! デボラ様のお部屋をお調べして!!!」
「ちょっと! や、やめてよっ!!!」
あからさまにデボラは焦っていた。調べられたらまずいものがたくさんあるのだろう。
そうしてデボラの部屋からは持ち込みが許されていない刃物や、誰に使うつもりだったのか、睡眠薬がいくつも見つかった。結果、罰として神殿の独房へと入れられたのだ。
(デボラってこんなに馬鹿だったのかしら? それとも原作の私がチョロすぎただけ?)
原作ファンとしては複雑な気分のアリソンだった。
ここで治癒魔法が使える者達は多くのことを学ぶ。彼らは大神殿を卒業後は治癒師と呼ばれるようになり、国内各地へ派遣される。
アリソンの同期は32名。大神殿の広場に集められていた。全員、真っ白な祭服に包まれている。少数の貴族はそれに貴金属を身に着け、アレンジをしていた。
毎年大神殿に集まるのは似たような数だが、年々治癒能力の低下が危惧されている。だからこそ、アリソンの『歴代最高峰』という預言に期待する者は多い。実際、彼女は既に並の治癒師よりよっぽど効果のある治療魔法を使うことが出来ている。
「平民と同じ生活をするだなんて」
とある子爵の娘が不機嫌そうに呟いた。
「文字の読み書きからだぞ……やってられないな」
伯爵家の三男坊も同じ感想を抱いているようだ。周囲に聞こえても全くかまわないというボリュームで会話を続けている。平民出身者は小さくなって俯きながら聞こえないふりをするしかなかった。
(原作通りね。さ、来るわよ~)
アリソンは少々興奮気味だった。ついに彼女の出番だ。
「まあ! そんなことおっしゃらないで! これから一緒に頑張る仲間じゃない!」
悪役の登場だ。
デボラ・クローズ男爵令嬢。カールしたピンクブラウンの髪を肩にかけながら、自信満々な表情で注意する。誰よりも華やかに祭服を飾りたてていた。
だがオレンジの瞳に少しも優しさは感じられない。平民たちは味方がいると知り嬉しそうではあるが……。
(本来ならこの場をうまく納めたデボラの株が上がるのよね。神官達からも、同期からも)
この時、原作のアリソンはただオロオロとするだけだった。貴族たちの言動が決して褒められるものでないのはわかっていたが、どう注意すればいいかわからなかったのだ。が、もちろん今のアリソンは違う。そして同時に、現在のデボラの状況も。
「フン! 成金貴族が偉そうに!」
「どうせ貴女の預言は金で買ったんでしょう? 誰も認めてなんていないわよ」
「なんですって!!?」
原作とは違い、注意された貴族達は全く引く気はないようだ。どうやら揃いも揃ってデボラが聖女という預言を信用していない。
「貴方達! マレリオ様の預言を信じないというの!!? 不敬だわ!!!」
「マレリオ様ね……」
何人かが嘲笑していた。
「新し聖女の預言の前に、ベルセル川の大氾濫を予言してほしかったよ。それが本来の預言者の仕事だろ」
少し離れた所にいた、侯爵家の次男が冷たく言い放った。彼の家の領地はそのせいで多くの領民が被害にあっていたのだ。
デボラは言い返せずに悔しさのあまり歯ぎしりをしている。元々気の荒い性分だ。聖女のように穏やかに振舞うのは本来得意なことではない。
(まだまだ若いわね~……しおらしく悲しそうにすればいいのに)
そろそろね。と、誰にも聞こえないように呟き、ニヤつきそうになるのをぐっと堪えてヒロインの登場だ。
「まあまあまあ。皆様、緊張で気が張ってらっしゃるんだわ……どうか落ち着きましょう。ほら、深呼吸がいいらしいですわよ?」
そう言って、アリソン自身が深呼吸をして見せる。にこり、と優しく全員に微笑みかけ、どちらが良いとも悪いとも言わない。ヒロインの笑顔に毒気が抜かれたように、騒いでいた貴族達は大人しくなった。
そしてそれを確認して今度は騒ぎの様子をうかがうしかない平民の方へ笑顔を向ける。するとポッと彼女達の顔が赤らんだ。
アリソンは、唯一こめかみに青筋を立てたままのデボラの方へと近づいていく。
「デボラ様……私のせいでこのようなことになり申し訳ございません……お役に立てることがあればなんでもおっしゃってくださいね」
「!!?」
予想もしなきゃセリフに呆気にとられるデボラの手を取った。
「未来の聖女としてのプレッシャーもおありでしょうが、どうかお心を落ち着かせくださいませ」
あくまで余裕を見せる。聖女と預言された者の余裕だ。新たな聖女に全く動揺することなく、むしろ協力的な姿は人々を驚かせた。
「アリソン様!」
「まあカルラ様! お久しぶりでございます」
カルラは現聖女の世話人であり治癒師だ。彼女は未来の聖女であるアリソンの家庭教師としても、しばしばアルベール家の屋敷を訪れていた。カルラの他にも治癒師育成に関わる神官や治癒師がいつのまにか集まっている。
(よしよし。皆ちゃんと見たわね!)
これで原作のようにアリソンの評価が極端に落ちることはないだろう。困惑した表情の彼らを見るに、まさかマレリオ側に偽聖女と言われたアリソンが、あっけらかんとデボラの手を握っているとは思いもしなかったに違いない。
デボラの方はやはり悔しかったのか、何も言わず手を振り払って離れていった。
(あーあーダメじゃない。そこはありがとうございますぅ~! ってサッパリ反応しないと)
その場にいた全員が、デボラの反応を見た。そして落胆している。次の聖女と預言された女性があのように気性が荒いとは……。
そもそもアリソンの存在が気に入らないと原作での発言もある。何をどうしても仲良くする気はないのだろう。
(困るのよね~こっちは仲良くしたいのに)
これはアリソンの本心だ。
今のアリソンにとって、大神殿の生活は楽しかった。ここでは、全員が……貴族も平民も……同じように生活をする。1人部屋ではあるが、食事を全員で作り、食べ、勉強をし、掃除洗濯もおこない、治癒魔法の訓練もした。
前世の記憶が戻る前のアリソンであれば大変だっただろう。箱入り娘の貴族だ。治癒魔法以外は何もできなかった。さらに作中では彼女だけ治療魔法の訓練を事前に受けていたので他より出来がよく、同期には遠巻きにされてしまっていた。
大神殿での生活は何一つうまくいかなかったのだ。そんな未来にならずに済んでよかったと、アリソンはあの時躓いた小石に感謝せずにはいられない。
そしてアリソンが変わったことによって人間関係も大きく変わっていた。
「違う違う! ここの文法はこう……」
「なるほど。わかりやすいです!」
最初は平民にあたりの強かった貴族達は、アリソンがクッション役を果たしたおかげで少しずつ平民との仲も深まってきた。平民な苦手な勉学は彼らが教え、貴族が苦手な家事や料理はより良い方法を平民がレクチャーしている。
(うーん……バタフライエフェクトってやつね。いい変化だからいっか)
これも原作とは大きく違う。大神殿内はもっとギスギスした関係だった。デボラの策略によってアリソンは同期の中で共通の敵として認識されていたが、別にアリソンがいなくともデボラによってあっちこっちに悪意が振りまかれていたので、誰も信頼しあってはいなかった。
「アリソン様はどこでお料理などされていたのですか!?」
「お掃除やお洗濯の手際もいいなんて!」
「それだけではありませんのよ! お勉強やもちろん治癒魔法も一番ですわ!」
(独身の1人暮らしを舐めないでちょうだい!!! だいたいことは1人で出来るのよ!)
アリソンが特別待遇で生きてきたことを大神殿内にいる者達はもちろんわかっている。なのに彼女が文句も弱音も吐かず器用に全てをこなしていることに驚きを隠せない。
原作と違って、アリソンは孤独ではなかった。もちろん原作通り、デボラからは悪い噂を流されてはいたが、誰1人それを信じる者はいない。
「アリソン様って私達のこと、いつも馬鹿にしていらっしゃるわ……! 自分だけ治癒魔法が上手く使えるからって、ズルして早くから指導を受けていただけなのに!」
「あの方は他人を馬鹿になんてしないわ。それに聖女と預言されていたのだから仕方がないじゃない。アリソン様だってご本人が望まれてそうなったわけではないのだから」
はいはいまたその話ね。と、いつものデボラの僻みだと全員が取り合わない。そのせいか、デボラの虚言はどんどんと酷くなっていった。
「私の祭服がビリビリに破られてる……!!!」
ある日差しの強い朝、ドタバタと食堂にやってきたデボラは叫ぶように声を上げた。
(えぇ~!!?)
アリソンはすぐ、次に自分に嫌疑がかけられることを察知した。そして案の定、
「アリソン様ね……! 私が妬ましいんだわ……真なる聖女だと預言されたからっ!」
そう言って、ボロボロになった祭服を投げつけた。
(うわ~そりゃ流れが変われば原作にないこともしてくるわよね……)
予想外のイベントにアリソンは珍しく焦るが、もちろん表面には出さない。とりあえず、
「きゃっ!」
と、怯えるように体をすくめた。そして現状を理解できていないデボラにがっかりする。
(これは悪手でしょ~……あーあ……)
「それはいつわかったのですか? あ、ちなみにアリソン様は朝早くからパンを焼くためにこちらにいらしてますよ」
カルラが冷たい視線をデボラに送る。他の同期達も同じだ。またか、と呆れてため息をつく者まで。
「よ、夜よ! 夜の間よ!!!」
デボラはすぐに自分が不利な状況であることを察したようだ。アリソンのせいにしようとしているのもすでに全員にバレていた。
「まあ! そんな恐ろしい……! 誰かがこの大神殿に潜り込んだということですか!?」
カルラが大袈裟に騒ぐ。夜間は誰も部屋から出ることを許されていない。それに大神殿の警備は厳重だ。焦ってボロを出したデボラに追い打ちをかけようとしていた。いい加減、全員がうんざりなのだ。
「今すぐ警備隊長を呼びなさい! デボラ様のお部屋をお調べして!!!」
「ちょっと! や、やめてよっ!!!」
あからさまにデボラは焦っていた。調べられたらまずいものがたくさんあるのだろう。
そうしてデボラの部屋からは持ち込みが許されていない刃物や、誰に使うつもりだったのか、睡眠薬がいくつも見つかった。結果、罰として神殿の独房へと入れられたのだ。
(デボラってこんなに馬鹿だったのかしら? それとも原作の私がチョロすぎただけ?)
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