【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました

8 真実

　大神官は協力を約束してくれた。王と握手をし、宰相に頭を下げていた。宰相はすこし複雑そうな表情をしていたが、娘と目を合わせた後、それを受け入れたようだった。

「少し……レティシア様とお話しする時間をしただけますでしょうか」
「かまいませんわ」

　どうせこうなると思っていたミケーラは、レティシアの父親の隣に座った。

「貴女のことをお聞かせいただけますか？」

　なんともざっくりとした質問だったが、ミケーラはメドルバが何を聞きたいかよくわかった。これで三度目だ。両親、王、そして彼。

「死んだあと、ルークが色々と教えてくれたのです。あの時、何が起こっていたのか」

　ルークは返事をするように小さく鳴いた。そうしてこれまでのいきさつをかいつまんで伝えた。ミケーラとしての話は一切隠したまま。

「予言の書を読んだ前世の記憶ですか……」
「そうです。ですが限定的なもの。今後の予言は望めません」
「そうですか……」

　メドルバは少し考えこんだ。彼はパミラのことをよく思ってはいなかった。彼女は教会を利用しているだけだとわかっていたのだ。何より彼女は聖アルテニアを信じていなかったし、傲慢で強欲で意地が悪かった。ただ彼女の予言の力だけは本物だった。期間限定の能力だったが。

「聖女としての価値はもうないと言うことだ」

　王がハッキリと言う。彼女への嫌悪感を隠す気はないようだ。

「彼女を使って国民の心を一つにしようと？」

　確認するように王へ尋ねた。それはパミラがやっていることと変わらないのではないか、という問いかけでもある。

「そうです。だが彼女は本物だ。それに私はこれが教会と王家とが手を取り合うチャンスだとも思っているのです」

　すでに聖女パミラは国民を煽って現王を引きずりおろし、王太子ライルの即位させるよう、そして自分が彼の妻に、この国の王妃になれるよう動いていた。これ以上予言は出来ない以上、出来るだけ早くこの国で権力を手に入れたいのだ。

「貴女は……何を望まれますか？」
「私が復讐を望むのは王太子ライルと聖女パミラだけですわ」

　穏やかな笑顔だが、しっかりと答える。これだけは譲れない願いだった。どうやって復讐したらいいかわからなかったが、彼らがいれば何とかなると感じて少しホッとしていた。これだけ権力者が揃っていて何もできないなら、それこそミケーラに成し得ることではないのだ。
　大神官が王の方を見る。王は暗い顔で頷いていた。すでにその話をきいていた彼は、覚悟を決めたようだ。息子を切り捨てる覚悟が。

「あ、あとこの暮らしを続けたいです……」

　これも三度目の言葉だった。その言葉を全員が勘違いして受け止めた。『この暮らし』とは、彼女が死ぬ前王宮で受けていたであろう辛い仕打ちが待つ日々ではなく、今のような安心に暮らせる日々、という意味だと考えた。

「わかりました。では出来るだけそうなるよう私も善処いたします」
「ありがとうございます」

　これでようやく、復讐への準備が整った。

「もう1つ伺いたいことが」
「なんでしょう？」

　それはミケーラにとっては不意打ちのような質問だったが、周りの者からすると至極当然の質問だった。

「なぜ、神官たちが娼館へと行ったことをご存知だったのでしょうか」

　途端にミケーラは笑顔になる。

（やっちゃった！　そりゃ不思議に思うわよね～！）

　それを指摘した時、それが大変不自然なものだとは当然わかっていた。だけどどうしても、痛い痛いと腕を押さえながら泣く友人を思い出すしてしまい、そのままにしておけなかったのだ。
　一瞬固まったミケーラの頭の中に、ルークの声が響く。やれやれ、といった声色なのがよくわかった。

『上手く話せば大丈夫。甦り以上の驚きはないさ』

　ウンウンと頷きながら、言い訳を考える。

「私の死と時を同じくして亡くなった女性の記憶が流れ込んできたのです」
「……そのようなことがっ！」

　もっと詳しく知りたいと前のめりになって目を見開く大神官の姿は、レティシアの記憶の中にもなかった。

「彼女はもう別の世界へと旅立ったようですが、少し寂しそうだったので……」

　本物のレティシアももう旅立ったのだろうか。ミケーラはルークに聞けずにいた。
　
「そうですか……その方、どちらで亡くなられたかはお分かりですか？」
「え？」
「出来れば弔って差し上げたいのですが」
「……ありがとうございます」

　メドルバの心遣いが嬉しかった。見ず知らずの誰かに、それも大神官という立場のある人がミケーラのような立場のない人間を気遣ってくれるなんて。しかも彼らにとって娼婦は特に忌諱される者のはずだ。

　レティシアの復讐が形作られ始めた日、ミケーラの心も救われる日になった。