【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました

桃月とと

文字の大きさ
7 / 16

7 偽物

しおりを挟む
「に、偽物だ!!!」

 メドルバのお付きの神官がレティシアに指をさしながら叫んだ。

「この瞳を見てもそうお思いですか?」

 そういって、ゆっくり恐怖で顔を歪ませているお付きに近づいた。

 レティシアの瞳はこの国では特別珍しい色をしていた。赤みがかった紫色で、一目見たら誰も忘れられない美しい瞳だった。影武者を作ることが難しいのは誰にでもわかることなので、お付きの神官がただ現実を受け止められずに騒いでいるのは明らかだった。

「首を触ってみますか? しっかりくっついていますよ?」

 そう言いながら自分の首を指でなぞる。

「ヒッ! ヒィィ! 許してくれ……許して……!」
「まあ神官様、なにを謝ってらっしゃるの? なにか悪いことをされたのですか?」
「あ……あっ……違う! 違う……!」

 ミケーラは驚いていた。ただレティシアとして現れただけでこんなにも恐怖し、成人男性が涙を浮かべるのか。

(復讐方法は任せるって言うわけだ)

 死人が甦ったのだ。魔法など存在しないこの世界で、起こるはずのないことが起こったのだから、それは奇跡以外何ものでもない。レティシアに対して後ろ暗いことがある者にとって、その奇跡はとても恐ろしいことだった。

「ああわかった! 以前貴女が娼館で腕の骨を折った女の子に謝ってるのですね? 確か名前はイレーネ……」
「うわあああああああああ!!!」

 イレーネはあの後、折った腕をまともに使えなくなってしまった。悲しいことに娼館では、それはもうしょうがないこととして片づけられてしまう。だがミケーラはレティシアの体に入って、それが決してしょうがないことではないと知った。だからこの神官に少し仕返しするつもりだったのだ。どうやら思っていた以上に効いている。

「な、何故それを……!?」
「……秘密です」

 困ったときはニコリと笑う。それがミケーラの生き方だった。それが余計彼には怖く感じたようだ。他の秘密も全て知られているもしれないという恐怖でブルブルと震え始めた。

「捉えろ」

 メドルバは低く、ハッキリとした言葉で側にいた顔色の悪い聖騎士に命令した。

「あら、そちらの聖騎士様も同じ娼館に出入りしていたではないですか」

 声をかけられた騎士はビクッと体が震える。

「貴方も貴女も、そして貴方もそうですよね」
 
 ある者は膝から崩れ落ち、ある者は泣いて懇願し、ある者はその場から逃げ出そうとして、公爵家の兵士に捕まった。

「このような者達が認めた聖女など……どんなものだかわかったものではありませんな」

 宰相は冷たく言い放った。

「大神官、貴方は元々聖女には懐疑的な立場にいらしたはずだ」

 王の問いかけにメドルバは答えない。彼ほどの人物でも現実を飲み込むのに時間がかかっていた。落ちた首がくっつき、信頼していた側近達は禁忌を犯していた……。

「このままでは国が分断してしまう。それは貴方も望んでいないでしょう」
「……それで国王側に立つ聖女を作ろうというのですか」

 メドルバは、教会が王国の抑制剤になっているという自覚があった。同じくらいの力を持ち続けることで、王族達が国を好き放題できなくなるし、実際そうだった。その力とは主に多くの平民達からの支持だった。だから彼は決して屈することは出来ない。

「どの道、そちらは分が悪いですよ」

 相変わらず宰相は不機嫌な態度を取り続ける。娘を殺した女の後ろ盾だ。二度と好意的には見ることが出来ない。

「それはどういう意味でしょうか」

 メドルバも負けじと声をすごめて応答する。

 窓から風が入ってきた風と一緒に、ルークが姿を現した。クルクルとメドルバの頭の上を周り、そうしてレティシアの肩の上にとまった。頬を摺り寄せ、その神々しい鳥がレティシアの為に存在していることが分かった。

「甦った公爵令嬢と聖アルテニアの使い鳥を見て、人々はどう思うでしょうかね」

 メドルバはもう宰相の言葉を聞いてはいなかった。ただその鳥の姿を見て涙を流していた。彼が長年仕えた神の存在を身近に感じ、胸がいっぱいになっていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。 このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる! それは、悪役教授ネクロセフ。 顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。 「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」 ……のはずが。 「夢小説とは何だ?」 「殿下、私の夢小説を読まないでください!」 完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。 破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ! 小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン
恋愛
「ライラ=コンスティ。貴様は許されざる大罪を犯した。聖女候補及び私の婚約者候補から除名され、重刑が下されるだろう」 ……カッコイイ。  画面の中で冷ややかに断罪している第一王子、ルーク=ヴァレンタインに見惚れる石上佳奈。  彼女は乙女ゲーム『ガイディングガーディアン』のメインヒーローにリア恋している、ちょっと残念なアラサー会社員だ。  仕事の帰り道で不慮の事故に巻き込まれ、気が付けば乙女ゲームの悪役令嬢ライラとして生きていた。  十二歳のある朝、佳奈の記憶を取り戻したライラは自分の運命を思い出す。ヒロインが全てのどのエンディングを迎えても、必ずライラは悲惨な末路を辿るということを。  当然破滅の道の回避をしたいけれど、それにはルークの抱える秘密も関わってきてライラは頭を悩ませる。  十五歳を迎え、ゲームの舞台であるミリシア学園に通うことになったライラは、まずは自分の体制を整えることを目標にする。  そして二年目に転入してくるヒロインの登場におびえつつ、やがて起きるであろう全ての問題を解決するために、一つの決断を下すことになる。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

王太子に愛する人との婚約を破棄させられたので、国を滅ぼします。

克全
恋愛
題名を「聖女の男爵令嬢と辺境伯公子は、色魔の王太子にむりやり婚約破棄させられた。」から変更しました。  聖魔法の使い手である男爵令嬢・エマ・バーブランドは、寄親であるジェダ辺境伯家のレアラ公子と婚約していた。  幸せの絶頂だったエマだが、その可憐な容姿と聖女だと言う評判が、色魔の王太子の眼にとまってしまった。  実家を取り潰すとまで脅かされたエマだったが、頑として王太子の誘いを断っていた。  焦れた王太子は、とうとう王家の権力を使って、エマとレアラの婚約を解消させるのだった。

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

処理中です...