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第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる
31 棺に眠る王妃①
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ルーベル領への潜入はうまく行った。ルカの魔道具様様だ。隠密用の魔道具を使って姿を消し堂々と街道を通り、第一の目的地である聖樹跡地までやってきた。
ここには大昔聖樹があったと言われる場所で、すでに木の根一つ残っていないのだが、その聖地を取り囲むようにいくつもの遺跡が残っていた。
「こんなにアッサリだとかえって不安になるわね」
「僕の魔道具のおかげだって素直に認めてよ~」
深い森の中。シンとした空気が漂っている。もうここには聖樹がないというのに澄んだ空気だ。廃教会ではなく、こちらを先に選んだのは、単純に魔力溜まりとしての規模が大きかったという記録が残っていたからだったのだが……。
(ハズレだ……)
あまりにも何の気配もない。最近人が通った様子も、もちろん魔獣の気配も。風が草木を揺らす音だけが私達の耳に届く。
一応、予定通り跡地に張られた結界を私の加護で破壊してみるも、何もなく、何も起こらず。
「申し訳ありません……!」
「ちょっとジェフ! 皆で決めてここ選んだんだから落ち込むの禁止!」
アイリスが間髪入れずにジェフリーの背中を叩く。
「その通りだ。俺もここだと思ったんだが……」
レオハルトは少し緊張を緩めるようにジェぇフリーに柔らかな表情を向けた。
「思ったより緊張しちゃったわ。奥歯噛み締めてて顎が……」
「僕も手に力入れすぎてた~」
私とルカがリラックスするように首を回したり手をぶんぶんとふる。
「緊張感は大事だけど、力みすぎてもよくないわよね」
「……はい」
ジェフリーもやっと一呼吸するように力を抜いた。
「だけど念の為周辺を確認しておこう」
「そうだな」
「警戒は忘れずに」
フィンリー様の声かけで一同は気を引き締め直し、細部を確認し始める。隠された入り口がないか、ほんの少しの痕跡も見逃さないように。が、結局何も見つからなかった。
「廃教会ってここからどのくらいだっけ?」
アイリスが地図を取り出して確認しようとするが、すぐにジェフリーが答えを出した。
「隠れて移動すると……三日はかかるかもしれません」
地図上ではそれほど遠くは見えなかったが、山岳地帯のためか道がくねくねとしており、その上廃教会へつながる道は今では一つしかないのだ。
「あたし達目立つもんね~」
冒険者装備ではあるが、どうしても身なりよく見えてしまう。日頃着慣れているフィンリー様ですら怪しいレベルだ。
「アンクレットは魔力が必要だからなぁ」
ルカが難しい顔をして唸った。初期の頃からはかなり改良はされたが、それでもやはり『姿を消す』なんてことを維持するにはそれなりの魔力が必要だった。
しかし流石に隠れっぱなしで二日進むのはまずい。目的地には今度こそ龍王がいるはずなのだから。魔力も温存しておかなければならない。
「ルーベル家側にこっちのことがバレるわけにはいかない。隠れつつ進んで、近くなったらアンクレットを使おう」
「そうするしかないですね」
レオハルトの意見に全員が納得した。多少時間がかかっても、確実に進まなければ。
私達はできる限り人気のない道を選びながら、目的地へと歩き始めた。
「しっ……」
空の色が夕焼けに変わる頃、フィンリー様が何かに気がつくように立ち止まった。アンクレットに触れたいところだが、消える瞬間を誰かに見られても厄介だ。
「おや? こんなところに冒険者なんて珍しいなぁ」
ザワザワと木々を揺らしながら、背中に薬草を詰めた籠を背負った男が突然現れた。面白いものを見つけた子供のような顔をしている。
「ちょっと訳ありのお嬢様を護衛中でね。すまないが、どこか休めそうな場所を知らないか?」
スラスラとそれらしい言い訳をフィンりー様が用意していた。ちなみに、そのお嬢様は私なので俯いてすこし怯えたように顔を背けることを忘れない。
「最近領主様がピリついてるらしくて、変なとこうろついてると領兵に連れてかれちまうぞ」
「だろうな。それが鬱陶しくて街をでたんだが、ちょっと街道からハズレ過ぎた」
レオハルトもここぞとばかりに冒険者のフリをする。あまりにも堂々としているので、本当に冒険者か? という疑問を抱くのをギリギリ阻止できているようだ。
「おじさん、気配感じなかったんだけど~すごいね~」
どうやらアイリスも身元を探られないためにはノリノリでいることが正解だとわかったようだ。ぶっきらぼうな言い草だが、全員が気になることに切り込んでいく。
「そりゃこんなところドスドス歩いてたら魔獣に狙われちまうよ! いやしかし。冒険者にそう言われると自信がつくなぁ」
ハハッとアイリスが冗談を言ったんだろうと勘違いしたのか、薬草取りは小さく笑った。
「休めるところなぁ。街道に近くていいなら俺のボロ小屋でもいいんだが……あまり人目に触れたくないならちょっと先に廃教会があるぞ」
え!? と、思ったのはもちろん私だけではない。だが、余計なことを口走らないよう、フィンリー様に対応を任せる。
「……廃教会はずいぶん遠いだろう? ギルドではそう教えてもらったが」
「大昔のルートなんだが、この辺の人間なら皆知ってるよ。暗くなる頃には着くんじゃねぇかなぁ。ああでも、お嬢様が一緒だと……」
うーんどうかなぁと薬草取りは私にまだまだ歩く気があるのか尋ねるような視線を向ける。
「ああどうか教えてくださいな……! 少しでも早くあの街から離れたいのですっ」
これ見よがしに悲劇のお嬢様を気取ってみる。するとみるみるその薬草取りは同情するような顔付きに変わっていった。
「ちょっと足場も悪いんだが、あんたら魔法は使えるのかい? ああ、なら大丈夫だ」
全力で頷く私を見て、薬草取りの方がホッとしていた。無事悲劇のお嬢様を助けられそうだと。
「気をつけてなぁ」
思わぬ幸運にスキップしたくなる。かなりの時間短縮だ。
「とりあえず今日は近くで野営しつつ、私は廃教会の偵察に行ってこようと思います」
「あたしも行こっか?」
「いえ。一人の方が隠れやすいと思うので」
本領発揮とばかりにジェフリーの目が爛々と輝いていた。情報を探らせたら右に出るものはいないだろう。という風にエリザが以前言っていた。彼女にそう言われるのなら間違いない。
(新月だ)
真っ暗な森の中、ルカがこの日目掛けてせっせと作っていたテントの中はほんのりと明るい。外に光が漏れないように設計しているそうだ。
決戦を前に緊張して眠れないかと思ったが、山道を歩いた効果はそれを上回り、深い眠りについた。
ここには大昔聖樹があったと言われる場所で、すでに木の根一つ残っていないのだが、その聖地を取り囲むようにいくつもの遺跡が残っていた。
「こんなにアッサリだとかえって不安になるわね」
「僕の魔道具のおかげだって素直に認めてよ~」
深い森の中。シンとした空気が漂っている。もうここには聖樹がないというのに澄んだ空気だ。廃教会ではなく、こちらを先に選んだのは、単純に魔力溜まりとしての規模が大きかったという記録が残っていたからだったのだが……。
(ハズレだ……)
あまりにも何の気配もない。最近人が通った様子も、もちろん魔獣の気配も。風が草木を揺らす音だけが私達の耳に届く。
一応、予定通り跡地に張られた結界を私の加護で破壊してみるも、何もなく、何も起こらず。
「申し訳ありません……!」
「ちょっとジェフ! 皆で決めてここ選んだんだから落ち込むの禁止!」
アイリスが間髪入れずにジェフリーの背中を叩く。
「その通りだ。俺もここだと思ったんだが……」
レオハルトは少し緊張を緩めるようにジェぇフリーに柔らかな表情を向けた。
「思ったより緊張しちゃったわ。奥歯噛み締めてて顎が……」
「僕も手に力入れすぎてた~」
私とルカがリラックスするように首を回したり手をぶんぶんとふる。
「緊張感は大事だけど、力みすぎてもよくないわよね」
「……はい」
ジェフリーもやっと一呼吸するように力を抜いた。
「だけど念の為周辺を確認しておこう」
「そうだな」
「警戒は忘れずに」
フィンリー様の声かけで一同は気を引き締め直し、細部を確認し始める。隠された入り口がないか、ほんの少しの痕跡も見逃さないように。が、結局何も見つからなかった。
「廃教会ってここからどのくらいだっけ?」
アイリスが地図を取り出して確認しようとするが、すぐにジェフリーが答えを出した。
「隠れて移動すると……三日はかかるかもしれません」
地図上ではそれほど遠くは見えなかったが、山岳地帯のためか道がくねくねとしており、その上廃教会へつながる道は今では一つしかないのだ。
「あたし達目立つもんね~」
冒険者装備ではあるが、どうしても身なりよく見えてしまう。日頃着慣れているフィンリー様ですら怪しいレベルだ。
「アンクレットは魔力が必要だからなぁ」
ルカが難しい顔をして唸った。初期の頃からはかなり改良はされたが、それでもやはり『姿を消す』なんてことを維持するにはそれなりの魔力が必要だった。
しかし流石に隠れっぱなしで二日進むのはまずい。目的地には今度こそ龍王がいるはずなのだから。魔力も温存しておかなければならない。
「ルーベル家側にこっちのことがバレるわけにはいかない。隠れつつ進んで、近くなったらアンクレットを使おう」
「そうするしかないですね」
レオハルトの意見に全員が納得した。多少時間がかかっても、確実に進まなければ。
私達はできる限り人気のない道を選びながら、目的地へと歩き始めた。
「しっ……」
空の色が夕焼けに変わる頃、フィンリー様が何かに気がつくように立ち止まった。アンクレットに触れたいところだが、消える瞬間を誰かに見られても厄介だ。
「おや? こんなところに冒険者なんて珍しいなぁ」
ザワザワと木々を揺らしながら、背中に薬草を詰めた籠を背負った男が突然現れた。面白いものを見つけた子供のような顔をしている。
「ちょっと訳ありのお嬢様を護衛中でね。すまないが、どこか休めそうな場所を知らないか?」
スラスラとそれらしい言い訳をフィンりー様が用意していた。ちなみに、そのお嬢様は私なので俯いてすこし怯えたように顔を背けることを忘れない。
「最近領主様がピリついてるらしくて、変なとこうろついてると領兵に連れてかれちまうぞ」
「だろうな。それが鬱陶しくて街をでたんだが、ちょっと街道からハズレ過ぎた」
レオハルトもここぞとばかりに冒険者のフリをする。あまりにも堂々としているので、本当に冒険者か? という疑問を抱くのをギリギリ阻止できているようだ。
「おじさん、気配感じなかったんだけど~すごいね~」
どうやらアイリスも身元を探られないためにはノリノリでいることが正解だとわかったようだ。ぶっきらぼうな言い草だが、全員が気になることに切り込んでいく。
「そりゃこんなところドスドス歩いてたら魔獣に狙われちまうよ! いやしかし。冒険者にそう言われると自信がつくなぁ」
ハハッとアイリスが冗談を言ったんだろうと勘違いしたのか、薬草取りは小さく笑った。
「休めるところなぁ。街道に近くていいなら俺のボロ小屋でもいいんだが……あまり人目に触れたくないならちょっと先に廃教会があるぞ」
え!? と、思ったのはもちろん私だけではない。だが、余計なことを口走らないよう、フィンリー様に対応を任せる。
「……廃教会はずいぶん遠いだろう? ギルドではそう教えてもらったが」
「大昔のルートなんだが、この辺の人間なら皆知ってるよ。暗くなる頃には着くんじゃねぇかなぁ。ああでも、お嬢様が一緒だと……」
うーんどうかなぁと薬草取りは私にまだまだ歩く気があるのか尋ねるような視線を向ける。
「ああどうか教えてくださいな……! 少しでも早くあの街から離れたいのですっ」
これ見よがしに悲劇のお嬢様を気取ってみる。するとみるみるその薬草取りは同情するような顔付きに変わっていった。
「ちょっと足場も悪いんだが、あんたら魔法は使えるのかい? ああ、なら大丈夫だ」
全力で頷く私を見て、薬草取りの方がホッとしていた。無事悲劇のお嬢様を助けられそうだと。
「気をつけてなぁ」
思わぬ幸運にスキップしたくなる。かなりの時間短縮だ。
「とりあえず今日は近くで野営しつつ、私は廃教会の偵察に行ってこようと思います」
「あたしも行こっか?」
「いえ。一人の方が隠れやすいと思うので」
本領発揮とばかりにジェフリーの目が爛々と輝いていた。情報を探らせたら右に出るものはいないだろう。という風にエリザが以前言っていた。彼女にそう言われるのなら間違いない。
(新月だ)
真っ暗な森の中、ルカがこの日目掛けてせっせと作っていたテントの中はほんのりと明るい。外に光が漏れないように設計しているそうだ。
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