悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜

桃月とと

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第一部 悪役令嬢の幼少期

34 破裂

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 フレッドの主な症状は、単純に疲れやすいというものだった。
 原因は魔力の枯渇によるもの。私も何度か経験があるのでわかるが、ああなるともうどうしようもない。体が鉛のように重くなる。どうやら魔法を使わなくても少しずつ体から魔力が漏れ出してしまって、夕方から夜になると毎日のように極端な疲労症状が出るそうだ。

(午前中は平気ってことは寝ている間に回復した魔力量で問題はないってことかな?)

 とはいえ次期ライアス領当主としてこのままでは不安が残るのは当たり前だ。

「セカンドオピニオンです」

 なんだって? と眉を顰める殿方に追加で説明する。

「別の治癒師に相談してみましょう。というか、伯父に聞いてみましょう」
「いいのだろうか。ルーク様と言えば今は治療部隊の部隊長をされているんだろう?」
「かまいません。伯父はこういったことに首を突っ込みたがるタチなので」

 伯父のルークはちょうど騎士団の仕事で、ライアス領からあまり遠くない所にいるのだ。手っ取り早く伯父に診察してもらう。私ももちろん触れさせてもらったが、ライアス家専属の治癒師が言っていたこと以上のことはわからなかった。
 フレッドもフィンリー様も気にしてくれたが伯父はこちらに来たがっていたくらいだから、飛龍の登場に喜ぶだろう。

「リディアナ嬢、命を救ってくれただけでなくここまで気にしてくださるなんて……本当に感謝するよ」
「いえ、まだどうなるかわかりませんから。もちろん全力を尽くしますが!」
「本当に気持ちだけで嬉しいんだ」

 あまり似てないって思ってたけど、フレッド……優しく笑った顔がフィンリー様にそっくりだ。
 私が書いた手紙を渡してまだ朝焼けの中、護衛達と共に飛龍に乗って飛び立っていった。

「氷石病の後遺症で、このように極端な魔力枯渇現象は聞いたことがありません。もちろん私の母も今は問題なく暮らしています」

 ジェフリーがまだ情報を持っていないということは本当に他の報告がないのだろう。ということはフレッド一人だけの症状か。

「そうしたら氷石病は関係ないのかなぁ」
「また違う病気だろうか」

 また呪いなんてオチじゃないわよね。

「ただ、魔力が漏れ出してしまうという症状は聞いたことがあります」
「でもそれってかなり高齢の人だけよね」

 その症状は私も伯父から聞かされたことがある。高齢の上級魔導士にたまに出る症状らしく、若い頃無茶な魔法を使いすぎたせいではないかと言われているらしい。特に治療法も教えてもらってないということは、おそらくないのだろう。

(そもそも老化現象に治癒魔法は効かないからね)

「僕もアリバラ先生から聞いたことあるよ! 魔力コントロール無視して大盤振る舞いしてると将来締まりがなくなるって」

 なにそれお肌の話? 私もまずいかしら……。

「ならそれなりに有名な病なのか?」
「いえ、魔術師として有名な方がかかることが多いので記録が残っていますが、数は多くないかと」
「では治療法は……」
「具体的にはなにも……死んでしまうことはないので……」

 そう、魔力が漏れ出てしまうがゼロになることはない。どうやら一定量魔力が放出されてしまうとそれ以上減ることはなく、その後自然回復するのだ。毎日それの繰り返し。そのためこの病気とはうまく付き合っていくしかないと言われている。
 だけどそれでは辺境伯は務まらない。いつ何時なんどき魔物の森から凶悪なソレらが出てくるかわからないのだ。だいたい領主が毎晩体調がすぐれず臥せっているなど知られたらどんな輩が現れるか……。

「きっかけはやはり気になりますね。氷石病の人間は他にもたくさんいますし」

 後遺症の一つであるなら私も元患者として気になるところではある。ジェフリーも母親がかかっていたから心配だろう。

「氷石病の元患者のことを調べて、フレッド様との違いを出してみたいのですがよろしいでしょうか」
「それなら僕も一緒に行こう。城内にも何人かいるからな」
「……リディはどうだったんだ?」

 レオハルトはやっぱりこの頃のことは少し気まずそうに聞いてくる。

「うちは皆で一緒に風邪をひいちゃって、一番最初に酷くなったのが……」
「リディだったね。その後がソフィア、それからロディとシェリーが同じくらいに」

 最初はただの風邪症状だと思ってたら、じわじわと悪くなっていった。母が治しても治しても元の悪い状態に戻り、気がつくとベッドから起き上がることすらできなくなった。そしてそのまま転げ落ちるように悪化していった。

「うちは母が常に少しずつ治癒魔法をかけてくれてたんだけど、ある日私が急激に悪くなってしまって母が倒れるくらいの治癒魔法をかけてくれたのよね。それで体内にいた例の虫が魔力オーバーでパンクしちゃって助かったの」
「パンク?」
「破裂したってことです」

 こっちにはない表現だったか。でも破裂って……魔力が漏れ出てるのは蛇口が閉まらないみたいなものだと思っていたけど、どこかが破れちゃってるのかな。

(どこかに穴が……?)

 なんだかもう少しで思いつきそうな予感が体に満ちてくる。

「そんな経緯があったんだね」
「すごい! ご自身の体験で治療法がわかったのですか!」

 フィンリー様とジェフリーが私を褒める声で現実に引き戻される。

(そうだった。治療法発見の経緯は公開されてなかったんだ)

 まさか前世の記憶で知ってましたとは言えず、ただ私が治療法を考え付いたということだけが知れ渡っていた。

「やっぱり治癒師の方が治癒魔法をうけると、効果がある位置や詳細までわかりますか?」

 さらにジェフリーが興味津々に聞いてくる。

「うん……私はなんとなく……だけど人それぞれみたいよ……」

 そんな感覚はない。嘘ついてごめんねジェフリー……。

「フレッドはどんな感じで魔法が漏れ出てるんだろう」

 レオハルトが指先に小さな明かりを灯しながら考えている。

(確かにそうだ。ただ体内の魔力がほんの少しずつ減っていることだけは感じたんだけど……)

 前任者も同じように言っていたらしい。

「魔力って、血液みたいに体中に充満してるんでしょう?」
「そうそう」

 これは体内のことなので治癒師しかわからない感覚だ。

「私……どこから漏れてるか確かめていないわ……」

 破裂という単語から思い浮かんだ。そもそも確かめられるかもわからないけれど。

「フィンリー! 今からまだ追いつけるだろうか?」

 レオハルトが察してすぐに声を上げてくれた。だがすでに出発して三時間、どのくらい進んでいるんだろう。

「今なら早い龍が出れば到着までに間に合うと思う!」

 行ってくる! と部屋を飛び出していった。私は急いで伯父宛に手紙を書く。治療法がないのなら、漏れ出ているところの確認だけでもお願いするのだ。わかればまた何が手立てがあるかもしれない。

「なにかわかるといいね」

 今はただ期待して待つしかない。
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