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第二部 元悪役令嬢の学園生活
7 派閥争い
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パーティ会場では原作で名前が出ている人物の確認をする。アイリスとリディアナに直接関係しそうなメンバーは早めに現状を確認しておきたい。特にライザのようなパターンを……。物語の特性上貴族やら金持ち等、権力を持つキャラクターが多いので、注意するに越したことはないだろう。
これまでもこっそり情報は探っていたが、下手に私が関わり過ぎてライザのようによくない変化を与えるのが怖かったので、直接彼らを確認するのは今日が初めてだ。
「誰か探しているのか?」
レオハルトが不思議そうに尋ねる。ダンスの最中も会場をアチコチ見ていたからだろう。失礼なことをしてしまった。彼はどうもアイリスに再会してから、何かと私の挙動が気になるようだ。
「いいえ。それより殿下、アイリスをダンスにお誘いになっては?」
こんな試すような物言い、本当はすべきではないんだけど。今のレオハルトの気持ちも気になる。
「そんなことをしたら、君にも彼女にも迷惑がかかるだろう」
おお! まさかそんなセリフが出てくるとは!
「そうですか? 貴族も平民も分け隔てなく大切にする王子だと思われるかもしれませんよ」
「いや、周囲は私と彼女のことは知らないし、下手に仲良くして貴族派の連中に目をつけられでもしたら彼女のこれからが大変だ」
うう……成長したなあ。原作のレオハルトに聞かせてやりたい。
「あと……そんなに気を使わなくていい」
レオハルトはアイリスのことを、もう少しゆっくり考えたい。と言った。アイリスをめいいっぱい褒めちぎる私の言葉もあまり届かなかったようだ。
「彼女にもう一度会えたなら、きっともう二度と離れないって気持ちでいっぱいになると思ってたんだ」
原作でそんなこと言ってたな……やっぱりこの五年の変化でレオハルトの心のあり方も変わってしまったようだ。
(じゃあ私はどうすればいいの……?)
今後についてレオハルトと話をするのはまだ早いだろうか。彼も今はいっぱいいっぱいだろうし、もう少し待つしかないか……。
(あ……)
ぼーっと会場を見つめていたら、最近よく見る顔が近づいてきた。
「リディアナ様!」
アイリスの方からこちらに来てくれた。アリアに言い含められて不特定多数の人がいる時は必ず私を「様」付けで呼ぶ。レオハルトは彼女の声を聞いた瞬間、ビクッと震えたが、急いで平静を装った。
「殿下、恐れ入りますがリディアナ様をお借りしても?」
「あ、ああ……かまわない」
原作と全然違う振る舞いに、私が違和感を覚えてしまう。あのラフで(読者からしたら)親しみのあるアイリスが、身分を気にして立場をわきまえている。なんだかもったいないような……。
「ジュード見つけたよー。あっちのテラスで女子とワイワイやってる」
二人でコソコソと話題にしているジュードという男子生徒はヴィンザー帝国の次期皇帝である。褐色の肌に切れ長で緋色の瞳、サラサラの銀色の髪の持ち主だ。
好色家でなにかとアイリスにちょっかいを出す、リアルにいたら面倒くさい男なのだが、案の定顔もいいし、滅茶苦茶金持ちだし、権力なんてぶっちゃけレオハルトの比ではない。あっちはもう次期皇帝に決定しているんだから。
傲慢で独りよがりだが、アイリスに本気で惚れた後の一途さのギャップにやられた。若干原作のフィンリー様と被るけど、ドぎついのはこちらだ。
この学園での生活を通して少しずつ丸くなる予定のだ。あの国はちょっとおっかないので、出来るだけ丸くなって帰国して欲しい。ちなみに学年は一つ上。
「要注意人物じゃん」
「でもレオハルト様とは関わらせた方がいいかもね。今後の国交的にも」
「あーそういうのあるのか……」
「何か変わってた?」
「先輩がワイワイの中に入ってくれてる。細かいことは後からわかるけど、変わってなさそう」
すごい! 私よりリアルタイムの情報収集能力が高いぞ。どうやら貴族同士の腹の探り合いがない分、平民同士の方が情報交換は盛んだそうで、平民互助会のようなものができてるそうだ。パーティの準備の仕方やお得情報、どの貴族が平民に優しいとか当たりが強いとか……あらゆる情報を皆で共有しているらしい。
「ジュードは身分なんてどうでもいいタイプだから助かったわね」
「おかげてあっさり潜り込めたわ~」
さあ、どんどん次に行こう。アイリスに惚れる男だけでまだまだいるのだ。
「パーカーはもう婚約者がいるらしいわ」
あの可愛い系の少年か! 初期から登場しており、アイリスにほんのり淡い恋心を抱いていた。貴族だがアイリスにとても親切でレオハルトのことをとても尊敬していた。どうやら相手は五年前に流行した氷石病の患者の一人だったらしい。この氷石病からの生き残りたちが原作との大きな違いで、それ絡みでの変化が多かった。
「先生がいなくなったのは痛いわね」
「でもあたしさ~、もう『先生』ってだけで無理だったからよかったわ~」
べぇと舌を出している。アイリスは前世での学生時代、教師に目をつけられていて苦手意識が強いらしい。イルメリアという男性教師が学園にいなかったのだ。彼は新人の教師でアイリスの金銭面以外のお助けキャラだった。だがいつの間にかアイリスにどっぷり恋をしていたのだ。
あれは正直裏切られた気分だったが、貴族に目をつけられやすかったアイリスがこの学園で生きていくのに教師側の協力があるのはかなり助かったはずだ。
「狂犬くんは?」
「見てなーい。パーティには来てないみたい」
「入学はしてるっぽいのにどこにいるのかしら」
「男子寮の子たちにそれとなく探り入れてもらえるよう頼んどくね」
狂犬くんことレヴィリオ・リッグス。コイツだけアイリスでなくリディアナに惚れる。あだ名の通り荒くれ者で、両親も手を焼いてるらしい。とは言っても所詮貴族の坊ちゃんなので、ガチの悪役のリディアナにこっぴどく振られてからは真面目に生きるようになる。こいつ、今回も更生が必要なんだろうか……。
女子の方はと言うと、原作リディアナ側だった生徒はことごとくライザの派閥に入っているようだ。ライザの取り巻きというより貴族派のグループという方が正しい。そしてその内アイリスを支持するようになるはずの生徒達はリディアナ派だと言ってるらしい。
(リディアナ派ってなに!?)
徒党を組んだ覚えはないのだが、ライザ派からの嫌がらせを避ける為に、この一週間で私の預かり知らぬ所でできていた派閥だ。
結局これが第一王子 vs 第二王子の構図になってしまっていて、知らぬ存ぜぬで通せなくなってしまっている。私の負けはレオハルトの負けになってしまう。
「第二王子ってどんなんなのー?」
「アレが王になったら国が滅ぶわね」
「マジ!? どんだけよ」
第二王子は原作でほとんど出なかったので知りもしなかったのだが、我々の三歳年下で母親似の容姿をしている。第二側妃に溺愛され甘やかされおり、わがままで思い通りにいかないと喚き散らしているのを見たことがあった。自分に自信があるようだが、レオハルトとの差は歴然で、それを指摘した教育係を処刑しようとして王である父親から大目玉をくらっている。
「それじゃあ次期王はレオ一択じゃん!」
「そうはいかないみたいなのよねぇ」
カルヴィナ家が貴族派をまとめ始めたのだ。それまで各々が好き勝手言っているだけだったのを、一つにまとめ、また貴族に有利な法ばかり提案するようになっていた。たいした家はいないが、なにぶん数が多いのが気がかりなのだ。
「はー……せっかくだしなんか美味しいモノ食べよ~」
「私もー!」
パーティは盛り上がっている。まだまだこれからだ。
これまでもこっそり情報は探っていたが、下手に私が関わり過ぎてライザのようによくない変化を与えるのが怖かったので、直接彼らを確認するのは今日が初めてだ。
「誰か探しているのか?」
レオハルトが不思議そうに尋ねる。ダンスの最中も会場をアチコチ見ていたからだろう。失礼なことをしてしまった。彼はどうもアイリスに再会してから、何かと私の挙動が気になるようだ。
「いいえ。それより殿下、アイリスをダンスにお誘いになっては?」
こんな試すような物言い、本当はすべきではないんだけど。今のレオハルトの気持ちも気になる。
「そんなことをしたら、君にも彼女にも迷惑がかかるだろう」
おお! まさかそんなセリフが出てくるとは!
「そうですか? 貴族も平民も分け隔てなく大切にする王子だと思われるかもしれませんよ」
「いや、周囲は私と彼女のことは知らないし、下手に仲良くして貴族派の連中に目をつけられでもしたら彼女のこれからが大変だ」
うう……成長したなあ。原作のレオハルトに聞かせてやりたい。
「あと……そんなに気を使わなくていい」
レオハルトはアイリスのことを、もう少しゆっくり考えたい。と言った。アイリスをめいいっぱい褒めちぎる私の言葉もあまり届かなかったようだ。
「彼女にもう一度会えたなら、きっともう二度と離れないって気持ちでいっぱいになると思ってたんだ」
原作でそんなこと言ってたな……やっぱりこの五年の変化でレオハルトの心のあり方も変わってしまったようだ。
(じゃあ私はどうすればいいの……?)
今後についてレオハルトと話をするのはまだ早いだろうか。彼も今はいっぱいいっぱいだろうし、もう少し待つしかないか……。
(あ……)
ぼーっと会場を見つめていたら、最近よく見る顔が近づいてきた。
「リディアナ様!」
アイリスの方からこちらに来てくれた。アリアに言い含められて不特定多数の人がいる時は必ず私を「様」付けで呼ぶ。レオハルトは彼女の声を聞いた瞬間、ビクッと震えたが、急いで平静を装った。
「殿下、恐れ入りますがリディアナ様をお借りしても?」
「あ、ああ……かまわない」
原作と全然違う振る舞いに、私が違和感を覚えてしまう。あのラフで(読者からしたら)親しみのあるアイリスが、身分を気にして立場をわきまえている。なんだかもったいないような……。
「ジュード見つけたよー。あっちのテラスで女子とワイワイやってる」
二人でコソコソと話題にしているジュードという男子生徒はヴィンザー帝国の次期皇帝である。褐色の肌に切れ長で緋色の瞳、サラサラの銀色の髪の持ち主だ。
好色家でなにかとアイリスにちょっかいを出す、リアルにいたら面倒くさい男なのだが、案の定顔もいいし、滅茶苦茶金持ちだし、権力なんてぶっちゃけレオハルトの比ではない。あっちはもう次期皇帝に決定しているんだから。
傲慢で独りよがりだが、アイリスに本気で惚れた後の一途さのギャップにやられた。若干原作のフィンリー様と被るけど、ドぎついのはこちらだ。
この学園での生活を通して少しずつ丸くなる予定のだ。あの国はちょっとおっかないので、出来るだけ丸くなって帰国して欲しい。ちなみに学年は一つ上。
「要注意人物じゃん」
「でもレオハルト様とは関わらせた方がいいかもね。今後の国交的にも」
「あーそういうのあるのか……」
「何か変わってた?」
「先輩がワイワイの中に入ってくれてる。細かいことは後からわかるけど、変わってなさそう」
すごい! 私よりリアルタイムの情報収集能力が高いぞ。どうやら貴族同士の腹の探り合いがない分、平民同士の方が情報交換は盛んだそうで、平民互助会のようなものができてるそうだ。パーティの準備の仕方やお得情報、どの貴族が平民に優しいとか当たりが強いとか……あらゆる情報を皆で共有しているらしい。
「ジュードは身分なんてどうでもいいタイプだから助かったわね」
「おかげてあっさり潜り込めたわ~」
さあ、どんどん次に行こう。アイリスに惚れる男だけでまだまだいるのだ。
「パーカーはもう婚約者がいるらしいわ」
あの可愛い系の少年か! 初期から登場しており、アイリスにほんのり淡い恋心を抱いていた。貴族だがアイリスにとても親切でレオハルトのことをとても尊敬していた。どうやら相手は五年前に流行した氷石病の患者の一人だったらしい。この氷石病からの生き残りたちが原作との大きな違いで、それ絡みでの変化が多かった。
「先生がいなくなったのは痛いわね」
「でもあたしさ~、もう『先生』ってだけで無理だったからよかったわ~」
べぇと舌を出している。アイリスは前世での学生時代、教師に目をつけられていて苦手意識が強いらしい。イルメリアという男性教師が学園にいなかったのだ。彼は新人の教師でアイリスの金銭面以外のお助けキャラだった。だがいつの間にかアイリスにどっぷり恋をしていたのだ。
あれは正直裏切られた気分だったが、貴族に目をつけられやすかったアイリスがこの学園で生きていくのに教師側の協力があるのはかなり助かったはずだ。
「狂犬くんは?」
「見てなーい。パーティには来てないみたい」
「入学はしてるっぽいのにどこにいるのかしら」
「男子寮の子たちにそれとなく探り入れてもらえるよう頼んどくね」
狂犬くんことレヴィリオ・リッグス。コイツだけアイリスでなくリディアナに惚れる。あだ名の通り荒くれ者で、両親も手を焼いてるらしい。とは言っても所詮貴族の坊ちゃんなので、ガチの悪役のリディアナにこっぴどく振られてからは真面目に生きるようになる。こいつ、今回も更生が必要なんだろうか……。
女子の方はと言うと、原作リディアナ側だった生徒はことごとくライザの派閥に入っているようだ。ライザの取り巻きというより貴族派のグループという方が正しい。そしてその内アイリスを支持するようになるはずの生徒達はリディアナ派だと言ってるらしい。
(リディアナ派ってなに!?)
徒党を組んだ覚えはないのだが、ライザ派からの嫌がらせを避ける為に、この一週間で私の預かり知らぬ所でできていた派閥だ。
結局これが第一王子 vs 第二王子の構図になってしまっていて、知らぬ存ぜぬで通せなくなってしまっている。私の負けはレオハルトの負けになってしまう。
「第二王子ってどんなんなのー?」
「アレが王になったら国が滅ぶわね」
「マジ!? どんだけよ」
第二王子は原作でほとんど出なかったので知りもしなかったのだが、我々の三歳年下で母親似の容姿をしている。第二側妃に溺愛され甘やかされおり、わがままで思い通りにいかないと喚き散らしているのを見たことがあった。自分に自信があるようだが、レオハルトとの差は歴然で、それを指摘した教育係を処刑しようとして王である父親から大目玉をくらっている。
「それじゃあ次期王はレオ一択じゃん!」
「そうはいかないみたいなのよねぇ」
カルヴィナ家が貴族派をまとめ始めたのだ。それまで各々が好き勝手言っているだけだったのを、一つにまとめ、また貴族に有利な法ばかり提案するようになっていた。たいした家はいないが、なにぶん数が多いのが気がかりなのだ。
「はー……せっかくだしなんか美味しいモノ食べよ~」
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