悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜

桃月とと

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第二部 元悪役令嬢の学園生活

11 扉

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 ひとしきりアリアの話を聞き出して満足したしたところで、部屋を出る。

「殿下、とても心配されてましたのよ」
「そうそう! あの愛想のいいレオハルト様がアイリスを睨みつけてたから」
「うっそ!?」

(何それ!? どうなってんの!?)

 レオハルトがアイリスを睨むってなに? 何がどうなってレオハルトがアイリスを? わけがわからない。

「わざとアイリスが防御魔法でリディを転ばせようとしたって勘違いしたみたい」

 それって原作でアイリスがリディアナ達から受けていた嫌がらせみたいじゃないか。その場で誤解は解けたらしいが、アイリスにはもっとちゃんと謝っておくべきだった。助けたのに睨まれるのは気分が悪いはずだ。

 謝罪した全員にレオハルトが心配していると告げられた。確かに今までこんな醜態を晒したことはないし、ビックリさせたのかもしれない。

 男子寮の来客室でレオハルトを待つ間、私はこの期に及んでフィンリー様に謝るかどうか迷っていた。謝るのが正解? それとも謝らないのが正解?

(なんて言って謝るの? 私の怒り狂った顔を見せてごめんなさい。って?)

 恥ずかしすぎて本気でフィンリー様の顔を見られない。どんな顔をしていたんだろ。やっぱり厄災の令嬢としての素質があるんだろうな……こんな所で自分にその片鱗を感じるなんて。

「いらっしゃいました」

 急いでソファーから立ち上がる。流石に今日はいつものように強気ではいけない。誠心誠意謝らねば。お付き達は気を利かせて全員部屋の外へ出てくれた。

「リディ! もう大丈夫なのか? 心配したぞ……」
「いや……あの……本当に申し訳ありませんでした。貴族派になんと言われるか……」
「そんなこと! 別にたいしたことじゃない。ただ酒に弱いだけじゃないか!……アイリス嬢も何もあんな方法で君を止めなくてよかったのに」
「あれが一番目立たずに済む方法だったのです! 私が勢い余ってぶつかってしまっただけで」

 だいたい指示したのはアリアだったと聞いているし、実際あれより落ち着いた方法で私が止まったかは疑問が残る。

「リディ、アイリス嬢にいじめられてるんじゃないか?」
「は?」

 今なんて言ったこいつ。私がいじめられてる? あのアイリスに?
 
(いやでもこの表情……本気で言ってるぞ!?)

 こちらとしてもわけがわからず、恐る恐る尋ねることにした。

「なんでそんなこと……?」
「見たんだ。アイリス嬢が大笑いしながらリディを何度も叩いていたところを……それに君がとても気に入っていた星の石のネックレスも彼女がつけていた。それにいつもアイリス嬢の顔色を窺っているし、すぐに俺を彼女に譲るだろう?」

 叩くって……ゲラゲラ笑いながら私の肩をパシパシと軽く叩くところを学園で見たのだろう。
 ネックレスは気に入ってはいるけど、別にアイリスや友達に貸すのは少しも嫌じゃない。……まあ貴族の友人に貸すことなんてないが。
 レオハルトをアイリスに引き渡すのは、レオハルトにチャンスを作っていたつもりだった。アイリスは他に好きな人がいるのは知っているから、彼女には迷惑だと思いつつも、レオハルトのアシストもしてあげたかった。だから顔色を窺うくらいはする。

「アイリス嬢は、俺の婚約者であるリディが邪魔なんだ。だから君を……!」
「妄想も大概にしてください!!!」

 このシーン、原作でも見たことがある。立ち位置は逆だが。アイリスは必死に否定していた。レオハルトに余計な心配をかけたくなかったからだ。だけど私は違う。本気でいじめられてなんていない。100%、レオハルトの勘違いだ。

「も、妄想!?」
「そうです! ナルシストも大概にしてください!」
「なるしすと?」
「だいたい! この私が! 私がですよ!? あの人畜無害そうなアイリスにやられるとでも!?」

 そのままレオハルトの勢いに被せるようにして説明をする。でも彼は説明を聞いてもイマイチ理解できないようだった。

「平民と貴族は友人同士の触れ合い方が違うのです」
「それであんなに何度も叩くか!?」
「確かに……個人差ありますけど、冒険者街のあのだと思ってください」
「…………」

 アイリスはよく笑う、と言うか爆笑してくれる。私もついついウケるのが嬉しくて何度もおふざけをしている。レオハルトはどうやらライアス領の城下を思い出したようだ。

「アクセサリーも、アイリスに購入しようと思ったのですが、もったいないからと断られたのです。既に返してもらって私の部屋にそのネックレスはありますよ」
「…………」

 アイリスがそんな真似するなんて本気では思っていない。彼女の善良さにレオハルトが気がついてないわけがない。半信半疑な中で強い口調で疑問をぶつけた自覚があるのか、少しバツが悪そうだ。

「レオハルト様にアイリスと話すチャンスをと思ったのです! なんだかお一人で悶々とされていることはわかっていましたし、チャンスは多い方がいいでしょう?」
「チャンス?」

 自分にはそんなもの必要ないと思っているのだろうか。自分がモテることはしっかり自覚してるしな……。

「アイリス様、別にレオハルト様の事どうとも思っていませんよ?」
「そうなのか……」
「残念ながら」
「……よかった」

(よかった!?)

 アイリスがレオハルトに惚れてないとわかって、出てくる言葉がよかった……ってなに?
 これ以上のことは聞きたくない。少なくとも今はまだ。知らない内に、レオハルトの気持ちが固まってきているのかもしれない。

「……それでは、今日はこの辺で失礼致します」

 こう言う時は逃げるに限る。そそくさと立ち上がり扉のノブに手をかけようとしたその時、背後に温もりを感じた。

「リディ、話がしたい」

(壁ドン!? 壁ドンされてる!?)

 いや、ドアドンか? まさか今世ではこんな少女漫画なシチュエーションを経験するなんて感慨深いわぁ……ってそんなこと考えてる時間はない!
 振り向くのが怖い。いったいレオハルトがどんな顔をしているかもわからないし、私もどんな顔をしたらいいかわからない。

「リディアナ、こっちを向いてくれ」

 観念するしかないだろうか。
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