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第二部 元悪役令嬢の学園生活
49 罰と恩賞
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今回の事件で結局三十名近い人が亡くなった。王族に死者は出なかったが、有力貴族やクルーゲル女史など、有能な家臣を失ったダメージは大きい。
「図らずもこの城の膿を出す機会になってしまったな」
王は静かに怒っていた。王命に逆らって第二側妃の方へ行った宮廷治癒師達は鞭打ち百回、五年の地下牢幽閉となった。
「百回はすごいね~」
ルカが他人事のように感想を言う。
「相手は治癒師だからね。最中に自分で治せってことでしょ」
治癒師とは貴重な職業だが、それでも再起不能になってかまわないというくらい重い処罰だ。
第三王子周辺の警備にあたるはずだった騎士や兵士も同様に重い処罰を受けた。鞭打ち刑の上で彼らも彼らの家族も二度と王都へ近づくことは出来ない。
「何があっても守ってくださると仰ったではありませんか!!!」
「勝手にこちらに来ておいて私のせいにするつもり!?」
第二側妃に縋りついた治癒師もいたが、一切取り合ってもらえなかった。だがこの姿が多くの人に見られてしまい、我々が喋る必要もなく国中の噂になっていった。
「第二側妃様は前々から治癒師や騎士、兵士まで、いざという時は必ず自分の元にくるようにって声をかけてたらしいぜ」
「うわぁヤバいことやってんなあ」
「叛逆の疑いをかけられても仕方ないぞ!?」
「だいたいそんなに我が身を守ろうとするなんて……やましい事をしている自覚があるからだろ」
王城で働く者にとって未来の上司がどうなるかは大事だ。貴族だけでなく、使用人達も熱心にこの情報をやり取りしていた。
「馬鹿だよね~信用無くしちゃって。もう誰も付いてくれないんじゃない?」
「しかたないですよ~今回は第二側妃様も第二王子様もかなりヤバい状況だって聞きましたよ? これ以上抱えきれないんでしょう」
ルカと従者のテオは何やら二人で細かい設計図を見直しながら今回の事件を振り返っている。
第二側妃は城の中での画策が叛逆行為とみなされ、王都近郊の修道院に無期限幽閉となった。王は地下牢へ入れるつもりだったようだが、第二側妃の実家から懇願……多額の金品……によって免れた。側妃の実家も別に彼女を心配してと言うわけではなく、一族から大変不名誉な地下牢送りになる者を出さない為にとった行動だった。
「陛下はお約束を必ず守ってくださるが、その分こちらが裏切った時の罰は重い。相当な額を積んだんだろう」
第二王子への罰はなかったが、彼は母親を失ったも同然だった。第二側妃がいなければ、ただ威張り腐っている無能な王子だ。これからどうするのやら。
第二王子の勢力、絶対に我が手で引き摺り下ろしてやろうと思っていたのにその前に自滅していた。城内の至る所で今回の事件で漏れ出た王族の内部事情が広まったのだ。
「第二王子、他の誰より自分を先に治療しろと暴れたらしいぞ」
「それであれだけ死んだのか……」
カルヴィナ家の努力虚しく、第二王子は多くの有能な家臣を失った。それこそ最初は地獄絵図のような状況だったらしく、我先にと治癒師相手に脅し、罵詈雑言を浴びせ、そして最後は懇願と、手に負えなかったらしい。そのせいで治療のスタートが大幅に遅れ、カルヴィナ家当主が混乱を抑える為に最初に全員を鎮静させることに決めたのだ。だが家系的に魔力量がイマイチである為、鎮静化にも魔力を使ったがまずかった。結局全員を救うことは出来ずに終わってしまった。
(鎮静化させなきゃ殺し合いでも始めそうなメンバーだし、カルヴィナ当主の判断は悪くないと思うけど……)
今回の事件である意味一番とばっちりを食ったのがカルヴィナ家だった。今や貴族派の筆頭であるし、娘のライザは人間的に問題はあるが、カルヴィナ家の当主は良くも悪くも貴族らしい貴族だ。身分を重んじるが、だからと言って自分達に悪意のない平民を蔑んだりすることはない。貴族は貴族らしく、平民は平民らしく生きるべきという考えらしい。家を守るために強い行動に出ることはあるが、他者を貶めるような行動はしない。そういう人物だ。
同じ治癒師として、カルヴィナ家は十分ベストを尽くしたと思うが、結果を見ると城内で多くの死者を出してしまった。周囲の評価は厳しい。その上、娘の婚約者はあの第二王子だ。前途多難だろう。
「第一王子と第三王子は自身を後回しにして家臣達から治療するようご命令されたそうですよ」
「第三側妃様なんて、ご自身が苦しんでいる最中すら高齢の下女の治療を優先させたらしいですわ!」
第三側妃リオーネ様が、まさにレオハルトがしたのと同じ事をしていて驚いた。噂が信じられず治療に当たった母に確認してしまったくらいだ。
「私も驚いたわ~お金持ちで世間知らずのお嬢様って感じだったのにねぇ。あの方も成長されたのかも」
彼女は平民出身故に側妃でありながら肩身の狭い思いをして暮らしていた。だからこそ味方をとても大切にしていたのだ。それこそ身分に関係なく。
「お嬢様、陛下から明日登城するようにとご連絡が入りました」
「わかったわ」
王城は相変わらずバタついていた。いまだ犯人も目的もわからないまま、また同じことが起こるのではないかと不安も消えていなかった。王命通りにアイリスも、リッグス一家もすでに王都へは入っていたが宙ぶらりんになっていた。
「じきに陛下からお話しがあると思いますんで!」
忍者騎士(私とアイリスが命名)エリオットが教えてくれた。アイリスは我が家に滞在していたが、レヴィリオとラヴィアは学園長の王都にある屋敷におり、リッグス伯爵夫妻や傭兵達は牢に入れられているらしい。
「やっとリディの番がきたんだね~」
「なにをお願いするの?」
今回の事件で活躍した者にはそれぞれ望む褒美が与えられたのだ。母や伯父、カルヴィナ家もすでに話が終わっている。母は薬学の研究所をお願いしたらしい。
「第二王妃がやらかしたお金で予算が増えたわ。陛下、かなりふんだくったわね」
伯父は騎士団用の治癒師の養成学校の費用だった。あちこちから治癒師としての可能性がある子を集めてもなかなか教育が大変らしい。伯父も忙しい人なので、全てを一人でできないそうだ。
「爵位くれるって言われたけど断ったよ~それより教育費! 第二王妃様の件で財政に余裕ができたみだいであっさり許可がでたんだ」
「爵位断るの何回目ですか……」
伯父にとって爵位は邪魔らしい。なくてもフローレス家に違いないので、周囲が勝手に忖度してくれてなんとも気楽に生きている。わかっててやってるのでずるい。
「そなたの望みはなんだ?」
王の間……のすぐ隣にある控室で豪華なソファーに腰掛けながら尋ねられる。これだけでかなり名誉なことだ。王が一人一人に時間を取って対話を許してくれている。
(レオハルトを王にしてください!)
なんて望みもきいてもらえたりするのだろうか。流石に軽口をたたける相手ではないので言えないが。今はもう十歳ではない。あの時のように子供だからで許されることはないのだ。
レオハルトにとって第二王子がああなってしまった今、ライバルは第三王子だけだが、後ろ盾でいうとあまり怖くはないというのが本音だ。かと言ってあの人柄。油断はできないが。なので現時点での私の望みはというと……。
「リッグス家の長女ラヴィア様に寛大なご処分を」
今一番の望み、というか不安事はこれだ。エリオットは大丈夫と言っていたが適当そうな人だし少しでも後押しはしておいた方がいいだろう。
「ならぬ」
「えっ!?」
話が違うじゃん!!!
「ふっ! 相変わらず顔に出やすいな。いやすまん。少しからかっただけだ」
少し意地悪く笑う顔がレオハルトに似ていてドキリとする。この王、かなりのイケおじなので女子として油断できない。
「その件は心配しなくてもいい。条件付きだが大きな罰は与えないから安心しなさい」
だから他の望みを、と言われても。
(私って意外と無欲だな)
前世ではあれだけ欲深かったというのに。
「ございません。陛下のお心遣いだけで十分でございます」
これは好感度が高い回答だろう。この国一番の権力者に気に入られて困ることはないし。
「なんだつまらん」
「えぇっ!?」
またもや少し意地悪い笑顔をしていた。ビックリさせないでくれよマジで!
「息子との婚約破棄を言い出すかと思っていたんだが違ったのか」
「……っ!?」
声にならないほど驚いた。この王、何をどこまで知っているんだ。
「それでは望みは一つ保留ということにしよう。何かあればその時いいなさい」
「あ、あ、あ、あ、あありがとうございます……」
動揺する私を面白そうに見つめながら見送ってくれた。
(どうしようどうしようどうしようどうしよー!!!)
「図らずもこの城の膿を出す機会になってしまったな」
王は静かに怒っていた。王命に逆らって第二側妃の方へ行った宮廷治癒師達は鞭打ち百回、五年の地下牢幽閉となった。
「百回はすごいね~」
ルカが他人事のように感想を言う。
「相手は治癒師だからね。最中に自分で治せってことでしょ」
治癒師とは貴重な職業だが、それでも再起不能になってかまわないというくらい重い処罰だ。
第三王子周辺の警備にあたるはずだった騎士や兵士も同様に重い処罰を受けた。鞭打ち刑の上で彼らも彼らの家族も二度と王都へ近づくことは出来ない。
「何があっても守ってくださると仰ったではありませんか!!!」
「勝手にこちらに来ておいて私のせいにするつもり!?」
第二側妃に縋りついた治癒師もいたが、一切取り合ってもらえなかった。だがこの姿が多くの人に見られてしまい、我々が喋る必要もなく国中の噂になっていった。
「第二側妃様は前々から治癒師や騎士、兵士まで、いざという時は必ず自分の元にくるようにって声をかけてたらしいぜ」
「うわぁヤバいことやってんなあ」
「叛逆の疑いをかけられても仕方ないぞ!?」
「だいたいそんなに我が身を守ろうとするなんて……やましい事をしている自覚があるからだろ」
王城で働く者にとって未来の上司がどうなるかは大事だ。貴族だけでなく、使用人達も熱心にこの情報をやり取りしていた。
「馬鹿だよね~信用無くしちゃって。もう誰も付いてくれないんじゃない?」
「しかたないですよ~今回は第二側妃様も第二王子様もかなりヤバい状況だって聞きましたよ? これ以上抱えきれないんでしょう」
ルカと従者のテオは何やら二人で細かい設計図を見直しながら今回の事件を振り返っている。
第二側妃は城の中での画策が叛逆行為とみなされ、王都近郊の修道院に無期限幽閉となった。王は地下牢へ入れるつもりだったようだが、第二側妃の実家から懇願……多額の金品……によって免れた。側妃の実家も別に彼女を心配してと言うわけではなく、一族から大変不名誉な地下牢送りになる者を出さない為にとった行動だった。
「陛下はお約束を必ず守ってくださるが、その分こちらが裏切った時の罰は重い。相当な額を積んだんだろう」
第二王子への罰はなかったが、彼は母親を失ったも同然だった。第二側妃がいなければ、ただ威張り腐っている無能な王子だ。これからどうするのやら。
第二王子の勢力、絶対に我が手で引き摺り下ろしてやろうと思っていたのにその前に自滅していた。城内の至る所で今回の事件で漏れ出た王族の内部事情が広まったのだ。
「第二王子、他の誰より自分を先に治療しろと暴れたらしいぞ」
「それであれだけ死んだのか……」
カルヴィナ家の努力虚しく、第二王子は多くの有能な家臣を失った。それこそ最初は地獄絵図のような状況だったらしく、我先にと治癒師相手に脅し、罵詈雑言を浴びせ、そして最後は懇願と、手に負えなかったらしい。そのせいで治療のスタートが大幅に遅れ、カルヴィナ家当主が混乱を抑える為に最初に全員を鎮静させることに決めたのだ。だが家系的に魔力量がイマイチである為、鎮静化にも魔力を使ったがまずかった。結局全員を救うことは出来ずに終わってしまった。
(鎮静化させなきゃ殺し合いでも始めそうなメンバーだし、カルヴィナ当主の判断は悪くないと思うけど……)
今回の事件である意味一番とばっちりを食ったのがカルヴィナ家だった。今や貴族派の筆頭であるし、娘のライザは人間的に問題はあるが、カルヴィナ家の当主は良くも悪くも貴族らしい貴族だ。身分を重んじるが、だからと言って自分達に悪意のない平民を蔑んだりすることはない。貴族は貴族らしく、平民は平民らしく生きるべきという考えらしい。家を守るために強い行動に出ることはあるが、他者を貶めるような行動はしない。そういう人物だ。
同じ治癒師として、カルヴィナ家は十分ベストを尽くしたと思うが、結果を見ると城内で多くの死者を出してしまった。周囲の評価は厳しい。その上、娘の婚約者はあの第二王子だ。前途多難だろう。
「第一王子と第三王子は自身を後回しにして家臣達から治療するようご命令されたそうですよ」
「第三側妃様なんて、ご自身が苦しんでいる最中すら高齢の下女の治療を優先させたらしいですわ!」
第三側妃リオーネ様が、まさにレオハルトがしたのと同じ事をしていて驚いた。噂が信じられず治療に当たった母に確認してしまったくらいだ。
「私も驚いたわ~お金持ちで世間知らずのお嬢様って感じだったのにねぇ。あの方も成長されたのかも」
彼女は平民出身故に側妃でありながら肩身の狭い思いをして暮らしていた。だからこそ味方をとても大切にしていたのだ。それこそ身分に関係なく。
「お嬢様、陛下から明日登城するようにとご連絡が入りました」
「わかったわ」
王城は相変わらずバタついていた。いまだ犯人も目的もわからないまま、また同じことが起こるのではないかと不安も消えていなかった。王命通りにアイリスも、リッグス一家もすでに王都へは入っていたが宙ぶらりんになっていた。
「じきに陛下からお話しがあると思いますんで!」
忍者騎士(私とアイリスが命名)エリオットが教えてくれた。アイリスは我が家に滞在していたが、レヴィリオとラヴィアは学園長の王都にある屋敷におり、リッグス伯爵夫妻や傭兵達は牢に入れられているらしい。
「やっとリディの番がきたんだね~」
「なにをお願いするの?」
今回の事件で活躍した者にはそれぞれ望む褒美が与えられたのだ。母や伯父、カルヴィナ家もすでに話が終わっている。母は薬学の研究所をお願いしたらしい。
「第二王妃がやらかしたお金で予算が増えたわ。陛下、かなりふんだくったわね」
伯父は騎士団用の治癒師の養成学校の費用だった。あちこちから治癒師としての可能性がある子を集めてもなかなか教育が大変らしい。伯父も忙しい人なので、全てを一人でできないそうだ。
「爵位くれるって言われたけど断ったよ~それより教育費! 第二王妃様の件で財政に余裕ができたみだいであっさり許可がでたんだ」
「爵位断るの何回目ですか……」
伯父にとって爵位は邪魔らしい。なくてもフローレス家に違いないので、周囲が勝手に忖度してくれてなんとも気楽に生きている。わかっててやってるのでずるい。
「そなたの望みはなんだ?」
王の間……のすぐ隣にある控室で豪華なソファーに腰掛けながら尋ねられる。これだけでかなり名誉なことだ。王が一人一人に時間を取って対話を許してくれている。
(レオハルトを王にしてください!)
なんて望みもきいてもらえたりするのだろうか。流石に軽口をたたける相手ではないので言えないが。今はもう十歳ではない。あの時のように子供だからで許されることはないのだ。
レオハルトにとって第二王子がああなってしまった今、ライバルは第三王子だけだが、後ろ盾でいうとあまり怖くはないというのが本音だ。かと言ってあの人柄。油断はできないが。なので現時点での私の望みはというと……。
「リッグス家の長女ラヴィア様に寛大なご処分を」
今一番の望み、というか不安事はこれだ。エリオットは大丈夫と言っていたが適当そうな人だし少しでも後押しはしておいた方がいいだろう。
「ならぬ」
「えっ!?」
話が違うじゃん!!!
「ふっ! 相変わらず顔に出やすいな。いやすまん。少しからかっただけだ」
少し意地悪く笑う顔がレオハルトに似ていてドキリとする。この王、かなりのイケおじなので女子として油断できない。
「その件は心配しなくてもいい。条件付きだが大きな罰は与えないから安心しなさい」
だから他の望みを、と言われても。
(私って意外と無欲だな)
前世ではあれだけ欲深かったというのに。
「ございません。陛下のお心遣いだけで十分でございます」
これは好感度が高い回答だろう。この国一番の権力者に気に入られて困ることはないし。
「なんだつまらん」
「えぇっ!?」
またもや少し意地悪い笑顔をしていた。ビックリさせないでくれよマジで!
「息子との婚約破棄を言い出すかと思っていたんだが違ったのか」
「……っ!?」
声にならないほど驚いた。この王、何をどこまで知っているんだ。
「それでは望みは一つ保留ということにしよう。何かあればその時いいなさい」
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