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第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる
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私達は無事、王立学院で二度目の桜を眺めることができた。とりあえず物事は順調に進んでいる。
(ような気がする……)
アイリスはあれから前世の世界へは戻っていない。いたって健康的に過ごしている。とはいえしばらく彼女にしては大変珍しく、ピリピリとした時間を過ごしていたので心配はしていた。しかし、
「アランの受験のサポートしなきゃ!」
「受験って……」
「リディアナの奨学金の倍率上がってんだよー!?」
ということを突然思い出してからは元通り以上の元気を取り戻していた。恋のエネルギーとは凄まじい。
私の名前のついた学院の奨学金は前世の受験のように一ヵ所で一斉にテストをおこなうのだ。そもそもこういった奨学金があるという情報を仕入れられることができ、尚且つ試験内容が書かれた資料を読み理解することができる平民というとそれなりに絞られるが、それでも年々受験者は増えていた。
(卒業生達がぼちぼち活躍し始めてるのが大きいのかな~)
何はともあれ、世のため人のためにはなっているようだ。
私もアイリスにできる限りのサポートを申し出ると、一瞬迷った後に勉強部屋を貸してほしいとの申し出があった。
「奨学金の枠を増やしてもらえばいいじゃん。決定権持ってる人が目の前にいるんだし」
尋ねたのはルカ。どうしても学園に入学させたければリディアナの奨学金が手取り早いじゃないか、というわけだ。
「それ、ちょっと考えたんだけど……結局本人が入学してからが大変だし、万が一アランにバレたら軽蔑されちゃう!」
それだけは嫌! と、言うことで自分が家庭教師となってマンツーマンで追い込みをかけると意気込んでいた。
「じゃあ僕の借りてる部屋を使ったらいいよ」
ルカは魔道具の開発のために学園都市内に部屋を借りていた。そこなら王都にあるフローレス家の屋敷よりアイリスも通いやすい。
「ありがとー!! 持つべきものは天才魔道具師の友達だね!」
ルカは一瞬アイリスからの『友達』という単語にビックリしたようだったが、その後嬉しそうに笑顔を返していた。
「片付けは手伝ってよ! 魔道具のことよくわかってない人に触られると面倒だから、僕がやらなきゃならないからさ」
「もち! アイリスはそういうの得意だから~」
という、原作ヒロインの設定が引き継がれていることを教えてくれた。家事が得意なのは羨ましいスキルだ。
アランという青年はアイリスが惚れる人間らしく、誠実で正義感が強く、不正を嫌う好青年だった。
(いや! レオハルトじゃん!)
原作と好み一緒じゃん! とツッコミたくなるが、アイリス本人に言わせると全然違うとのこと。
「だってレオってすごいゴリゴリくるじゃん。アランはね、そっと隣にいてくれるタイプなんだ~」
「ゴリゴリ……グイグイじゃなくゴリゴリ……」
ウキウキに惚気るアイリスの隣で、私はゴリゴリくるレオハルトのことを考えていた。
(やたらと一緒に参加しないといけない公務を入れ始めたんだよな……)
表向きは将来に向けての足場固め。それからアイリスの言う通り、開き直ったかのようにゴリゴリとアピールを始めた。二人で一緒にいる時間が増えれば自ずと会話も増える。そこでいかに我々の将来が楽しみかを語ってくるのだ。
(私を安心させようとしてくれてるんだろうけど)
恐れる未来はこないのだと暗に伝えてくれている。それはとてもありがたい。ありがたいが、
「お、王妃も無理なんだけど……」
「言うと思った~~~!」
「いい加減覚悟決めなよ~」
学園都市にあるルカの開発部屋をアランを迎え入れるために片付けながら、キャッキャと原作のヒロインと悪役令嬢の弟が大笑いしている。どっちも他人事だと思って!
厄災の令嬢になる気はなかったが、王妃になる気もなかったのだ。前世の記憶を取り戻してからずーっと。
(レオハルトにもそう伝えてるのに……忘れてるフリされちゃってるし!)
五年も前だがあの王子ならちゃんと覚えているはずだ。
「原作のリディアナが王妃にこだわってたのって、母親の無念を晴らすためだったよね」
「うん。王と第二側妃への復讐ね」
原作では氷石病の治療がうまくいかない責任を取らされたのがまさかの我がフローレス家。もちろん、他の治癒師の家系も同様ではあるが、第二側妃リオーネを中心として集中砲火を浴びせられたのは我が家だった。標石病の発生源はフローレス領だと言いがかりをつけられて。貴族からも平民からも。王もそれを止めることはなかった。
「これで原作の私は貴族も平民も平等に嫌いになっちゃったのよね」
「そうならなくてよかった~」
記憶が戻って感謝だ。
「お陰様で家族皆、元気に過ごしてますし。第二側妃様は勝手に自滅しちゃってますし」
王は外交から無事戻った後も、第二側妃への怒りは消えていなかった。おそらくこのまま幽閉が解けることはない。
「ゲンサクの第二側妃ってもっと手ごわかったの?」
ルカの疑問に我々も腕を組んで考え込む。そう、王宮内のパワーゲームは原作であまり描かれていなかった部分なのだ。ちゃんと比べられるのは、対レオハルト一派への態度くらい。
「やってることは今と変わらないわね」
そう考えると呆れてしまう。レオハルトとその周辺への悪口。我々の足を引っ張ることに全力を尽くしている。相手を下げて自分達を上げようとしていた。
「この一年は悪口の対象が平民のアイリスじゃなくて貴族の私だったから、その悪口に乗っかる貴族も学園の生徒も少なかったし。原作よりインパクト薄いかも」
原作でやったことと言えばは、平民のアイリスとレオハルトがいい仲だと噂を吹聴して回ったり、リディアナの冷酷性を王へ進言したり……あれ? 事実だな。やり口さえ考えれば、原作の第二側妃は周辺を味方に付けられたかもしれない。
(いや、それでもあの溢れ出る性格の悪さと第二王子の人間性を考えるとたかがしれてるか……)
幽閉先でもギャンギャンと吠え回っているようだが、もう誰も相手にしていないと聞いた。
「ライザはいまだに何するかわからない怖さはあるけど、カルヴィナ家自体は悪にはなりきれない感じよね~」
ということで、我々の答えは『原作と変わってしまい先手は打ちずらいけど、結果的にはこっちの方がこの国にとってはよかった』ということになった。なんせ第二王子の婚約者がカルヴィナ家の人間だ。腐っても治癒師の家系。
「聞いた聞いた! 貴族相手だけじゃなくて平民にまで人気取り始めたんでしょ?」
アイリスの嬉しそうな声ったら。
「ああ~うちのお祖父様にならって平民向けの治療院始めたってやつか~まあもうそのくらいしないと……ねえ……」
このルカの話は、例の王宮襲撃事件に繋がる。
カルヴィナ家は第二側妃……第二王子側についてしまったがために、悪評が悪評を呼んでしまっているのだ。
(負け馬に乗ってる扱いされる上に、治癒師としての能力に疑問を持たれちゃったわけだしね……)
結果として完全にフローレス家や同じく治癒師の名家であるルーベル家と大きく差があるように見えてしまっている。貴族からは肝心な時に頼れる家ではなくなってしまったのだ。
「貴族派連中も調子いいよな。あっさりカルヴィナ家を見限ってうちに来るんだもん」
「まあ意地張って対立続けるよりはいいんじゃない?」
「甘いよアイリス。そう家は状況が変われば、あっという間に裏切るってことだからね!」
「日和見ってやつかぁ~貴族って大変なんだ~」
貴族も大変だが『聖女』も大変だよ、とは言わないでおこう。現役聖女の叔母の忙しさを見ていればわかる。
「今の感じで卒業までにレオハルト様の足場を固めておきたいのは確かね」
フローレス家へ擦り寄ってくる貴族派も増えたということは、レオハルトを支持する貴族も増えたと言うことだ。
(厄災の令嬢リディアナを倒さずして王になれるか不安だったけど、どうにかこれはクリアできそう)
「いや~愛だねぇ~」
「はいはい。茶化さない茶化さない」
ルカはニヤニヤしている。この弟、私の恋愛模様を楽しんでいるようだが、自分の婚約話は全力で逃げているのだ。なので最近深追いはしてこなくなった。茶化し続ければ私からのカウンター、『恋愛事に興味があるってお母様に伝えておくわね』が待っているからだ。
「あたしも具体的に愛を示すわ! 絶対に記念受験なんかで終わらせないんだから!!」
このアイリスの燃えるような愛が功を奏し、無事アランは学院への入学が決まった。もちろん、私は最終決定まで口出しはしていないので、実力でつかみ取ったのだ。
(ような気がする……)
アイリスはあれから前世の世界へは戻っていない。いたって健康的に過ごしている。とはいえしばらく彼女にしては大変珍しく、ピリピリとした時間を過ごしていたので心配はしていた。しかし、
「アランの受験のサポートしなきゃ!」
「受験って……」
「リディアナの奨学金の倍率上がってんだよー!?」
ということを突然思い出してからは元通り以上の元気を取り戻していた。恋のエネルギーとは凄まじい。
私の名前のついた学院の奨学金は前世の受験のように一ヵ所で一斉にテストをおこなうのだ。そもそもこういった奨学金があるという情報を仕入れられることができ、尚且つ試験内容が書かれた資料を読み理解することができる平民というとそれなりに絞られるが、それでも年々受験者は増えていた。
(卒業生達がぼちぼち活躍し始めてるのが大きいのかな~)
何はともあれ、世のため人のためにはなっているようだ。
私もアイリスにできる限りのサポートを申し出ると、一瞬迷った後に勉強部屋を貸してほしいとの申し出があった。
「奨学金の枠を増やしてもらえばいいじゃん。決定権持ってる人が目の前にいるんだし」
尋ねたのはルカ。どうしても学園に入学させたければリディアナの奨学金が手取り早いじゃないか、というわけだ。
「それ、ちょっと考えたんだけど……結局本人が入学してからが大変だし、万が一アランにバレたら軽蔑されちゃう!」
それだけは嫌! と、言うことで自分が家庭教師となってマンツーマンで追い込みをかけると意気込んでいた。
「じゃあ僕の借りてる部屋を使ったらいいよ」
ルカは魔道具の開発のために学園都市内に部屋を借りていた。そこなら王都にあるフローレス家の屋敷よりアイリスも通いやすい。
「ありがとー!! 持つべきものは天才魔道具師の友達だね!」
ルカは一瞬アイリスからの『友達』という単語にビックリしたようだったが、その後嬉しそうに笑顔を返していた。
「片付けは手伝ってよ! 魔道具のことよくわかってない人に触られると面倒だから、僕がやらなきゃならないからさ」
「もち! アイリスはそういうの得意だから~」
という、原作ヒロインの設定が引き継がれていることを教えてくれた。家事が得意なのは羨ましいスキルだ。
アランという青年はアイリスが惚れる人間らしく、誠実で正義感が強く、不正を嫌う好青年だった。
(いや! レオハルトじゃん!)
原作と好み一緒じゃん! とツッコミたくなるが、アイリス本人に言わせると全然違うとのこと。
「だってレオってすごいゴリゴリくるじゃん。アランはね、そっと隣にいてくれるタイプなんだ~」
「ゴリゴリ……グイグイじゃなくゴリゴリ……」
ウキウキに惚気るアイリスの隣で、私はゴリゴリくるレオハルトのことを考えていた。
(やたらと一緒に参加しないといけない公務を入れ始めたんだよな……)
表向きは将来に向けての足場固め。それからアイリスの言う通り、開き直ったかのようにゴリゴリとアピールを始めた。二人で一緒にいる時間が増えれば自ずと会話も増える。そこでいかに我々の将来が楽しみかを語ってくるのだ。
(私を安心させようとしてくれてるんだろうけど)
恐れる未来はこないのだと暗に伝えてくれている。それはとてもありがたい。ありがたいが、
「お、王妃も無理なんだけど……」
「言うと思った~~~!」
「いい加減覚悟決めなよ~」
学園都市にあるルカの開発部屋をアランを迎え入れるために片付けながら、キャッキャと原作のヒロインと悪役令嬢の弟が大笑いしている。どっちも他人事だと思って!
厄災の令嬢になる気はなかったが、王妃になる気もなかったのだ。前世の記憶を取り戻してからずーっと。
(レオハルトにもそう伝えてるのに……忘れてるフリされちゃってるし!)
五年も前だがあの王子ならちゃんと覚えているはずだ。
「原作のリディアナが王妃にこだわってたのって、母親の無念を晴らすためだったよね」
「うん。王と第二側妃への復讐ね」
原作では氷石病の治療がうまくいかない責任を取らされたのがまさかの我がフローレス家。もちろん、他の治癒師の家系も同様ではあるが、第二側妃リオーネを中心として集中砲火を浴びせられたのは我が家だった。標石病の発生源はフローレス領だと言いがかりをつけられて。貴族からも平民からも。王もそれを止めることはなかった。
「これで原作の私は貴族も平民も平等に嫌いになっちゃったのよね」
「そうならなくてよかった~」
記憶が戻って感謝だ。
「お陰様で家族皆、元気に過ごしてますし。第二側妃様は勝手に自滅しちゃってますし」
王は外交から無事戻った後も、第二側妃への怒りは消えていなかった。おそらくこのまま幽閉が解けることはない。
「ゲンサクの第二側妃ってもっと手ごわかったの?」
ルカの疑問に我々も腕を組んで考え込む。そう、王宮内のパワーゲームは原作であまり描かれていなかった部分なのだ。ちゃんと比べられるのは、対レオハルト一派への態度くらい。
「やってることは今と変わらないわね」
そう考えると呆れてしまう。レオハルトとその周辺への悪口。我々の足を引っ張ることに全力を尽くしている。相手を下げて自分達を上げようとしていた。
「この一年は悪口の対象が平民のアイリスじゃなくて貴族の私だったから、その悪口に乗っかる貴族も学園の生徒も少なかったし。原作よりインパクト薄いかも」
原作でやったことと言えばは、平民のアイリスとレオハルトがいい仲だと噂を吹聴して回ったり、リディアナの冷酷性を王へ進言したり……あれ? 事実だな。やり口さえ考えれば、原作の第二側妃は周辺を味方に付けられたかもしれない。
(いや、それでもあの溢れ出る性格の悪さと第二王子の人間性を考えるとたかがしれてるか……)
幽閉先でもギャンギャンと吠え回っているようだが、もう誰も相手にしていないと聞いた。
「ライザはいまだに何するかわからない怖さはあるけど、カルヴィナ家自体は悪にはなりきれない感じよね~」
ということで、我々の答えは『原作と変わってしまい先手は打ちずらいけど、結果的にはこっちの方がこの国にとってはよかった』ということになった。なんせ第二王子の婚約者がカルヴィナ家の人間だ。腐っても治癒師の家系。
「聞いた聞いた! 貴族相手だけじゃなくて平民にまで人気取り始めたんでしょ?」
アイリスの嬉しそうな声ったら。
「ああ~うちのお祖父様にならって平民向けの治療院始めたってやつか~まあもうそのくらいしないと……ねえ……」
このルカの話は、例の王宮襲撃事件に繋がる。
カルヴィナ家は第二側妃……第二王子側についてしまったがために、悪評が悪評を呼んでしまっているのだ。
(負け馬に乗ってる扱いされる上に、治癒師としての能力に疑問を持たれちゃったわけだしね……)
結果として完全にフローレス家や同じく治癒師の名家であるルーベル家と大きく差があるように見えてしまっている。貴族からは肝心な時に頼れる家ではなくなってしまったのだ。
「貴族派連中も調子いいよな。あっさりカルヴィナ家を見限ってうちに来るんだもん」
「まあ意地張って対立続けるよりはいいんじゃない?」
「甘いよアイリス。そう家は状況が変われば、あっという間に裏切るってことだからね!」
「日和見ってやつかぁ~貴族って大変なんだ~」
貴族も大変だが『聖女』も大変だよ、とは言わないでおこう。現役聖女の叔母の忙しさを見ていればわかる。
「今の感じで卒業までにレオハルト様の足場を固めておきたいのは確かね」
フローレス家へ擦り寄ってくる貴族派も増えたということは、レオハルトを支持する貴族も増えたと言うことだ。
(厄災の令嬢リディアナを倒さずして王になれるか不安だったけど、どうにかこれはクリアできそう)
「いや~愛だねぇ~」
「はいはい。茶化さない茶化さない」
ルカはニヤニヤしている。この弟、私の恋愛模様を楽しんでいるようだが、自分の婚約話は全力で逃げているのだ。なので最近深追いはしてこなくなった。茶化し続ければ私からのカウンター、『恋愛事に興味があるってお母様に伝えておくわね』が待っているからだ。
「あたしも具体的に愛を示すわ! 絶対に記念受験なんかで終わらせないんだから!!」
このアイリスの燃えるような愛が功を奏し、無事アランは学院への入学が決まった。もちろん、私は最終決定まで口出しはしていないので、実力でつかみ取ったのだ。
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