138 / 163
第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる
23 廃屋敷
しおりを挟む
さて、原作(正妃シャーロットの予知夢)、二年次の一番ビッグイベントといえば冬にある闇オークション潜入編。ここでアイリス達は囚われていた妖精を救い、その礼として妖精の加護を授かる。全員の魔力量がアップしたのだ。だがこの闇オークション、すでに主催は別件で捕まり牢に入っている。つまり開催されることはない。となると気になるのは…….。
「妖精はどこにいるのかしら?」
現時点で捕まっているのかいないのかもわからない。
「なんにしても魔力は欲しくない?」
「欲しい~~~」
園庭にある東屋でアイリスと二人、ついつい不謹慎な言葉を口走ってしまう。ここなら誰が来てもすぐに気づくので、寒くはあるがダラダラと話すのにちょうどいい場所なのだ。
最近は龍王の居場所が見つからず、最悪の事態……つまり戦闘になった場合のことも具体的に考え始めていた。ああ、憂鬱でしかたない。
「あたしの封印魔法が一番穏便に抑えられるじゃん? だけどあれさ~めっちゃくちゃ魔力消費すんだよね」
対峙するとしても選択肢を増やしておきたい。倒すことなく封印できればチャンスが生まれる。
「……そろそろ公表するべきなのかなぁ」
思わず弱音が出てきてしまった。
この国にはまだ封印魔法が使える人間がそれなりにいる。オルデン家などその筆頭だ。思い切って龍王の件を公表すれば人手は増える。聖女の名前で公表すれば信憑性も高く、そのあたりはスムーズにいきそうだが……。
「いや~リスク高いっしょ。絶対大騒動になるし。ルーベル家が開き直れば全面戦争もありえるね」
そうなったらこの国ボロボロにされるよ、とアイリスが真面目な顔で言う。
「ごめん……たまに何もかも話して楽になりたくなっちゃうんだよねぇ」
そんなことしても一時しのぎにしかならない。話された側の負担になるだけだ。結局また別の罪悪感が湧くに決まっている。
「わかる! わかるよ! 抱えてるもんねぇ~あたしら」
困ったねぇと微笑みあった。
同じ気持ちを共有できるアイリスがいるだけで救われている。
「とりあえず現場だけ行ってみる?」
「闇オークション会場に!? まあ王都の外れだし、そんな遠くはないけど……」
アイリスの提案にギョッとするも、ありと言えばありだ。このイベントの舞台は王都外れにある廃屋敷の地下空間。オークションにかけられる品物もそこに置かれていた。案外その場所にまだ何か隠されているかもしれない。
「実はあたし、妖精の痕跡探せるんだよね~」
得意気なアイリスを見るに、かなり自信があるのがわかる。
「そっか。アイリスの村、妖精の結界で守られてるんだもんね」
「そ。だからもし妖精が留まってたような痕跡があれば少なくとも捕まってることはわかるし」
それじゃあ行くか、と二人でなっていたところ……、
「まさかだが、そんな危ないことを二人だけでしようとしているんじゃあるまいな?」
「!!?」
急に近くでレオハルトの声がした。あたりを見渡すと、小さな機械音と共にレオハルト、フィンリー様、ルカ、ジェフリーが現れ、二人して悲鳴をあげそうになる。
「……ちょっと魔力を食いすぎるな……」
フィンリー様がルカの方を向いて渋い顔になっていた。
「だよね~量産も難しいし……まあ、もう少し改良してみるよ」
「ルカ! それって!」
「そうだよ! 試作品ができたんだ」
これはルカが兼ねてから作っていた隠密用魔道具だ。チラリと裾を上げちょっとゴツめのアンクレットを見せてくれた。起動すると一時的に気配を消すことができる。【王の目と耳】のエリオットに出会ってからずっと似たようなことができないか考えていたらしい。
「ルーベル家に忍び込むには稼働時間が足りないけど、使えないこともないでしょ」
うんうん、と頷いている男性陣には、
「どっちが危ないことしようとしてるですか!」
と苦言を呈するしかない。
◇◇◇
廃屋敷は思った以上に寂れていた。久しぶりに冒険者風衣装を着て盛り上がっていたのだが、
「これは不発だったか~」
とアイリスと目を合わす。人が入り込んだ形勢が少しもないのだ。だがここまで来たなら最後まで、ということで地下へと続く隠し扉を開けて、どんどん進んで行く。
「……予知夢とはすごいな」
「ここまで正確なのか」
「聖女様のお話、よく覚えていらっしゃいましたね」
ルカ以外の男性陣は、あまりにもスムーズに探検が進むので肩透かしを食らっているようだった。
「そうだね~」
ルカは平静を装いながら適当に相槌を打っている。私達も不用意に発言して墓穴を掘らないよう黙っていた。
(異世界でしっかり原作者の設定資料読み込んできました! って言って混乱させてもね……)
私達は順調に足音が響く広い空間に辿り着いた。闇オークション会場だ。
「こんな空間があったとは……」
「おそらく大昔は有事の際の批難場所だったのでしょう。それこそ龍王襲撃の際などに使われたかもしれません」
なるほど、と暗がりを照らしながら空間を眺めていると、
「あぁ~~~! あった!!!」
アイリスが驚くように声を上げている。例の妖精の痕跡を見つけたのだとすぐにわかる反応だ。彼女はすでにルカと隣の空間へと進んでいた。どうやらこの地下には大小いくつか空間があるようだ。慌ててそちらへ移動すると、彼女の指さす先には小さな花が咲いている。
「これ?」
「そう! この花びらの先がクルンッてなってるのが特徴で……」
そう言いながら優しく花びらに触れ魔力を流すと、その花は淡い光を放ち始める。おぉ、と一同がどよめくのでアイリスは得意顔だ。
「花がまだ大きいから最近までここに妖精がいたんだと思う」
「……捕まってたかぁ」
ならば助けなければ。またオルデン家のような『呪い』が生まれても大変だ。
(なにより知っていて助けないって選択肢はないのよねぇ)
同じ表情をした面々がアイリスの方に視線を集める。
「今どこにいるかわかる?」
「鱗粉が落ちてたら……」
アイリスは地面に手をついて魔力を流した。チラチラと光る小さな光が点々と見え始める。
「真昼間の森の中で探すより簡単じゃ~ん」
彼女の村の子供達はこうやって『妖精探し』をして遊んでいたそうだ。しかし痕跡を見つけたからといって妖精自体を見つけること自体は滅多になく、見つけてもすぐに姿を消してしまうがワクワクとする楽しい遊びだったと教えてくれた。
「アレンがすっごく得意でさ~」
デレデレ顔だ。
「シッ」
前を歩いていたフィンリー様が足を止めた。私にはよくわからないがこの先で気配を感じるようだ。足にはめたままのアンクレットに触れ、ハンドサインで指示を出している。
(フィンリー様とジェフリーが偵察か)
そのまま二人は音もなく姿を消した。私達も警戒したまま二人の帰りを待つ。耳を澄まし、随分長い時間待っていたように感じたが……。
「ただのゴロツキだな」
実際は五分ほどで二人とも戻って来た。小部屋のような場所に相手は六人、武器を持ってるが酒を飲んで盛り上がっているらしい。
(フィンリー様凛々し~! 堂々としてるっていうか……)
原作の飄々としたわざと余裕ぶっているようなキャラではない。自分がこれまで積み上げてきたものを信じている。それでいて過信をしているわけではないので、表情は真剣なままだ。
「妖精が入っている小さな籠もありました……よくは見えなかったのですが、その場にいた男達が興奮気味に話していたので」
「龍の心筋でできてるやつ?」
そう言った後、アイリスがしまった! という顔になったのを見たのが私だけでよかった。原作知識を口走ったのだ。
「それは確認できなかったのですが……確かに、龍の心筋製であれば妖精をも閉じ込めることができるかもしれませんね。強力な魔力耐性があると言いますし」
「そ、そうそう! 村に居た時になんか聞いたことあって……ま、妖精を捕まえるなんて許されないんだけどねっ」
納得するジェフリーに慌てて言い訳していた。
「短期決戦だな。全員で一気に制圧しよう」
「え!? 私も行っていいんですか!?」
レオハルトの言葉に思わず確認を入れる。
「……ダメだって言ったら怒り狂うくせによく言うよ」
ルカの方はなにをわかりきったことをと呆れていた。レオハルトも同じ顔をしている。
「アイリスは救護をお願いしたい。後方支援というやつなんだが……」
「了解~」
アイリスはレオハルトの采配に不満がないようだ。
隠密用魔道具を使用中は魔術が使えない。だから今回はギリギリまで魔道具で近づき不意を突く作戦に決まった。
(足音を消すのって難しい……!)
そろりそろりと歩く。他のメンバーの姿も見えないので、ぶつからないかというドキドキも。ありがたいことに、ゴロツキ共は盛り上がっているらしく、ガハハと笑いガチャガチャ音を立てて酒を飲んでいたのでちょっとした音くらいでは気が付かれることはなかった。
「いやぁ! 俺らにもついにツキが回って来たなぁ! 妖精を捕まえるなんてよぉ~」
「金貨三百枚かぁ! 笑いが止まらんな!」
「いやいや。もうちょっと引っ張れるんじゃないか? ルーベル家ってのは儲かってんだろ?」
「治癒師の一家だから……そら~金には困ってねぇだろ!」
(ルーベル家!!?)
まさかここでルーベル家の名前が出るなんて。心音が早くなって音が漏れてしまいそうだ。
それから一呼吸おいて、
(フィンリー様!)
一番最初に姿を現したのはフィンリー様。これが合図となって全員が魔道具を解除した。
「うぉぉぉ!?」
「なんだ!!? どこから出てきやがった!!?」
もちろんゴロツキ達は大いに驚いてくれた。突然何にもないところから人間が現れたんだから当然だ。危なげなく全員を倒した……と、思ったら……。
「もう一人いる!」
アイリスが叫んだ。
まさかの遅れて飲み会にやって来たと思しき男が、妖精の入った籠だけ持って必死に逃げて行った。
「私が行く!」
男性陣は倒したゴロツキ達を縛り上げている最中だったので、一番アイリスに近い位置にいた私が久しぶりの猛ダッシュ。ドレスだったら絶対にできなかったな、なんて考えが頭に浮かぶ。
「リディアナ! やっちゃって!!!」
先を走っていたアイリスが大声を出しながら指をさす、
「りょーかい!!!」
久しぶりに思いっきり地面を踏みつけた。同時に足元から氷が逃げる男の方へと伸びていき、
「ああああ!!!」
叫び声と共に男は籠を持ったまま七割ほど凍り付いた。指先が動かなくなったのか、男が籠を滑らしたところをアイリスがうまく受け止める。
「おっと」
「ナイスキャッチ」
アイリスはその後手早く、
「ちょっと寝ててね~」
そう言って凍り付いた男に鎮静魔法をかけ眠らせてしまった。
「さあさあ、早く解放してあげなきゃ」
籠の中には小さな影が横たわっているのが確認できた。
龍の心筋で作られたこの籠は妖精の力を極端に弱らせる効果がある。長い時間いればいるほど妖精にはよくない影響が出てしまう。
この籠を開ける方法は一つだけ。
「やっちゃいまーす」
治癒魔法。それをかけるといくつかの筋が膨らみ、バチバチと周囲の網目が裂けていく。再生能力が非常に高い龍の心筋の一部が反応するようにできているのだ。最後にバチンと大きな音と共に、籠は壊れた。
「妖精はどこにいるのかしら?」
現時点で捕まっているのかいないのかもわからない。
「なんにしても魔力は欲しくない?」
「欲しい~~~」
園庭にある東屋でアイリスと二人、ついつい不謹慎な言葉を口走ってしまう。ここなら誰が来てもすぐに気づくので、寒くはあるがダラダラと話すのにちょうどいい場所なのだ。
最近は龍王の居場所が見つからず、最悪の事態……つまり戦闘になった場合のことも具体的に考え始めていた。ああ、憂鬱でしかたない。
「あたしの封印魔法が一番穏便に抑えられるじゃん? だけどあれさ~めっちゃくちゃ魔力消費すんだよね」
対峙するとしても選択肢を増やしておきたい。倒すことなく封印できればチャンスが生まれる。
「……そろそろ公表するべきなのかなぁ」
思わず弱音が出てきてしまった。
この国にはまだ封印魔法が使える人間がそれなりにいる。オルデン家などその筆頭だ。思い切って龍王の件を公表すれば人手は増える。聖女の名前で公表すれば信憑性も高く、そのあたりはスムーズにいきそうだが……。
「いや~リスク高いっしょ。絶対大騒動になるし。ルーベル家が開き直れば全面戦争もありえるね」
そうなったらこの国ボロボロにされるよ、とアイリスが真面目な顔で言う。
「ごめん……たまに何もかも話して楽になりたくなっちゃうんだよねぇ」
そんなことしても一時しのぎにしかならない。話された側の負担になるだけだ。結局また別の罪悪感が湧くに決まっている。
「わかる! わかるよ! 抱えてるもんねぇ~あたしら」
困ったねぇと微笑みあった。
同じ気持ちを共有できるアイリスがいるだけで救われている。
「とりあえず現場だけ行ってみる?」
「闇オークション会場に!? まあ王都の外れだし、そんな遠くはないけど……」
アイリスの提案にギョッとするも、ありと言えばありだ。このイベントの舞台は王都外れにある廃屋敷の地下空間。オークションにかけられる品物もそこに置かれていた。案外その場所にまだ何か隠されているかもしれない。
「実はあたし、妖精の痕跡探せるんだよね~」
得意気なアイリスを見るに、かなり自信があるのがわかる。
「そっか。アイリスの村、妖精の結界で守られてるんだもんね」
「そ。だからもし妖精が留まってたような痕跡があれば少なくとも捕まってることはわかるし」
それじゃあ行くか、と二人でなっていたところ……、
「まさかだが、そんな危ないことを二人だけでしようとしているんじゃあるまいな?」
「!!?」
急に近くでレオハルトの声がした。あたりを見渡すと、小さな機械音と共にレオハルト、フィンリー様、ルカ、ジェフリーが現れ、二人して悲鳴をあげそうになる。
「……ちょっと魔力を食いすぎるな……」
フィンリー様がルカの方を向いて渋い顔になっていた。
「だよね~量産も難しいし……まあ、もう少し改良してみるよ」
「ルカ! それって!」
「そうだよ! 試作品ができたんだ」
これはルカが兼ねてから作っていた隠密用魔道具だ。チラリと裾を上げちょっとゴツめのアンクレットを見せてくれた。起動すると一時的に気配を消すことができる。【王の目と耳】のエリオットに出会ってからずっと似たようなことができないか考えていたらしい。
「ルーベル家に忍び込むには稼働時間が足りないけど、使えないこともないでしょ」
うんうん、と頷いている男性陣には、
「どっちが危ないことしようとしてるですか!」
と苦言を呈するしかない。
◇◇◇
廃屋敷は思った以上に寂れていた。久しぶりに冒険者風衣装を着て盛り上がっていたのだが、
「これは不発だったか~」
とアイリスと目を合わす。人が入り込んだ形勢が少しもないのだ。だがここまで来たなら最後まで、ということで地下へと続く隠し扉を開けて、どんどん進んで行く。
「……予知夢とはすごいな」
「ここまで正確なのか」
「聖女様のお話、よく覚えていらっしゃいましたね」
ルカ以外の男性陣は、あまりにもスムーズに探検が進むので肩透かしを食らっているようだった。
「そうだね~」
ルカは平静を装いながら適当に相槌を打っている。私達も不用意に発言して墓穴を掘らないよう黙っていた。
(異世界でしっかり原作者の設定資料読み込んできました! って言って混乱させてもね……)
私達は順調に足音が響く広い空間に辿り着いた。闇オークション会場だ。
「こんな空間があったとは……」
「おそらく大昔は有事の際の批難場所だったのでしょう。それこそ龍王襲撃の際などに使われたかもしれません」
なるほど、と暗がりを照らしながら空間を眺めていると、
「あぁ~~~! あった!!!」
アイリスが驚くように声を上げている。例の妖精の痕跡を見つけたのだとすぐにわかる反応だ。彼女はすでにルカと隣の空間へと進んでいた。どうやらこの地下には大小いくつか空間があるようだ。慌ててそちらへ移動すると、彼女の指さす先には小さな花が咲いている。
「これ?」
「そう! この花びらの先がクルンッてなってるのが特徴で……」
そう言いながら優しく花びらに触れ魔力を流すと、その花は淡い光を放ち始める。おぉ、と一同がどよめくのでアイリスは得意顔だ。
「花がまだ大きいから最近までここに妖精がいたんだと思う」
「……捕まってたかぁ」
ならば助けなければ。またオルデン家のような『呪い』が生まれても大変だ。
(なにより知っていて助けないって選択肢はないのよねぇ)
同じ表情をした面々がアイリスの方に視線を集める。
「今どこにいるかわかる?」
「鱗粉が落ちてたら……」
アイリスは地面に手をついて魔力を流した。チラチラと光る小さな光が点々と見え始める。
「真昼間の森の中で探すより簡単じゃ~ん」
彼女の村の子供達はこうやって『妖精探し』をして遊んでいたそうだ。しかし痕跡を見つけたからといって妖精自体を見つけること自体は滅多になく、見つけてもすぐに姿を消してしまうがワクワクとする楽しい遊びだったと教えてくれた。
「アレンがすっごく得意でさ~」
デレデレ顔だ。
「シッ」
前を歩いていたフィンリー様が足を止めた。私にはよくわからないがこの先で気配を感じるようだ。足にはめたままのアンクレットに触れ、ハンドサインで指示を出している。
(フィンリー様とジェフリーが偵察か)
そのまま二人は音もなく姿を消した。私達も警戒したまま二人の帰りを待つ。耳を澄まし、随分長い時間待っていたように感じたが……。
「ただのゴロツキだな」
実際は五分ほどで二人とも戻って来た。小部屋のような場所に相手は六人、武器を持ってるが酒を飲んで盛り上がっているらしい。
(フィンリー様凛々し~! 堂々としてるっていうか……)
原作の飄々としたわざと余裕ぶっているようなキャラではない。自分がこれまで積み上げてきたものを信じている。それでいて過信をしているわけではないので、表情は真剣なままだ。
「妖精が入っている小さな籠もありました……よくは見えなかったのですが、その場にいた男達が興奮気味に話していたので」
「龍の心筋でできてるやつ?」
そう言った後、アイリスがしまった! という顔になったのを見たのが私だけでよかった。原作知識を口走ったのだ。
「それは確認できなかったのですが……確かに、龍の心筋製であれば妖精をも閉じ込めることができるかもしれませんね。強力な魔力耐性があると言いますし」
「そ、そうそう! 村に居た時になんか聞いたことあって……ま、妖精を捕まえるなんて許されないんだけどねっ」
納得するジェフリーに慌てて言い訳していた。
「短期決戦だな。全員で一気に制圧しよう」
「え!? 私も行っていいんですか!?」
レオハルトの言葉に思わず確認を入れる。
「……ダメだって言ったら怒り狂うくせによく言うよ」
ルカの方はなにをわかりきったことをと呆れていた。レオハルトも同じ顔をしている。
「アイリスは救護をお願いしたい。後方支援というやつなんだが……」
「了解~」
アイリスはレオハルトの采配に不満がないようだ。
隠密用魔道具を使用中は魔術が使えない。だから今回はギリギリまで魔道具で近づき不意を突く作戦に決まった。
(足音を消すのって難しい……!)
そろりそろりと歩く。他のメンバーの姿も見えないので、ぶつからないかというドキドキも。ありがたいことに、ゴロツキ共は盛り上がっているらしく、ガハハと笑いガチャガチャ音を立てて酒を飲んでいたのでちょっとした音くらいでは気が付かれることはなかった。
「いやぁ! 俺らにもついにツキが回って来たなぁ! 妖精を捕まえるなんてよぉ~」
「金貨三百枚かぁ! 笑いが止まらんな!」
「いやいや。もうちょっと引っ張れるんじゃないか? ルーベル家ってのは儲かってんだろ?」
「治癒師の一家だから……そら~金には困ってねぇだろ!」
(ルーベル家!!?)
まさかここでルーベル家の名前が出るなんて。心音が早くなって音が漏れてしまいそうだ。
それから一呼吸おいて、
(フィンリー様!)
一番最初に姿を現したのはフィンリー様。これが合図となって全員が魔道具を解除した。
「うぉぉぉ!?」
「なんだ!!? どこから出てきやがった!!?」
もちろんゴロツキ達は大いに驚いてくれた。突然何にもないところから人間が現れたんだから当然だ。危なげなく全員を倒した……と、思ったら……。
「もう一人いる!」
アイリスが叫んだ。
まさかの遅れて飲み会にやって来たと思しき男が、妖精の入った籠だけ持って必死に逃げて行った。
「私が行く!」
男性陣は倒したゴロツキ達を縛り上げている最中だったので、一番アイリスに近い位置にいた私が久しぶりの猛ダッシュ。ドレスだったら絶対にできなかったな、なんて考えが頭に浮かぶ。
「リディアナ! やっちゃって!!!」
先を走っていたアイリスが大声を出しながら指をさす、
「りょーかい!!!」
久しぶりに思いっきり地面を踏みつけた。同時に足元から氷が逃げる男の方へと伸びていき、
「ああああ!!!」
叫び声と共に男は籠を持ったまま七割ほど凍り付いた。指先が動かなくなったのか、男が籠を滑らしたところをアイリスがうまく受け止める。
「おっと」
「ナイスキャッチ」
アイリスはその後手早く、
「ちょっと寝ててね~」
そう言って凍り付いた男に鎮静魔法をかけ眠らせてしまった。
「さあさあ、早く解放してあげなきゃ」
籠の中には小さな影が横たわっているのが確認できた。
龍の心筋で作られたこの籠は妖精の力を極端に弱らせる効果がある。長い時間いればいるほど妖精にはよくない影響が出てしまう。
この籠を開ける方法は一つだけ。
「やっちゃいまーす」
治癒魔法。それをかけるといくつかの筋が膨らみ、バチバチと周囲の網目が裂けていく。再生能力が非常に高い龍の心筋の一部が反応するようにできているのだ。最後にバチンと大きな音と共に、籠は壊れた。
199
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
他小説サイトにも投稿しています。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる