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第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる
22 答え
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王都にあるオルデン家の屋敷には、お忍びできたヴィンザー帝国の次期皇帝ジュードとエルディア王国の次期王(仮)のレオハルト、そしてその婚約者である私がいた。
「オルデン卿、突然押しかけてすまない」
「ジュード殿下。この度の件、心より感謝申し上げます」
オルデン家当主、現騎士団総長であるグレン・オルデン。ジュードにも引けを取らない威厳を放っている。
(流石名門騎士の家系、肝が据わってるな)
屋敷にはオルデン家の面々が揃っていた。ライアス領にいるルイーゼの姉ダリア以外は皆。覚悟が決まったように堂々としている。慌てふためいていた様子は少しもない。
「リディアナ、ごめんね……迷惑をかけて。レオハルト様にもなんとお詫びしたらいいか」
ルイーゼはやはり悔しそうだ。
「ちょっと! 嘘でしょう!? 私達を見くびらないでよ!」
謝る必要がどこにあるというのか。
「そうだ。オルデン家に手出しするなんて考えなかった俺の落ち度だ」
「いえ殿下。我が家の秘密を隠し通せなかった私の責任です」
そもそも六年前、『妖精呪い』が消え、『妖精の加護』のみ残った時点で公表するという手もあった。レオハルトや王になんの落ち度もないと、オルデン卿はハッキリと言葉にした。
「過去を悔いるのはあとにしよう」
ジュードはずっと落ち着いている。いつも学院で見かけるチャラチャラとした軽い雰囲気はどこにもない。
「こんなことを急かすのは気が引けるのだが……ルイーゼ嬢、昨日も言った通り君を帝国に迎えたい。これは何度も伝えているが、私は君にとても惹かれている。だから君の助けになりたいんだ」
もちろん約束通り、婚姻は形だけでかまわないと。
「本当はもっとロマンティックに伝えたかったんだが……それはまたいつか。今もし、私にとって都合のいい答えを聞けたら、すぐにでも国王陛下に願い出ようと思っている」
そうすれば、ルイーゼに手出しできる人間はグッと減る。この国の貴族であれば、ヴィンザー帝国がどんな国かはわかっている。
(ルーベル家も、第一側妃の実家も例外じゃないでしょ)
帝国が支援している家を叩くのは得策ではない。外交問題になって外圧をかけられでもしたら彼らだって動きを制限されてしまう。王とやり合う気があっても、ヴィンザー帝国とやる会う気は(少なくともまだ)ないはずだ。
(なによりすぐにってのがポイントよね……)
アリアが実家に戻っているということは、噂が広まり始めているということだろう。噂でとどまっている内に別の話題で上書きしてしまった方がいい。
ルイーゼは一呼吸だけおいて、
「ありがたく、その申し出をお受けいたします」
麗しの令嬢ではなく、騎士のように凛々しく礼をした。オルデン家の他の面々も同様だ。
それを見てジュードは嬉しそうに微笑んでいた。
◇◇◇
「本当にいいの?」
「もちろん。正直、ホッとしてる。なんとか大事にならずに済んで」
ランベール王の許可もその日の内に下り、ルイーゼのヴィンザー帝国行きが決まった。王も驚いていたようだが、どうか両国の架け橋となってくれると嬉しいとルイーゼに優しい声をかけたそうだ。
「こっそりね、守ってやれなくてすまないって言われちゃった」
「そういうとこレオハルト様に似てるよね」
二人で小さく笑った。
「我が家、全員が腹をくくってのよ。呪いの件を秘密にしてたのは確かにいいとは言えないかもしれないけど、長い歴史の中で国に仕えてきた誇りはあるし、後ろめたいことなんてなにもない! って」
「それはその通りね」
私の答えにルイーゼは嬉しそうだ。
「だけどね、アリアとヴィルヘルム兄様の婚姻がだめになるのがどうしても嫌でさ」
アリアには黙っててね、と念を押すのをルイーゼは忘れない。
彼女の家が保守的なのはよく知られている。きっと明日にでも婚約破棄を、と言って来るに違いない。
「だから家族に言ったの。国を乱す原因になりたくないって。まあ本心の一つでもあるし」
そもそも国がピンチになる時に現れるこの加護の原因が自分自身だなんて、と。
「ジュード様の申し出も嬉しかった。ジュード様が私を、騎士でありたい私を尊重してくれたのも」
条件もよかったしね~! と、少し恥ずかしかったのかおどけた口調になる。
「……ジュード様と仲良くね」
「まあ上手くやるわよ」
ルイーゼはジュード卒業と同時にこの国を離れることに決まった。一緒に居られるのはあと少しだ。
「言っとくけど、すぐに里帰りはする予定だから」
「え!!?」
彼女がすぐにジュードに返事をしなかったのは、やはり【龍王】の問題を解決できていなかったからだ。
(見捨てられたなんて思わないのに)
自分だけ安全な場所へ行くなんて、というわけだ。
「私抜きで龍王と対峙なんてさせないわよ!」
「心強いわ~」
ケタケタと声を上げて笑う。だが、
「本気よ。いつだってすぐに駆け付ける。国を跨いでるからって私は止められないからね」
真剣な表情だった。
「頼りにしてます」
本心だ。
「寂しくなるわね」
これも本心。
「私も」
こちらの世界での初めての女友達。
どうか幸せに。
「オルデン卿、突然押しかけてすまない」
「ジュード殿下。この度の件、心より感謝申し上げます」
オルデン家当主、現騎士団総長であるグレン・オルデン。ジュードにも引けを取らない威厳を放っている。
(流石名門騎士の家系、肝が据わってるな)
屋敷にはオルデン家の面々が揃っていた。ライアス領にいるルイーゼの姉ダリア以外は皆。覚悟が決まったように堂々としている。慌てふためいていた様子は少しもない。
「リディアナ、ごめんね……迷惑をかけて。レオハルト様にもなんとお詫びしたらいいか」
ルイーゼはやはり悔しそうだ。
「ちょっと! 嘘でしょう!? 私達を見くびらないでよ!」
謝る必要がどこにあるというのか。
「そうだ。オルデン家に手出しするなんて考えなかった俺の落ち度だ」
「いえ殿下。我が家の秘密を隠し通せなかった私の責任です」
そもそも六年前、『妖精呪い』が消え、『妖精の加護』のみ残った時点で公表するという手もあった。レオハルトや王になんの落ち度もないと、オルデン卿はハッキリと言葉にした。
「過去を悔いるのはあとにしよう」
ジュードはずっと落ち着いている。いつも学院で見かけるチャラチャラとした軽い雰囲気はどこにもない。
「こんなことを急かすのは気が引けるのだが……ルイーゼ嬢、昨日も言った通り君を帝国に迎えたい。これは何度も伝えているが、私は君にとても惹かれている。だから君の助けになりたいんだ」
もちろん約束通り、婚姻は形だけでかまわないと。
「本当はもっとロマンティックに伝えたかったんだが……それはまたいつか。今もし、私にとって都合のいい答えを聞けたら、すぐにでも国王陛下に願い出ようと思っている」
そうすれば、ルイーゼに手出しできる人間はグッと減る。この国の貴族であれば、ヴィンザー帝国がどんな国かはわかっている。
(ルーベル家も、第一側妃の実家も例外じゃないでしょ)
帝国が支援している家を叩くのは得策ではない。外交問題になって外圧をかけられでもしたら彼らだって動きを制限されてしまう。王とやり合う気があっても、ヴィンザー帝国とやる会う気は(少なくともまだ)ないはずだ。
(なによりすぐにってのがポイントよね……)
アリアが実家に戻っているということは、噂が広まり始めているということだろう。噂でとどまっている内に別の話題で上書きしてしまった方がいい。
ルイーゼは一呼吸だけおいて、
「ありがたく、その申し出をお受けいたします」
麗しの令嬢ではなく、騎士のように凛々しく礼をした。オルデン家の他の面々も同様だ。
それを見てジュードは嬉しそうに微笑んでいた。
◇◇◇
「本当にいいの?」
「もちろん。正直、ホッとしてる。なんとか大事にならずに済んで」
ランベール王の許可もその日の内に下り、ルイーゼのヴィンザー帝国行きが決まった。王も驚いていたようだが、どうか両国の架け橋となってくれると嬉しいとルイーゼに優しい声をかけたそうだ。
「こっそりね、守ってやれなくてすまないって言われちゃった」
「そういうとこレオハルト様に似てるよね」
二人で小さく笑った。
「我が家、全員が腹をくくってのよ。呪いの件を秘密にしてたのは確かにいいとは言えないかもしれないけど、長い歴史の中で国に仕えてきた誇りはあるし、後ろめたいことなんてなにもない! って」
「それはその通りね」
私の答えにルイーゼは嬉しそうだ。
「だけどね、アリアとヴィルヘルム兄様の婚姻がだめになるのがどうしても嫌でさ」
アリアには黙っててね、と念を押すのをルイーゼは忘れない。
彼女の家が保守的なのはよく知られている。きっと明日にでも婚約破棄を、と言って来るに違いない。
「だから家族に言ったの。国を乱す原因になりたくないって。まあ本心の一つでもあるし」
そもそも国がピンチになる時に現れるこの加護の原因が自分自身だなんて、と。
「ジュード様の申し出も嬉しかった。ジュード様が私を、騎士でありたい私を尊重してくれたのも」
条件もよかったしね~! と、少し恥ずかしかったのかおどけた口調になる。
「……ジュード様と仲良くね」
「まあ上手くやるわよ」
ルイーゼはジュード卒業と同時にこの国を離れることに決まった。一緒に居られるのはあと少しだ。
「言っとくけど、すぐに里帰りはする予定だから」
「え!!?」
彼女がすぐにジュードに返事をしなかったのは、やはり【龍王】の問題を解決できていなかったからだ。
(見捨てられたなんて思わないのに)
自分だけ安全な場所へ行くなんて、というわけだ。
「私抜きで龍王と対峙なんてさせないわよ!」
「心強いわ~」
ケタケタと声を上げて笑う。だが、
「本気よ。いつだってすぐに駆け付ける。国を跨いでるからって私は止められないからね」
真剣な表情だった。
「頼りにしてます」
本心だ。
「寂しくなるわね」
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「私も」
こちらの世界での初めての女友達。
どうか幸せに。
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