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6 思春期

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 ジルの強くて早い胸の音が聞こえる。いつの間にかがっしりと男らしく育った体にひっついて、私も彼が男なんだと改めて気がついた。遠目に見える令嬢達がこちらを見てヒソヒソと話している。

(な、なに?)

 チラッとジルの顔へ目線を向けると、首まで真っ赤になっている。

(思春期だな……)

 そんな考えが頭に浮かぶと、まだ自分もドキドキしていたが少し心に余裕ができた。

「私がだとお気づきになりました?」
「んなっ!」

 私がからかっているのがわかったのだろう。赤い顔のまま少し悔しそうな表情になって、

「いや、可愛い令嬢だってことに気がついただけだ!」

 大声で言い返してきた。

「んなっ!?」

(何を叫んだかわかってんの!?)

 周囲がチラチラとこちらを見ているのがわかる。どうやらあの大声が聞こえたようだ。
 私はもう嬉しい上に恥ずかしいというこの状況をどうにもできなくなっていた。まだ踊っているのが奇跡だ。そしてこの反応を見て満足そうにしているジルの照れた笑顔から目が離さなくなっていた。
 ダンスが終わってもその余韻は残ったままだ。ソワソワと落ち着かない気持ちだが、幸せだ。

「飲み物取ってくんな」
「ありがと」

 ジルも同じようで、まだ耳に赤みを残して少し微笑んだままドリンクを取りに行ってくれた。

(これ、いけるのでは!?)

 ここにきて初めて手答えを感じたジルとの関係に舞い上がり始めたのも束の間……ジルの両親の側にアリスが駆け寄っているのが見えた。
 そのままドリンクを持つジルの元へ行き、言い争っているのまで見えた。アリスがこちらを向いて勝ち誇るような顔をしている。

(あのクソ女……!)

 まあでもいい。今回ドリンクまでジルと一緒に飲むと言う贅沢は我慢しよう。今のアリスの行動はどう考えてもジルの好感度は上がらない。どうにかして私とジルを引き剥がしたかったんだろう。
 私は余裕ある笑顔でアリスに手を振った。

 アリスは勘違いしている。私を負かせばいいわけではないのだ。ジルの好感度を上げなければ逆ハールートは成立しない。
 私は、私の気持ちが叶わなくてもいい。ただ、逆ハールートが消滅するばそれでいいのだ。今みたいに好きな相手に好きな相手として接することができるだけで幸せだ。そこだけはきっかけをくれたアリスに感謝している。

「あらまあ。あの方、ずいぶん悪どいお顔になってますわね」
「いやぁいいもの見させてもらったよ」

 ニヤニヤしながらリーシャ達が話しかけてくる。私と同じ一連のやり取りを見ていたようだ。ルークが飲み物を渡してくれた。まだジルと両親は言い争っている。

「可愛い令嬢か~! あのジルがねえハッキリ言ったねえ~」
「やっとですわよ。ジル様は鈍感が過ぎます」
「あとは家問題かな」

 ジルの一家はあまりにも騒がしかったからか、別室へ誘導されていた。これはもう戻ってこれないな。

「ルーク様は大丈夫でしたか?」

 アリスがエドワードのところへ戻っていくのが見える。彼を取り囲む令嬢達を掻き分け無事隣をゲットできていたのを見て、我々は感嘆の声をあげた。

「いやぁまさか寝室に突入されるとは思わなかったよ~」
「えええ!?」
「部屋間違えちゃったんだって」
「そんなわけ……!」
「だよねぇ」

 たまたまルークの部屋に使用人達がいたから良かったものの、2人っきりだったら何されていたかわからない。流石に半年経って相手してくれるのがエドワード1人だと焦っているのかもしれない。

「次そんなことをされたら、私自ら首を刎ねて差し上げますわ!」
「やだぁ! リーシャカッコいい~!」

 ルークと2人、リーシャをキラキラと目を輝かせて見つめた。
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