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ユリアの爆弾発言の少し前、竜の模様が彫り込まれた曲がり角で、レミリアとアレン、それからアルベルトは鉢合わせしていた。
「げっ!」
思わず声が漏れたのはレミリアだった。前方から誰か来るのがわかって構えていたのに、現れたのはまさかのアルベルトだったのだ。彼はたった1人で地下空間を彷徨っていた。しかもなにやら暗い顔で目が座っている。
「レミリアと……大賢者様……」
アルベルトから敵意は感じなかったが、いつもと違う雰囲気に戸惑わずにはいられなかった。
「あんた今、王の代理してんでしょ?」
「王の椅子は陛下にお返しした」
「……なんでこんなとこに?」
「……ユリアがここにいるらしい。カイルも……」
その言葉を聞いて、レミリアは一瞬2人が駆け落ちでもしたのかと思った。だがすぐに思い直す。
(アルベルトよりスペックの劣るカイルを選ぶことはないわね)
そしてアレンよりスペックの劣るアルベルトをユリアがどう思っているかも検討がついていた。
結局そのまま3人で一緒に歩くことになってしまった。会話もなく重い雰囲気のまま歩き続けていると、遠くから声が聞こえた。高い、女の声だった。
(ユリアだ!)
3人ともそう思った。言い争うような声だったので、灯りが見えた後は音を立てないように慎重に進んだ。
『なにすんのよ! 聖女にこんなことしていいと思ってんの!? もう祈ってやらないわ! お前のせいだから! お前のせいで祈らないんだからな!!!』
ユリアが怒り狂っているのがわかる。『祈り』を脅しに使っていることには全員が驚いた。聖女と呼ばれる人間とはかけ離れた発想だ。
(あれがカイル!?)
こっそりと覗き見たレミリアは、カイルの変わりように息をのんだ。あのふてぶてしかった大柄の男は見る影もなく、耳を切り落とされ、目はやせ細って窪み、髪の毛も一部抜け落ちていた。何よりユリアにぶつけられる言葉でどんどん生気がなくなっているのがわかる。
グレンもボロボロだったが、使命感があるからか生気を感じた。でもカイルは違う。何が起こったのかハッキリわからないが、その姿はただ哀れだった。
そして遅れてたどり着いた3人は、ユリアが聖女の祈りを放棄していたことを知った。
この国で生まれ育ったレミリアとアルベルトにとってそれは衝撃的なことだった。血の気が引いた。それほど恐怖に思えることだったのだ。
『アハハ! あんな負け犬! 私と大賢者様との愛の障害でしかないわよ!』
レミリアは聖女がアルベルトをただの障害物扱いした瞬間、アレンとアルベルトの間に入った。アルベルトがアレンになにかするかもしれないと心配になったからだ。だがアルベルトは見向きもしなかった。
『こんな王国いらないわよ! 私は帝国に行くわ! 帝都の大都会で大賢者に愛されながら生きていくの!』
その言葉が終わった後、アルベルトは中へ入って行った。
「ユリア」
呼ばれたユリアは振り返らなかった。ただビクっと体を震わせた。
「ユリア」
レミリアの方からは彼女がどんな表情をしているかわからない。ユリアはアルベルトが来たことがわかっている。そして先ほどの言葉が聞かれたことも。
レミリア達もアルベルトの後に続いて大きな空間の中へと入った。奥にいるジークボルトと目が合う。
少し困ったような顔で首を横に振った。
「ユリア。俺は君を裁きにかけようと思う。……生き残れただが」
そうしてようやく、ユリアはアルベルトに向き合った。
「はぁ?」
完全に馬鹿にする表情だった。アルベルトへの愛なんて初めからなかったのだ。彼女が愛していたのはアルベルトという皆が羨むブランドに過ぎなかった。
そしてすぐにアルベルトの後ろにいるアレンに気がついた。急に表情が喜びに変わっていく。
「大賢者様! やっぱり助けに来てくれたんですね! 私、信じてました!」
急に態度をころりと変え、か弱い乙女ぶり始めた。目に涙を浮かべ、声を振るわせ、体を縮ませて恐怖に震えるフリをした。
レミリアは初めてユリアを怖いと思った。
(どんな頭してたら今までのやり取りを聞いてた人間が、アンタを助けようと思うのよ!?)
アレンも今日は笑っていなかった。警戒の表情を浮かべ、レミリアの前に立つ。
「私はその奥にいる男に用があるだけだ。君はたまたまここにいただけだろう」
「わかってます! レミリア様にそう言えと言われてるんでしょう? 大丈夫です。大賢者様の愛はちゃんと伝わってますから!」
全員がゾッとした。話が通じない。同じ種族の生物とは思えなくなってきていた。
「君はこの国の聖女だ。他国に行くわけにはいかないだろう」
「この国が私を閉じ込めるのです! 酷いですよね! 非人道的すぎます!」
何を言っても力を込めて言い返してくる。
「その非人道的システムを作ったの大賢者なんだけど~」
急にジークボルトが話に入ってきた。
「真実を話そう」
いい加減、ユリアを見ていられなくなったようだ。遠い目をしてゆっくりと話し始めた。
「げっ!」
思わず声が漏れたのはレミリアだった。前方から誰か来るのがわかって構えていたのに、現れたのはまさかのアルベルトだったのだ。彼はたった1人で地下空間を彷徨っていた。しかもなにやら暗い顔で目が座っている。
「レミリアと……大賢者様……」
アルベルトから敵意は感じなかったが、いつもと違う雰囲気に戸惑わずにはいられなかった。
「あんた今、王の代理してんでしょ?」
「王の椅子は陛下にお返しした」
「……なんでこんなとこに?」
「……ユリアがここにいるらしい。カイルも……」
その言葉を聞いて、レミリアは一瞬2人が駆け落ちでもしたのかと思った。だがすぐに思い直す。
(アルベルトよりスペックの劣るカイルを選ぶことはないわね)
そしてアレンよりスペックの劣るアルベルトをユリアがどう思っているかも検討がついていた。
結局そのまま3人で一緒に歩くことになってしまった。会話もなく重い雰囲気のまま歩き続けていると、遠くから声が聞こえた。高い、女の声だった。
(ユリアだ!)
3人ともそう思った。言い争うような声だったので、灯りが見えた後は音を立てないように慎重に進んだ。
『なにすんのよ! 聖女にこんなことしていいと思ってんの!? もう祈ってやらないわ! お前のせいだから! お前のせいで祈らないんだからな!!!』
ユリアが怒り狂っているのがわかる。『祈り』を脅しに使っていることには全員が驚いた。聖女と呼ばれる人間とはかけ離れた発想だ。
(あれがカイル!?)
こっそりと覗き見たレミリアは、カイルの変わりように息をのんだ。あのふてぶてしかった大柄の男は見る影もなく、耳を切り落とされ、目はやせ細って窪み、髪の毛も一部抜け落ちていた。何よりユリアにぶつけられる言葉でどんどん生気がなくなっているのがわかる。
グレンもボロボロだったが、使命感があるからか生気を感じた。でもカイルは違う。何が起こったのかハッキリわからないが、その姿はただ哀れだった。
そして遅れてたどり着いた3人は、ユリアが聖女の祈りを放棄していたことを知った。
この国で生まれ育ったレミリアとアルベルトにとってそれは衝撃的なことだった。血の気が引いた。それほど恐怖に思えることだったのだ。
『アハハ! あんな負け犬! 私と大賢者様との愛の障害でしかないわよ!』
レミリアは聖女がアルベルトをただの障害物扱いした瞬間、アレンとアルベルトの間に入った。アルベルトがアレンになにかするかもしれないと心配になったからだ。だがアルベルトは見向きもしなかった。
『こんな王国いらないわよ! 私は帝国に行くわ! 帝都の大都会で大賢者に愛されながら生きていくの!』
その言葉が終わった後、アルベルトは中へ入って行った。
「ユリア」
呼ばれたユリアは振り返らなかった。ただビクっと体を震わせた。
「ユリア」
レミリアの方からは彼女がどんな表情をしているかわからない。ユリアはアルベルトが来たことがわかっている。そして先ほどの言葉が聞かれたことも。
レミリア達もアルベルトの後に続いて大きな空間の中へと入った。奥にいるジークボルトと目が合う。
少し困ったような顔で首を横に振った。
「ユリア。俺は君を裁きにかけようと思う。……生き残れただが」
そうしてようやく、ユリアはアルベルトに向き合った。
「はぁ?」
完全に馬鹿にする表情だった。アルベルトへの愛なんて初めからなかったのだ。彼女が愛していたのはアルベルトという皆が羨むブランドに過ぎなかった。
そしてすぐにアルベルトの後ろにいるアレンに気がついた。急に表情が喜びに変わっていく。
「大賢者様! やっぱり助けに来てくれたんですね! 私、信じてました!」
急に態度をころりと変え、か弱い乙女ぶり始めた。目に涙を浮かべ、声を振るわせ、体を縮ませて恐怖に震えるフリをした。
レミリアは初めてユリアを怖いと思った。
(どんな頭してたら今までのやり取りを聞いてた人間が、アンタを助けようと思うのよ!?)
アレンも今日は笑っていなかった。警戒の表情を浮かべ、レミリアの前に立つ。
「私はその奥にいる男に用があるだけだ。君はたまたまここにいただけだろう」
「わかってます! レミリア様にそう言えと言われてるんでしょう? 大丈夫です。大賢者様の愛はちゃんと伝わってますから!」
全員がゾッとした。話が通じない。同じ種族の生物とは思えなくなってきていた。
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