千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる

桃月とと

文字の大きさ
10 / 35
第一章 千年後の世界へ

第10話 遺物

しおりを挟む
 その日は長い一日だった。

「この箱を開けて欲しいんだ!」

 朝一番にやってきたのは観光客の男性。手には薄汚れた銀色の小箱が。魔法陣のような幾何学模様が刻まれており、小さな錠前も付いている。

「……お客さん、これをどこで?」

 ユーリがにこやかに尋ねた。今日は大学がお休みということで、祖父の代わりに店に出ている。

「こ、こここれは露店で買ったんだよ」
「そうですか」

 観光客はユーリの質問にわかりやすくうろたえていた。それからそれを隠すかのように声が大きくなる。

「開けられるのか、開けられないのかどっちだよ!」
「ん~~~無理ですね。たぶんこれ、通ってないですよ」

 そう言いながら、ユーリは黒い特殊な手袋をはめ始めた。これは魔力を通しにくい素材で作られたもので、この街でトレハン――トレジャーハンターの資格を持っている人間は誰でも持っている。

「こういう紋様が入ってるのに検査通ってないやつ、けっこう危ないんですよね~」

 ちょうど店の奥から、エリオとメルディが商品の入った箱を抱えて店内へ入って来た。最近店の売れ行きがよく、品出しの頻度も上がっている。

「ん?」

 メルディがデッサン人形と小鳥の剥製の入った箱を床に置いた時だった。久しぶりの気配を感じ取った瞬間、眉間に皺がよる。

「もういい!! 自分でやる!!」

 手袋をしたユーリの手が届くより先に観光客がカウンターに置かれていたその小箱を奪い取る様に握り、錠前を無理やり外そうと力を込めた、それとほぼ同時。

「うえええええっ!!?」

 ガンガンガンガン!! と、小箱から金属がこすれぶつかり合うような耳をつんざく甲高い音が店を震わすほど鳴り響いたのだ。

「あー!!! お客さんダメダメ!!!」

 ユーリの叫び声も虚しく、観光客は大慌てで小箱を放り、耳を塞ごうとしたが、

「うわぁぁぁぁ!!!」

 信じられないことに、銀色の固い小箱がピョンピョンと飛び跳ね始めた。それも観光客目がけて。

「あいたっ!!!」

 そのうち一発は鼻にクリーンヒット! 思わずうずくまるその男性に、小箱が助走をつけて飛び掛かっていく。男性は青ざめながらパニックに陥り始めた。

「ヒィィィィ!!!」
「ちょっと!!」

 なんとか逃れようと店内を走り始めた男性はあっちにぶつかりこっちにぶつかり……貴重なアンティーク品が商品棚ごとガタガタ揺れる。だが、それが突然ピタリと制止した。メルディの魔法だ。人差し指をくるくる回し、男性が行く先行く先にシャボン玉のような膜を張っていく。やわらかなポヨンとした音は、残念ながらけたたましく鳴り続ける小箱にかき消されていたが……。

「あぶね!」
「うわぁ!」

 突然方向転換した男性がメルディの方目がけて突撃してきたのだ。だがエリオが庇うように彼女を抱き寄せた。

「……ありがと」

 こんな風に誰かに助けられたのが初めてだったメルディは少し照れくさい。なんせいつも凶暴な魔獣を一人で狩っていたのに、今日は商品を守るのに必死で自分の身に意識がいかなかったのだ。平和な日常に慣れ過ぎていた、というのもある。

「これどーすんだ……」

 頭の上から聞こえてきたエリオの声にハッとしたメルディは、ついに追い詰められ頭を庇って縮こまる男性をしつこく小突き回している小箱に向かって、ブツブツと小声で呪文を唱えた。

スタグナオブムテスク制止・沈黙せよ

 ガタンッと音を立ててそれは地面に落下した。店内が突然シンと静まり返る。ショーウィンドウの向こうで、たくさんの観光客が何事だと立ち止まっていた。

「はぁ~~~メルディが居てくれてよかった……」

 ため息をつくように吐き出したユーリの声が聞えた後、コクコク頷くエリオの顔をメルディは間近で見ることになったのだった。

 この観光客はその後、マグヌス屋敷の跡地にある、現在発掘中のエリアに侵入してその小箱を見つけたと白状した。【遺物審査局】の局員と警察にみっちり叱られ小さくなりながら。

「まさか本当に魔道具が存在するだなんて……魔がさして、つい……」
「ここはキルケですよ! 今でもまれに動く魔道具が発掘されるんです! だいたいなんのためにトレジャーハンターの資格が存在すると思っているんですか! もし今日誰かを傷付けていたら、あなたは禁固刑もありえたんですよ!?」

 フォリア・アンティークスの店内はメルディの魔法に守られ傷一つなく、もちろん男性以外は誰も怪我をしていない。ユーリが店内での状況を魔道具の専門家の局員と警察に説明している。彼らがギョッとしているのはメルディの話を聞いたからだ。チラリと視線を見習い魔法使いに向け、いかんいかんと職務に集中する。

「ねぇ……あの人、牢屋に入れられちゃうってこと?」

 こそこそとメルディはエリオに尋ねた。少し可哀想だと思っている顔だ。なんせあの魔道具、メルディには見覚えがあった。

(あれ、師匠が作ってたやつだ……。なんにも入ってないのに鍵を開けようとすると大騒ぎするだけの小箱……)

 しかも鍵が付いているのに中には何も入っておらず、さらに他人の気を引くようにわざと怪しげに光ったりするのだ。なによりそんなものを遊び半分で作っていたことを彼女は知っていた。

(質が悪いんだから……)

 千年後の世界でまんまと師匠の悪ふざけにハマってしまった男性にメルディは同情していた。

「理由はどうあれ悪いのはあのおっさんだ。だけど今回は被害なしってことでギリ罰金刑だろうな。メルディのお陰だよ」
「いやもちろんそれはそうなんだけど……そうなんだけど~……」

 なんとも歯切れの悪い言葉が出てきてしまう。それはこの男性があの後すぐに誠心誠意店に謝罪をし、メルディに感謝の言葉を述べていたからだ。

「意外と甘いんだな」
「そうかな!? まあ誰でも失敗はするし……一回くらいはね」

 彼女もこれまで散々失敗してきた。レオナルド・マグヌスは滅茶苦茶な魔法使いではあったが、失敗には寛容だったのだ。……おちょくることは忘れなかったが。

「メルディさん。本当にお世話になりました。実は魔法の存在を信じていなかったんです……陰謀論だと思っていて」
 
 最後に改めて礼を言いにやって来た男性は深く深く頭を下げていた。
 世界で十人だけ存在すると言われている【魔法使い】はもはや近年、幻の存在だと思われていたのだ。それ故に歴史上、世界に魔法など存在しなかったという陰謀論まで広まり始める事態になっていた。

「もう絶対に拾っちゃダメですよ……じゃなかった、発掘現場のもの盗んじゃダメですよ!」
「それはもちろん! 本当、なんであんなことしちまったのか……」

 深く反省しているらしく、思い出すだけでしおれていったが、

「いやでも……店の中での出来事はまるで夢のようだったなぁ~これぞ感動体験! 罰金払ってでも経験してよかった……!」

 夢見る少年のようにキラキラと目を輝かせたこの男性の肩を、再び遺物審査局の局員と警察がガッツリと掴み、懇々と説教が再開したのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。 一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。 もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。 ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。 しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。 エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。 そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。 「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。 エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。 ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。 ※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』

無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜

矢口愛留
恋愛
クリスティーナは、初級ポーションすら満足に作れない無能聖女。 成人を迎えたことをきっかけに、これまでずっと暮らしていた神殿を出なくてはいけなくなった。 ポーションをどうにかお金に変えようと、冒険者ギルドに向かったクリスティーナは、自作ポーションだけでは生活できないことに気付く。 その時タイミングよく、住み込み可の依頼(ただしとても怪しい)を発見した彼女は、駆け出し冒険者のアンディと共に依頼を受ける。 依頼書に記載の館を訪れた二人を迎えるのは、正体不明の主人に仕える使用人、ジェーンだった。 そこでクリスティーナは、自作の失敗ポーションを飲んで体力を回復しながら仕事に励むのだが、どういうわけかアンディとジェーンにやたら甘やかされるように。 そして、クリスティーナの前に、館の主人、ギルバートが姿を現す。 ギルバートは、クリスティーナの失敗ポーションを必要としていて――。 「毎日、私にポーションを作ってくれないか。私には君が必要だ」 これは無能聖女として搾取され続けていたクリスティーナが、居場所を見つけ、自由を見つけ、ゆったりとした時間の中で輝いていくお話。 *カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

処理中です...