千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる

桃月とと

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第二章 師匠の墓はどこ?

第17話 自立

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 息を吐くと一瞬だけ白くなる。そんな日が一週間ほど続いた。

「そろそろね」

 テレビの天気予報を聞いて、メルディはニヤリと口元が上がる。今年一番の寒波到来。しばらく寒い日が続く。

「なにがそろそろなんだ?」
「エオリウスの枝葉の採取に行こうと思って」
「そっか! 寒くなったしね」

 ローブ作りの残りの材料、アラクネの糸はアルティスナ製薬から正式に譲渡されることが決まっていたので、あとはその枝葉だけになっていた。
 キルケの隣町、天然温泉で有名なベルロアには街中にも多く植えられているのだが、

「できるだけ千年前と状況が近い方がいいかと思って、ベルロアの奥にまだ森が残ってるでしょ?」

 ネット検索できちんと下調べしました! なんならすでに採取グッズを揃えてます! と、鼻高々のメルディだったが、

「でもそこ、自然公園だろ? 勝手に採取なんてできんのか?」
「あ~確かに……保護区になってるしねぇ」

 エリオとユーリは顔を見合わせてちょっと気まずそうに眉をひそめている。正直答えはわかっている。国立公園であるベルロアの森の木々を勝手に採取はできないだろう、と。

「……え? 森の中のものって勝手に取っちゃダメなの……?」
 
 そもそもがわかっていなかったメルディはガクッとうなだれた。そういえば、アラクネの糸も申請して手に入れたことを思い出し、いくら慣れたとは言っても、結局自分の出身は千年前の世界なのだと思い知る。

(わーん! いっぱい準備したのに!!)

 千年後の世界の採取グッズ(メルディから見るとそう見えるのだ)は魔道具と遜色ないほど便利なものがたくさんだった。

「ネットショップの箱がよく届いてたのって……」
「……そういや最近新市街地によく出かけてたな」
「うぅ……そうなのぉ……ついつい欲しくなって色々買っちゃった……」

 その道具を使うのも楽しみだったのだ。ただこの道具達、どう考えても過剰装備――メルディの知っている森と千年後の森は随分と違う――だということがこの後判明し、

「暖かくなったらキャンプにでも行こうよ」

 そう二人に慰められたのだった。

◇◇◇

 アンティーク店の掃除をしながら、メルディは珍しくしょげたままだった。どことなく、埃を集めるメルディの風の魔法も弱々しい。

(情けない……もう子供じゃないのに)

 千年後に転移して数ヶ月。ユーリにもエリオにも、その他このキルケの街の人々に世話を焼かれて、いい加減一人で全部できると思ったのだ。なのにいまだに子供みたいに面倒を見てもらっていることにメルディは落ち込む。
 エリオが、そんなメルディを見かねて声をかけた。

「ベルロアに行くの、俺達が休みに入ってからにしろよ。せっかくだから一緒に行こうぜ」
「……うん。ありがと」
「そんなにショックだったのか? 自然公園で採取ができないのが」
「いやぁまた助けてもらっちゃって……なかなか自立できなくってごめんね」

 へへへ、と力なく笑うメルディ。

(ああそうだ……私が師匠に弟子入りしたのって、一人で生きていく力が欲しかったからだったな)

 メルディがまだ道端で文字通り泥水をすすって生きていた時、彼女は一人だった。一人で生きていた。だが、マグヌスに拾われて一人で生きていけなくなったのだ。

(違うか……一人で生きてたけど死にかけて、そこで師匠に拾ってもらったんだっけ)

 マグヌスに拾われたのも、寒い冬の日だった。見様見真似で獲得した炎の魔術で暖をとっていたが、いつの間にか寒空の下魔力が尽きて死にかけていたメルディは、レオナルド・マグヌスによって命を救われた。
 エリオはまだ上の空のメルディの近くまでやって来て、商品テーブルの上で乱れていたガラスの指輪を綺麗に揃えながら、

「助け? そんなの当たり前だろ。人間は社会的動物なんだからな。助け合って生きてくもんなんだ」
「シャカイテキ動物……」 
「そう。俺も助けられてる。色んな人間にな。メルディ、お前にもだぞ」

 横目でメルディに穏やかな視線を送った。

「私にも……?」

 エリオを助けたことなんてあっただろうか? と、彼女はうーんと悩み始める。

(そういえばエリオのこと、あんまり知らないな)

 出身も家族構成も子供の頃の話も。ユーリのはよく知っている。ダルク達とそんな話をよくしているからだ。

「別に難しく考えることなんて何もないんだよ。メルディだって俺を助けた自覚はないだろ? 俺達も同じ。お前を助けた自覚なんてないんだから、そんなこと気にするだけエネルギーの無駄だ無駄!」

 ふっと笑顔を見せた。メルディが安心できるように。

「もっと気楽に楽しんでくんだろ? 千年後の世界」
「……うん、そうだった……ちょっと寒さにやられてたみたい!」

 どうもあのマグヌスに拾われた日のことを思い出して、寒い日は気持ちが落ち込み気味になるようだと、今度はメルディも笑って見せた。

「なに!? マグヌスの話!!?」

 バックヤードから箱を抱えてユーリが店内に戻って来た。マグヌスの話題はなんだって聞いておきたい。

 エオリウスの枝葉の採取は、エリオの言う通り、彼らの冬休みに合わせて行くことになった。

「楽しんでおいで」
「温泉の後はちゃんと髪の毛を乾かすのよ!」

 ダルクとナーチェに見送られ、三人はベルロアへと出発だ。今回も運転はエリオ。なんでも、ユーリの運転は少々難があるらしい。

「ねぇ! 明日ノアさんに会えるんだよね!!? オレも一緒でいいんだよね!!?」

 会えなかった魔法使いに会えると知ったユーリは、ここ最近ずっとこの調子だった。助手席で今日もわあわあと騒いでいる。

「大丈夫。ベルロアでマンドゴラ渡す時に友達も一緒だって了解とってるよ」

 友達という単語を使った後、メルディは実はちょっと照れたのだが、ユーリもエリオもそれには気付かない。

(うん。一人で行くより楽しそう)

 流れる景色は真っ白な世界になっていた。   
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