【傾世の悪役令嬢】になるのを回避したらいつの間にか【救世の竜騎士】と呼ばれるようになった話する?

氷曳

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プロローグという名の状況説明

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血の気の引くような、フラッとした感覚。眩暈のようなそれは一瞬で治り、その時にはオレは、己にまつわるいくつかのことを理解した。

即ち、現代日本で生きた前世の記憶を持って、当時プレイしたことのある乙女ゲームの世界に転生しているという、ライトノベルのような訳分からん事態になっている事実を。

「ウソだろ……」

その衝撃はまるで雷に打たれたかのようで、オレはしばらく動くことができなかった。そんなオレの頭上に、ふっと陰が差した。蛇が鎌首をもたげるようにして上から覗き込んできたのは、銀色の鱗を持つドラゴン。オレみたいな子どもくらいなら一口でパクッといけるであろう大きな竜は、その視線をじっとオレに注いでいた。

「レムグンド」

名前を呼んで鼻先に手を伸ばすと、彼は琥珀色の瞳を細めてそっと頭を寄せてくる。急に動きを止めたオレを心配してくれたのだろう。滑らかな鱗の、生物が確かに生きている感触。手に感じるそれがオレの心を落ち着けてくれた。

---状況を整理しよう。うん、そうしよう。

まず、前世の記憶。現代日本で平々凡々な家庭に平々凡々な容姿と能力を持って生まれて、それなりに山あり谷あり彼氏なしな人生を送り、放置した虫歯によって死んだ--なんて死因だ。こんなことなら「あのキュイーンって音やだ」とか言ってないで、ちゃんと歯医者に行っておくんだった--という記憶だ。家族とか友達とかに対して思うところがない訳ではないが、もう死んでしまったものは仕方ない。同じ後悔をしないためにも、今の人生を大事に生きなければ。

さて、何で記憶を持って転生したかについてだけども、心当たりはさっぱりである。神様に何か不手際のお詫びだったり使命だったりを聞いたことはないし、第一神様に会ってない。もうこれは考えても時間の無駄の気がするから、その辺りにポーイと投げておこう。投げやりとか言うな。

次に、転生したこの世界について。生を受けてまだ7年目の所感だが、文化や生活水準の差の他に決定的な違いがある。レムグンドを見れば分かるだろうが、この世界、とてもファンタジーな世界だ。神は実在していて、恵みを与えることもあれば気まぐれに災いを招くし。普通の動植物とは違う、ドラゴンみたいな魔物がそこら中に生息しているし。エルフや獣人といった、亜人種達も繁栄しているし。神の祝福と言われるスキルや魔力を操って奇跡を起こす魔法も存在するし。元現代日本人からすると魔法はとっても面白そうで、オラわくわくすっぞ!な気分になる。是非ともそこんとこ詳しく聞いてみたい。

………その前に、わくわくできない未来について考えなければならない。

そう、この世界が乙女ゲームの世界であり、オレ---ゼルダ・イーグルが物語における悪役令嬢になるということを。
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