ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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 彼はドロプウォートの事を、何も出来ない『ダメ勇者』の自分とは違う、何でもこなせる完璧で、近寄り難い、高嶺の花と思っていた。
 しかし、時おり彼女が見せる飾り気のない素顔は、一般的な女性と何ら変わらず、
(僕は今まで自分勝手に決めつけて、自分勝手な壁を作っていたのかな?)
 自嘲すると、

「ドロプウォートさん」
「な、何ですのぉ?」

 ドロプウォートに向かって自身の口元を指差して見せ、

「付いてるよ♪」
「!」

 ギョッとするドロプウォート。
 恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め上げ、

「わっ、わわわ分かっていましたわぁ! 食事の途中で話しかけるからですわ!」

 口元から取ったが、
「…………」
 取った料理の破片をしばし見つめ、
(捨てるのが「当然の作法」でぇすわよねぇ……ですが、この様に美味しい物を……)
 心の中で「マナー」と「欲」の激しいせめぎ合いの末、

(えぃ! ですわぁ!)

 欲が勝ってパクリ。
(私、いけない事をしてしまいましたわぁ~♪ お父様とお母様に知れたら、何と叱責されますでしょう~♪)
 妙な背徳感に浸り、誰に言うでもなく、
(そもそも食べ物を粗末にしてはいけませんですからぁ)
 心の中で言い訳し、行為の正当化をしていると、

「っ!?」

 生温かく見つめるラディッシュの眼差しが。
 慌てて取り繕う様に、
「たっ、食べ物を粗末にするのは食材に対する冒涜ですからぁあぁ! わっ、ワタクシ背徳感など微塵もぉ感じておりませんですわぁ!」
 聞いてもいない言い訳を一人勝手にし始め、
「うんうん、そぅだよねぇ♪」
 ラディッシュが見透かした笑みで頷くと、

「でっ、ですかぁらぁ! そ、そのにょようなぁ&%#%$“%&#…………」

 言い訳は言葉になっていない声で次第に尻つぼみ、やがて耳まで真っ赤に押し黙ってしまった。
 初々しいうつむき姿に、
(もしかしたらドロプウォートさんは、この世界で初めての「僕の友達」になってくれるかも知れない……)
 淡い期待を抱きつつ料理を葉皿に取り分けると、先程から急に一言も発しなくなったラミウムに、
「ドロプウォートさんが美味しいて言ってくれたし、マズくはないと思うよ♪」
 差し出したが、ラミウムは身を乗り出すほど興味を示していた顔を不機嫌にフイッと背け、

「アタシは天世だよ。高貴なアタシが、そんな「拾った物」でこさえた料理を口にする訳がないだろさぁね。アタシは御免だねぇ」

 背まで向けると、倒木の上に横たわってしまった。
 逆ギレとも思えるふて寝に、

「なっ!」

 怒りを再燃させるドロプウォートであったが、
(僕たちが食べる量を、心配してくれてるのかなぁ?)
 ラディッシュは彼女なりの気遣いと受け取り、

「量なら気にしなくて大丈夫なんだよ? 足りなかったら、また作れば、」
「んなモノは食えないって言ってんだよォ!」

 背で怒鳴り、その声からは冗談の色も、皮肉の色さえ感じられず、本気の怒りである事は明らかであったが、あまりの態度の急変ぶりに怯えるどころか、
(どうしたんだろ……)
 むしろその身を案じ、
「じゃあ、置いておくから気が向いたら食べてね。食べないと城まで体が持たないよ」
 近くにそっと置いたが、向けられたままの背からは、
「……余計なお世話なんだよ……」
 この一言で、ドロプウォートの堪忍袋の緒が切れた。

「いい加減になさって下さいラミウム様ァ! 御自身が「採取」した訳でも「調理」した訳でもないのに、その物言いィ! ラディッシュの気遣いに対しても、あまりに不敬ではありませんかァ!」

 中世に生きる人々にとって天世人とは、地球で言うところの神とは若干ニュアンスが違うものの、信仰的対象である事には変わらず、崇敬の念を以って接すべき対象であり、天世人の言葉に逆らうは、中世に生きる全人々を敵に回すと同意であった。
 しかもドロプウォートは天世人と関わりの深い『勇者百人召喚の儀』を執り行う国の、最高位貴族である四大貴族が一子。
天世との関係を良好に保つにあたって、天世人の意に従うは絶対であったが、彼女が抱いた怒りとは、それら全ての事情を考慮してなお収める事が出来ないほど強い憤りであり、それは幼少期より『数々の理不尽』と戦って来た彼女だからこそ、抱いた怒りと言える。
 しかし、ラミウムは真っ向、受けて立つ気概で以って眉間に深いシワを寄せ振り返り、
「さっきは冗談で済ませたがねぇ、天世の恩恵で細々生きてる中世が、このアタシ(百人の天世)に何だってぇ?」
 その眼は鬼神の如き怒りを纏っていたが、信念を持って怒れるドロプウォートは臆する事なく、

「中世の人々は「貴方だけ」の恩恵で暮らしている訳ではありませんわぁ!」
「言ってくれるじゃないか「はみ出し娘」の分際でぇ!」
「末席の天世様に言われたくはありませんわぁ!」
「ま、末席……」

 奥歯をギリリと噛み鳴らすラミウム。
 逆上気味に、

「今「末席」と言ったかァい、小娘がぁ!」

 取っ組み合い必至の空気に、ラディッシュは慌てに慌て、
「おっ、お、お、お、お、お、お、おぉお落ち着いて二人ともぉ! ラミウム言い過ぎだよぉ! ドロプウォートさんも!」
「「…………」」
 睨み合う女子二人の間で右往左往し、
「食べたくないなら仕方ないよね?! ラミィにだって好き嫌いはあるだろうし! ねぇ、ドロプウォートさん! ドロプウォートさんにだって嫌いな食べ物があるでしょ?」
 必死に宥めると、
「「…………」」
 二人はラディッシュを間に挟んで、しばし無言の睨み合いの末、

「「フンッ!」」

 互いにプイッと背を向け、ラミウムは再び倒木の上で横になり、ドロプウォートも焚き火を背にゴロリと横になり、それぞれふて寝し始めてしまった。
 焚き火を中心に背を向け合い、離れて横になる女子二人。
 得も言われぬ緊張感と静けさの中、
「…………」
 ポツンと、一人取り残されるラディッシュ。
 困惑顔で焚き火に枯れ枝をくべながら、

(こんな調子で、城まで大丈夫なのかなぁ~)

 夕闇に移りつつある茜色の空を見上げた。
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