ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第二章

2-11

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 その日の夕刻――
 
 ドロプウォートの姿は教会から少し離れた、とある民家の前にあった。
「…………」
 おもむろに玄関に近づき、そして扉をノック。
 
『誰じゃな?』

 声と共に扉を開け出て来たのは、ターナップの祖父の大司祭。
 うつむき加減の彼女に少々面を食らいつつ、
「どうかされましたかぁ、ドロプウォート様」
 一先ず笑顔で声を掛けると、歯切れの良さが売りの彼女がポツポツと、まるで囁く様に、
「ラミィが……「村へ行くように」と言ったのは……その……「武技だけ」ではないような気がして……」
 精神的なダメージを受ける「何かがあった」のは明らかであったが、
(今さら「この老いぼれ」に、四大様を相手に如何様な助言が出来ようか……じゃが、)
 話を聞き、心持ちを軽くする事くらいなら出来るのではと思い直し、
「ほほぅ、それでワシのような隠居ジジィの下へ? ハテさて、お役に立てる事がありますかやらぁ」
 謙遜気味に苦笑した。
 
 しかし、苦悩を抱えた若者を前に「微力を尽くそう」と思った彼の表情は、次の言葉を耳に一変する。
「生体兵器とは、どう言う意味ですの……」

『!』

 ギョッとする大司祭。
「何故それを!?」
 以降の二の句を慌ててつぐむと、周囲に誰もいないのを確認し、
「ドロプウォート様、一先ず家の中へ。むさ苦しい男所帯ではありますがぁ」
 室内へと促し、うつむき加減の彼女は小さく頷いた。

 促されるまま家に入ると、大司祭は家の周囲を再度念入りに窺い、後に静かに扉を閉め、大きく息を吐き、
「ドロプウォート様……誰からソレを……」
「城を襲った「地世の導師」からですわ……」
「…………」
「当時は、単なる「売り言葉に買い言葉」と思っていましたの……ですが、村を訪れている「怪しげな占い師の男」にも同じことを言われ……」
 ラディッシュに近づくなと言われた事は、あえて胸に収めた。
 
 それを一度でも口にしてしまったら、その言葉に従わなければならない、そんな予感めいたモノがあったから。
 
 ドロプウォートは意を決し、訴える様に、
「何か知っている事がありましたら教えて下さいですぇわぁ!」
 悲痛な少女の叫びに、
「…………」
 大司祭は直視に耐えかね目を背け、苦悩に満ちた表情で、
「し、真実を知る御覚悟が、」

「ありますわ!」

 食い気味の即答に、彼女の決意の固さを悟り、
「…………」
 腹を括った彼は小さく息を吐くと、
「ドロプウォート様は……何故に「先祖返り」が生まれるか、ご存知か?」
「中世に危険が及びそうになった時、民を守る為……故に、安寧の世に生まれた私は「場違いな先祖返り」と煙たがれ……」
 辛酸を嘗めた過去を思い返すと、
「それは表の理由であり、何故に、何処から生まれて来るかの理由には、なっておりませぬ……」
「表の理由? 何処から??」
「真なるは天世様が「予知の天法」を用い、天世に危険が及ぶ時、その存在を以て天世に危機を知らせ、」
「待って下さいですわ。それは認識の違いでわなくて? 結果として中世を守るのと同意で、」
 口にしかけた考察を大司祭はキッパリと、
 
「いえ」

 違うと否定した上で、
「貴方様の存在は、中世を見捨ててでも天世を守る事にあり、」
「え?」
「それ故に貴方様は……造り出された」

「つ、造り出されたぁ?!」

「左様です……かつての魔王を倒した「勇者」と、当時の「序列一位の天世人」の因子をかけ合わせ」
「でっ、では、ワタクシは両親とは?!」
「誠に申し上げ難いのですが……オエナンサ家との血の繋がりはありませぬ……奥方様の体を借りた、代理出産のようなもの……」
「な!?」
(ですからあの時、お母様は!)
 別れ際、母親から言われた一言を思い出すドロプウォート。
 
(あれは旅立つ我が子へ宛てた「心配りの一言」ではありませんでしたのね!)

 衝撃を受ける彼女に、
「天世に危機が近づきし時、天世様の天法により、最強の戦士を生むにふさわしい女性が母体として選ばれ、子を生ませると聞いておりますじゃ。そしてその時の負荷により、その女性は二度と子を……」
「ッ!」
 更なる衝撃が。
 一族の中で最も優しく、最も自分を理解してくれ、笑顔を絶やさなかった両親が、密かに抱えていた苦悩を知り。
「なんて……」
 続く言葉が出て来なかった。同じ女性の身としても。
 そして心が痛んだ。尋常ならざる自身の存在が、目に見えていた理由以外でも、両親を苦しめていた事実に。
「では私は……「人間ではない」のですね……」
「そ、それは……」
 答える事が、出来なかった。当たらずとも遠からずであったから。
「…………」
「…………」
 過酷な運命を背負わされ「うつむく一人の少女を前に、かける言葉が見い出せない大司祭。
(ワシは、なんと無力なことか……長らく人々の苦悩と向き合っておきながら、悩める少女の救いとなる「言葉の一つ」さえ見つけられぬとは……)
 無力感に苛まれ、視線を落とすと、
『大司祭様』
 呼び声に、顔を上げる事が出来ない。
「…………」
 どの様な感情で、どの様は表情で、彼女と向き合えば良いのか分からなかったから。
 
 しかし、苦悶する彼を前にドロプウォートが発した二の句は、想像だにしなかった意外なモノであった。
 悲嘆に暮れていると思われた彼女は、
 
「少しスッキリ致しましたわ♪」

 軽やかな物言いに、
「?!」
 驚き、顔を上げる大司祭。
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