ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第四章

4-36

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 人並み以上の過酷な経験を負って来た七人は言葉を失い、それぞれの脳裏に浮かんでは消えて行くのは、取り返す事が出来ない悲しき時間の数々。

 それはラディッシュ達のみならず、エルブ国で、フルール国で、カルニヴァ国で、アルブル国で、自分たちが要因となり、知らず知らずの内に、いったいどれ程の涙が、血が、流される結果となっていたのか。
 愕然の事実を知らされ、茫然自失で立ち尽くす中、

『ラミィの話はぁ!』

 ラディッシュの悲痛な叫びに、
(またぁラミウムゥ……)
 再び感情がヒリつく、ハクサン。
 とは言え、彼の苛立ちに気付く余裕がないラディッシュは、
「ラミィの情報を教えてくれる話はウソだったのぉ!」
 当然である。
 彼にとって「聖具集め」は二の次で、ラミウムと再び「相見える事」こそが、彼の本懐であったのだから。

 それ故に、眼を背けたくなる惨劇、現実とも、逃げずに向き合って来た。
 にもかかわらず彼は唐突に、

『どいつもぉこいつもぉ「ラミウムラミウム」とウルサァイいんだよォオッ!』
(((((((!)))))))

 溜め込んでいた「負の感情」を一斉放出させるように、
「地世も中世も天世さえも暇さえあればアイツの名ばかりぃ!」
 常軌を逸した眼をして、

「目障りなアイツを蹴落として序列一位を奪ったぼぉくが「そんな事」を知る訳ないだろォ!」

 内に秘めた嫉妬心を、それと気付かずぶちまけた。
 ラディッシュの信頼を、重ねた苦悩を、「そんな事」呼ばわりで片付けて、踏みにじり。

 ラミウムは三世(さんぜ:天世・中世。地世)において、良くも悪くも注目の的であった。
 地世に目を付けられる程の「戦闘力の高さ」もさることながら、型に囚われない気さくな性格ゆえに、中世に降りれば人気者。
従順を好み、型破りを嫌う天世の元老院ですら文句は言いつつも、事あるごとに口にしたのは彼女の名前であり、手のかかる子ほど可愛いとは言うが、言い得て妙。

 ハクサンは序列二位でありながらも注目を集める事はなく、「眩しい彼女の存在」の影の下、いつしか付けられた二つ名は「万年二位」と言う不名誉な仇名であった。

 しかしながら彼女には何においても勝つ事は叶わず、的を射た仇名である事は本人が一番よく理解していた。
 そして分かっているが故に、嫉妬と認める訳にはいかなかった。

 嫉妬があると言う事は「憧れがある」との裏返しであり、彼にとっての完全敗北を意味したから。
耐え難き悔しさがある半面、彼の脳裏に浮かぶのは、

(…………)

 彼女が向ける、誰に対しても分け隔てない、飾り気のない笑顔。
 好意と敵意の狭間で、
(ぼくぉアイツでぇ何が違うって言うんだァ!)
 自己中心的な怒りに打ち震え、

「ぼくぁ口添えして、ぼくぁ一位にならなければアイツはとうに処分されてぇ、」

 自身の優等さを、正当を訴えようとした矢先、
「なっ!?」
 背を向け歩き出す仲間たちに気付き、

『ぼくぉ置いてぇ何処へ行くぅ!』
「…………」

 歩みこそ止めるラディッシュ達であったが、一瞥さえくれずに背中で、
「ラミィの手掛かりを探しに……」
 言葉少なく、他人行儀な返答に、

『せ、聖具はどぅするのさぁ!』
「…………」

 駆け引きを用いた引き留めをした上で、
「そんな死んだヤツの事なんかよりぃ! ぼくぉ下に居れば中世を天世の支配から解放して、」

『ハクさァアァん!』

 以降の言葉を言わせず、
「…………」
 その「決別の色」を多分に含んだ叫び声に思わず彼が黙ると、背を向けたまま、
≪鍛えてくれた事ダケには感謝してる≫
 それは裏切られた思いで打ちひしがれるラディッシュが、辛うじて平静を保ちながら口に出来た「最後の感謝の言葉」であった。
「…………」
 無言のうち、仲間たちと再び歩き始めると、次第に遠ざかって行く七つの背に、

『ふっ、ふざけるなぁあぁぁぁあぁぁ!』

 ハクサンは怒りとも悲しみともつかぬ咆哮をぶつけ、
「許さない許さなぁい許さなァいぃ! ぼくぉ拒絶するなんて許さなぁあぁいぞォオォオォオッ!」
(どぅしてぇなぁんだぁ!)

「ぼくぁ百人の天世の序列一位だぞォおっぉお!」
(どぅしてぼくぉ周りには人が集まらなァい!)

「そのぼくぉ裏切っておいてぇ、生きて帰れるとぉ思うなぁぁぁあぁぁっ!」

 言っている事が支離滅裂。
 自らが裏切っておいて「言えたセリフ」ではなかったが、
(ぼくぉ受け入れないなら! 認めないならぁ!! こんな世界なぁんてぇえ!!!)
 過剰に血走った両眼は、

『こんな世界なんてぇもぅ要らなァいぃッ!』

 猛り狂い、

≪我がチカラァ、天世のチカラを以て我は命ず!≫

 白き天世の輝きにその身を包み、想定通りの展開に、
(((((((やっぱり……)))))))
 立ち止まり、静かな怒りを以て武器を構え振り返ると、彼はかつて仲間たちに一度も見せた事の無い「陰りを持った歪んだ笑み」を向けていて、

≪萌芽ァ!≫

 叫んだ途端、蝋人形のように終始黙って跪いていた重鎮たちが、怯え縮こまっていた宰相アルブリソが、無感情であった幼王アルブルまでもが、

『『『『『『『『『『ギャアアァァッァァァ!』』』』』』』』』』

 悲鳴を上げ、彼らの中で「謎の白き球」が破裂。
 中から黒き靄が一斉に吹き出し彼らの全身を包み込み、今まで何度も目にし、幾つもの悲劇を生んだ「合成獣の誕生」を促す、

「「「「「「地世のチカラァ!」」」」」」

 ラディッシュ達は驚愕の声を上げた。
 フルール国での修業を経て、感知能力は格段に向上していたにもかかわらず、合成獣を生み出せるほどの「強大な地世のチカラ」など、微塵も感じなかったから。
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