ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-12

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 アルブル王の訃報に続き、今度はアルブル国の精神的支柱であった「カデュフィーユ」が野盗の襲撃を受け、命を落とし、子供たちも行方不明となったと聞かされたのである。

 春の青空の様な「温かさ」と「爽やかさ」を兼ね備えた彼の笑顔を思い返し、
(あの傑物を絵に描いた様な御人が野盗如きに!?)
 にわかに信じ難い話であったが、それ以上に気掛かりであったのは、

(キーメ……スプライツ……)

 研究所の生き残りであり、これからの幸せを願っていた、幼い双子の安否。
 今すぐにでもアルブル国へ調査に向かい、事実関係を確かめたい気持ちはあった。
(しかし……)
 彼は敗戦国パラジットのイチ兵士。
 任された和平交渉や賠償交渉を投げ出して、宗主国であるアルブル国に乗り込んで行くなど再び収監されるのがオチで許される筈も無く、かつての短慮の反省を踏まえ、

(今は自分の「成すべき事」をして、二人の無事を今は祈るより他にない……)

 苦渋の自重を選択した。
 そんな思いを内に抱えながらも、他国との交渉に日々を費やすある日、
「…………」
 何かを感慨深げに見上げ、

(綺麗になってる……)

 呟くミトラ。
 彼が見上げていたのは「王都」改め「首都」となったパラジクスにある、以前は修繕工事中であった軍本部。

 足場は外され、軍の象徴らしい凛とした佇まいを見せる施設を前にし、時間の経過を噛み締める彼ではあったが、今回もまた「交渉人に任命」された時と同様、理由も告げられずに「出頭命令」を受けていた。
 ミスをした覚えは無かったが、

(交渉中の「何処かの国」からの苦情、かなぁ……)

 こぼす様に呟き、足取り重く中に入ると、修繕を終えた施設内は外側と同様、当然ではあるが新築の如く真新しく、
(元通り? まぁ、元の状態を知らないから何とも言えないけど……)
 気分が少し上擦った。
 他国の一部要人たちから厳しい言葉を投げつけられる、神経をすり減らす交渉の日々の中、久々となる身内(自軍)からの呼び出しでもあったから。

 瓦礫と砂埃まみれであった「小綺麗になった階段」を上がり、廊下を進み、やがて足を止めたのは、再訪となるクスキュート大佐の部屋の前。

 服装のヨレを正して扉をノック。

 扉を開ける前でありながら、初々しさを残す以前とは違う「熟れ(こなれ)」を感じさせる、凛然たる敬礼をすると、
「ミトラです! 出頭致しました!」
『入りたまえ』
 以前と変わらぬ声に一呼吸してから、

「失礼します!」

 扉を開け、入室した。
 室内も、以前と変わらぬ不要な物の一切をそぎ落とした、質実剛健を体現したかの様な部屋。

 クスキュートはその様な部屋の「変わらぬ窓辺」に置かれた、持ち主と似合いの無骨な事務机のイスに腰掛け、再会に表情を緩めることなく彼を真っ直ぐに見え、
「噂は聞いているぞ、少佐。隣国からの評判も良く、活躍しているそうだな」
 ミトラも称賛に気を緩めることなく毅然と机の前に立ち、直立不動で、

「自分は与えられた任を全うしているに過ぎません!」

 無難な応えに、
「そうか。まぁ楽にしてくれたまえ」
 クスキュートは皮肉ともとれる微かな笑みを口元の端に浮かべ、
「今日、貴君を呼び出したのは……」
 何かを口にしかけてから、
「…………」
 思い改める様に、軍隊式の休めの姿勢を取るミトラに、

「貴君は、先日アルブル国で起きた事件の概要を知っているかね?」
(なんだ……隣国からの苦情じゃないのか……)

 内心で少しホッとしつつ顔には出さず、
「あまた合成獣から「襲撃を受けた件」でしょうか?」
 確認にクスキュートは小さく頷き、
「貴君らの耳には、何と届いている?」
「王都アルブレスに突如として出現した合成獣の大群を、居合わせた勇者様一行が辛くも撃退したとしか聞き及んでおりませんが……?」
「そうか」
 彼の小さな頷きに、

(大佐は何が言いたいんだ? っと言うか、そもそも自分は何で呼び出されたんだ?)

 不思議に思っていると、
「これから話す事は、世間的には伏せられている話だが」
 物々しい口調で前置きした上で、
「件(くだん)の首謀者は「ハクサン」様だ」

『なっ?! はっ、ハクサンさまがぁあ!?』

 毅然を維持できないほど、驚愕するミトラ。
 当然である。
 一国の王都を、しかも天世が直接の庇護下に置いている国の一つ「アルブル国の王都」を、百人の天世人の序列一位が直々に壊滅へ追い込もうとしたとの話であったのだから。

 安易に信じられないのも無理からぬ話ではあったが、更に追い打ちをかける様に、
「その折、唯一継承権を持つ「幼王アルブル」も命を落としたそうだ」
「そんな! それは信憑性のある話、なのでしょうか?!」
(それが事実なら、これからの交渉に問題がぁ……)
 事は「対岸の火事」で済まなかった。

 何故なら、他国との賠償・外交交渉の場において「担当責任者ミトラの人柄」も重要ではあったが、それ以上に敗戦国パラジットの宗主国が強国「アルブル国」である事に意味があったから。
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