ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第七章

7-17

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 ラディッシュが寿命の縮む思いをしていた頃――

 巻き添えを恐れて逃亡したターナップは青空の下に一人、
「…………」
 生まれ育った村を、そぞろ歩いていた。

(あっ、危なかったぜ……)

 パストリスに姿を見られなかった事に安堵を覚えていると、
「イイ天気ですねぇ若様ぁ♪」
「今日は御一人なんですねぇ、若司祭様ぁ♪」
 村人たちに声を掛けられ、気さくな笑顔で手を振り応えたが、その心の内では、

(…………)

 とある決意を抱いていた。
(今の時間だとジジィは教会か……)
 足先を教会に向け直して歩き出し、

(やっぱぁコソ泥みてぇにチマチマするのぁ俺の性に合わねぇ!)

 歩く速度を速めて勢いそのまま、
 バァン!
 教会の扉を開け放ち、

『やいジジィ!!!』

 祭壇に向かって祈りを捧げている最中であった大司祭の背に、いつもより強めのケンカ腰で怒鳴ると、
「やれやれ騒々しい気配が近付いて来ると思ったら「やはりお前」か。今度は何の騒ぎ、」
 祖父の呆れ交じりの振り返りを待たず、

『俺に見せてねぇ「オヤジが遺した本」があんだろ!』
「お、お前……それを何処で?!」

 驚きを隠せぬ様子に確信を持った彼は、
「ガキん頃に見ようとして、一度こっ酷く怒られ……って、それぁどうでもイイ!」
 前置きを自ら打ち消し、

『その本を俺に見せやがれぇ!』

 すると大司祭は猛る若司祭とは真逆の、祈りの姿勢を冷然で解いて静かに立ち上がり、
「天技を使わぬ格闘戦で、このワシから一本取れたら見せてやる」
 威圧するでも、気負うでもない、凪のような物言いに、
(…………)
 第六感的な「畏れ」を背筋で感じるターナップ。
 しかし戦う前から気持ちで負けていては勝負にならず、

『面白ぇじゃねぇかぁ! ガキの頃との違いを見せてやるぜぇ!』

 気概と気合を見せこそしたが、むしろ気負い過ぎ。
 本人にその自覚があるか無いかは不明であるが、感覚的に感じた「畏れ」を意識しするあまり、冷静さを欠いた「前のめり」になっていた。

 ただならぬ空気を纏い裏庭へ移動する、大司祭(祖父)と若司祭(孫)。

 騒ぎを聞きつけ、執務室から駆け付けるインディカやスパイダマグ達親衛隊。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 固唾を呑んで見守る中、

「「…………」」

 二人は静かに距離を取って対峙する。
 ヒリヒリと肌を焼く、言い知れぬ緊張感が場を支配する中、本気で正対して改めて知る祖父の存在感の大きさ。
小さく息を呑む孫ターナップ。

(マジとんでもねぇ化け物だぜぇ……♪)

 強い相手を前に、畏怖に似た感覚はあるものの思わず口元が緩み、
「俺ぁラディの兄貴や、ドロプの姉さん方と、数々の修羅場をくぐり抜けて来たんだ。ガキの頃と同じだと思ってると、しばらくベッドの上での生活が待って、」
 勝ちたい思いの強さから軽口が口を衝いたが、

「イイから来ぬか」
「…………」

 祖父の静かな闘志に、
(クッ!)
 格の違いを見せつけられた気がした孫は苛立ちを覚え、

『大怪我してから吠え面かくんじゃねぇぞォオ!!!』

 気負いと共に殴り掛かった。
 一瞬の交差。
 そして、

「「「「「「「「「「なっ?!」」」」」」」」」」

 インディカやスパイダマグ達が息を吐く間も無く見た物は、

((((((((((何が起こったぁ?!))))))))))

 地面に背中を着け倒された、ターナップの姿であった。
 あまりに一瞬の出来事で、我が目を疑うインディカ達。
 試合開始後、瞬き程度の間に起こった事とは、孫が初手を「当てられた」と誤認する程の紙一重で祖父はかわし、

「まだまだァアァ!」

 孫が返す拳の裏で殴り飛ばそうとしたが、祖父は距離も取らずに足を止めスッと屈んでかわして、そのまま足払い。
 チカラ任せに拳を振り回していた孫は回避できず、容易に蹴倒され、

「痛ぇ!」

 地面に後頭部を打ち付け眼を開けると、

『ッ!?』

 そこには喉元に指先を当てる祖父の姿が。
 向けられた指先に息を呑み、

(あと数センチ、指先を出されてたら俺ぁ……)

 喉をえぐられ、即死していたかも知れない自分の姿に恐怖した。
 そんな孫を前にした祖父は、静かに手を引き戻しながら、
「これが実戦であったなら、死んでおったなバカ孫が」
「!」
「チカラ任せの、雑な戦い方をしおって……」
 何処か寂し気に呟き、

「…………」

 教会へ戻って行った。
 それは「孫の成長」を期待していた気持ちの裏返しか、現実を受け入れられない様子で固まったままのターナップを置き去りに。

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 掛ける言葉が見つからないインディカ達。
 当然である。
 彼は「七草の一人」を自称し、それに恥じぬ結果も残しておきながら、国はずれの田舎村の「老いた司祭」に、善戦どころか手も足も出ず、秒殺ならぬ、瞬殺されたのだから。
 積み上げて来た「自負とプライド」をズタズタにされたのは言うまでもなく、

「…………」

 思考は完全停止し、虚空をただ見つめるだけ。
 そんなさ中にあって、
「…………」
 彼の一連の行動から「何かしらの決意」を感じ取る、スパイダマグ。

 何を感じ、何を思ったのか。

 一枚布で隠された素顔からでは、窺い知る事は出来ない。
 一方、大切な仲間の一人が「耐え難い屈辱を味わっていた」など知る由も無いラディッシュ達。
 それぞれ自由な時間を思い思いに謳歌していて、ターナップの「完膚なきまでの敗北」を知ったのは、その日の夜であった。

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