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第九章
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魔王城の廊下を突き進む無表情のグラン・ディフィロイス――
足早に渡り廊下を抜け、別棟のように建つ、講堂を思わせる建物に辿り着くなり勢いそのまま、
バァン!
両開きの扉を開け放ち、
『ッ!』
彼は愕然とした。
無表情から一転し。
そこで目にしたのは「九十九体の合成獣」であり、悶え、苦しんでいる姿であった。
彼にとっては信じ難い光景であったのか、動揺を隠さずワナワナと打ち震え、
「オマエ……達……」
立ち尽くし、
(せぇ……先生ぇ……)
「!」
合成獣の一体が苦しみながらも伸ばした手と共に発した人語(じんご)に、血相を変えて駆け寄り抱き起した。
人の言葉を話す合成獣の前例が無い訳でない。
ラディッシュ達もかつて遭遇したが、この世界における一般常識から逸脱した存在であり、驚嘆の反応を示すのが普通の感覚であったが、戦慄(わなな)くグラン・ディフィロイスはその様な常識など歯牙にもかけず、抱き起した合成獣の震える手を悲痛で握り、
『大丈夫か!』
精一杯の声をかけた。
悲しみで混乱する頭では、その様な語彙(ごい)の乏しい言葉しか出て来なかったのである。
それ程までに「深い悲しみの表れ」とも言えるが。
すると打ち拉(ひし)がれる彼の背後から、
『なんか嫉妬しちゃうなぁ~教え子たちには、そんな顔を見せるんだぁ~♪』
(!)
プエラリアの笑い声が。
ギクリとした動きを一瞬見せた背を、魔王は「クスッ」と小さく笑ってから、
「このボクの地技(ちぎ)を受けて「まだ自我を残してる」なんてぇ流石はボク達の後輩、百人の勇者として選ばれただけの事はあるねぇ~♪」
合成獣と化した姿で横たえ、悶え苦しんでいたのは、ラディッシュと時を同じく勇者として召喚された「九十九人の少年少女たち」であった。
ラディッシュ達を助けるために両腕を失ったグラン・ディフィロイスは戦士としての戦闘力を失い、第一線から退いた代わり、地技を用いて「勇者召喚の儀」から拉致していた彼ら、彼女たちの教官を務めていた。
語るまでも無く、魔王プエラリアとしては「天世と戦う戦力」として利用する為に。
しかし平和な世界で生きて来た彼ら、彼女たちを「天世と戦う戦力」と元より見て居なかったグラン・ディフィロイスは、任された当初こそ気乗りしなかったものの教鞭を手にする日々の中で、
《この子達には、この世界で生き残れる術(すべ)を授けよう》
心境に変化が。
単純に「情が移った」では片付けられぬ絆が、信頼関係が、生まれていた。
その教え子たちの心が、体が、抱えた腕の中で、
「せ……センゼイぃ……」
合成獣に次第に飲み込まれて逝く。
(クッ……)
もはや見送る事しかできないグラン・ディフィロイス。
懸念が無かった訳ではなかった。
それでも、
《自我の無い兵士など、単なる消耗品》
天世に対抗する貴重な戦力を、よもや合成獣化する愚策に出るなど思っていなかったのである。
否、自身と同じ身の上の少年少女たちに、
《非道は働かないであろう》
心の何処かで「かつてのプエラリア」を信じていたのであった。
僅かに残っていた淡い想いさえ打ち砕かれ、
「…………」
背を魔王に向けたまま、
「何故だ……プエラリア……この子達は、戦士ではなかった……」
絞り出した声は敬語が消え、形ばかりの尊崇が消え失せた物言いではあったが、魔王プエラリアは腹を立てる様子も無く、
「何を言ってるんだいグランくん♪」
ケラケラと笑いながら、
「その子達は十分に戦士だよ♪ だから戦場で死なないように強化してあげたんだよ♪」
『強化、だと……』
肩越しに、ゆっくり振り返った彼の眼には、殺意がありありと満ちていた。
かつての仲間に対する気心も、敬意も、尊意も、無く。
今にも暴発しそうな怒りと共に思い出されるは、少年少女たちとの教練の日々。
足早に渡り廊下を抜け、別棟のように建つ、講堂を思わせる建物に辿り着くなり勢いそのまま、
バァン!
両開きの扉を開け放ち、
『ッ!』
彼は愕然とした。
無表情から一転し。
そこで目にしたのは「九十九体の合成獣」であり、悶え、苦しんでいる姿であった。
彼にとっては信じ難い光景であったのか、動揺を隠さずワナワナと打ち震え、
「オマエ……達……」
立ち尽くし、
(せぇ……先生ぇ……)
「!」
合成獣の一体が苦しみながらも伸ばした手と共に発した人語(じんご)に、血相を変えて駆け寄り抱き起した。
人の言葉を話す合成獣の前例が無い訳でない。
ラディッシュ達もかつて遭遇したが、この世界における一般常識から逸脱した存在であり、驚嘆の反応を示すのが普通の感覚であったが、戦慄(わなな)くグラン・ディフィロイスはその様な常識など歯牙にもかけず、抱き起した合成獣の震える手を悲痛で握り、
『大丈夫か!』
精一杯の声をかけた。
悲しみで混乱する頭では、その様な語彙(ごい)の乏しい言葉しか出て来なかったのである。
それ程までに「深い悲しみの表れ」とも言えるが。
すると打ち拉(ひし)がれる彼の背後から、
『なんか嫉妬しちゃうなぁ~教え子たちには、そんな顔を見せるんだぁ~♪』
(!)
プエラリアの笑い声が。
ギクリとした動きを一瞬見せた背を、魔王は「クスッ」と小さく笑ってから、
「このボクの地技(ちぎ)を受けて「まだ自我を残してる」なんてぇ流石はボク達の後輩、百人の勇者として選ばれただけの事はあるねぇ~♪」
合成獣と化した姿で横たえ、悶え苦しんでいたのは、ラディッシュと時を同じく勇者として召喚された「九十九人の少年少女たち」であった。
ラディッシュ達を助けるために両腕を失ったグラン・ディフィロイスは戦士としての戦闘力を失い、第一線から退いた代わり、地技を用いて「勇者召喚の儀」から拉致していた彼ら、彼女たちの教官を務めていた。
語るまでも無く、魔王プエラリアとしては「天世と戦う戦力」として利用する為に。
しかし平和な世界で生きて来た彼ら、彼女たちを「天世と戦う戦力」と元より見て居なかったグラン・ディフィロイスは、任された当初こそ気乗りしなかったものの教鞭を手にする日々の中で、
《この子達には、この世界で生き残れる術(すべ)を授けよう》
心境に変化が。
単純に「情が移った」では片付けられぬ絆が、信頼関係が、生まれていた。
その教え子たちの心が、体が、抱えた腕の中で、
「せ……センゼイぃ……」
合成獣に次第に飲み込まれて逝く。
(クッ……)
もはや見送る事しかできないグラン・ディフィロイス。
懸念が無かった訳ではなかった。
それでも、
《自我の無い兵士など、単なる消耗品》
天世に対抗する貴重な戦力を、よもや合成獣化する愚策に出るなど思っていなかったのである。
否、自身と同じ身の上の少年少女たちに、
《非道は働かないであろう》
心の何処かで「かつてのプエラリア」を信じていたのであった。
僅かに残っていた淡い想いさえ打ち砕かれ、
「…………」
背を魔王に向けたまま、
「何故だ……プエラリア……この子達は、戦士ではなかった……」
絞り出した声は敬語が消え、形ばかりの尊崇が消え失せた物言いではあったが、魔王プエラリアは腹を立てる様子も無く、
「何を言ってるんだいグランくん♪」
ケラケラと笑いながら、
「その子達は十分に戦士だよ♪ だから戦場で死なないように強化してあげたんだよ♪」
『強化、だと……』
肩越しに、ゆっくり振り返った彼の眼には、殺意がありありと満ちていた。
かつての仲間に対する気心も、敬意も、尊意も、無く。
今にも暴発しそうな怒りと共に思い出されるは、少年少女たちとの教練の日々。
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