ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-45

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 時は少し遡ってラミウムのハッキングによる映像が流れて数日――

 真偽は定かでないにしても「世界の裏側」を知らされた中世の人々は映像を見せられた直後こそ動揺を隠せなかったが、数日を経て、考える時間を経て、平静な日常を取り戻しつつあるかに見えた。

 しかし実際は、他愛無い日常会話をかわす心の奥では、
((((((((((…………))))))))))
 誰もが何かを抱え、当たり前であった日常は「何か」が変わってしまっていた。

 唯一神、神にも等しい存在であった筈の天世に対する信仰の揺らぎと、既に一週間を切り迫る地世王ラミウムが提示した期限に対する、ヒタヒタと背後に近づく眼には見えぬ恐怖に。

 それらの悩みの一つを確実に解消するには、

《勇者ラディッシュが地世に行けば良い》

 中世の人々は分かっていた。
 話は、そんな「単純で済まない」のを。

 百人の勇者の生き残りであり、百人の天世人の後継でもある彼は、今や中世の「守りの要」である。

 その様な存在の彼を失うことは、地世のみならず、天世の一部からも狙われている今の中世において、期限の後の数日こそ無事に暮らせたとしても、その先で何が待ち受けていたとしても、
《守ってくれる者は居ない》
 蹂躙され、滅ぶのを待つだけであるのを。

 それを感情任せに、自分たちの不安を和らげる為に、裏切りに等しく彼を差し出しなどすれば、彼とラミウムの関係は周知の事実であり、

《今度はラディッシュ様も敵に!》

 失意の彼が彼女に加担し、中世が自業自得的な破滅を迎える可能性さえあった。
 八方塞がりの状況下、人々は答えを出せぬまま今を過ごす事しか出来ず、

((((((((((…………))))))))))

 イタズラに時間ばかりに過ぎていたが、それは勇者組とて同じ。
 幼きチィックウィードでさえ現状が微妙であるのを肌で感じ、父親(仮)ラディッシュに、安易に「行かないで」とは言わなかった。

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 一つのテーブルを囲んで悩む、リンドウとヒレンを新たに迎えた新生七草。
 元七草となったチィックウィードと、認識の戻らぬドロプウォートを交え。

 地世王ラミウムの言葉を信じるならば、一週間以内に地世に行かなければ世界にバラ撒かれた黒球が発動し、中世の世界は合成獣に蹂躙され、素直に向かったとしても、その後の中世が平穏無事である保証も無し。

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 答えが出せぬまま一同しばしの沈黙の後、ラディッシュがおもむろに、

「ねぇ、リンドウ」
「?」
「スパイダさんは?」

 同席して居ない彼を不安に思い尋ねると、

「あぁ~アレは「裏切った同盟国」を探す陣頭指揮を執ってるしぃ」

 すると彼女の「アレ呼ばわり」をヒレンも悪い顔してクスリと笑い、

「自分が外遊して同盟国を募った手前、犯人探しに躍起になってみたいよ」

 自責の念に駆られて落ち込んでいるかと思いきや、立ち止まって悩むなどせず、前に前にと進む姿勢が「何とも彼らしい」と思い、
「あはは……やり過ぎなきゃ良いけどぉ」
 ラディッシュは仲間たちと苦笑い。

 懸念の一つが解消され、真顔に少し戻し、
「それで天世の反抗組織とは、やっぱり連絡がつかないの?」
「「…………」」
 その問いには、楽観を見せたリンドウとヒレンも答える事が出来なかった。

 組織の現状が不明であるのはイコールで、強行して天世に戻ったゴゼンの安否も不明であるのを意味したから。
 リンドウとヒレンが中世に居る以上、ゴゼンの存在が組織の要である。

 しかしラディッシュ達にとって組織がどうなっているかよりも、
「ゴゼンたち、無事だと良いけど……」
「「「「「「「…………」」」」」」」
 今にして思えば「引っ越し祝い」を貰えた時が、離れていても彼との確かな繋がりを感じられた最後であった。

(祝いの品が「小さなゴミ箱一つ」なんて、からかいを効かせた彼らしい贈り物だったけど……元老院の眼を盗んで送るのだって簡単じゃ無かった筈なのに……)

 もう何年も会話を交わしていないかのように、彼の面影を懐かしんだが、

(…………ん?)

 自身の記憶に、妙な引っ掛かりが。

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