ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-46

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 ラディッシュは何年も会っていないかに思えたゴゼンを懐かしむ中、記憶に覚えた引っ掛かりに、

(何だろ……この妙な違和感は……)
「「「「「「「?」」」」」」」

 不思議に思う仲間たち。
 怪訝な顔を見合わせ、ニプルウォートが代表する形で、

「どうしたのさぁラディ? ヘンな顔してさ」
「ヘンな顔って……」

 ツッコミに苦笑するラディッシュであったが、抱いた「あやふやな心象」を正直に、

「いやぁ今にして思うと……どうしてゴゼンが送って来た祝いの品が「小さなゴミ箱一つ」だったのかなぁって……」
「そりゃぁ、アイツ流のからかい?」
「でもニプル。組織と連絡がつかないほど元老院の監視が強化されてる中で、そこまでして贈る物なの?」
「「「「「「…………」」」」」」

 仲間たちも違和感を覚え始めると、

『ちょっと待つしぃ!』

 声を上げたのはリンドウ。
 閃きに、逸る気持ちを抑えられない様子で、

「地世が天世に直接乗り込んで来た時に使われたのはゴミ箱しぃ!」
「「「「「「!」」」」」」

 仲間たちもハッとし、気持ちの昂ぶりが表情から見て取れたが、早急な判断は危険と感じたラディッシュは自身の昂揚を懸命に抑えつつ、

『でぇっ、でもぉでもぉ! 送られて来たゴミ箱からは何のチカラも感じられなかったよ?!』

 今度はヒレンが、

「元老院の眼を欺く為に、チカラを封印して送って来たのかも知れないわ」

 反攻の糸口を見つけたかもしれない可能性に微かに震えた。
 昂揚を見せる事の少ない彼女の気勢に、ラディッシュは居ても立っても居られなくなり、

『ッ!』

 堪らず部屋から飛び出した。

「「「「「「「!」」」」」」」

 後に続く仲間たち。
 話が話で、時が時だけに、一分一秒を惜しむかの如くドロプウォートの椅子車はターナップが急発進で押しながら。

 すれ違う村人たちからの「何ごと?」と言わんばかりの視線を横目に血相を変えたラディッシュは愛する棲み処へ駆け込み、
「!」
 勢いそのまま、その辺の床に置いていたゴミ箱を手に取り、上を、下を、右を、左を、中を、慌ただしく回し見る。
 しかし変哲は無く、

(やっぱり違った?!)

 希望が落胆に変わりかけたその時、

『貸してみるのしぃ!』

 横から強引に取り上げたのは駆け込んで来たリンドウ。
 両手で持った瞬間、手から感じたヒリつきに、
(間違いないのしぃ!)
 確信を得ると、

『事情は後で話すのし! みんなぁ地世に向かう戦闘準備をするのしぃ!』
「「「「「「「!」」」」」」」

 覚悟を感じる強い口調で促され、ラディッシュ達は気圧される形で、蜘蛛の子が散らされたように、各々が一斉に準備に取り掛かった。
 彼女の焦る口調から、猶予がさほど無いのを感じ取り。

 半日を待たず、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 ラディッシュの家に再集結する勇者組。
 物々しい格好で。

 当然である。

 手段こそ聴かされていないが、これから向かうのは決戦の地。
 見送り側となったチィックウィードが椅子車のドロプウォートと見守る中、全員揃ったところでリンドウが、ゴゼンがラディッシュに贈ったゴミ箱を手に、

「この箱から、地世のチカラが微かに漏れ出てるのを感じるのし」
「「「「「「「?!」」」」」」」

 意外であった。
 特に、普通のゴミ箱として日常的に使っていたラディッシュ、チィックウィードにとって。

「そ、そんな特別なチカラは感じなかったよ?!」

 驚く彼と、同意を示してコクコク頷く彼女に、リンドウは「それは仕方がない」とでも言いたげに、

「当然しぃ。中世で日常的に感じる地世のチカラより微々たる量しぃ。中世で暮らす人間が気付けないのは当然なのしぃ。地世のチカラに敏感な、天世人のアーシだから手にして気付けたのしぃ」

 するとヒレンが「ちょっと待ちなさい」と話を制し、
「確かにアタシも、その箱から地世の微かなチカラを感じるけど、天世のゴミ箱は機能を停止させるまで地世と繋がっていたのよ? 使っていた時のチカラが箱の中に残留していてもおかしく無いわ。感じるチカラはそれほど僅かよ?」
 異論にリンドウはニヤリと笑い、

「そこが狙いだったのし♪」
「え?」
「取り締まりの連中も、そう思ったのしぃ。だから免れたのし♪」
「…………」

 箱を持った彼女はしたり顔でパストリスの下へ歩み寄ると、
「地世のチカラを解放して、この箱を持ってみるのしぃ♪」
「…………」
 半信半疑で箱を受け取る。

 不安が拭えずラディッシュの顔を窺うと、彼は「何があっても支える」と言いたげな表情で頷き、背中を押される形となった彼女も小さく頷き答え、

《我を護りし天世の光より、真実の扉を今開かぁん!》

 彼女の全身は地世のチカラに覆われ、隠されたケモ耳が、尻尾が露に。
 すると彼女のチカラに呼応するように、ゴミ箱の中に残っていた塵や芥(あくた)程度であった地世のチカラが急激に膨れ上がり、彼女の掌の上で漆黒の煙玉と化した。
 ボーリングの球ほどに成長した煙玉に、

『こっ、これってぇ!?』

 出現させたパストリス自身も驚く中、リンドウは驚きなど歯牙にも掛けず、

『みんな煙玉に触れるのしぃ!』
「「「「「!」」」」」

 即座に触れるラディッシュたち。
 理屈を感覚的に理解したパストリスがチカラを込めると黒き煙玉は次第に大きくなっていき、ラディッシュ達は不安げに見守るチィックウィードに、何も言わず見つめているかに見えるドロプウォートに、

『『『『『『『行って来ます♪』』』』』』』

 姿は一瞬にして箱の中に。
 安心を促す笑顔を残し、吸い込まれるように消えた。

「「…………」」

 静かになった部屋に残される幼きチィックウィードと、外界に対する認識の戻らぬ椅子車に座るドロプウォート。
 静寂は涙を誘い、

「まってる、なぉ……」

 幼女は人知れず目元を拭った。
 そしてラディッシュ達が転移した先が、遺跡のゲートを通って出る本来の場所ではなく、天世がゴミ捨て場として指定していた地であった。
 
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