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第十一章
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戦闘による真新しい傷の残る廊下を進むラディッシュ達――
壁には刀キズや槍のキズ、天技の応酬による痕であろうか焦げや、中には血痕も。
それらは生々しくあり、
「「「「「…………」」」」」
死者が出なかったのが不思議な有様であった。
同様の損傷を負った扉を負傷兵から代わった後詰の警備兵に開けてもらい、神妙な面持ちで中に入るエルブ王と勇者たち。
傷を負った兵たちを想い。
部屋の中に損傷は無く、戦闘による鏡の破損を恐れた兵士たちが廊下で戦ったのか、それとも襲撃者ヒレンによる制圧の手際が良かったのか。
しかし類推する以前に、言い方は悪いが両者の力量は天と地。
百人の天世人の一桁ランカーと、一室の警備を担う一般兵たちでは、比ぶべくもない話である。
どちらにせよ、ゲートである鏡は無傷であった。
兵士たちの奮戦の証である「損傷無き鏡」を前に、
「…………」
些か緊張気味の表情を見せるリンドウ。
先に軽々しくも覚悟は示したものの、いざ無傷の鏡を前にすると失敗が許されぬ重圧をヒシヒシと感じ、
「…………」
足取り重く静かに歩み寄る。
すると何事にも物怖じしない彼女の、珍しくも慎重な、貴重な光景を目の当たりにしたニプルウォートは、
(クヒヒィ♪)
悪癖である悪戯心が疼きだし、彼女の恐る恐るの手が鏡に触れそうになった瞬間を狙い撃ち。
一同が沈黙を以て成り行きを見守る、静寂の室内で唐突に、
『リンドウでも怖がることがあるのさ♪』
『しぃ!?』
背後からの声に、彼女は思わずビクッと体を硬直。
鏡に集中していただけに。
恨みがましい顔して、ゆっ~くりと振り返りながら、
「やぁってくれたしぃ、ニプルぅ~!」
期待通りの反応を得られてか、
「てへぇ♪」
笑って誤魔化すニプルウォートと、そんな彼女の悪癖を苦笑せずには居られないエルブ王とラディッシュ達。
しかし功を奏した面も。
いつもと変わらぬやり取りで妙な緊張が解れたリンドウは「ふぅ」と短く息を吐き、幾らか和らいだ表情でその身を天世の白き輝きに包むと意を決し、
「…………」
鏡に右手をかざし、
(…………)
脳裏に浮かび始めるは、鏡の記憶かゲートの記憶。
百人の天世人なればこそ可能な、単なる転移装置としてだけではない上位の使い方。
そこには当然、逃亡したヒレンに関する記憶もあり、数日顔を合わせていないだけなのに、
(ヒレン……)
見えた横顔は懐かしく思えたが、
(自分が何をしたか、アータは理解してるのしぃ……)
悲しくもあった。
そして脳裏に浮かぶ記憶映像を見て行くうち、
(!)
リンドウは「ハッ」とした。
沈んでいた表情が一転した、華やいだ表情に。
どの様な光景が彼女に変化を与えたのか分からず、彼女の急な変化に戸惑いを見せるエルブ王、ラディッシュ達を前に満面の笑顔で振り返り、
『あの子はタダ逃げただけじゃなかったのしぃ♪』
「「「「「?」」」」」
「仲間たちが心配だったのし♪」
「「「「「?!」」」」」
「あの子が転移した先は、仲間たちが居る場所なのし♪ 元老院に対抗する天世の仲間たちが拠点にしている場所の近くなのしぃ♪」
彼女の喜びようにエルブ王とラディッシュ達は異論こそ口にしなかったが、
(((((…………)))))
内心では素直に同意できずにいた。
《天世の仲間たちの下へ逃げ込んだ》
悪く解釈する事も出来たから。
気心が知れた仲になっていたとは言え直近におけるヒレンの振る舞いの数々が、信頼に揺らぎを与えていたのである。
しかし、それこそ口にする者は居なかった。
ここ数日の「リンドウの落ち込みよう」を間近で見ていたから。
からかいが信条のニプルウォートやカドウィードでさえ、悪癖を自重するほどに。
真っ暗な闇の底に落ちた時、這い上がる為の希望の光は誰しも必要であり、数々の苦悩をそれぞれに、共に乗り越えて来た経験のある者たちの中に、それを打ち消すような言葉を口にする「野暮な輩」は居なかったのである。
壁には刀キズや槍のキズ、天技の応酬による痕であろうか焦げや、中には血痕も。
それらは生々しくあり、
「「「「「…………」」」」」
死者が出なかったのが不思議な有様であった。
同様の損傷を負った扉を負傷兵から代わった後詰の警備兵に開けてもらい、神妙な面持ちで中に入るエルブ王と勇者たち。
傷を負った兵たちを想い。
部屋の中に損傷は無く、戦闘による鏡の破損を恐れた兵士たちが廊下で戦ったのか、それとも襲撃者ヒレンによる制圧の手際が良かったのか。
しかし類推する以前に、言い方は悪いが両者の力量は天と地。
百人の天世人の一桁ランカーと、一室の警備を担う一般兵たちでは、比ぶべくもない話である。
どちらにせよ、ゲートである鏡は無傷であった。
兵士たちの奮戦の証である「損傷無き鏡」を前に、
「…………」
些か緊張気味の表情を見せるリンドウ。
先に軽々しくも覚悟は示したものの、いざ無傷の鏡を前にすると失敗が許されぬ重圧をヒシヒシと感じ、
「…………」
足取り重く静かに歩み寄る。
すると何事にも物怖じしない彼女の、珍しくも慎重な、貴重な光景を目の当たりにしたニプルウォートは、
(クヒヒィ♪)
悪癖である悪戯心が疼きだし、彼女の恐る恐るの手が鏡に触れそうになった瞬間を狙い撃ち。
一同が沈黙を以て成り行きを見守る、静寂の室内で唐突に、
『リンドウでも怖がることがあるのさ♪』
『しぃ!?』
背後からの声に、彼女は思わずビクッと体を硬直。
鏡に集中していただけに。
恨みがましい顔して、ゆっ~くりと振り返りながら、
「やぁってくれたしぃ、ニプルぅ~!」
期待通りの反応を得られてか、
「てへぇ♪」
笑って誤魔化すニプルウォートと、そんな彼女の悪癖を苦笑せずには居られないエルブ王とラディッシュ達。
しかし功を奏した面も。
いつもと変わらぬやり取りで妙な緊張が解れたリンドウは「ふぅ」と短く息を吐き、幾らか和らいだ表情でその身を天世の白き輝きに包むと意を決し、
「…………」
鏡に右手をかざし、
(…………)
脳裏に浮かび始めるは、鏡の記憶かゲートの記憶。
百人の天世人なればこそ可能な、単なる転移装置としてだけではない上位の使い方。
そこには当然、逃亡したヒレンに関する記憶もあり、数日顔を合わせていないだけなのに、
(ヒレン……)
見えた横顔は懐かしく思えたが、
(自分が何をしたか、アータは理解してるのしぃ……)
悲しくもあった。
そして脳裏に浮かぶ記憶映像を見て行くうち、
(!)
リンドウは「ハッ」とした。
沈んでいた表情が一転した、華やいだ表情に。
どの様な光景が彼女に変化を与えたのか分からず、彼女の急な変化に戸惑いを見せるエルブ王、ラディッシュ達を前に満面の笑顔で振り返り、
『あの子はタダ逃げただけじゃなかったのしぃ♪』
「「「「「?」」」」」
「仲間たちが心配だったのし♪」
「「「「「?!」」」」」
「あの子が転移した先は、仲間たちが居る場所なのし♪ 元老院に対抗する天世の仲間たちが拠点にしている場所の近くなのしぃ♪」
彼女の喜びようにエルブ王とラディッシュ達は異論こそ口にしなかったが、
(((((…………)))))
内心では素直に同意できずにいた。
《天世の仲間たちの下へ逃げ込んだ》
悪く解釈する事も出来たから。
気心が知れた仲になっていたとは言え直近におけるヒレンの振る舞いの数々が、信頼に揺らぎを与えていたのである。
しかし、それこそ口にする者は居なかった。
ここ数日の「リンドウの落ち込みよう」を間近で見ていたから。
からかいが信条のニプルウォートやカドウィードでさえ、悪癖を自重するほどに。
真っ暗な闇の底に落ちた時、這い上がる為の希望の光は誰しも必要であり、数々の苦悩をそれぞれに、共に乗り越えて来た経験のある者たちの中に、それを打ち消すような言葉を口にする「野暮な輩」は居なかったのである。
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