ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十一章

11-44

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 失意のリンドウ。
 彼女を更なる奈落に突き落とす言葉など「可能性の一つに過ぎない話」であったとしても、口には出来なかったのである。

(この地区を任されるワシの部隊はここまで来ておらぬというに、合成獣や汚染獣たちの遺骸さえ無いとは……奴らめぇ、更なるチカラを求めて共喰いしおったようじゃの……)

 遺児の幼女としてではなく八部衆が一人の部隊長として、人知れず状況を冷静に分析しつつ、

(はてさて……ワシはこの先、どう動いたらヨイものかぁ……)

 密かに、森の奥へ視線を飛ばした。
 そこには気配を消し、息を潜め、付かず離れずの距離を保って移動を続ける、複数の人影が。
 それは彼女の配下の者たちであり、

(待機中のアヤツ等を動かし、その混乱に乗じて離脱するは容易いのじゃが……)

 実行に移さない、移せない、とある理由があった。
 それは、

「なぉ……」

 天使の笑顔が消えうせた、悲しみのチィックウィ―ド。
 惨状を目の当たりにしたのに加え、ヒレンの姿が見つからなかった事にショックを受けた彼女は抱えた不安からアブダの手を、しっかり掴んで離す素振りを見せなかったから。

 敵である「七草の幼女」の手など、容赦なく振り解いてしまえば良かったのだが、
(…………)
 アブダには、それは出来なかった。

 不安に駆られて握られている小さな手を、無下に払うなど。
 真に幼き頃の自身の姿と、ダブらせ。
 野暮な用語を用いて心中を短絡的に表現するならば、

《情が移った》

 そんな短い言葉で済まされようが、人が持つ心の機微はそれほど単純ではなく、辛く、過酷な幼少を過ごして来た彼女の想いは複雑に、
(ワシは……いったいどうした……どうしたいのじゃ……)
 葛藤した。

 一人でも討ち取れば値千金の相手を前に、胸をよぎるは初めて経験した「優しい時間」の記憶。
 そして繋いだ手から伝わり続ける、人の想い。
 安穏(あんのん)を絵に描いたような天世で生きる者とは到底思えぬ人生を送って来た彼女にとって、それはとてもとても手放し難い、尊いが過ぎる時間だったのである。

(いっそこのまま、両親を失った少女「アブ」として生きるのも……)

 一部隊を任されるほどの戦士としてあるまじき、心は激しく揺らいだが、その瞬間、

『合成獣の群れが来るよ!』

 ラディッシュが声を上げると仲間たちもスグさま武器を手に身構え、
(しっ、しまったのじゃ!)
 密かに後悔を覚える八部衆アブダ。

(森に潜ませた配下どもに引き寄せられたのじゃ!)

 彼女の推測は正しく、肉食恐竜のような姿の合成獣たちが、森に潜んでいた彼女の部下たちに背後から襲い掛かった。
 しかし不可解なのは、部下たちの服装である。

 天世の兵士の筈が全員一様にバラバラで、さながら私服で作戦に参加していたような装い。

 しかも背後から急襲を受けたにも拘らず、その表情に驚きや狼狽を微塵も見せること無く、悲鳴の一つさえ上げること無く、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 各々タイプの違う武器や戦い方で、即座に淡々と応戦。

 迫り来る合成獣たちを無言のうちに次々と、黙々と斬り伏せていった。
 森の奥から徐々に消えていく合成獣の気配に、

「「「「「?!」」」」」

 戸惑うラディッシュたち勇者組。
 戦闘が行われている気配は確かにあるのだが、戦っている相手側の気配が全く見えて来ない。

 合成獣たちが一人勝手に錯乱して暴れ、自滅しているかに見える。

 何が起きているのか、知りたくはあった。

 しかし不可解が起きている森の中へ飛び込むなど迂闊でしかなく、敵陣の中と言える天世の地において更なる危険を冒す訳にはいかず、身構え、

「「「「「…………」」」」」

 合成獣の飛び出しに備えた。

「「「「「…………」」」」」

 やがて静寂が戻り、
(……いったい何が?)
 ラディッシュは武器を収めるべきか否か、同じ疑念を抱く仲間たちと無言で視線を交わし合い、周囲の気配の静まりから、
(危険は去った……みたい……?)
 武器を収めつつも、困惑は拭えなかった。

 一方で、椅子車のドロプウォートと共に幼きチィックウィ―ドに守られる形になっていたアブダ。
 平時を取り戻した現状に、

(当然の結果じゃな……)

 確信を持っていた。
 彼女の配下の者たちは、それ程までの「強者揃い」と言うことであり、

(何せぇあの連中は……)

 正体を思い浮かべようとした矢先に森の奥から、

『なんでぇ騒ぎを聞きつけ駆け付けてみりゃぁロリばぁ、生きてやがったのかぁ~』
(その声はニラブダぁ!?)

 森の奥から突如として姿を現したのは、半裸の大男。
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