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続章_9
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するとそこへ、遅ればせながらトキが入って来て、
「ワリィワリィちょっと遅れちまった! 早速授業を始めるぞぉ~三十五ページからだ」
照れ笑いしながら教壇に立ったが、問題児に下校を誘われたサクラに授業を聞いている精神的余裕はない。
すでにトキの授業が始まっているにもかかわらず、
(ど、どうしようぅ~。無視して帰ったら後が恐いし、でも言う通りに一緒に帰ったら、何を要求されるか分からないし、でも、でも、でも、あぁ~どうしたらぁ!)
答えの出ない自問自答の世界に入り込んでいると、遠くで名を呼ばれている様な気がし、それは次第にハッキリと、
「九山サクラッ!」
「は、ハイッ!」
トキの声に慌てて立ち上がる。
「次から読んででみろ」
「え? えぇと……その……」
別な世界に入り込んでいたサクラに、いつ始まっていたか知れない授業内容が分る筈もなく、立ち尽くし、視線を机に落とし、
「す……すみません……分かりません……」
うなだれ、怒られる事を覚悟するサクラ。
(やってしまった……授業中に何を考えてるんだ……)
自責の念に駆られていると、サクラが地方から独り身で上京している事を知るトキは、
「どうした九山、慣れない環境で疲れが出たか?」
予想外の優しい声の色。
サクラは驚き、
「な、なんもけねぇ(大丈夫です)!」
笑われる事を懸念し隠していた方言を、思わず大声で叫んでしまった。
トキとクラスメイト達は驚いた顔で固まり、教室内は水を打った様に静まり返った。
ハッとするサクラ。
(終わった……私の平穏な高校生活……目立ちたくなかったのに! もうイヤ! 今すぐ消えたい!)
顔を真っ赤にしたサクラは頭を抱えて机に突っ伏し、クラスメイト達から笑いが起こりそうなった瞬間、
「気にする必要ねぇべなぁ(気にする必要ないよ)!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
(え?)
サクラを含めた教室内の全ての視線は、教室の後ろへと集まった。
視線の先、満面の笑みを浮かべて立つヒカリは、顔の横で横ピースサインをして見せ、
「カワイイ方言女子は、今のモテ女(もてる女子)のトレンドだよ!」
どん底に落ちかけたサクラに救いの手を差し伸べたのは、ヒカリであった。
しかしヒカリの機転に対し、冷ややかな視線を送るクラスメイト達。
そう言う反応が返るであろう事を予期していたハヤテは、いつも通りに外を眺めたまま、
(さっき線引きされた俺らの話を、連中がまともな顔して聞く筈ないだろ)
呆れ口調で囁いたが、ヒカリは笑顔のまま、
「構わないさ!」
サクラに手を差し伸べた事に、微塵の後悔も感じさせなかった。
腫れ物でも見る様な視線をヒカリに向けるクラスメイト達であったが、ヒカリの奥にいる、仏頂面して外を眺めるハヤテに目が留まり、関わりを避ける様に、無言で正面を向いて座り直した。
「ワリィワリィちょっと遅れちまった! 早速授業を始めるぞぉ~三十五ページからだ」
照れ笑いしながら教壇に立ったが、問題児に下校を誘われたサクラに授業を聞いている精神的余裕はない。
すでにトキの授業が始まっているにもかかわらず、
(ど、どうしようぅ~。無視して帰ったら後が恐いし、でも言う通りに一緒に帰ったら、何を要求されるか分からないし、でも、でも、でも、あぁ~どうしたらぁ!)
答えの出ない自問自答の世界に入り込んでいると、遠くで名を呼ばれている様な気がし、それは次第にハッキリと、
「九山サクラッ!」
「は、ハイッ!」
トキの声に慌てて立ち上がる。
「次から読んででみろ」
「え? えぇと……その……」
別な世界に入り込んでいたサクラに、いつ始まっていたか知れない授業内容が分る筈もなく、立ち尽くし、視線を机に落とし、
「す……すみません……分かりません……」
うなだれ、怒られる事を覚悟するサクラ。
(やってしまった……授業中に何を考えてるんだ……)
自責の念に駆られていると、サクラが地方から独り身で上京している事を知るトキは、
「どうした九山、慣れない環境で疲れが出たか?」
予想外の優しい声の色。
サクラは驚き、
「な、なんもけねぇ(大丈夫です)!」
笑われる事を懸念し隠していた方言を、思わず大声で叫んでしまった。
トキとクラスメイト達は驚いた顔で固まり、教室内は水を打った様に静まり返った。
ハッとするサクラ。
(終わった……私の平穏な高校生活……目立ちたくなかったのに! もうイヤ! 今すぐ消えたい!)
顔を真っ赤にしたサクラは頭を抱えて机に突っ伏し、クラスメイト達から笑いが起こりそうなった瞬間、
「気にする必要ねぇべなぁ(気にする必要ないよ)!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
(え?)
サクラを含めた教室内の全ての視線は、教室の後ろへと集まった。
視線の先、満面の笑みを浮かべて立つヒカリは、顔の横で横ピースサインをして見せ、
「カワイイ方言女子は、今のモテ女(もてる女子)のトレンドだよ!」
どん底に落ちかけたサクラに救いの手を差し伸べたのは、ヒカリであった。
しかしヒカリの機転に対し、冷ややかな視線を送るクラスメイト達。
そう言う反応が返るであろう事を予期していたハヤテは、いつも通りに外を眺めたまま、
(さっき線引きされた俺らの話を、連中がまともな顔して聞く筈ないだろ)
呆れ口調で囁いたが、ヒカリは笑顔のまま、
「構わないさ!」
サクラに手を差し伸べた事に、微塵の後悔も感じさせなかった。
腫れ物でも見る様な視線をヒカリに向けるクラスメイト達であったが、ヒカリの奥にいる、仏頂面して外を眺めるハヤテに目が留まり、関わりを避ける様に、無言で正面を向いて座り直した。
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