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続章_57
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五人は他愛ない話を交わしつつ食事を終えて弁当を片付けると、ヒカリが開口一番、
「黄先生、放火犯の話は知ってるかい?」
「あぁ……知ってるよ」
「先生の所に、何か情報は入ってないっスか?」
ハヤテの問に黄は何か言いかけたが、その言葉を飲み込み、
「それは大人の問題だ。アンタ達が気にする話じゃないよ」
「で、ですが黄先生殿ぉ! そんな事を言われてもサクラさんは、」
何か知って居そうな黄の気配に、食い下がるツバサであったが黄はジェスチャーで話を遮り、
「それより山形ツバサ」
「はい……」
「アンタ、今日からしばらく東に家まで送ってもらいな」
「「「「え!?」」」」
三者三葉ならぬ、四者四葉の驚きをするハヤテ達。
しかしツバサだけ嬉しそう。
学校からツバサの家までは、電車の乗車時間も含めて約一時間。その時間の大半を、ハヤテと二人きりで過ごす事を意味していたから。
当然ヒカリとサクラの心中は穏やかで居られる筈もなく、二人で黄にしがみ付き、
「えぇ~何でだい、黄先生ぇ~~~!」
「ふ、二人きりなんて、ズルイ……じゃなくてぇ! 風紀としてどうなんでしょうか!」
「あぁ~もぅ鬱陶しいねぇ!」
面倒臭げな顔する黄の体を、
「先生ぇ~~~」
不満たらたらなヒカリが揺さぶると、
「クッ……」
苦痛に顔を歪めた。
「黄先生?」
咄嗟に離れるヒカリ。
すると黄はため息を一つ吐き、
「隠してたって仕方が無い話だしねぇ……」
右腕の袖を捲り上げ、露わになった腕を見たヒカリ達は驚いた。
「先生……それ……」
左前腕部に、紫色に変色した人の手の握り痕が、クッキリ浮かんでいたのである。
黄は袖を戻しつつ、
「昨日の帰りにな……」
「だ、大丈夫なんスか先生……」
ハヤテが不安気な顔をすると、黄は悪い顔してニヤリ。
「誰に物を言ってんだい。脇道からいきなり腕を掴んで来たんで思い切り投げ飛ばしてやったら、ソイツが必死こいてしがみ付きやがってねぇ、コイツはそん時ついたのさ」
((((それって自業自得じゃ……))))
加減を考えずチカラを行使した結果のアザに、少し呆れた様な笑みを浮かべるハヤテ達。
「それで先生殿ぉ! 犯人は!?」
ツバサが身を乗り出すと、黄は残念そうに、
「催涙スプレーを隠し持ってやがってねぇ、逃げられちまったのさぁ」
「警察には……?」
不安気な顔をするサクラに、黄は小さくフッと笑って見せ、
「アタシは文科省の潜入捜査官だよ。身分を偽っている今、余所の省庁の世話になる訳にはいかないのさぁ」
「「「「!」」」」
(凄いなぁ……)
犯罪者の襲撃をものとしない黄に、サクラがただただ感心していると、
「ところで黄先生」
「?」
「結局、ツバサちゃんの送り迎えと、どんな関係があるんだい?」
「…………」
押し黙る黄。
どう説明したら良いか、言葉を選びあぐねている様子であったが、いきなり顔色を変え、
「黙りなぁ!」
名刺を叩いた。
名刺がまた何か、余計な一言を言った様ではある。
ハッとし、黄は恐る恐るハヤテの顔色を窺うと、ハヤテは少し驚いた表情で黄を見つめていた。
「黄先生……「ボタン」て……何の事っスか……」
「チッ。名刺が余計な事を……」
苦々しい表情で舌打ちすると、静かに机の引き出しを開け、中にボタンが入った小さなビニール袋を机の上に置いた。
「アタシを襲った犯人の、袖のボタンだ」
「「「「!」」」」
驚く四人であったが、ハヤテがいち早く、ある事に気付いた。
「この学校の男子生徒!?」
「「「えっ!?」」」
「黄先生、放火犯の話は知ってるかい?」
「あぁ……知ってるよ」
「先生の所に、何か情報は入ってないっスか?」
ハヤテの問に黄は何か言いかけたが、その言葉を飲み込み、
「それは大人の問題だ。アンタ達が気にする話じゃないよ」
「で、ですが黄先生殿ぉ! そんな事を言われてもサクラさんは、」
何か知って居そうな黄の気配に、食い下がるツバサであったが黄はジェスチャーで話を遮り、
「それより山形ツバサ」
「はい……」
「アンタ、今日からしばらく東に家まで送ってもらいな」
「「「「え!?」」」」
三者三葉ならぬ、四者四葉の驚きをするハヤテ達。
しかしツバサだけ嬉しそう。
学校からツバサの家までは、電車の乗車時間も含めて約一時間。その時間の大半を、ハヤテと二人きりで過ごす事を意味していたから。
当然ヒカリとサクラの心中は穏やかで居られる筈もなく、二人で黄にしがみ付き、
「えぇ~何でだい、黄先生ぇ~~~!」
「ふ、二人きりなんて、ズルイ……じゃなくてぇ! 風紀としてどうなんでしょうか!」
「あぁ~もぅ鬱陶しいねぇ!」
面倒臭げな顔する黄の体を、
「先生ぇ~~~」
不満たらたらなヒカリが揺さぶると、
「クッ……」
苦痛に顔を歪めた。
「黄先生?」
咄嗟に離れるヒカリ。
すると黄はため息を一つ吐き、
「隠してたって仕方が無い話だしねぇ……」
右腕の袖を捲り上げ、露わになった腕を見たヒカリ達は驚いた。
「先生……それ……」
左前腕部に、紫色に変色した人の手の握り痕が、クッキリ浮かんでいたのである。
黄は袖を戻しつつ、
「昨日の帰りにな……」
「だ、大丈夫なんスか先生……」
ハヤテが不安気な顔をすると、黄は悪い顔してニヤリ。
「誰に物を言ってんだい。脇道からいきなり腕を掴んで来たんで思い切り投げ飛ばしてやったら、ソイツが必死こいてしがみ付きやがってねぇ、コイツはそん時ついたのさ」
((((それって自業自得じゃ……))))
加減を考えずチカラを行使した結果のアザに、少し呆れた様な笑みを浮かべるハヤテ達。
「それで先生殿ぉ! 犯人は!?」
ツバサが身を乗り出すと、黄は残念そうに、
「催涙スプレーを隠し持ってやがってねぇ、逃げられちまったのさぁ」
「警察には……?」
不安気な顔をするサクラに、黄は小さくフッと笑って見せ、
「アタシは文科省の潜入捜査官だよ。身分を偽っている今、余所の省庁の世話になる訳にはいかないのさぁ」
「「「「!」」」」
(凄いなぁ……)
犯罪者の襲撃をものとしない黄に、サクラがただただ感心していると、
「ところで黄先生」
「?」
「結局、ツバサちゃんの送り迎えと、どんな関係があるんだい?」
「…………」
押し黙る黄。
どう説明したら良いか、言葉を選びあぐねている様子であったが、いきなり顔色を変え、
「黙りなぁ!」
名刺を叩いた。
名刺がまた何か、余計な一言を言った様ではある。
ハッとし、黄は恐る恐るハヤテの顔色を窺うと、ハヤテは少し驚いた表情で黄を見つめていた。
「黄先生……「ボタン」て……何の事っスか……」
「チッ。名刺が余計な事を……」
苦々しい表情で舌打ちすると、静かに机の引き出しを開け、中にボタンが入った小さなビニール袋を机の上に置いた。
「アタシを襲った犯人の、袖のボタンだ」
「「「「!」」」」
驚く四人であったが、ハヤテがいち早く、ある事に気付いた。
「この学校の男子生徒!?」
「「「えっ!?」」」
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