奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_86

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 時は流れ―――
≪事件が解決してから、はや一ヶ月が経ちました。「依存(ハヤト)と崇拝(加津佐)」と言う名で、自ら歪めてしまった二つの恋の結末はと言うと……あくまで風の噂ですが『豊葦原ハヤト』くんはメールなどの証拠が認められ、家庭裁判所で精神的支配下に置かれていたと判断されて、カウンセリングを受けながらの「保護観察」処分になったらしいです。そして『南加津佐』先輩は、大人と同じ刑事裁判を受けさせた方が良いと言う声も出たみたいですけど、本人が深く反省しているのと、地元の有力者『新津屋一族』の強い嘆願があったらしく、「児童自立支援施設」送致になったらしいです。頑な南先輩の態度がどうしてそこまで軟化したのか、あの時、会長さんが南先輩に何を言ったのかは、結局分からないままですけど……。ただツバサちゃんの調査で一つ分かった事があります。南先輩の、新津屋先輩に対する崇拝的恋愛感情の理由です。それは中学時代のイジメにありました。今も片りんを残す、融通が利かない、絵に描いた様な超生真面目生徒だった南先輩は、酷いイジメに遭っていたそうです。それを救ったのが新津屋会長さんだったそうです。そこから先は、何となく想像がつきます。そして私とヒカリちゃん、そしてツバサちゃん、三人のハヤテくんをめぐる駆け引きはと言うと……≫

 放課後の『写真部兼お悩み相談部』部室―――
「うわぁあぁあっぁぁあぁあぁ~~~ん! ハヤテぐぅ~~~ん! 私は写真のセンスがゼロでありますぅうぅぅっぅぅぅ~~~!」
 自席でハヤテに泣きつくツバサ。
 コンテストに向けて提出する写真を見せ合っていたのだが、ヒカリとサクラの提出予定の写真を見て、自身の感性の低さに自ら打ちひしがれ、ショックを受けたのである。
 困り顔のハヤテは、
「感性なんて人それぞれなんだから、他人と自分を比較して、自分で自分を貶める様な事を言うもんじゃないぞぉ」
 ツバサのパソコンに映る、提出予定の写真を見た瞬間、
「…………」
「ほらぁやっぱりぃいぃぃぃぃぃぃいぃぃ~~~~~~」
 黙るハヤテに傷口に塩。ツバサは机に突っ伏し、大泣きし出してしまった。
「ハーくん! 救い上げて落とす、その態度は酷いんじゃないかい!」
「い、いや、俺はそんなつもりじゃ!」
「そうだよ、ハヤテくん! 自己表現の形は一つじゃ無いんだよ!」
 ハヤテを責めに責める、ヒカリとサクラ。
 文句を言いながらツバサのパソコン画面を見て、
「「…………」」
 絶句。
 しかし泣いていたツバサが向ける、恨めしそうなジト目に気付き、
「だっ、大丈夫、大丈夫ぅ! 大丈夫……だよツバサちゃん!」
「そっ、そうだよぉ! これもツバサちゃんの……こ、個性だよぉ!」
「なんで二人じで口籠っだでありまずがぁあぁぁっぁあっぁぁ~~~~~~!」
 余計に大泣き、もはや収拾不能状態。
((ど、どうしようぉ……))
 途方に暮れると、ハヤテが苦笑いを浮かべてツバサの頭に手を置き、
「落ち着けツバサぁ。提出期限までまだあるんだし、一緒に、ツバサらしい写真の方向性を見つけていこう」
 するとツバサはピタリと泣き止み、涙目でハヤテを見上げ、
「ハヤテ君とでありまずかぁ……?」
「えぇ!? あ、あぁ……いくらでも手伝ってやるよぉ」
 その一言に、泣いていたカラスがニヘラと笑い、
「ハイでぇ~す!」
 一先ずホッとするハヤテ。
 そんな中、
「「じぃ~~~~~~~~~」」
 背中に刺さる物言いたげな、ヒカリとサクラの視線。
 気まずそうに、おずおずと振り返り、
「な、なんだよ……」
「へぇ~~~。ツバサちゃんだけ、特別扱いなのかぁい?」
「ひ、ヒカリとサクラは、もう良い写真が撮れてるだろぉ?」
「「そんな事ないよぉ!」」
(私だってハヤテくんと一緒に!)
「分かった分かった、三人とも提出期限のギリギリまで付き合うよぉ。マンツーマンで教えた方が上達も早そうだしなぁ」
 困った笑みを浮かべるハヤテに、
(((そう言う意味じゃないんだけどなぁ……)))
 ため息をつく三人娘。
 すると唐突に、入り口の引き戸がガラッと開き、
「ハッハッハッ! 写真部兼お悩み相談部の諸君、相変わらず賑やかだねぇ! 騒ぎが階下まで聞こえていたよ!」
 新津屋が千穂とツバメを引き連れやって来た。
 壁に貼られたコンテストのポスターに目を留め、
「ハッハッハッ! なるほどぉ! 人見知りガールの騒ぎの元はこれかね! どれ……」
 ツバサのパソコン画面を、千穂、ツバメと共に覗き込む。
「「「…………」」」
 フリーズ。
 再びショックを受けるツバサ。
 そこへトドメの様に、日頃は感情表現が少ない千穂が、
「クスッ」
 小馬鹿にした様に、悪い顔して小さく噴き出し笑い。
 治りかけた傷口に粗塩。
「笑われだぁぁっぁぁぁっぁぁああぁぁっぁぁ~~~~~~!」
 再びツバサは、思い出したように大泣きし出してしまった。
 先程以上の大泣きに、ハヤテ達は両手で耳を押さえ、
「やっと泣き止んだのに、どうしてくれんスかァ!」
「もぅ! 何しに来たんだい先輩たちは!」
「泣かないでぇ、ツバサちゃん!」
 ハヤテ達に責められているのに新津屋は「ハッハッハッ!」と愉快そうに高笑いし、ツバメは笑顔で誤魔化し、千穂は悪びれた様子も見せず、いつも通りの無表情。
 混迷を極める中、教室の入り口から、
「す、すみませぇ~ん。ここって……『お悩み相談部』ですよねぇ」
 おずおずと、見るからに大人しそうな男子生徒が顔をのぞかせた。
 理解不能の状況に、男子生徒が入って良いものか戸惑っていると、
「ハッハッハッ! 入ってくるが良いファーストボォーーーイ!」
「新津屋先輩、何を仕切ってるんスかぁ! ココの部長はヒカリであってぇ!」
「ハぁ~くぅ~ん! ツバサちゃんが泣き止んでくれないよぉおぉぉ~~~!」
「え!? ちょっ、ヒカリ待っ、」
「後輩ッチ、話を聞こう」
「だから千穂先輩ィ! 何を勝手に、話を聞こうとしてるんスかぁ!」
「ハヤテくぅん! ツバサちゃんがぁ自暴自棄にぃ~~~!」
「なっ!?」
「入ってぇ~~~お話ぃ~~~聞くわよぉ~~~」
「ツバメ先輩まで何を勝手にぃ!」
「ハぁ~~~くぅ~~~ん!」
「ハヤテくぅ~~~ん!」
「ハヤテ君うぅぅぅうぅっぅっぅぅ!」
「だぁあぁっぁあぁぁあぁっぁぁっぁっぁ! もぅ!」
 八方塞がりの状態に、頭を抱えるハヤテ。四人のパソコンが置かれた長テーブルの前から、キレ気味に遠ざかった。
 サクラのパソコンの画面に映し出される、提出予定の一枚の写真。
 セルフタイマー中に三脚の足が縮んだのか、斜めになった画面に向かって慌てて駆け寄る、サクラ、ハヤテ、ヒカリ、ツバサ、四人の笑顔。
 タイトル:『私の青春の一ページ』
≪こんな感じなので、私たちの恋の決着はまだまだ先のようです≫

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