87 / 88
続章_85
しおりを挟む
ヒカリが美しい夕景を優雅に堪能している一方で、必死の形相で廊下を爆走するハヤテとサクラ、そしてツバサ。
手を伸ばす先、高笑いの尾を引きながら逃走する新津屋、千穂、ツバメの背が。
「待ちやがれぇーーー! イカサマ書類を返せぇーーーーーー!」
「先輩待ってぇーーーーーー!」
「会長殿ぉ、待って下さぁーーーーーーい!」
新津屋は「ハッハッハッ」と高笑いを上げ、
「イカサマとは異な事を! 署名は確かに東海林ヒカリ君がした物なのだよ!」
「騙して書かせたクセに何言ってやがるぅ! だいたい『お悩み相談部』って何言ってんだぁ!」
追い掛けながらの詰問に、新津屋は逃げながら、
「生徒諸氏の悩み相談は教師ではなく、同年代の、信頼のおける者との方が話しやすいのではないかと、今回の一件で痛感したのだよぉ!」
「だからってぇ! 何でコミュニケーション能力の低い俺らなんだぁーーー!」
自虐的に困惑笑いを浮かべると、新津屋達がいきなり急ブレーキ。
「「「!」」」
全力で追いかけていたハヤテは慌てて止まろうとしたが止まり切れず、減速したところに勢い余ったサクラとツバサが背後から、
「わぁ!」
「なっ!」
追突!
「げぇーーー!」
勢いそのままハヤテを下に三段重ねの状態で、新津屋の足元までヘッドスライディングした。
「イテテテ……二人とも大丈夫かぁ?」
「う、うん。ハヤテくん、ごめんねぇ」
「ハヤテ君、申し訳ないでありますぅ」
三段重ねのうつ伏せ状態のまま、互いの無事を確認し合っていると、
「怪我はないかね?」
頭上から降り注ぐ、温和な声。
「「「!」」」
三人が顔だけ上げると、そこにはいつもの作り笑顔とは違う、穏やかな、凪の様な笑みを浮かべる新津屋の顔があった。
(なんて温良な笑顔なんだろ……)
サクラが思わず見とれていると、
「写真部諸氏よ、私は南君の心を解放してくれた君達に感謝の念を禁じ得ないと共に、その根底にある「人の痛みを知る者」の持つ優しさを、高く評価しているだよ」
いつもの、人を小馬鹿にした態度とは明らかに違う真摯な物言いに、
「「「…………」」」
ハヤテ達は呆気にとられて言葉が出ず、笑みを浮かべる新津屋を、ただただビックリ顔で見上げていると、新津屋はそんなハヤテ達の傍らに屈み、
「立場的に教員と変わらない生徒会が相手では、生徒諸氏は心を開いてくれないであろう。どうか無力な私に代わり、悩みを抱えた生徒諸氏の、良き相談相手となってはくれまいか……」
静々と頭を下げた。
(なんて……なんて優しい色をする人なんだろ……本当に、心から学校のみんなの事を心配している……)
サクラは、今日まで新津屋との間にあった様々な疑念や不信の全てが、一瞬にして消し飛ぶ感覚を覚え、至誠を以って頭を下げる姿に只々感動した。
と同時に他人から評価され、必要とされている事実を知り嬉しく思った。
(こんな私でも、人の役に立つ事が出来る……のかな……)
自身の中の可能性に気付かされたサクラは、
「は、ハヤテくん、私、」
言いかけた矢先、ツバサも同じ事を思ったようで、
「ハヤテ君、私はやってみたいであります!」
後れを取ってしまったが、サクラも、
「わ、私も! どこまで出来るか分からないけど、やってみたい!」
そのキラキラとした眼差しに、ハヤテは意外そうでりながらも、
「…………」
そこはかとなく嬉しそうな表情で二人を見つめた。
元よりハヤテが申請書類を必死に取り返そうとしたのも、コミュ障のサクラとツバサが、見知らぬ生徒と話をする事で心に負う負担を心配していただけの事であり、その二人からの「自身を変えたい」との意味を持った申し出ならばハヤテに断る理由がある筈も無く、フッと小さな笑みを浮かべ、
「わぁ~たよ。ただ、新津屋先輩の掌で踊らされている感が否めないのが、少し腹立たしいけどなぁ」
皮肉った笑みで新津屋を見上げると、新津屋は「ハッハッハッ」と高笑いを上げながら立ち上がり、
「ナイトボーイ! 陰口は陰でするモノだよぉ!」
「陰口じゃなくて嫌味だからいいんスよ」
「ハァーハッハッハッ!」
ハヤテの笑顔に、新津屋は愉快そうな更なる高笑いを一つ上げると、騒ぎを聞きつけ集まった野次馬生徒達に向け、
「生徒諸氏よ、聞いて欲しいぃ! 今ここに『写真部兼お悩み相談部』が誕生した! 悩みを持つ者は一人で苦しみを抱え込まず、是非写真部の扉を叩いて欲しい! 彼等は決して君達を裏切らない! 『新津屋一族』正当後継順位一位であるこの『新津屋岳』が、その名を以って保証するぅーーーッ!」
その演説は、茶化す事を許さないほどの威厳に満ち満ちていた。
足元にハヤテ、サクラ、ツバサの三人が、未だ折り重なり合い、床に這いつくばったままではあるが。
手を伸ばす先、高笑いの尾を引きながら逃走する新津屋、千穂、ツバメの背が。
「待ちやがれぇーーー! イカサマ書類を返せぇーーーーーー!」
「先輩待ってぇーーーーーー!」
「会長殿ぉ、待って下さぁーーーーーーい!」
新津屋は「ハッハッハッ」と高笑いを上げ、
「イカサマとは異な事を! 署名は確かに東海林ヒカリ君がした物なのだよ!」
「騙して書かせたクセに何言ってやがるぅ! だいたい『お悩み相談部』って何言ってんだぁ!」
追い掛けながらの詰問に、新津屋は逃げながら、
「生徒諸氏の悩み相談は教師ではなく、同年代の、信頼のおける者との方が話しやすいのではないかと、今回の一件で痛感したのだよぉ!」
「だからってぇ! 何でコミュニケーション能力の低い俺らなんだぁーーー!」
自虐的に困惑笑いを浮かべると、新津屋達がいきなり急ブレーキ。
「「「!」」」
全力で追いかけていたハヤテは慌てて止まろうとしたが止まり切れず、減速したところに勢い余ったサクラとツバサが背後から、
「わぁ!」
「なっ!」
追突!
「げぇーーー!」
勢いそのままハヤテを下に三段重ねの状態で、新津屋の足元までヘッドスライディングした。
「イテテテ……二人とも大丈夫かぁ?」
「う、うん。ハヤテくん、ごめんねぇ」
「ハヤテ君、申し訳ないでありますぅ」
三段重ねのうつ伏せ状態のまま、互いの無事を確認し合っていると、
「怪我はないかね?」
頭上から降り注ぐ、温和な声。
「「「!」」」
三人が顔だけ上げると、そこにはいつもの作り笑顔とは違う、穏やかな、凪の様な笑みを浮かべる新津屋の顔があった。
(なんて温良な笑顔なんだろ……)
サクラが思わず見とれていると、
「写真部諸氏よ、私は南君の心を解放してくれた君達に感謝の念を禁じ得ないと共に、その根底にある「人の痛みを知る者」の持つ優しさを、高く評価しているだよ」
いつもの、人を小馬鹿にした態度とは明らかに違う真摯な物言いに、
「「「…………」」」
ハヤテ達は呆気にとられて言葉が出ず、笑みを浮かべる新津屋を、ただただビックリ顔で見上げていると、新津屋はそんなハヤテ達の傍らに屈み、
「立場的に教員と変わらない生徒会が相手では、生徒諸氏は心を開いてくれないであろう。どうか無力な私に代わり、悩みを抱えた生徒諸氏の、良き相談相手となってはくれまいか……」
静々と頭を下げた。
(なんて……なんて優しい色をする人なんだろ……本当に、心から学校のみんなの事を心配している……)
サクラは、今日まで新津屋との間にあった様々な疑念や不信の全てが、一瞬にして消し飛ぶ感覚を覚え、至誠を以って頭を下げる姿に只々感動した。
と同時に他人から評価され、必要とされている事実を知り嬉しく思った。
(こんな私でも、人の役に立つ事が出来る……のかな……)
自身の中の可能性に気付かされたサクラは、
「は、ハヤテくん、私、」
言いかけた矢先、ツバサも同じ事を思ったようで、
「ハヤテ君、私はやってみたいであります!」
後れを取ってしまったが、サクラも、
「わ、私も! どこまで出来るか分からないけど、やってみたい!」
そのキラキラとした眼差しに、ハヤテは意外そうでりながらも、
「…………」
そこはかとなく嬉しそうな表情で二人を見つめた。
元よりハヤテが申請書類を必死に取り返そうとしたのも、コミュ障のサクラとツバサが、見知らぬ生徒と話をする事で心に負う負担を心配していただけの事であり、その二人からの「自身を変えたい」との意味を持った申し出ならばハヤテに断る理由がある筈も無く、フッと小さな笑みを浮かべ、
「わぁ~たよ。ただ、新津屋先輩の掌で踊らされている感が否めないのが、少し腹立たしいけどなぁ」
皮肉った笑みで新津屋を見上げると、新津屋は「ハッハッハッ」と高笑いを上げながら立ち上がり、
「ナイトボーイ! 陰口は陰でするモノだよぉ!」
「陰口じゃなくて嫌味だからいいんスよ」
「ハァーハッハッハッ!」
ハヤテの笑顔に、新津屋は愉快そうな更なる高笑いを一つ上げると、騒ぎを聞きつけ集まった野次馬生徒達に向け、
「生徒諸氏よ、聞いて欲しいぃ! 今ここに『写真部兼お悩み相談部』が誕生した! 悩みを持つ者は一人で苦しみを抱え込まず、是非写真部の扉を叩いて欲しい! 彼等は決して君達を裏切らない! 『新津屋一族』正当後継順位一位であるこの『新津屋岳』が、その名を以って保証するぅーーーッ!」
その演説は、茶化す事を許さないほどの威厳に満ち満ちていた。
足元にハヤテ、サクラ、ツバサの三人が、未だ折り重なり合い、床に這いつくばったままではあるが。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる