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妖刀と予言の湖
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あれから水族館や映画館と言ったところを周り、満足した所で国に帰ってきた。
「おかえりなさいませ、女王陛下、ラルク様。」
じいの言葉に続いて、城の庭から城までお迎えが並んで、おかえりなさいませ、と深く頭を下げた。
「またか、このような迎えよりもっと休憩増やせ。じい、今すぐ即位式の準備をせよ、ラルクを王として迎え入れる。同盟破棄はしたな?」
「もちろんでございます。即位式の準備も出来ております。」
「よし、ラルク、休憩もなく悪いが、出てもらう」
「うん、大丈夫。」
ラルクの生まれ国と戦争、ということもあり、早急に行われた。
だが、主権はシエルが握っている。それは変わらない。シエルがつらつらと巻物を読み上げ、ラルクのおでこに焼印を入れた。だが熱くも痛くもなく、それはすぐに消えて見えなくなる。
王冠ではなく、腕輪が渡され、ラルクの左手首に付くと、サイズが調整され、動かなくなる。
「風呂に入る時は自然に消える。出たらまた出てくる。これでわらわが離れていてもわらわの力で守ってやれる。そして、ラルク一つ魔法で何かアクセサリー作ってくれぬか?」
「うん、はい。」
唐草模様の、ところどころ宝石が散りばめられている、チョーカーのようなもの。
それをシエルの首に付けた。もちろん伸縮自在。
「ふふっ、可愛らしいデザインじゃ。流石センスがよいの。」
「...これで正式に我が国の王となられました。ラルク様、おめでとうございます。」
謁見の間に拍手と歓声が響き、城の皆に祝福されたラルクは来た当初とは全く違う顔をして笑っていた。
「...ふ、良い顔をしておる。」
「ええ、来た当初は怯えの中に殺気がありましたからね」
「少しでも生きることに楽しみを覚えてくれればそれでよい。さて、何をさせるかの」
「それは今まで通り、シエル様が政治を動かすのでしょう?」
「わらわが正式な王位継承者だからな。それはもちろんだが、ラルクは良く気が回る。」
「でしたら今まで通りでよろしいのでは?そちらの方が皆喜びます。」
「じゃの。ははは、一ヶ月でこんなに人気になるとはな。わらわよりも人気じゃの。」
ラルクには今まで通りにしてもらい、シエルは仕事に専念する。部下達の意見を聞くのも立派な仕事である。その辺、ラルクは相手を自然体にさせて、本心を引き出すのがうまかった。
「陛下、おめでたい席で申し訳ございません。人間たちが動き出しました。まもなく第一戦場に。あの剣の力も確認されております」
側近の1人がボソッと、シエルに報告すると、シエルは的確に指示を出し、戦争が始まった。
戦場はここよりかなり離れているものの、人間たちが唯一ドラゴンに太刀打ちできる刀剣がある。その刀は形こそ違うものの、他の剣に自分の力を分け与え、代償に力を受け取ったものの命を吸い尽くす。それから逃れる事ができるのは他の命を奪うこと。獲物が大きければ大きいほど、猶予が与えられるために、ドラゴンは格好の獲物だった。
「兵士たちはこれを知らずに持たされている...。ちっ、残虐じゃ。せめて、自分の慕うものを恨むことなく死なせてやれ。」
「かしこまりました。」
それはシエルなりの優しさである。この力を知ったら人の世界は崩れる。だが、敵であるこちら側の言う事を聞くわけもない。何より兵士は王を民より特別慕い、忠誠心が強い。
それは人間もドラゴンも一緒だ。
「人の王よ、どこまで自分の民を...。」
同じ立場として許せない行為であった。何よりシエルは国とは国民である、という考えの持ち主だった。
戦死したものにはものすごい敬意を示すことでも、民に信頼されている理由の一つ。
「...また命が消える。いつまで続くのかの。命の奪い合いなど悲しみと憎しみを生むだけじゃ。」
「女王陛下...」
「いつだってそうだ。我らは人と協力しようとし、人にすべてを奪われ、初代がここもようやく取り戻し、バラバラになった仲間を集め、国を作ることで、ギリギリの未来を守っている。言葉も通じるのに。しんみりは終わりじゃ。さて、仕事じゃ仕事じゃ。」
シエルが途中、ラルクを引っこ抜いて連れていき、謁見の間をでた瞬間。じいが光の矢で体に穴を開けられた。当然場は一気にどよめいたが、側近がじいを連れてきた。矢で貫かれた方は人間が化けたものだった。それをシエルは分かっていたのだ。もちろんその光の矢はシエルのものだ。その人間は急所を外されていたために一命は取り留めた。そして牢に入れられた。
「人間、話してもらうぞ」
「へっ、あたいが喋ると思うかい?あんた達の女王様の言ってた通り忠誠心は強いんでね」
「ならば、我らもそれなりにするまでよ」
重鎮たちの前で尋問が行われた。
もちろんラルクは知らない。
「ラルク、一緒にハーブティー飲もうぞ。菓子もある」
「うん、このお菓子可愛い...。」
「味は可愛くないぞ。食べてみろ」
恐る恐るラルクがそのお菓子を口にすると、柑橘系の酸っぱさが口の中で広がる。
「ははは、それは本来ミルクにつけて食べるのだ」
「シエル...それ、早く言って...酸っぱい...」
「物事は1度体験じゃ。ほれ、飲め飲め」
ミルクを差し出され、それを飲むと一気に緩和されて、ほんのり甘味が広がる。
「ミルクの成分に反応して甘くなるのだ。面白いだろう?ははははは」
「シエルひどい...」
「そうじゃの。だが先に言った。味は可愛くないとな。ははははは」
シエルはハーブティーを口にして、別のお菓子を手に取った。
ティータイムは人間の姿で優雅に過ごす。
流石にドラゴンの姿でお茶は無理があった。
「初めて見るお菓子ばっかり...」
「ドラゴンと人間の味覚はかなり違う。ドラゴンは敏感だから人間にとってほんのり甘いくらいで丁度よい。これは美味いぞ。」
ふにふにとクッションのように柔らかい角砂糖サイズカップケーキのようなもの。
「あ...美味しい。なんだろう...程よい感じで酸味もあるし甘みもある」
「だろう?これをハーブティーに入れると...」
「色が変わった...」
「見た目こそグロテスクだが、とても美味いぞ」
一つラルクもぽちゃん、と入れてかき混ぜる。
色は青々としている。覚悟を決め、飲んでみると、ハーブティーと合わさり、ハーブティーの風味などをより引き立てた。
「ハーブティーには古来より魔女が魔力の補充に飲んでいたとされているが、根拠はない。それよりも先ほどの酸っぱいやつの方が魔力補充効果もある」
「へー...機能性食品...」
「はははははラルク上手いな!確かにそうだな」
飲み終わる頃にメイドがおかわりなどを聞きに来て、断ると、シエルは立ち上がり、ドラゴンになる。
「はー、いい景色じゃ。わらわはここから見える森が好きでの。母を思い出す。ドラゴンの王は生まれた瞬間に決まる。王になるべく生まれてすぐ親から引き剥がされた。王位継承して、それから何度か会いにいった。母はいつも歓迎してくれた。もう父も母も亡くなったがの。だから我が国の子供たちにはそんな悲しい思いはなるべくさせたくないのだ。親の愛を知って、自分の幸せを掴んで欲しい。」
そう言うシエルは目を細めて、懐かしんでいるように見える。
「王位継承者の交代はある程度コントロールできるのだ。まあ、それを他のものはしらんがの。さて、ラルクおぬしのファンがおぬしの作る菓子を待っておるぞ」
「あ、うわああああ!休憩時間まであと少し!!」
慌てて出ていくラルクを見送り、シエルは空を見上げた。
何をする訳でもなくじっと雲の流れを見ていたのだ。しばらくして、シエルもバルコニーから部屋に入り、書類に手をつけ始める。
それが終わるころ、側近から戦況が伝えられ、なんとかここで食い止められそうだ、と言う話だった。
だが、シエルはそれを聞くと戦場に向かって瞬間移動し、大きな防御結界を張った。
その直後上から特大魔法が降り注ぐ。
「皆の者!もう少しだ!!」
その特大魔法は敵味方関係なく、蹴散らすもので、人間であれば賢者レベルが最低でも10人必要な魔法。
「女王様だ!皆!いけえ!!」
シエルの登場に、士気が高まった。
シエルはその特大魔法の光線に自分のブレス光線を当てた。
なんとか発生源に押し返し、途端に発生源の穴の中で爆発を起こす。
「このサイズはそうやすやすと撃てるものではない、しばらくは大丈夫だろう。だが...。」
本当の狙いは国だ。そしてシエルの力をリンクしてあるラルクから防壁を出し、兵士たちが束になって打ち返していた。
シエルもすぐに向かい、横からブレスを当てる。
魔法は相殺され、消える。
「女王陛下!!」
「すまぬの、ちーと向こうの援護をしていた。良くやってくれた。」
「ええ、ラルク様が指揮をして下さり、ご自身も尽力なさってくださいました。」
「そうだったか。ラルク、ありがとう。」
「うん、シエルもお疲れ様。」
城に戻ると庭に子供たちがいて、シエルを見つけるとパタパタと酔ってきた。
代表して女の子がどうぞ、とお花をくれてシエルが受け取ると子供たちは嬉しそうに親のところに戻った。シエルも自然と微笑み、もらった花を自分の部屋に飾ると、謁見の間に向かった。
「さて、ラルクやお前はこっちじゃ」
まだ側近たちと並んでいたラルクを呼び寄せ、隣に座らせる。
「此度の皆の協力、そして判断、感謝する。戦場にはやはりあの妖刀があった。知らぬものもいると思う。この妖刀に触れるとそこから腐り始める。われわれの鱗でもな。そしてその妖刀の特徴として、他の刀や剣にその力を付与する事ができる。従って、なるべく遠距離戦を徹底せよ。本日のような特大魔法はそう易々と打てるものでは無い。3日は魔力補充に時間がかかるだろう。ただ、あの魔法は戦場にも打たれた。2発打てる能力はあの国だけでは無理じゃ。よって、人間たちは束になってこちらにかかってくる。ここはわらわとラルクで守る。戦えるものは皆応援に行ってほしい。くれぐれも接近戦持ち込むな」
「シエル、その妖刀についてなんだけど、一つ弱点がある。」
ラルクの言葉にどよめいた。散々苦しまされた妖刀の弱点。それは本体の能力を打ち消す方法だ。とある鉱石に反応して、妖刀本体が引き寄せられる。そしてその本体を壊せば、付与された側の能力も消えるというものだった。
「その鉱石がなんだか分かるか?」
「妖刀の鍛刀時に腐敗竜の竜玉が使われた。」
「腐敗竜の好む鉱石か。これか。」
シエルが取り出したのは玉座に一番大きく装飾としてついていた赤い玉。
ラルクがその宝石をシエルから受け取ると、呪文を唱え始めた。
するとふわふわ浮いた妖刀が出てきた。
それにシエルが思いっきり熱線を当てて熱くなっところを凍らせ、光線を放つと、妖刀は崩れ去った。
「やった...!!」
「いや、まだじゃ。砕け散ってもなお力を持つか。ラルク、その宝石を貸せ。」
ラルクから宝石を受け取ると、欠片をその宝石に近づけ、欠片が、宝石に封印された。
「これで大丈夫だ。ラルクよく知っておったな...」
「だってそれを作れるの俺だけだもん」
「そうだったのか。まさか作者がこちら側だったとは。うむ、これでかなり多くの命が救われる。人間もドラゴンもな。」
「あとは竜騎士ですな。」
「...酷いことをしよる。竜騎士に関しては年々増加傾向にある。その竜騎士の乗るドラゴンもな。」
「全部が全部この国にいるわけじゃないんだ...」
「ああ、引っ捕えられたドラゴンが、産まされ続け、卵から人間の手で育てることにより、人間への忠誠心を刷り込む。まだ外には自分の住処を作り、暮らすドラゴンもいる。場所がわからない以上そやつらは守りようがない。」
「...」
「ラルクが落ち目を感じることではない。大丈夫じゃ。やつらも無駄に野生で生きておらん。ラルク何かしようとしてくれる気持ちは嬉しいが、我らがいったところでやつらは自分の住処から動かぬ。そういうもんじゃ。」
シエルが大きな手でそっとラルクの頭を撫でた。
「ラルクのおかげで妖刀は無くなった。それだけでも大きいことだぞ?さあ、話は終わりじゃ。各々仕事に取り掛かれ。」
シエルが謁見の間から出て続いてラルクがシエルのあとを付いていく。
「シエル、その宝石、どうするの?」
「今こそわらわの力で封じておるが、どうしようかのう。こうしようかの」
シエルの手の宝石が炎に包まれ、溶けて無くなった。
「シエルすごい...」
「ははははは、ラルクに褒められると嬉しいの。国の周りに防御結界を張る。ラルク、手伝ってくれるか?」
「うん」
ちょうど国の中心にあるこの城のシエルの部屋。ここが国のど真ん中。部屋の床に大きな魔法陣を焼き付け、その中心に立って、ラルクを呼んで、結界を張った。
「この結界があると民は自由に飛べぬ。自由に飛べる翼をもつからこそ、自由に風を感じて欲しいからな。わらわの力は味方の行動を封じるまでに強力なのじゃよ。大丈夫か?ラルク」
「はあはあ...うん、疲れた...」
「流石に人の身でこれだけの結界は辛いか。広いしの。無理もない。だがおかげで結界自体に反撃効果を付けることが出来た。ちょうどいい」
立ち上がれないラルクを乗せて、外にでた。
上から降ってくる魔法に、結界が確実にすべて相殺していた。
「ほれ、みてみろ、この結界はスパイ侵入も防ぐ。一箇所からしか入れない上にこちらの住民登録証と反応しないと入れない仕組みじゃ。化けられても波動までは変えられん。登録証は波動を登録しておる。そして入口はそれぞれドラゴンによって違うのじゃ」
けらけらと笑うシエル。ラルクは疑問でならなかった。妖刀を作りだし、多くの仲間を間接的ではあるが殺した張本人の自分を誰も責めることも責める気配すらなく、殺されても文句はいえないのに。
「シエル...。何で責めないの...」
「うむ?責めることではないだろう?妖刀のことであろう?人間たちからすれば我らはかなりの脅威で、自分の身を守るために対抗術として妖刀が生まれた。しかしそれをラルクは使っていない。武器は使い手によって傷つけるためのものにも、守るためのものにもなる。城の皆も同じ。天敵から身を守ろうと試行錯誤することは本能じゃ。誰が責められる?わらわは知っておる。ラルクが妖刀を作りだしたのは母親を取り戻したかったからだと。わらわが妖刀の生まれた経緯を知らぬとでも?」
「シエル...。」
「みんな必死なんじゃ。生きるために。意見が食い違い、我を押し通そうとすると戦争は起こる。意見や意思は生きている以上持つもので、それが無いものは生きてるとは言えぬ。じゃからわらわは民の声を聞くために城も重要な場所以外は公開して、入れるようにしておる。どんな書類よりも声を聞くことは一番重要なことだからの。」
シエルがぐるっと反対方向に向き、森の湖で、降りた。
小さな精霊たちが楽しそうに飛んでいた。
シエルの周りを飛んで、ラルクの周りを飛んで、湖に吸い込まれるように入っていっては出てくる。
「精霊初めてみた...」
ラルクが、人差し指を差し出すとそこにちょこんと精霊が乗っかってにこっ、と笑う。
「歓迎されておるな。ここに来たのは少々水の力を借りたくての。」
「水の...力?」
「水は己を映す、そして見たいものを映し出してくれる。前にじいと話したのと一緒だ。だがここは未来をも映し出してくれる」
シエルが水面に手をつけ、すーっと手を左に動かした。
「...。なるほどの。」
ふと湖が凍りつき、中心に氷の木ができる。その氷の木は、真ん中に中の水が動く玉のようなものを実らせ、シエルがそれをとると、湖の氷は解けて湖に戻る。
シエルが何を見たのか、ラルクには見えなかったが、その予言を見たシエルの顔は普段よりも穏やかだった。
「おかえりなさいませ、女王陛下、ラルク様。」
じいの言葉に続いて、城の庭から城までお迎えが並んで、おかえりなさいませ、と深く頭を下げた。
「またか、このような迎えよりもっと休憩増やせ。じい、今すぐ即位式の準備をせよ、ラルクを王として迎え入れる。同盟破棄はしたな?」
「もちろんでございます。即位式の準備も出来ております。」
「よし、ラルク、休憩もなく悪いが、出てもらう」
「うん、大丈夫。」
ラルクの生まれ国と戦争、ということもあり、早急に行われた。
だが、主権はシエルが握っている。それは変わらない。シエルがつらつらと巻物を読み上げ、ラルクのおでこに焼印を入れた。だが熱くも痛くもなく、それはすぐに消えて見えなくなる。
王冠ではなく、腕輪が渡され、ラルクの左手首に付くと、サイズが調整され、動かなくなる。
「風呂に入る時は自然に消える。出たらまた出てくる。これでわらわが離れていてもわらわの力で守ってやれる。そして、ラルク一つ魔法で何かアクセサリー作ってくれぬか?」
「うん、はい。」
唐草模様の、ところどころ宝石が散りばめられている、チョーカーのようなもの。
それをシエルの首に付けた。もちろん伸縮自在。
「ふふっ、可愛らしいデザインじゃ。流石センスがよいの。」
「...これで正式に我が国の王となられました。ラルク様、おめでとうございます。」
謁見の間に拍手と歓声が響き、城の皆に祝福されたラルクは来た当初とは全く違う顔をして笑っていた。
「...ふ、良い顔をしておる。」
「ええ、来た当初は怯えの中に殺気がありましたからね」
「少しでも生きることに楽しみを覚えてくれればそれでよい。さて、何をさせるかの」
「それは今まで通り、シエル様が政治を動かすのでしょう?」
「わらわが正式な王位継承者だからな。それはもちろんだが、ラルクは良く気が回る。」
「でしたら今まで通りでよろしいのでは?そちらの方が皆喜びます。」
「じゃの。ははは、一ヶ月でこんなに人気になるとはな。わらわよりも人気じゃの。」
ラルクには今まで通りにしてもらい、シエルは仕事に専念する。部下達の意見を聞くのも立派な仕事である。その辺、ラルクは相手を自然体にさせて、本心を引き出すのがうまかった。
「陛下、おめでたい席で申し訳ございません。人間たちが動き出しました。まもなく第一戦場に。あの剣の力も確認されております」
側近の1人がボソッと、シエルに報告すると、シエルは的確に指示を出し、戦争が始まった。
戦場はここよりかなり離れているものの、人間たちが唯一ドラゴンに太刀打ちできる刀剣がある。その刀は形こそ違うものの、他の剣に自分の力を分け与え、代償に力を受け取ったものの命を吸い尽くす。それから逃れる事ができるのは他の命を奪うこと。獲物が大きければ大きいほど、猶予が与えられるために、ドラゴンは格好の獲物だった。
「兵士たちはこれを知らずに持たされている...。ちっ、残虐じゃ。せめて、自分の慕うものを恨むことなく死なせてやれ。」
「かしこまりました。」
それはシエルなりの優しさである。この力を知ったら人の世界は崩れる。だが、敵であるこちら側の言う事を聞くわけもない。何より兵士は王を民より特別慕い、忠誠心が強い。
それは人間もドラゴンも一緒だ。
「人の王よ、どこまで自分の民を...。」
同じ立場として許せない行為であった。何よりシエルは国とは国民である、という考えの持ち主だった。
戦死したものにはものすごい敬意を示すことでも、民に信頼されている理由の一つ。
「...また命が消える。いつまで続くのかの。命の奪い合いなど悲しみと憎しみを生むだけじゃ。」
「女王陛下...」
「いつだってそうだ。我らは人と協力しようとし、人にすべてを奪われ、初代がここもようやく取り戻し、バラバラになった仲間を集め、国を作ることで、ギリギリの未来を守っている。言葉も通じるのに。しんみりは終わりじゃ。さて、仕事じゃ仕事じゃ。」
シエルが途中、ラルクを引っこ抜いて連れていき、謁見の間をでた瞬間。じいが光の矢で体に穴を開けられた。当然場は一気にどよめいたが、側近がじいを連れてきた。矢で貫かれた方は人間が化けたものだった。それをシエルは分かっていたのだ。もちろんその光の矢はシエルのものだ。その人間は急所を外されていたために一命は取り留めた。そして牢に入れられた。
「人間、話してもらうぞ」
「へっ、あたいが喋ると思うかい?あんた達の女王様の言ってた通り忠誠心は強いんでね」
「ならば、我らもそれなりにするまでよ」
重鎮たちの前で尋問が行われた。
もちろんラルクは知らない。
「ラルク、一緒にハーブティー飲もうぞ。菓子もある」
「うん、このお菓子可愛い...。」
「味は可愛くないぞ。食べてみろ」
恐る恐るラルクがそのお菓子を口にすると、柑橘系の酸っぱさが口の中で広がる。
「ははは、それは本来ミルクにつけて食べるのだ」
「シエル...それ、早く言って...酸っぱい...」
「物事は1度体験じゃ。ほれ、飲め飲め」
ミルクを差し出され、それを飲むと一気に緩和されて、ほんのり甘味が広がる。
「ミルクの成分に反応して甘くなるのだ。面白いだろう?ははははは」
「シエルひどい...」
「そうじゃの。だが先に言った。味は可愛くないとな。ははははは」
シエルはハーブティーを口にして、別のお菓子を手に取った。
ティータイムは人間の姿で優雅に過ごす。
流石にドラゴンの姿でお茶は無理があった。
「初めて見るお菓子ばっかり...」
「ドラゴンと人間の味覚はかなり違う。ドラゴンは敏感だから人間にとってほんのり甘いくらいで丁度よい。これは美味いぞ。」
ふにふにとクッションのように柔らかい角砂糖サイズカップケーキのようなもの。
「あ...美味しい。なんだろう...程よい感じで酸味もあるし甘みもある」
「だろう?これをハーブティーに入れると...」
「色が変わった...」
「見た目こそグロテスクだが、とても美味いぞ」
一つラルクもぽちゃん、と入れてかき混ぜる。
色は青々としている。覚悟を決め、飲んでみると、ハーブティーと合わさり、ハーブティーの風味などをより引き立てた。
「ハーブティーには古来より魔女が魔力の補充に飲んでいたとされているが、根拠はない。それよりも先ほどの酸っぱいやつの方が魔力補充効果もある」
「へー...機能性食品...」
「はははははラルク上手いな!確かにそうだな」
飲み終わる頃にメイドがおかわりなどを聞きに来て、断ると、シエルは立ち上がり、ドラゴンになる。
「はー、いい景色じゃ。わらわはここから見える森が好きでの。母を思い出す。ドラゴンの王は生まれた瞬間に決まる。王になるべく生まれてすぐ親から引き剥がされた。王位継承して、それから何度か会いにいった。母はいつも歓迎してくれた。もう父も母も亡くなったがの。だから我が国の子供たちにはそんな悲しい思いはなるべくさせたくないのだ。親の愛を知って、自分の幸せを掴んで欲しい。」
そう言うシエルは目を細めて、懐かしんでいるように見える。
「王位継承者の交代はある程度コントロールできるのだ。まあ、それを他のものはしらんがの。さて、ラルクおぬしのファンがおぬしの作る菓子を待っておるぞ」
「あ、うわああああ!休憩時間まであと少し!!」
慌てて出ていくラルクを見送り、シエルは空を見上げた。
何をする訳でもなくじっと雲の流れを見ていたのだ。しばらくして、シエルもバルコニーから部屋に入り、書類に手をつけ始める。
それが終わるころ、側近から戦況が伝えられ、なんとかここで食い止められそうだ、と言う話だった。
だが、シエルはそれを聞くと戦場に向かって瞬間移動し、大きな防御結界を張った。
その直後上から特大魔法が降り注ぐ。
「皆の者!もう少しだ!!」
その特大魔法は敵味方関係なく、蹴散らすもので、人間であれば賢者レベルが最低でも10人必要な魔法。
「女王様だ!皆!いけえ!!」
シエルの登場に、士気が高まった。
シエルはその特大魔法の光線に自分のブレス光線を当てた。
なんとか発生源に押し返し、途端に発生源の穴の中で爆発を起こす。
「このサイズはそうやすやすと撃てるものではない、しばらくは大丈夫だろう。だが...。」
本当の狙いは国だ。そしてシエルの力をリンクしてあるラルクから防壁を出し、兵士たちが束になって打ち返していた。
シエルもすぐに向かい、横からブレスを当てる。
魔法は相殺され、消える。
「女王陛下!!」
「すまぬの、ちーと向こうの援護をしていた。良くやってくれた。」
「ええ、ラルク様が指揮をして下さり、ご自身も尽力なさってくださいました。」
「そうだったか。ラルク、ありがとう。」
「うん、シエルもお疲れ様。」
城に戻ると庭に子供たちがいて、シエルを見つけるとパタパタと酔ってきた。
代表して女の子がどうぞ、とお花をくれてシエルが受け取ると子供たちは嬉しそうに親のところに戻った。シエルも自然と微笑み、もらった花を自分の部屋に飾ると、謁見の間に向かった。
「さて、ラルクやお前はこっちじゃ」
まだ側近たちと並んでいたラルクを呼び寄せ、隣に座らせる。
「此度の皆の協力、そして判断、感謝する。戦場にはやはりあの妖刀があった。知らぬものもいると思う。この妖刀に触れるとそこから腐り始める。われわれの鱗でもな。そしてその妖刀の特徴として、他の刀や剣にその力を付与する事ができる。従って、なるべく遠距離戦を徹底せよ。本日のような特大魔法はそう易々と打てるものでは無い。3日は魔力補充に時間がかかるだろう。ただ、あの魔法は戦場にも打たれた。2発打てる能力はあの国だけでは無理じゃ。よって、人間たちは束になってこちらにかかってくる。ここはわらわとラルクで守る。戦えるものは皆応援に行ってほしい。くれぐれも接近戦持ち込むな」
「シエル、その妖刀についてなんだけど、一つ弱点がある。」
ラルクの言葉にどよめいた。散々苦しまされた妖刀の弱点。それは本体の能力を打ち消す方法だ。とある鉱石に反応して、妖刀本体が引き寄せられる。そしてその本体を壊せば、付与された側の能力も消えるというものだった。
「その鉱石がなんだか分かるか?」
「妖刀の鍛刀時に腐敗竜の竜玉が使われた。」
「腐敗竜の好む鉱石か。これか。」
シエルが取り出したのは玉座に一番大きく装飾としてついていた赤い玉。
ラルクがその宝石をシエルから受け取ると、呪文を唱え始めた。
するとふわふわ浮いた妖刀が出てきた。
それにシエルが思いっきり熱線を当てて熱くなっところを凍らせ、光線を放つと、妖刀は崩れ去った。
「やった...!!」
「いや、まだじゃ。砕け散ってもなお力を持つか。ラルク、その宝石を貸せ。」
ラルクから宝石を受け取ると、欠片をその宝石に近づけ、欠片が、宝石に封印された。
「これで大丈夫だ。ラルクよく知っておったな...」
「だってそれを作れるの俺だけだもん」
「そうだったのか。まさか作者がこちら側だったとは。うむ、これでかなり多くの命が救われる。人間もドラゴンもな。」
「あとは竜騎士ですな。」
「...酷いことをしよる。竜騎士に関しては年々増加傾向にある。その竜騎士の乗るドラゴンもな。」
「全部が全部この国にいるわけじゃないんだ...」
「ああ、引っ捕えられたドラゴンが、産まされ続け、卵から人間の手で育てることにより、人間への忠誠心を刷り込む。まだ外には自分の住処を作り、暮らすドラゴンもいる。場所がわからない以上そやつらは守りようがない。」
「...」
「ラルクが落ち目を感じることではない。大丈夫じゃ。やつらも無駄に野生で生きておらん。ラルク何かしようとしてくれる気持ちは嬉しいが、我らがいったところでやつらは自分の住処から動かぬ。そういうもんじゃ。」
シエルが大きな手でそっとラルクの頭を撫でた。
「ラルクのおかげで妖刀は無くなった。それだけでも大きいことだぞ?さあ、話は終わりじゃ。各々仕事に取り掛かれ。」
シエルが謁見の間から出て続いてラルクがシエルのあとを付いていく。
「シエル、その宝石、どうするの?」
「今こそわらわの力で封じておるが、どうしようかのう。こうしようかの」
シエルの手の宝石が炎に包まれ、溶けて無くなった。
「シエルすごい...」
「ははははは、ラルクに褒められると嬉しいの。国の周りに防御結界を張る。ラルク、手伝ってくれるか?」
「うん」
ちょうど国の中心にあるこの城のシエルの部屋。ここが国のど真ん中。部屋の床に大きな魔法陣を焼き付け、その中心に立って、ラルクを呼んで、結界を張った。
「この結界があると民は自由に飛べぬ。自由に飛べる翼をもつからこそ、自由に風を感じて欲しいからな。わらわの力は味方の行動を封じるまでに強力なのじゃよ。大丈夫か?ラルク」
「はあはあ...うん、疲れた...」
「流石に人の身でこれだけの結界は辛いか。広いしの。無理もない。だがおかげで結界自体に反撃効果を付けることが出来た。ちょうどいい」
立ち上がれないラルクを乗せて、外にでた。
上から降ってくる魔法に、結界が確実にすべて相殺していた。
「ほれ、みてみろ、この結界はスパイ侵入も防ぐ。一箇所からしか入れない上にこちらの住民登録証と反応しないと入れない仕組みじゃ。化けられても波動までは変えられん。登録証は波動を登録しておる。そして入口はそれぞれドラゴンによって違うのじゃ」
けらけらと笑うシエル。ラルクは疑問でならなかった。妖刀を作りだし、多くの仲間を間接的ではあるが殺した張本人の自分を誰も責めることも責める気配すらなく、殺されても文句はいえないのに。
「シエル...。何で責めないの...」
「うむ?責めることではないだろう?妖刀のことであろう?人間たちからすれば我らはかなりの脅威で、自分の身を守るために対抗術として妖刀が生まれた。しかしそれをラルクは使っていない。武器は使い手によって傷つけるためのものにも、守るためのものにもなる。城の皆も同じ。天敵から身を守ろうと試行錯誤することは本能じゃ。誰が責められる?わらわは知っておる。ラルクが妖刀を作りだしたのは母親を取り戻したかったからだと。わらわが妖刀の生まれた経緯を知らぬとでも?」
「シエル...。」
「みんな必死なんじゃ。生きるために。意見が食い違い、我を押し通そうとすると戦争は起こる。意見や意思は生きている以上持つもので、それが無いものは生きてるとは言えぬ。じゃからわらわは民の声を聞くために城も重要な場所以外は公開して、入れるようにしておる。どんな書類よりも声を聞くことは一番重要なことだからの。」
シエルがぐるっと反対方向に向き、森の湖で、降りた。
小さな精霊たちが楽しそうに飛んでいた。
シエルの周りを飛んで、ラルクの周りを飛んで、湖に吸い込まれるように入っていっては出てくる。
「精霊初めてみた...」
ラルクが、人差し指を差し出すとそこにちょこんと精霊が乗っかってにこっ、と笑う。
「歓迎されておるな。ここに来たのは少々水の力を借りたくての。」
「水の...力?」
「水は己を映す、そして見たいものを映し出してくれる。前にじいと話したのと一緒だ。だがここは未来をも映し出してくれる」
シエルが水面に手をつけ、すーっと手を左に動かした。
「...。なるほどの。」
ふと湖が凍りつき、中心に氷の木ができる。その氷の木は、真ん中に中の水が動く玉のようなものを実らせ、シエルがそれをとると、湖の氷は解けて湖に戻る。
シエルが何を見たのか、ラルクには見えなかったが、その予言を見たシエルの顔は普段よりも穏やかだった。
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