小町のひとりごと

夢酔藤山

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……黄昏の果てに刻む無情(6)

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   桜花散らばちらなん散らずとて
        古郷人のきても見なくに

 わたしは息を呑みました。
 そんなやんちゃなことを申される宮様は初めてです。在原業平さまにですら、そのような拗ね言などいったことがありませんでしたし、わたしにも、そのような言葉を口にされたことがござりませんでした。
「然るに老女どの。あなたさまもかなりの歌達者と察します。さぞかし都では名の通った歌詠みでござりましたでしょう」
 遍昭僧正の言葉に、思わず頷きそうになりました。
 遠い昔のことです。わたしが小野小町と呼ばれていたことなど、誰も信用する筈ありません。
 だから、大きく頭を振って
「しがない婆ぁの戯れにございます」
「いや、しかし、拙僧も少しは嗜む身。人の歌心は判るつもりじゃ」
「戯れで歌を詠んでいるまでのこと」
「どうですか、他にも一首詠んでみては下さりませんか」
 遍昭僧正に押し切られ、わたしは渋々とこの歌を詠みました。

   花の色はうつりにけりないたづらに
      わが身世にふるながめせし間に

 遍昭僧正の顔色が変わりました。
 何かいいたそうでしたが、よもや震える声は言葉になりません。
「もし、どうかされましたか?」
 わたしの問いにも、無言で頷くばかりの遍昭僧正です。
 翌朝、雪は止みました。雲間からは陽が射しています。このような晴れ間は久しぶりでした。
「歌詠みの婆さま、いつか比叡山の遍昭を訪ねませ。手厚く遇しましょうほどにのう」
 遍昭僧正はそういって、まるで愛しい女に後ろ髪引かれるような仕草で、何度も何度も振り返りながら去っていきました。何とも不思議な話です。わたしと一夜、墨衣を分かち合っただけで、かくも未練を遺すものでしょうか。
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