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冬
……黄昏の果てに刻む無情(7)
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そういえば……あの歌を詠んでから、遍昭僧正の様子は変わりました。気さくな様が一変し、思い詰めた風に変わった……。
まさか、わたしの正体を知ったのではあるまいか。
わたしが小野小町である、と。
しかしわたしに想いを寄せてきた都の男どもは、それぞれ違う花を手折り、わたしのことなど忘れ去りました。ましてや僧籍に下った者もなく、誰もが栄華の余韻に浸っているか、安らかに世を去った筈です。
ならば、誰?
遍昭僧正となったあなたの前身は誰?
三〇年もむかし、一族から反対された禁断の恋に燃えられたあなたは誰。
その頃に重なる我が事といえば、深草少将平義宜というその御方のことだけです、でも、あの御方は急に亡くなったと、そういう話でした。
まさか、死んだということは。
出家得度をなされ、還俗の垢を捨て去ったという意味なのか……ならば、あの遍昭僧正は、深草少将平義宜というその御方……!
信じられません。
まさか、まさか。
わたしは慌てて遍昭僧正を追いました。しかし、その御姿は、もはや何処にも御出になりませんでした。
(まさか……まさか、な……考え過ぎじゃ)
一先ず一夜の恩の御礼を述べる為に、わたしは石上寺に戻りました。
素性法師は、丁度庭を掃き清めておりました。わたしの姿を認めると手を止めて、素性法師は会釈したのちに
「遍昭殿は早発ちましたか」
と呟きました。
「この婆も発ちまする」
「左様か、もうすぐ春も参ろう程に、躰を労うて旅なされよ」
再び庭掃除に取りかかる素性法師の姿は、清々しく、いえ、何やら神々しささえ覚えました。
地獄に仏のこの恩義は終生忘れは致しますまい。それにしても、遍昭僧正とは親しげな素振りが伺えた此方様なら、もしやわたしの問いに答えては貰えますまいか。
遍昭僧正の前身は、誰さまに候や?
まさか、わたしの正体を知ったのではあるまいか。
わたしが小野小町である、と。
しかしわたしに想いを寄せてきた都の男どもは、それぞれ違う花を手折り、わたしのことなど忘れ去りました。ましてや僧籍に下った者もなく、誰もが栄華の余韻に浸っているか、安らかに世を去った筈です。
ならば、誰?
遍昭僧正となったあなたの前身は誰?
三〇年もむかし、一族から反対された禁断の恋に燃えられたあなたは誰。
その頃に重なる我が事といえば、深草少将平義宜というその御方のことだけです、でも、あの御方は急に亡くなったと、そういう話でした。
まさか、死んだということは。
出家得度をなされ、還俗の垢を捨て去ったという意味なのか……ならば、あの遍昭僧正は、深草少将平義宜というその御方……!
信じられません。
まさか、まさか。
わたしは慌てて遍昭僧正を追いました。しかし、その御姿は、もはや何処にも御出になりませんでした。
(まさか……まさか、な……考え過ぎじゃ)
一先ず一夜の恩の御礼を述べる為に、わたしは石上寺に戻りました。
素性法師は、丁度庭を掃き清めておりました。わたしの姿を認めると手を止めて、素性法師は会釈したのちに
「遍昭殿は早発ちましたか」
と呟きました。
「この婆も発ちまする」
「左様か、もうすぐ春も参ろう程に、躰を労うて旅なされよ」
再び庭掃除に取りかかる素性法師の姿は、清々しく、いえ、何やら神々しささえ覚えました。
地獄に仏のこの恩義は終生忘れは致しますまい。それにしても、遍昭僧正とは親しげな素振りが伺えた此方様なら、もしやわたしの問いに答えては貰えますまいか。
遍昭僧正の前身は、誰さまに候や?
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