小町のひとりごと

夢酔藤山

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……黄昏の果てに刻む無情(8)

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 しかし素性法師の口から出た言葉に、わたしは思わず絶句しました。
「あの僧正さま、拙僧の父君に候え。歌に現を抜かすのも、父譲りにござ候」
 なんということでしょう。
 ならば、ならば重ねてわたしの問いに答えて下さりますか。
 今より凡そ三〇年も古に頂戴した歌。
 その詠み人は、遍昭僧正にござりましょうや。
 ほれ、ほれ。
 この歌にござります。

  花の色は霞にこめてみせずとも
   香をだにぬすめ春の山風

「間違いありません。父が得度される前に詠んでいたもの。今でも時折それを詠んでは古を懐かしがってござります」
 ああ、遍昭僧正は……深草少将平義宜というその御方だったのですね。
 やはりこのわたしが小野小町と知ってしまわれたのですね。
 かといって、今更なんと致すことも叶いません。
 既に僧籍に齢を重ねし深草少将平義宜さまと、徒に醜く変貌を遂げたわたし。刻を取り戻すことも許されません。
 わたしは心虚ろな様を隠せませんでした。
一夜の礼を述べて、石上寺を去ろうとしました。
「あなたが何者であっても、父は繰り言を決して言わないでしょう。例えあなたが、小野小町という驕慢な歌姫であったとしても」
 素性法師の言葉に、わたしは一瞬立ち止まりました。
 しかし振り返ることは出来ません。
 素性法師にしてみれば、三〇年も昔に父君を僧籍に貶めた、云うなれば憎むべき存在。わたしはそういう存在なのですから。
 ただただ頭を項垂れたまま、わたしは石上寺を去ったのでした。
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