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第一章 これは魔法ですか? いいえ、高度に発達した科学です。
no.004 邂逅、拒絶、論破、掃射、断末魔 / 起
しおりを挟む「私はメニカ・パーク。よかったら君の身体を隅々まで調べさせてくれないかな? オートノイドくん」
メニカはそう言って、にこやかに手を差し伸べる。
だが、コウタはその手を取ることが出来なかった。
メニカのその瞳の奥に宿る、深淵にも近しい飽くなき知的探究心と未知への好奇心を前に、産まれてはじめて、何故か貞操の危機を感じたからだ。
「いやです……」
気が付けばコウタの体は自然と後ずさり、口は拒絶の言葉をひねり出していた。
しかし、メニカは当然のようにその距離をしゅるりと詰め、にこやかながらコウタを問いつめる。
「レスポンスが人間と同等なのはとても興味がそそられるけどまずそれは置いておくとしてまぁ後で聞くけど。ひとまず、どうして? 私という世界の発展を担う天才、しかも自分で言うのもなんだけどこんな美少女が頼んでいるというのにどうして即決はおろか即断で否定するのかな? 理解出来ないものを理解しようともしないのは感心しないね。それじゃあ実態の伴わない功績から生じたハリボテの栄光に縋り付きいつまでもなんの生産性も持たずに権利だけを主張し続ける産業廃棄物同然の老人みたいじゃないか。君はオートノイドだろう? それはいけないな。そもそも天才たる私がこの手で君の全てを解剖して君の全てを解明することは科学の発展ひいては世界の発展ついでに世界平和に必ず繋がるよ? この世に産まれたからには一個体の義務として世の役に身を呈してでも立とうとは思わないのかい?」
それはもう凄まじい早口で、メニカは捲し立てるように言葉を羅列する。
よく噛まないなとコウタが思考を放棄して、当時にどこかの誰かさんのようだと既視感を覚えて、つい返事をしてしまう。
「……知らない人の怪しい話は聞く耳を持っちゃいけませんってばっちゃが言ってた」
この瞬間、コウタの敗北が決定した。
「話を逸らさないでくれないかな? 私はなにも私利私欲の為に君をどうこうしようなんて微塵たりとも思っていないさ。本当だよ? ただ君が自身の存在価値に気付いていないみたいだから親切心からその価値を説こうとしてるんだよ? 君は私を知らないからと主張するけど、この議論の主体は私じゃなくて君でもなく、科学及び世界なんだ。私の事なんてどうでもいいじゃないか。あ、もしかしてきちんと自己紹介して欲しいとかそういうのかな? だったら改めまして、私はメニカ・パーク。メカーナがほこる天才で、機械工学電子工学生体機械工学の三つの博士号を持つ科学者兼発明家だよ。好きな機械の部位は関節の丸み、趣味は機械いじりとお風呂と料理。スリーサイズは……と言いたいところだけどそれはもう少し仲良くなってからね? はいこれでお友達だね。さぁオートノイドくん。君の番だよ?」
怒涛のカウンター早口に、コウタは更なる得体の知れぬ恐怖を感じた。
――落下していたときに感じていた生命的な恐怖とは全く違う、底なし沼のような肌にまとわりついて、決して拭いきれないような、洗っても洗っても落ちない汚れのような、そんなおどろおどろしい恐ろしさ。
背筋がぞわりとし、肌に鳥肌が立つ気分になる。冷や汗だって流れている気もするが、コウタには肌も汗腺もない。
気付けばコウタは後ずさることも忘れ、ただただ震える声で弱音を吐いていた。
「ふぇぇ、怖いよぉ……」
『コウタさんきもいです』
幼児退行したコウタに厳しい言葉をぶつけたのはアミスだ。彼女もメニカ同様あちら側の住人であり、言わば業の者だ。
比較的一般的な感性の持ち主の気持ちなどわかろうはずもないことは、短い付き合いのコウタですらよく知っていた。
しかし、コウタはまだアミスの非常識さの程度を知らない。
「なるほど、コータくんね。そっちのクリオネのかわい子ちゃんは?」
『はじめまして! アミスと申します! コウタさんの専属バックアップアシスタントをしています! コウタさんのボディはアルヴェニウムというメチャ強金属で構成されていて、動力源は【無限炉】アークと呼ばれる神器です。最高時速は450キロ出て、生殖と排泄以外の人間に出来ることは全て出来ます。よろしくお願いしますねメニカちゃん』
なんとこの自称アシスタント、聞かれてもいないことをベラベラと、しかもコウタの同意を取る気配すら見せずに、個人情報を話し始めた。
「よろしくねアミスちゃん」
『ほら、コウタさんもご挨拶を!』
「なんだこいつ敵か?」
コウタは半ばキレ気味にそう返す。共生していても必ずしも味方ではないことを、彼はこのとき初めて身に染みて実感していた。
「ふむ、興味深いね。まぁこれで私とコータくんたちは知らない仲じゃなくなって、まぁ普通に友達と言っても差し支えないね。じゃあ知らない人とは仲良くできないってコータくんの懸念は消え失せるから、これでゆっくりたっぷりどっぷりお話できるね! さぁ、コータくんのことを聞かせておくれ!」
「は、ははは……」
最早、コウタには乾いた笑いしか出せなかった。
トントン拍子で外堀を埋められ、その外堀がそもそも元から機能していないことに、心底絶望していた。
――誰でもいいから助けてくれ。
コウタは本心からそう思った。
すると、まるでその願いに応えるかのように、鋼の巨兵が瓦礫の中から現れた。
『損傷軽微 活動可能』
「助かっ――なんだこいつ! センチネルか!?」
思わず本気で安堵しかけたコウタだったが、そもそも救難を受けて助けに来ていたことを思い出し、メニカを背に庇ってエイプから距離を取る。
『……』
瓦礫の中から悠然とエイプが立ち上がる。
コウタが直撃したところがべこんと凹んでいるくらいで、他に目立った損傷はない。
エイプはそれ以上動く気配は今のところはなく、ただじっと、観察するかのような視線をコウタに向けていた。
『それで、このオートロイドはなんなんですか?』
「汎用自律拠点防衛機兵、エイプ。ちょっと暴走しちゃってね、言い忘れてたけど来てくれて本当に助かったよ。ありがとう。それなりに頑丈に作ってるから、ぶつかったくらいじゃ壊せないはずさ。……ちょっと凹んでるけど。武装も載せるだけ載せてるし、ごつさの割に足回りもいい。なんたって私を欺くくらいかしこい。ちなみに開発費は40億ギラ!」
――解説するメニカの目は先程の欲にまみれたそれとは違い、知的な雰囲気を感じさせる眼差しだと感じる。
感心しているコウタとは裏腹に、実際のところメニカの視線は彼のボディを余すとこなく睨め回していて、その脳内はとんでもない妄想でいっぱいだった。
余談ではあるが、40億ギラは日本円に換算するとおよそ40億円である。
『破格ですね!』
「でしょ? 頑張ったんだ」
「欲しいなぁ40億」
大型の軍事用兵器の開発費用としては破格も破格である。
一般的な戦車や戦闘機でもこの十倍は軽くするのだが、コウタにはそんなことは知る由もない。ただただアホな感想を浮かべるのみだ。
『脅威判定 測定不能 射撃武装による制圧を行います 全武装展開』
プランの構築が終わり、エイプは持てる武装を全て展開させる。四門ある機関銃をはじめとし、左右に一門ずつの滑空砲と火炎放射器、そしてエネルギー特装砲が右肩にかけて一門。白兵戦用の近接武器がずらり。
激突の衝撃から算出した数値により、目の前のアンノウンは全性能で対抗すべきと判断したのだ。
「おっとまずい。コータくん、防弾の術はあるかい?」
『隕石が来てもこの身で守ってみせます!』
「それは助かる! 下手に逃げると私も狙い撃たれちゃうかもだからね」
「……僕の了承は?」
メニカはそそくさと、仁王立ちするコウタの背後に縮こまって隠れた。ちょうどエイプの射線から庇う形になっており、肉壁ならぬ鉄壁である。足の隙間もアミスで埋めて、完璧な布陣だ。
『コウタさん、逃げちゃダメですよ!』
「足が竦んで……そもそも足が微塵たりとも動かないんですけど。アミスさんなにかしてます?」
逃げようにもそもそも、打ち込まれた杭のように両足が微動だにしないことを、コウタはアミスへ問い詰める。
『……』
「だんまりはやめてくださいよ!?」
堂々たる仁王立ちはもちろん、アミスの仕業だ。
鋼のごときメンタルで微塵も動じていないのではなく、そもそも物理的に動けていなかった。
――銃火器への恐怖から無意識に回避行動を取ってしまう可能性がないとは言い切れない。アミスのこの行動はあながち間違いでもない。頭ではわかっているが、やはり納得がいかない。
コウタがアミスの行為を噛み砕いて受け入れる前に、エイプの行動は既に終わっていた。
『掃射開始』
「あっ」
機関銃四門、滑空砲二門、火炎放射器、エネルギー特装砲。メニカが趣味と実益を兼ねて備え付けた武装たち。その全てがなんの容赦もなく火を吹き、コウタに襲いかかった。
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