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第一章 これは魔法ですか? いいえ、高度に発達した科学です。

no.004 邂逅、拒絶、論破、掃射、断末魔 / 承

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「あたたたたあちちちちあばばばば!?」


 ――チクリと刺されるような痛みが広がり、味噌汁くらいの熱さがじんわり奥に伝わろうとし、瞬く間に全身を痺れさせてくる。

 掃射は寸分違わぬ狙いで、コウタのその心々を削ってゆく。しかし、ダメージにはならなかった。痛いことは痛い。だが、それだけだ。
 それらは何ひとつとして、コウタの命を脅かしはしない。


「砲弾の直撃でも微動だにしない。しかも触っても熱や衝撃が伝わってこない。荷電粒子の分ピリピリはするけど。吸収率が高いのかな。なんやかんや循環してエネルギーが運ばれてるのかも。コータくんの身体はエネルギー効率が凄まじく良いんだろうね。無限炉だけじゃなく、勇者のひとりみたく身体そのものが小さな発電所みたいになってるのかな。そんな機能があるってことは、無限炉も完璧ではないってこと? いや、そもそもエネルギーを産むためだけに備えたわけじゃなさそう。今みたいに、外部からの影響を減らすって目的もありそうだけど……。そこのところどう思う? コータくん」
「え!? なに!? 何も聞こえないんだけど!」


 己の背後で呪詛を唱えている少女がいるとは思いもせず、コウタは爆音と衝撃に呑まれながらも、依然としてメニカの前で鉄壁として立ちはだかる。
 そしてようやく、アミスが動いた。


『お待たせしました! これぞアークの真骨頂、アンチ・フォース・バリアです!』


 アミスの音声とともにアークから薄い水色の粒子が放出し、掃射の波を押し返してゆく。
 青い粒子はそのままコウタらの少し前方に広がってゆき、一秒も経たないうちに、直径2メートルほどの半球状バリアが展開された。
 それは銃弾、砲弾、火炎、ビーム、舞い上がるチリさえも通さず、迫り来る全てを隔絶させた。


『ふふん、どうですかコウタさん! アークの真骨頂は!』
「使えるんなら最初から使ってくださいよ!」
『ボディの硬さもある程度知っておいて損はないでしょう?』
「激痛と引き換えなので損してるんですけど?」
『痛みなんてそのうち引くので実質ノーダメですよね!』
「バカの理屈ですよそれは」


 とんでもない理屈を振りかざすアミスに恨み節を言うコウタだが、バリアの凄まじさだけは素直に認めている。
 メニカもまた、未知の光景に心を躍らせていた。


「バリア? いや、これはそんなちゃちなものじゃない。明らかに障壁という概念を通り越したなにかだ。阻むというよりむしろ……なんと表現すべきか。あるべき状態に戻しているとでも言うべきかな?」


 触れた銃弾や砲弾はみな、触れた瞬間から力を失ったかのように地面に落ちている。ビームや火炎も例外でなく、触れた途端から掻き消えていた。
 従来のバリアとは全く違うその挙動に、メニカは知的好奇心と探究心が疼いて仕方なかった。


『メニカちゃん、このバリアとっても危ないので素手で触らないでくださいね』
「従来の電磁バリアなら多少なりとも衝突の波が立つ。ビームとも干渉し合う。だけどこれはどうだ? 波や干渉はおろか、何ら影響を与えていない。ただただ、それらがもっていたものをなかったことにするのみだ」
『おー、正解です! このバリアはですねぇ、触れたものが発揮しているあらゆるエネルギーをゼロにするんです。コウタさんが一万メートルから落下しても無傷だったのは落下の運動エネルギーをゼロにしたからなんですよ!』


 このバリアの前では、あらゆる物質はエネルギーを保てない。それはコウタ自身も例外でなく、これを応用して落下の際にこれで身を守ったのだ。
 説明を聞いたメニカだったが、それだけでは納得がいかないと疑問を投げかける。


「しかしアミスちゃん、この世には運動量保存の法則というものがある。その説明だけじゃ納得できないね。肝心のエネルギーはどこに行ったんだい?」
『ふっふっふ。よくぞ聞いてくれましたねメニカちゃん! 実はですね、アークにそっくりそのまま取り込まれているんですよ! コウタさん、びっくりしましたか?』
「ほう……? アークとね」


 アミスは自信満々にそう言い、メニカは当然のように興味深げにバリアとコウタの胸の中心部を観察し、ふんふんと鼻を鳴らしている。
 しかし、コウタは別の意味で鼻を鳴らした。


「はん」
『はん、て! もっと興味持ってくださいよコウタさん!』
「アミスさんのこと嫌いなのでいやです」
『ひどい!』


 そんな呑気なやり取りが出来るくらいには、コウタたちには余裕が出来ていた。そしてその間にエイプは第一波を撃ち尽くしており、銃身が空回りする音がからからと聞こえた。
 時間にして一分ほどだったが、バリアを展開してからは、コウタ達にはやはり土煙すら届いていない。


『武装パージ プランを近接捕縛に変更』


 レンジ攻撃は効果がないと見るやいなや、エイプは次のプランへ移行する。
 重い武装を排除し、身軽になって近接武装形態へ変形する。
 チェンソー、回転刃、ドリルにグラップルテール、カーボンブレードやらその他諸々の近接武装を、よりどりみどりに展開した。


「なんか変形したんですが。まぁこのアンチフォースバリアがあれば大丈夫ですよね?」


 ――この無敵バリアがあれば、戦闘技術がなくても無事にメニカを助けられるだろう。

 コウタがそう考えていた矢先。


『バリア解除っと』
「は?」


 瞬く間に梯子を外され、コウタは素でそう返す。
 メニカも疑問に思ったのか、アミスに尋ねた。


「あれ? アミスちゃん、なんでバリア消したの?」
『燃費が悪いんですよねぇ』
「あの、なんかヤバそうな音するんですけど」 


 エイプは武装を掻き鳴らし、まるで威嚇するようにエンジンを大仰にふかす。


『バリア使用時はアークのエネルギー生産が止まっちゃうんですよ。もちろんさっきより長い間使うことも出来ますが、節約にこしたことはないのです』
「あの、今にもこっち来そうなんですけど」


 タイヤのスキール音も混じえて、エイプは今か今かと突撃のタイミングを見計らっている。


「ふむ、あくまでエネルギー吸収はあくまでバリアの副作用ということだね。つまりこれはれっきとした防衛手段で、コータくんのボディが決して無敵ではないことを暗に示していると思っていいね」
「聞いちゃいない!」


 全く話を聞く気のない二人に対し、コウタの胸中には怒りを通り越して、困惑しか湧いてこなかった。
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